「ああっ、グレイシア…今日も良いっ」
「グレ、グレェッ、ああ、私も…ぉっ」
正直なところ、今、こうしている事は僕にとってはどこかでは夢にも等しい、そう壮大な夢を見ているのかと思えてしかない中で、僕はグレイシアと共にいる。僕と同じく人語を操り、背格好も同じ人間体型のグレイシアと布団の上で互いの裸を重ね合わせて、唇を交わしあい、そして今はこう、僕の陽物を四つん這いとなったグレイシアに後背位の姿勢で挿入しては腰を振る、そんな事が出来ているのは、本当に有り得ないと始終思えて仕方なかった。
しかし、それが僕にとっての現実だった、リアルだった。ある日突然、もたらされた果実とも言えるべき出来事は、今、僕にある顔を与えてくれている―ポケモントレーナー?否、育て屋と言う顔を僕にもたらしているのだ。
そもそものきっかけはもうどれ位前だろう、直近の夏の始まりだろうか。何気なく出会った相手から面白いものがある、きっと君なら興味を持ってくれるのでは、と言われて暇もあって付き合った中でグレイシアが現れ、そして「育て屋」との立場が転がり込んできたのだから。
「ああ、マスター…!」
ただグレイシアとの関係に絞って書くなら、僕はトレーナーにあたり、ポケモンからしたらマスター、主人以外の何物でもないだろう。同時に僕のポケモンであると共に、時としては僕に助言を与えてくれ、かつ多くの事を委ねられる存在。僕の「育て屋」としての課業の多くを担ってくれるグレイシアは最早、彼女と呼ぶべきであって、そこにはある種の敬意が込められているのは言わずとも、であった。
「うう、はあ、気持ちいい…っ」
「ああ、今日も激しいです…よっ」
こうして一戦を交わすのも一体どれ位重ねたものだろう、もし彼女がヒトであったなら孕んでいるのではないか、と言う位に僕の種を注いでしまっていても、彼女はそうなる事はなかった。ただ彼女は言う、もし、僕が「望んで」彼女と同じになるならそれは叶いますよ、と。どこかでは知識として教えてくれるのではなく、誘っているのではないかとも感じられる口調に僕は思わず唾を呑んでしまいつつ、その度に否定しては笑うしかなかった。
そんなグレイシアとの交わりの後にはしばらくの余韻の後に、決まって今日はどうだった?と僕は尋ねる。勿論、それは交わりの感想を求めているのではなく「育て屋」として彼女に任せていた1日について尋ねる次第。無粋かもしれないが、このパターンが定まってしまった以上、グレイシアも事後の始末を共にしながら、そうですね、と語り始める―今日はこうでした、あれはこうなって、それは、と聞いて僕はその場で出来る判断を返す。そしてまた彼女から尋ね返しや補足の説明を受ければ、また返しとしている内に始末は終わり、おやすみと互いの寝床にこもる、それが毎日の終わりだった。
では普段、グレイシアに託している「育て屋」稼業とは一体どういうものなのか、そこに触れて見るとしよう。そう、彼女との出会いの頃からに時計の針を戻してみよう。
「はぁ。これから…?」
まだ夏に至りつつある、と言える季節。昼間はすっかり汗ばみつつも、夜になると涼しく過ごしやすい、また雨の多いそんな頃合に僕は車に揺られながら、ハンドルを握る相手の言葉に耳を傾けていた。
夜道故に最も明るいのは車のヘッドランプ、山間の土地と言う事もあって時折現れる自動販売機やトンネルの明かりを除けば、わずかな街路灯の明かりしか頼りにならない中を比較的高速で飛ばす中型トラックは、傍から見たら何かの深夜の配送便かにしか見えなかった事だろう。つまりそうと看做されたら助手席にいる僕は、その通りの存在であり、運転手と共に得意先に向けて移動している、そんな様でしかなかったはずだ。
ただこれが本当に配送便であったなら、僕はここまで半信半疑な顔をしていなかっただろう。そうしてしまうのにも理由がある、まず脳裏にはトラックに乗り込む前に見せられた光景がすっかり強く残っていて、カーナビの明かりでわずかに見える手元にある資料の表にある文字、そして運転手の告げる内容、それ等が僕の中にある「常識」を大きく揺るがしていたからこそ、なのだから。
「ええ、これからはお話した通りです。好きな存在に関わる仕事、それに就きたかったのでしょう?なら絶好の機会じゃないですか!」
「ま、まぁそうですが…本当なのかなって」
「おっと、珍しいな対向車なんて。本当?そうに決まっていなければ、先ほどの光景は何でしょうね?そしてここに一緒にいるのはどうなるのでしょうねぇ、とにかくはっきりしてください、もうここにいる時点であなたは我々の仲間だと言う事を認識して下さい、良いですね?」
彼を何と言えばいいのだろう?知り合い、あるいは趣味の同志、であったはずである。しかし今は単にそうと見えなくなっている、彼からしても僕に対して「仲間」だとか「同志」との言葉を使い始めている以上、僕もそれに沿ってしまった方が楽であるのだが、まだ整理が前述の様に着いていないからどうにもはめる事が出来なかった。
とにかく幾度か出会うを重ねたのは違いなかった、そして好きな事をしてみたいなら、と誘われて見せられ乗らされて、しばらく長い夜道を走った末に降ろされたのは、整えられた道から分岐した細く粗い道の先。どう見てもそこで道は絶えて、かつその道はそこにある建物の為にしか用いられないのが明白な場所だった。
「さてと、到着です。凄い山奥でしょう?だからこそ出来るんですけどね」
止められたトラックの中から無線だろうか、何か言葉を交わした後に僕に向けて話しかけてくる間に、建物のシャッターが上がって
行く。余りの暗さにそんなところにシャッターがあったのか、と思える様なものだったが、慣れた感じでバックで中にトラックが入れば、またひとりでに閉まり始めて、僕の関心はその建物の中へと移る。
建物の中自体は無機質なコンクリート、簡易な構造の屋根であるのが知れる。最もそこは荷捌き場みたいな具合であって、更に奥に続く間口を閉ざすシャッターや金属扉の姿からはとても一般の住宅ではなく、何かの事業所とか、そうした印象が強く浮かんでくる。
ただそんなのはもうすぐにどうでもよくなった。何故なら、ドアを開けるなり目のあった存在の姿に、僕は全ての関心を持って行かれて、そして乗り込む際に聞いた話、そして積荷、また手渡された書類と全てが一気につながった事に、瞬間的な思考停止とカラダの
震えを生じさせるを得なかったのだから。
「やぁオトギリさん、例の彼を連れてきましたよ!ほら、何驚いてるんだい?」
「え、あ、はあ、その初めまして…ってこれは、ええ?」
そんな僕に対してここまで連れてきた彼、タダヒコは笑い含みで快活に迫ってきては、前述の様な反応を示さざるを得なかった相手に僕を紹介しているのだからもう何が何だか、と戸惑いながら頭を下げれば、頭なんて下げなくても、とのフォローの言葉が僕に向けられる。そしてそれはタダヒコのものではなく、オトギリと呼ばれた「サザンドラ」のものであるのだけは明白なものだった。