守りし者・後編カギヤッコ作 ドラゴンクエスト二次創作
 あの出会いからどれだけの時間が立っただろうか。邪神の神殿、そこにセナはいた。
 彼女を助け出した二人の若者―ローレンシアの王子アルとサマルトリアの王子ロラと共に。
 様々な冒険を乗り越え、力とそれに伴う心を高めながら三人は旅を続け、ついにかの地に立った。
 そして三人はセナに呪縛をかけた神官、そしてその背後にいた大神官を討ち、大神官が己の命をささげて現臨させた邪神に立ち向かっていた―数秒前までは。
 邪神の圧倒的な力の前にアルやロラの剣、そしてセナの呪文も弾かれ、邪神の放つ鼻息程度の攻撃で三人はあっけなくなぎ倒されていた。
 どんなに打ちのめされても立ち上がり続けるアルの闘志も、アルの剣やセナの呪文攻撃を影ながら支え続けたロラの意志も既に燃えつきようとしていた。
 そして、二人が身を挺して守りぬいたセナも杖を支えに辛うじて立っているのがやっとだった。
 それでもセラはあきらめる事なく呪文を詠唱しようとする。それを邪神は鼻で笑うように見下ろす。

「イオナズン!」
 彼女の持つ最大の呪文が放たれる。
ズドドドーン!
 大爆発が覆う。安堵しながらも構えを解かないセナ。その瞬間、セナの体を見覚えのある感覚が襲う。
「こ、これって…まさか!」
 闇の魔法陣…かつてセラを犬の姿に封じた呪縛の魔法陣が彼女の足元に浮かんでいた。
 しかし、その呪いをかけた神官は既に倒されているはず…その時、セナの脳裏にある可能性が浮かんだ。
 邪神の神官がかけた呪いの源は邪神の力、ならその大元である邪神がその呪いをかけても…。
「パ、パルプン…」
 そこまで言って彼女の口から言葉が出なくなる。
 身につけていたローブが吹き飛び、一糸まとわぬ姿のままセラは大地に両手をつく。
「うっ、ううっ、うあっ…。」
 ミシミシと全身がきしみながら変化し、縮み、毛皮に覆われる。
 両手足の指は縮み、獣の足に変化してゆく。尻からは尻尾が伸びる。
「ああ…はあ…あおっ…。」
 苦しみながら体を前後させるセナ。その姿は顔を除いて犬のものになっている。
 そしてその顔も少しづつ犬の形に変わって行く。

「ううっ…ぐぅ…ぐるる…。」
 口から漏れるのは既に犬の声になり、頭の中も犬の本能に支配されて行く。
 その姿を邪神はほくそえみながら見ている。その脳裏には残り二人も犬に変え、ただの三匹の犬として本能のまま生きる姿を肴にしようとする予測ができていた。
 それを察したのか否か、セナの目から涙がこぼれる。そして、最後の意識とともに吠えようとする。
「ワオーン!」
 その声に驚いたのは他ならぬセナ自身だった。逞しく、力強い咆哮。そしてそれを放った自分の中にみなぎる強い意志。
“これって…もしかして、あの子?”
 セナの脳裏にあの犬の姿がよぎる。最後まで自分を守ろうとしたあの犬。
 そう思うと彼女の中に暖かく、そして熱いものがみなぎる。
“…行こう。”
 その時、セナと犬は一つになり、その全身から神々しい気が満ちる。
 それを見た邪神の顔に始めて恐怖が走る。自分がかけた呪いが全く別の効果を見せている。
 その脳裏にある存在が浮かぶ。自分と対を成す存在、光と大地を見守る大地母神…考えて見れば呪いがかかりセナが犬に変化した時点で何かが狂っていた。
 ムーンペタで暮らしてた彼女が犬の本能に飲まれきらなかったのも、アルやロラと出会ったのも、全ては大地母神の加護だったのだろうか。それともとっさに唱えたパルプンテの効果か、はたまた犬の意志によるものか。
 その視線の先にはセナの背に輝く紋章が見える。かつて彼女の首にかかっていたペンダントに刻まれていたのと同じ大地母神の紋章が…。
 おののく邪神。その瞬間、セナは吼える。その咆哮から真空のうずまきが巻き起こり、邪神を切り刻む。
 邪神も負けじと六本の腕を振り下ろすがセナはその全てをかわし、のどもとに食らい突こうとする。
 邪神は辛くもそれをなぎ払うと、まだ倒れているアルとロラに狙いを定め、呪文を詠唱する。
 しかし、その攻撃が届いた時二人はセナの背に乗っていた。
「ウォーン!」
 お返しとばかりに咆哮するセナ。その周りを幾つもの光の玉が囲み、そのまま邪神に打ち出される。

ド・ド・ド・ド・ドカカーン!
 先ほどとは比べものにならない大爆発が邪神を叩きのめす。
 そのさなか、セナの体が温かい光を放つ。それに覆われたアルとロラの傷が癒えてゆく。
「セナ…セナなのか?」
 意識を取り戻したアルが尋ねる。セナにとって無言が答えだった。
「アル、行くよ!」
 ロラも剣を構える。そして二人を背に乗せてセナは走る。
 邪神の呪文が、ブレスが、腕が襲うがアルの剣が、ロラの剣が、そしてセナの疾走が全てを無にする。
「行くぞ!」
 アルの声に反応しセナは身を丸め、一気に伸ばす。
 それに弾かれるようにアルとロラは飛び上がり、一気に邪神に斬り付ける。
グオオオオー…。
 邪神の苦痛の叫びが響く。苦し紛れに放ったブレスがアルとロラをなぎ倒す。
 しかし、その間を抜き、その顎に二振りの剣をくわえたセナが駆ける。
ダッ!
 地を蹴った瞬間、セナの体はきりもみながら邪神の腹をえぐる。その勢いで左にくわえた剣で邪神を下から斬り上げる。
 そして、その剣が口から離れるにもかまわずもう一振りの剣―勇者の紋章が描かれた剣―をくわえ、真一文字に邪神を脳天から切り裂く。
 それが邪神の最期であった…。

 光の中でセナは犬の姿のままでまどろんでいた。その顔には安堵の表情が浮かんでいる。
 そしてその姿が光に包まれ、それが消えた時そこには一糸まとわぬ姿の少女の姿があった。そのおなかの中から光の玉が浮かび上がると彼女の周りを何度か回り、そして天に上って行く。
「ありがとう…そして…さよなら…」
 セナは涙と、そして優しい笑顔を浮かべながら大地母神の元に行く光の玉を見送っていた。
 そして光が消えた時、我に返った彼女はローブをひるがえし草原に立つアルとロラの元に駆けて行った。

 その後、セナはローレンシア・サマルトリアの援助を受けながらムーンブルクを再興する事になる。
 ただ、新生ムーンブルクの紋章に一匹の犬の姿が刻まれている事、そして城内に一匹の犬の像が立てられた事の意味を知る者は少ないと言う…。


おわり
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