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瞼を開けると…、僕は何もないただ暗闇だけが存在する空間にいた。すると、目の前にうっすらと炎のような物が姿を現した。
「…リュウよ……、我等同族の末裔……、リュウよ……。」
炎は僕に話し掛けてくる。
「あなたは一体…?」
「我か…?我は汝自身だっ!!」
炎は凄まじく燃え盛ると、どんどん大きくなり、次第に姿を変えていく……。
「こ、これが……、僕……?!」
僕の前には、全身に美しいオレンジ色を湛えた、所々で赤くなっている鱗…。太く長い巨大な尻尾…。首は長く、顔は爬虫類のような、だが、鋭い眼光と口元から輝きを放つ鋭い牙、深く刻まれた畏怖を感じさせる鋭く延びた大きな角が対となって見えている…。背中からは逞しく、力が漲っているような大きな翼が姿を現すと、そこには紛れもないドラゴンがいる。
「これが我の力を使った汝の姿だ。…どうだ……?汝にもこの力があるのだぞ……。さぁ……、リュウよ……。この力を以て、自らの力を示せ!!」
「うぅ……!ぐぅぁぁ…!!」
急に自分の意識が何かに掻き消されるような感覚に襲われる……。それとは反対に…、体に力と、無性に暴れたいと言う感情が濁流のように流れ込み、自分の深層心理に新たに書き加えられていくようだった。
「…い…イヤ…だ……、僕は……そんな…事……したくは…無いっ……!!」
「まだ抗うと言うのか!!自らの存在を否定しているのと同じ事だ!!無心になれ!!本能に身を委ねるのだ!!」
ドラゴンは更に厳しい口調で僕に言い放つ。
「ぼ、僕は……、イヤだと……言っているだろうがぁぁぁ!!!」
突然暗闇から強い光が差し込み全てが飲み込まれていった………。
僕はハッとして起きると、そこはテントの中だった……。どうやら夢を見ていたようだ…。僕の横には、心配そうに見つめるニーナがいた。今にも泣き出してしまいそうだった。
「リュウ…、うなされていたのよ…。心配だったよ…。何があったの…?」
ニーナは僕に抱き付くとそのまま泣き出してしまった。僕は夢…、しかも極上の悪夢を一から全て話した……。
「……そんな事があって、僕は…僕は……。」
僕はうなだれてしまった。ニーナが抱かれたまま話を聞いていると耳元でそっと囁いた…。
「ねぇ……、リュウ…。聞いて……。」
「うん…。」
「ドラゴンって…言ったら、みんなすぐに怖がるけど……。私、リュウはちっとも怖くないよ…。だって、何度も私を守ってくれたもの……。例え姿は違うけれどリュウはリュウなのよ…。だから…、その優しいリュウを…、忘れないで…。もし忘れそうになったら私を思い出して……ねっ……、リュウ……。」
そのまま二人は抱き合ったまま寝てしまい、朝を迎えていた。
テントを片付け、二人はまた旅を始め歩き出した。すると、急に二人の前に数本の矢が足下に飛んできた。
「て、敵?!」
ニーナは杖を、僕は剣を鞘から抜き、戦闘態勢をとった。僕の目の前には、大きな矢を持っている、どんぐりのような小さいモンスターが四体いた。
「打てー!!」
と言う敵の合図と共に鋭い矢が僕に目掛けて飛んでくる。一本目は何とか避けられた。安心している時間もなく次の矢が飛んできた。掠ったがそれ程ひどい傷ではない。しかし三本目に思いっ切り太ももに深く刺さり、四本目で右肩にささってしまった。
「ぐっ……。」
苦痛に顔が歪む…。全身の力が抜けていく…。ニーナも傷だらけで立っていられずにその場で座り込んでしまう。
「…ここまで…、か……。」
絶望感が体に走るとき、体にゾクッとした感覚と脳裏に、はっきりとあの声が聞こえ始めた。
「……本能に……従え……。」
ドクンッと鼓動が一際大きくなると、それが始まりになった。僕は意識の無いままその場に立ち上がると、体全身に力を入れ始めた。周りに強い風が起き砂埃が立ち始める。鼓動と高揚した気持ちがピークに達したその時、遂に僕は僕自身を見失った。
「うおぉぉおおぉぉ…!!!」
体が凄まじい勢いで変化していく……。全身が二倍ほど大きくなり、柔らかい肌色をした皮膚は美しいオレンジ色を湛えた、所々で赤くなっている鱗が頭から尻尾の先まで生え、尻からは太く長い巨大な尻尾が勢い良く姿を現すと、首は長く伸び、顔は爬虫類のような鋭い眼光と口元から輝きを放つ鋭い牙、深く刻まれた畏怖を感じさせる鋭く延びた大きな角が対となって見えている…。
背中からは肩甲骨の辺りが盛り上がり、体の中から破り出るかのように逞しく、力が漲っているような大きな翼が姿を現すと、ニーナの目の前にはオレンジ色をした逞しいドラゴンと化したリュウが現れたのだ。
「グルルル………。」
リュウは小さく声を出しているようであった。
「リュウ!!」
ニーナが声を掛けるが反応しない。そう、完全にドラゴンの本能に飲み込まれている状態になってしまっているようであった。
「グオォォォオオォ…!!!!」
大きく声を出すと、爪をむき出しにして敵に振りかざす。その瞬間に手から高温の炎が発生し、爪を振りかざされた敵は灰も残らずに消えてしまった。
「リュウ…!!聞こえているの?!リュウ!!」
ニーナは必死に問いかけるが、聞く耳を持つどころか消えていく敵を見て口元が笑っている…。そう、楽しんでいるのだ……。敵も残り二体になり、攻撃も怯みはじめた。するとリュウは体に力を漲らせはじめ、口を大きく開けた瞬間に凄まじい量と勢い、そして何よりも鉄までも溶けてしまいそうなほどの熱量を持つ火炎が敵に向けられたのだ。勿論、敵は微塵も無く消え去ってしまった。
「リュウ…!!!もう…、止めて……!!お願いだから…!!」
ニーナは大粒の涙を流しながらリュウの大きな足にしがみついた。そしてその涙がリュウの鱗に一滴流れ落ちた時、周囲の広範囲に響き渡る程の大きな咆哮をしてリュウは元の体に戻り、その場で倒れてしまった。
「う……ぐ…ぁ……、…ニー…ナ……、ニー……ナ……。」
無意識に苦しそうな声を出しながらニーナの名前を呼び続けていた。
「リュウ…!!私はここにいるわ!!」
ギュッと強くニーナはリュウのボロボロに傷ついた手を握り締める。ニーナの顔はもう涙で凄くなっている。
「はぁ……、はぁ………よ、良かった…ニーナ……無事…だったんだ……。」
リュウはうっすらと瞳を開けニーナを見つめる。
「心配したんだからぁ……!!!」
ニーナは涙を拭きながらリュウに言う。
「…ごめん……、でも……これでしか……君を守ることが出来ないから……。」
荒い息をしながら、それでも必死に笑顔を作ろうとリュウは努力していた。
「リュウったら……、本当に馬鹿なんだから…!!無茶しちゃ駄目だって、言ったのに……。」
そう言ってニーナはまた泣き出してしまった。そしてその日はその場でキャンプをして翌日までしばしの休息を取ることにした。
こうして、最初の竜変身は波乱に満ちたスタートであった。少年はこの先、どのような成長をしていくのか……。それは少年しか解らないのであった……。