静かな秋、異国の秋・前編 冬風 狐作 東方Project二次創作
「やれやれ、ようやく国境を越えられた、長かった」
 パスポートコントロールを済ませてSバーンに乗り込むべく空港駅、いやこれはこの都市では初めての経験だなと私は思った。
「この空港も同じか…本当なら10年も前に出来ていたハズ、なのにすったもんだで今なんだからなぁ」
 ドイツ・ベルリン―世界的な疫病の流行もあり、長らく難しくなっていた個人旅行もようやく行きやすくなったと判断した私がユーラシア大陸を横断して目指したのがこの都市だった。
 ベルリンには世界中で国境を超えるのに制限がかかる前の自由な時代には幾度か訪れていた。とは言え直近の頃はドイツに来てもヘッセンやザールラントだとか南部の方に足を運んでいたものだから、北ドイツにあるこの首都に来るのはそうした事情も踏まえると真っ新な気持ちでいた方が良いだろう、と着いてすぐ感じてしまえてならなかった。
 何せ、今いるこの空港駅は以前に幾度となく通った際には存在していなかった。正確に言えば一昔前からあるにはあったのであるが、様々な事情、それは時に経済的、また政治的な事情も絡んで何時までも仕上がらない事で世界的に有名になってしまった国際空港とセットになったものであるから、そもそも使う術がなかったのである。
「それで、取り敢えず一緒にSバーンに乗って都心部のホテルを目指すけど、静葉さんは最終的にどちらの駅まで?」
 ホームに入ってくる赤に黄色で塗られ、時折派手な落書きが窓ガラスまで含めて描かれてしまっているSバーンを見ながら私は傍らにいる同行者へと尋ねかけた。出国からずっと一緒にここまで来た彼女は幾らか口元を歪めてチラッとホームにある路線図を見つめる仕草を見せたが返事はない。
 ここはベルリン都市圏の南端とも言える場所。とにかくまずはSバーンなりで空港を出なくては始まらず、長らくベルリンの玄関口として機能していたテーゲル空港の様に急行バスを使えばクーダムまですぐ、とはならない。
 最もそれ故に考える時間はあるからとは思いつつ、向かい合わせの座席に向き合う様に腰かけた彼女を見ながら、私は乗り継ぎを含めた長い空路移動で得た疲労感を今更ながら噛みしめつつ、トンネルを出るなり広がる北ヨーロッパらしい夕暮れに染まり行く車窓を眺めていた。

 以前から利用していたホテルは幸いな事に世界的な疫病禍にも耐え、変わらず営業していてくれたのが幸いだった。来ぬ間に開港していた新たな国際空港に始まり、色々と変わっている中で馴染める存在があるのは実に心強いのは違いないもの。故にチェックインするなり身を解くなり早速休んでしまって迎えた朝だった。
 どうであれ、これからしばらくは滞在する街である。朝食で腹を満たして軽く体を解しつつ外に繰り出したら、まずはUバーンに乗り込んで今日の目的地、そう同行してきた彼女との待ち合わせ場所へと向かう。
 一緒に来たのに同じホテルではない?と思わせるかもしれないが、実のところ、この旅行自体そもそもはひとりで全て予定していたもの。しかしどうした巡り合わせか、知人を通じて同じ時期にベルリンに行きたいが初めてなので不安に思ってるから、と紹介されたのが彼女、静葉さんだった。
 初めて行く土地だと言うから色々とこちらが手配の手伝いをする必要があるか、と思っていたらその辺りは話が来た段階で一通り済んでいて、とにかくベルリンまでの空路、そして滞在中に可能な限り付き添って欲しい、との事だった。
 何だか面白いな、と感じたのは言うまでもないもの。そして私自身、渡航先にベルリンを選んだ理由がしばらく行っていないから程度のものともなり、それならば、と快諾した背景がある。
「ああ、お待たせしました」
「大丈夫です、私もついさっき着いたところですから」
 Uバーンを乗り継ぎ、到着したのはかつての東ベルリン側に属する地域。確かにこの辺りは安宿が多い、ただどちらかと言うと旅慣れた人向けとの印象が強かったのでどうしてまた不慣れな彼女が、と思いつつ、駅のそばにある指定されたカフェに入り込むとコーヒーを飲みながら軽い朝食を摂りつつ、となる静葉さんの姿があった。
 机を挟んだ席に腰を下ろし、やってきたウェイターに同じくコーヒーと幾らかの軽食を頼んで一息を吐く。朝食自体はホテルで済ませていたが、幾らか物足りなかったのでちょうど良いと思いつつ、彼女と向き合うなり良い具合に吹いてきた暖房の温もりに頬を緩ませてしまえた。

 1時間ほどそのカフェに滞在したら私は静葉さんと共に再び街へと繰り出す。私にとっては久々で、彼女にとっては初めての街。だからどう動くのだろう、と思っていたが意外と目的地をはっきりと決めていてそちらまで案内してほしいと告げられたもの。故に私達は再びUバーンに乗り、更にSバーンに乗り換えて、とたどった末に到着したのはベルリン郊外の小さな駅だった。
 およそ外国人旅行者、特に観光客が来る様な場所ではない郊外の住宅地にあるその駅に降り立つのは初めての事だった。仮にアジア人である私がひとりで、となったら実に目立ったかもしれない。しかし、静葉さんを伴っていたのが幸いしてか、余り目立つ事はなかった、と思える。
 何せ彼女は見事な金髪だった、それも良くある染め上げて出来た様な淡い色合いではない、文字通り鮮やかな金色そのものでブロンドのドイツ人と並んでも全く遜色ない。
 彼女曰く、それは生まれつきなのだと言う。だから旅券に載っていた写真もそのままであったし、欧州に入ってからの乗り継ぎのチェックインカウンターでも担当した係員に本当に日本人?と冗談めかした具合で触れられたほどだったから、遠目で見たらそれこそ現地在住者とアジア人の組み合わせ、としか理解されないのは間違いなかった。
 そして服装も対照的だった、私は黒や茶色基調で纏めていたが彼女は昨日も今日も、そして先に触れた旅券の写真に置いても鮮やかなオレンジないし朱色と取れる色合いで纏めている。故にUバーンを待っていた際、カーブしたホームの端に置かれていた、恐らく安全確認用の大きな鏡に映って並んだ姿を見て紅葉する木みたいな組み合わせですね、とふと評したらとても同意してくれたのが何とも楽しいものだった。


 続
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