ザワァア… ザワァア…
「ここは…どこだろう…」
ザワァア……
気づいたら僕は木漏れ日の差した森の中で横たわっていた。地面のひんやり感が気持ちいい。
ザワ…
近くには湖があるようで水の音が聞こえる。
「僕は…」
そうつぶやきながら顔を上げて見渡してみる。状況を把握しないと…あたりにあるのは木、木、そして湖。 湖はかなり大きく、とても澄んでいる。
そして気づいた。自分の記憶がないことを。
「…何をしていたんだろう…」
どうしてここにいるのかも分からぬまま起き上がる。木が多く、少し薄暗い森の中。
覚えているのは人としての自分の名前[ライト]、そして言葉。それだけ。
「あれ…視線が低い…」
変な違和感を感じて、そうつぶやいた時だった。
「そこで何してるの?」
突然声をかけられた。びっくりして振り返る。と、そこにいたのは…茶色の毛に首元のクリーム色の毛、四足歩行…ポケモンの中でも人気の高い[イーブイ]だった。
「ここ、ほとんどだれも立ち寄らないような場所だけどさ、何しに来たの?」
…そこでまたも違和感に気付く―――なんだろう…なんか不思議だ…なんだろう普通のイーブイがいるだけなの
に…いやちょっと待て。えっ?あれ?ポケモンって…喋れたっけ…?
驚きを隠せなくなった。気づいた瞬間、僕は口をふさぐまもなく叫んでいた。
「うわぁぁあああ! 何で、何でポケモンが! 喋っているの!?」
「うわっ びっくりしたぁ」
…僕が叫んだ瞬間、目の前のイーブイまで叫んでいた。(いや、喋っていたという方が正しいか…こいつ冷静だったし。)
「なんでって、そりゃ君もポケモンだからでしょ」
「!?」
えっ、ちょっと待て。待て待て待て。状況を整理させろ。どういうことだ?覚えているのは人であることで、ポケモンの記憶なんてないぞ…ライトっていう人間で、ポケモンではなくて、人間で人間だ。それは覚えている!
―こいつ、ふざけか?いやでもそれじゃ、僕がこいつの声を聴ける説明がつかない。あっそうだ!湖で実際に確認すれば…
1人で考え出した最善の行動を実行する。目の前のイーブイを完全に無視して、[視線の低い、少し動きにくい体で]湖に走る。そして湖の中を覗き込む――
「……………」
さすがに声がかれて何も言えなかった。なぜなら、そこにいたのは‐先が焦げ茶色のウサギのような耳、真っ赤なほっぺ、そして黄色いからだと雷のようなしっぽ‐そう、ただの[ピカチュウ]だった。
「もう一度聞くけど、何してるの?このあたり私の領地…いやそこまでいってないけど、とりあえずそんなのなんだけど」
「ちょ、領地じゃなけりゃなんだよ!って冷静な突込みしてる場合じゃないっ!どういうこと!?」
状態異常:こんらん 脱水症状(ただ声がかれただけ) こんらん
「こんらん、かぶってるよ。しかも脱水症状とか状態異常じゃないし」
…冷静な突込みをされた。てかエスパーか?こいつ
「で、何してるの?もう三回目でそろそろ面倒くさいんだけど」
「いや、僕も何が何だか…というより、なぜここにいるのかもわからないんだよ…」
「? えっじゃあ何でここにいるの?」
「いやだからわからないって!」
「怪しいやつめ!このごに及んでこの私様を欺こうというのか!」
「………」
…私様ってなんだよ。しかもどのごに及んでだよ。とりあえずこの場どうしよう。
「なにぃ!このライト様が怪しい奴と見破ったなんて!」
「……ないわー」
ひかれた。完全に[何こいつ、ヤバい奴だ]とか思われた。
「てーいーうーか!僕は元人間!ライトっていう人間なんだよ!なのに…気付いたらここにいたの!何にも知らないの!」
「……ないわーってえぇぇぇえええ!?」
「やっと状況が分かったのか…」
「意味が解らない!」
「僕もわからない!」
少しの間沈黙がおきる。先に沈黙を破ったのはイーブイの方だった。
「じゃあ、お互いに状況を説明し合おうよ…。そしたら…何もわからないかもしれないけど…少しは状況を理解できるかも」
「うん…そうしようか」
どちらもどちらのことを把握できていない状況で説明が始まった。
「…えーっと、訳が分からないからもう一度説明してもらっていい?」
無理もない。説明は苦手だからな。分かりやすいように簡素に…
「僕は元人間のライトっていうの。覚えているのはそれ位。そして突っ込むための常識」
「初めからそういってくれたら…わからないよ」
どっちだよ!
「まぁ、普通じゃない経験をしたのね。説明できないことなのは伝わったよ」
そう言い放ってイーブイは説明し始めた。
「あたしはイーブイのカフェっていうの」
「カフェさん…でいいの?」
「まぁ、いいよ」
で、他には?と、そそのかすと
「えーっと、他に…えーっと…そのぉ」
「え…まさか知らないとか?いやいや、それはないよな」
「知らないんじゃないの!ただ…忘れちゃっただけ。てへっ」
―凄い奴とめぐり会ってしまった。自分の住んでるところもわからない奴なんて!
「いや…そんなこと気にせずに長くいすぎると忘れちゃうんだね。大事なこと」
「忘れんなや!」
「そんなこと言わなくったって。ほら、誰にだってある凡ミスだよ。」
「凡じゃねぇ!大ミスだよ!これから俺どうしたらいいんだよ!?」
「じゃあ、あたしと一緒に冒険する!っていうのはどう?」
「不安要素たっぷりなのにか!?」
とは言ったものの、そうするしかないのも事実。仕方ないか…
「まぁ、そうするしかないから…うん。冒険するよ」
「良いんだ… じゃあ決定!」
訳がわかないまま、訳がわからない奴と、訳がわからない場所で、訳がわからない冒険が始まった…。