海底への誘い‐始りの海・後編‐ポケットモンスター二次創作 暁 紅龍作
 俺はリュウト。
 海底調査船で不思議な石盤を調査していた所で突然意識が無くなり、気がつくと俺の体は伝説のポケモンである、ルギアになっていた。
 そして『俺』の意識は大きく変化した体の中で静かに眠っていた…。そして、『彼』の代わりに海底に沈み、石盤に封印され眠っていた『私』が新たにこの体を支配していた。私が石盤から彼の体を使いながらも目覚めたと言う事は同時に世界に大異変が起きつつ在る事も意味していた。

 その頃、地上では伝説の三大ポケモンを奉っている三つの小さな島と一つの大きな島で世界を揺るがす大きな事件が起きようとしていた。伝説のポケモン……サンダー、ファイヤー、フリーザの三体を、自らの巨大空中要塞にコレクションと称して捕獲しようとする「コレクター」が現れたのだ。必死の抵抗をする3体だが、それも叶わず徐々にコレクターの手中へ落ちて行く……。
 すると、自然界のバランスが突如として崩れ始め、夏だというのに寒くなりやがては雪が降り始めるなど、世界各地で異常気象が発生したのだ。異変に気が付かない筈も無く私は海底から島の海域まで移動すると案の定、おびき寄せられるかのように海底から姿を見せたのであった。
 私はコレクターが引き起こしたこの争いを必死に止めようとしていた果敢な少年と仲間達と出会う。そして、この少年達と共に三大ポケモン達の激しい怒りを沈め、世界に広がっていた異常事態は少しずつ鎮静化に向かっていった。後は時間が過ぎれば解決するようだ。

 少年達との別れの時が来た。私はどうやらこのような少年が好きになってしまったらしい。
「名前は何と言う…?」
 私は思わず少年の名前を聞く。
「俺はサトシ!!ポケモントレーナーのサトシ!」
 彼が満面の笑みで私を見つめながら言う。
『ポケモン……、トレーナー……?……。』
 その言葉を聞いた瞬間、私の体の奥底からゾクッとした衝撃が走り、目が少しだが眩んだ。そして体の奥底から熱と鼓動が少しずつ伝わり始めていた…。それは紛れもなく体の中に眠りについている彼の意識が目醒め始めたと言うことであり、私に残された時間は残り少ないようであった。
「じゃあな……、ルギア…。」
少年が私に最後の挨拶をして来た…。私は大きく咆哮すると海底へまた勢い良く潜り、少年の前より姿を消した……。

 暫く海底で泳いでいると、体の自由が突然利かなくなり始めた。
「うっ、うおっっ……ぐはぁっ……!!」
 そして急に体を締め付けられるような痛みが襲い、更に体の奥が激しく発熱し始め、私は海底でそのまま意識を失い、瞳を閉じると、ぼやけた空間に意識が移動しそこには体の元の主が居たのであった。
「ルギア……、やっと…、初めて言葉を交わすな……。」
 彼は私に優しく微笑む。
「すまなかった…、リュウト……。君の体を勝手に姿形を変え、その上意識まで奪ってしまった……。」
「少し俺に話してからだったら理解しやすかったけどな…。でも、楽しそうだったぞ。気持ちが俺にまで伝わってきたよ。」
 リュウトはニカッと笑っていた。
「リュウトのような青年が私を手助けしてくれてな…、つい嬉しくなってしまってな……。」
 少し照れながら私はリュウトに話す。
「俺も…、こんな形であれ、手助け出来て良かったよ…。」
 リュウトも私と同じように少し照れながら私を見つめる。どうやら二人共こういうのに余り慣れていないようであった。
「なあ、ルギア…、俺の話す事を聞いてくれるか……?」
 リュウトが私に改まって聞いてくる。
「何だ…?出来る事なら聞くが……?」
 私もリュウトを見つめ、話を聞く。
「俺…。一度でいいから…この体で泳いでみたいな…。」
 リュウトは私に相談してきた。
「私とリュウトは一つの体で繋がっている。だから私にもリュウトの考えている事が分かる……。二人の体なのだから自由に使ってくれ…。」
 私はこの空間に残り、リュウトは私の体に意識を移した。

