僕は………誰だ…。
気がつくと僕は此処に居た……。
新しく生を受けた訳ではない……。
…僕の時間だけが……、止まっていた…。
ただ、此処には僕と言う生き物が居る…。
此処が何処かも分からない……。
ただ分かるのは「リュウ」と言う僕の名前……。
そして、身体が…「生きろ」と全身に呼び掛ける……。
止まっていた刻を取り戻すとばかりに僕は……、止まっていた刻の呪縛から醒める………。
ーーーー
「こ、こいつ生きていやがったのか!?」
すぅ…っと瞼を開けるとそこには薄暗い坑道のような場所が広がっていて、僕の前には二人の炭坑夫のような男がいる。そして僕は僕の身体を見回す。
緑色をしている皮膚はまさしく鱗。腰辺りからは尻尾が生えている。足と手には小さいが鋭い爪があり、背中には、これも小さいながら、対になっている翼がある。顔は爬虫類のような上顎と下顎が前に伸びていて、上顎の先には鼻腔があり、口からは、鋭い牙が見える……。
その姿はまさしく絶滅したとされていた…、数百年前までは世界中の人々の畏怖の象徴とされていた生き物……。
「…ド、ドラゴン…なのか…!?」
僕は薄暗い坑道から出ると、またもや別の炭坑夫に妙な事を聞かれた。
「がおぉぉ!」
僕は
「そうだよ!」
と言ったつもりだったけど、炭坑夫は一目散に逃げながら周りに向かって
「ドラゴンだぁ!!」
と叫んで逃げて行ってしまった。しばらく歩いていると、僕が通ろうとする先に筋肉隆々としている、他の炭坑夫とは別物のような男が立ち塞がった。
「俺が相手をしてやろう…!」
男はやる気満々である。僕はファイヤーブレスをしようと身体に力を入れようとしたその時……。
「…イケナイ…。」
身体の奥底から響く声に躊躇していると、背後から猛スピードでクレーンアームが頭めがけて動き、激しい衝撃が身体に伝わると急速に意識が薄れていった……。
僕は起きると、貨物用列車の檻の中に入れられていた。
「がおぉぉー!」
声を上げて檻の中で暴れると、固定されていなかったのだろうか最初は少しずつ……、そして遂にグラグラし始めたと思うと貨物車から崖下へ檻ごと落下してしまった……。
僕は落下した衝撃で檻には出られた物の、またもや意識が遠のき、更には全身の力までもが抜けていく……。
それと共に身体の変化が起こった…。全身の皮膚が緑色から艶やかな弾力のある柔らかな肌色の皮膚へとかわり、腰から生えていた尻尾は身体の中へと戻り、翼も背中の肩甲骨の辺りにまるで折り畳まれるかのように小さくなり背中の中へ消えていく。
手足も爪がドラゴンの物とは別物の、丸みを帯びた薄い物に変わり、顔は上顎と下顎が引っ込むと新しく鼻が作られ、頭からは澄んだ色をした水色の髪の毛がはえると、そこには可愛らしいまだ小学生ぐらいの幼い男の子が一切服を着ていない状態で気を失っていた。
すると、森に住む野犬が待ちかまえていたかのように少年に爪を向けようとしていた。
「……っ、たく……。コイツ等のせいか?」
久々の獲物を捕り逃し、腹を立てながらその意識の無い少年と野犬の前へ歩く一人の青年がいた。青年はナイフを巧みに使い、野犬を追い払うと、その不思議な少年の前に立った。
「行き倒れか……。まだ…、生きているのか…。愉快だねぇ…、しゃあない……。」
少年をおんぶして青年は自らのアジトへ向かった……。
そう………。
これが、竜族の末裔の少年、リュウの波乱に満ちた旅のプロローグだったのだ……。