守りし者・前編カギヤッコ作 ドラゴンクエスト2二次創作
ゴオーッ…。
 炎が夜の闇を照らしている。それはかつて伝説の勇者の末裔達が興した三大王家の一つ、ムーンブルク王家が城もろとも焼け落ちようとしている弔いの炎でもあった。
 世界を覆おうとする邪神―少なくともかの地の「光の領域」に住まう者達にとっては―の眷属達に対し三大王家は毅然として立ち向かったが、圧倒的とも言える邪神の軍勢に対し辛うじて踏みとどまっている状態の中、ついにムーンブルク城が落ちようとしていた。

 そんな中、セナは炎とガレキをかいくぐりながら走っていた。
 彼女を逃がす為、多くの家来達が命を落として行った。勇者の血を継ぐ最後の希望の一つ、そして何より「自分達が慕った一人の少女」を守る為…今彼女と共にいるのは子犬の頃から彼女と共にいた一匹の犬だけだった。
 炎を、そしてガレキを飛び越えながら少女を先導するかのように走る。それに応える様にセナは走り続けた。長い髪、そして首から下げたペンダントをなびかせながら。
 しかし…。
グゥーッ…。
「ハッ!」
 その足取りが止めたもの、それは邪神に使える神官の装束をまとった人影とその脇を固めるモンスター達だった。
グゥル…ウワンッ!
 セナが止める間もなく、犬はモンスター達に飛びかかろうとするが…ほんの数秒だった。その光景に愕然となり膝を付くセナ。その目から涙をこぼしながら、最後まで自分を守ろうとした“仲間”を抱きしめる。
 神官は一連の“茶番”を鼻で笑いながら見届けたあと、手下達を制しながら呪文を唱える。漆黒の魔法陣がセナの足元を覆うが、今の彼女にそれに気づく余裕はなかった。
ジュワッ…。
 魔法陣が完成した瞬間、暗い気をまとった風がセナの体を吹きぬける。同時に彼女が身につけていた全てが風に混じり消えて行った。その感触に身を隠す間もなく、魔法陣の中で異変が起き始めていた。

 異変の始まりは彼女が抱きかかえていた犬だった。その姿がどんどん丸くなり出し、さながら毛皮でできたボールのような形になる。
「!?」
グァバッ!
 目を見開くのもつかの間、そのボールは一瞬の内にセナの体を津波の様に襲い、そのまま繭の様に包んでしまった。
「うっ…くっ…」
 繭の中でセナは必死にもがく。しかしその空間は少しずつ狭まってゆき、彼女の体はその中に少しずつ飲まれてゆく。
 その圧力に加え、何か柔らかく、暖かい感触がセナの全身を包む。さながら母胎のようなその心地よい感覚にセナの意識は少しずつ沈んでゆき、体の動きも鈍くなって行く。胎児のように身を丸めながらセナは繭に飲み込まれて行った…。

 その頃、繭の外側でも変化が起きていた。人間大だった繭がどんどん小さくなり、真下から四つの柱のようなものが伸びる。
 そしてその端が粘土細工の様に盛り上がり、三角形状の形になる。
 目元がくぼみ、鼻が形作られ、頭頂部から耳が伸びる。
 その反対側からは細長いものが伸びてゆく。
 その中間、胴体にあたる部分も少しずつ細長くなりながら形作られて行き、四つの柱の先端には肉球が形作られる。
 そして、その存在は大きく伸びをしながら吼える。
ワオォ〜ン!
 犬…さっきセナが抱き抱えていたものより一周り大きなその犬は周りを異形の者達に囲まれている事に気付いているのか否か、全身を軽く振るわせ、後ろ足で毛づくろいをしたあとそのままその場を離れて行った。
 その犬は自分がかつてムーンブルクの王女セナであると言う事、そして邪神の神官によって飼っていた犬の肉体に融合・封印させられた事を知る事など知る由もない。ただ動物の本能のままその場を離れて行った。
 その一部始終を見届けた神官は嘲笑を浮かべつつその後姿を見送った。

 犬はそのままムーンペタの街に流れ着き、そこをねぐらにしていた。
 他の犬のように街の片隅を歩き、荷台から落ちた食べ物やあるいは残飯を食べ、軒先で夜露をしのいでいた。
 せめてもの救いは種の保存本能に伴う衝動的行動に走る事、巻き込まれる事がなかった事だろうか。
 そんなある日、二人の若者が犬の前に立った。
 見知らぬ顔でありながらどこか懐かしい匂いを感じ、犬は若者達を鼻でなでまわす。若者達はそれに複雑なテレ笑い顔を浮かべながら去って行った。
 犬は二人を町から出るまで見送って行った。
 それから二、三日したあと、裏通りでくつろいでいた犬の前に例の若者達が立つ。そして、何か鏡のようなものを犬の前に掲げる。
 首をかしげながらそれを見つめる視線の先、そこにいたのは同じ様に四つんばいで自分を見つめる全裸の少女の姿だった。
 それと同時に犬の全身から毛が抜け落ち、全体が大きくなり始める。
 手足が伸び、その先端から細くて長い指が伸びる。
 軽くゆれながら尻尾が尻の中に消え、胴体が横長に変化するうちに胸にあたる部分が軽く膨らみ始める。
 耳は頭部の両端に縮みながら動き、長い顎は鼻と口に分かれながら顔の中に引き込まれてゆく。
ブワサッ!
 頭を振り上げた時、その頭から長い髪がなびく。
 その一部始終を驚きと思春期特有の照れを浮かべながら見つめる二人の前でセナは同じ様に顔を赤らめながら身を起こし、両腕で体を包む。
 少しづつ人としての意識が戻る中、セナは自分を守る為に散っていった人達、そして自分を守り続けていた愛犬への思いに身を震わせながら、若者が差し出したローブと手に自分の手を差し出した。
 しかし、その背中に不思議な文字を浮かべた紋がひっそりと浮かんでいた事をその意味を含め今のセナに知る術はなかった…。


 後編へ続く
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