 …俺はそっと瞼を開く…。人の体の時とは違い、視界が広く感じられる。体全体からひんやりとした海水の感覚と、体の中から暖かさが包み込む。
「これが……、俺の体なのか…?」
 姿形が変わった体を俺はゆっくりと見回す。全身の皮膚が白く光沢があり、腹部は薄青をしており、両手は大きい。試しに思いっ切り手を振ってみると俺の思った通りに動く。視線をゆっくり腰に移動すると、尻からは尻尾が生えており、足も短くはなっているが筋肉が発達しており、自らの意志で動く。
「凄い…、俺本当に……。」
 紛れもなく俺の体はルギアになっている。
「体中から力が湧き出てくる…!…良し…!!」
 俺は思いっきり腕を振り、広い海の中を駆け抜けるかのように泳いで行く……。何も無いと思われていた海底だが、それは人間の勝手な判断だと言うのがよく分かる……。
 色鮮やかな生き物や自然に出来た物、そして人工的な物が海底に様々に散らばっている…。それが、さながら海底散歩とでも言った所だろうか…、海底を泳いでみて初めて分かった。そして俺は人間だった頃には決して体験することは無かったこの感覚の虜になっていた。

「俺…、何故迷っていたのだろうか…?」
 やはり俺にも迷いはあった。いきなり体がポケモンになってしまい、その上、二つの意識が一つの体にあるのだ。だが、この際俺も考えを変えて行こうと決意した。そして俺は瞳を閉じてあの空間へと移動した。
「リュウト…、もう良いのか……?」
 ルギアが聞いてくる。
「あぁ、海底散歩も良かったぞ…。今度は空かな…?」
「そうだな。それと…、リュウトが…初めて笑った…。」
 少し恥ずかしそうにしながらルギアが俺に言う。
「そうか?俺は笑っていた筈だったけどな…?」
 二人共笑いながら和やかな雰囲気が辺りを包み込む。
「なぁ…、ルギア…、話したい事がもう一つあるのだが…。」
 俺がルギアに話を持ち掛ける。
「どうした……?リュウト……。」
 俺は今思っていた事を包み隠さずルギアに話す…。
「俺……。迷ってたけど…、このままで良いからな……。」
「それは…、私の姿のままで良いと言うことか……?!」
 少し驚きながらルギアは喜んでいた。
「あぁ…。ただ…、時々で良いから…、人間の姿にしてもらえるか……?」
 俺は無理を承知で聞いてみる…。
「『人の姿』に近くする事か…、それなら出来るが……。」
 ルギアが少し考えながら俺に話してくる…。
「それでも構わないさ。これからも宜しくな…、ルギア…。」
 俺は改めて挨拶をする…。

 そして私は体に戻り近くの島の海岸近くに移動した。そう、あの騒動のあった大きな島であった。
「良し……。リュウト…、それでは始めるぞ…。」
 海底で大きく鳴き声を発すると思えば、ゆっくりと浮上しながら体が変化していく。体が徐々に小さくなっていき、人の体のようなサイズになっていく。そして海面に浮上し終わると俺は海岸へ向かって歩いていった。そして徐々に自らの姿が露わになる…。
「これは…、どうなっているんだ…?」
 俺はこの事態を予想はしていたが、思わず声をあげる。それもそうだろう。俺の体は確かに二本足で歩き、人間のようだ。だが、体の皮膚は全身ルギアのような光沢のある白、そして全身は筋肉質で腹部は少し膨らんでいて、薄青い皮膚をしている。
 手は翼のようで、頭は少し出っ張っていてそこに青い髪の毛が生えている。尻には短いながらも尻尾があり、顔は人のようだが、目から耳までの一線が深い青い色をしていて、背中には五つの対になっている突起がある……、俺の今の姿は人の姿をした獣…。そう獣人になっていたのだ。しかもルギアの姿だ。
「申し訳ない……。私にはこれが限界だ……。」
 ルギアが頭の中で話しかけてくる。
「まあ、良いか…。フードと尻尾が隠れるジャケットがあれば大丈夫だしな。」
 俺は楽天的だった。そして、俺はこの出来事が本当の俺の人生のスタートラインだったと思っていた。実際、ポケモンとしての生活も苦ではなく時折、獣人となって人間界にも姿を現すことも出来る。

そして…………。

 俺はルギアとしてこの大海原の守護神として生きていく事になったのだ。


 ‐終わり‐
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