僕の玩具達・第3話 冬風 狐作 ポケットモンスター二次創作
「どうも初めまして、オトギリです。あなたのお名前は以前からうかがっておりますよ、タダヒコから、ええ」
 僕がようやく一息を吐けたところで、オトギリと名乗る「サザンドラ」は僕に改めて自らについて名乗ってきた。その声だけ聞けばただの挨拶でしかないし、その素振りを含めても、その通りでしかない。
 しかし僕がオトギリではなく、サザンドラと認識してしまうのはその外貌にあった。全く見た事のない、思いもよらぬ姿は人の通りの姿であるはずなのにその姿はまず色から違う。色だけ取り上げるなら濃紺、黒、そして幾らかの濃い紫、この3色がその異様なる姿を構成しているものだった。
 何より特徴的なのはその顔だろう。突き出た顎の中の口と鼻、何より細められて濃い紫色に染まった瞳が向けてくる視線は、正に得体のしれない存在と接しているとの印象を強めさせてくれるだけで、ますます僕の記憶の中にある「サザンドラ」そのものである、との認識を強めさせるだけであった。
 サザンドラ、ぜんこくNo.635―確か最近出たポケモンで、との情報が空虚にすら思えるほどに視覚的に捉えられたその姿は、衝撃であり、通り越した今となってはむしろ盛んに、とても興味深いものでしかなかった。
「…まぁ、見る前にしっかりと自己紹介した方がいいんじゃないかな?」
「あっああ、そうですね、失礼しました」
 視線ばかりを忙しなく動かしていると、ふとそうした言葉が投げかけられる。それは最もなものであって、ヨウスケが発した言葉以外にはしばらく沈黙が広がっていたのにも、ようやく気が付ければ、そうだそうだ、との気持ちになるものであろう。しかし、矢張り上手く言葉は出ない、しばらく黙りこんでそして、大きく息を吸って続きを発するのだ。
「きっとご存知なのでしょうが、改めて申しますと…僕はヨウスケと申します。ついつい見てしまいどうもすみません、こう気になって仕方なかったので」
「皆さん、そう言いますからお気になさらず!タダヒコも最初はそうでしたからね、ヨウスケさん」
「それはそうだとも、驚かない方がおかしいとすら、ねぇ?」
 最後の一言は余計だったろうか、と浮かべるのもほんの束の間なもの。オトギリから話を振られたヨウスケは半ば笑い交じりの声でそう返す―なぁに、すぐに当たり前になるさ、と付け加えれば、また、話の中心はオトギリへ経ては僕へと戻っていく。
 そんな波の様なやり取りが次第に僕を解していったのは、このどこか緊張と興奮を生じさせられてしまう中での、貴重とも言える確かな事であった。

「ヨウスケがどう話したかは分かりませんが、ここに来た以上、大体は承知している、との事で良いのですね」
 疑問文、と言う具合ほどではない、語尾がやや丸く上がった響きでオトギリは僕に向かって問いかけを発する。
「大体は、ええ、まぁポケモンが関係ている事だ、程度には聞いていますけど…そうなのですよね」
「そうですね、とにかく私の姿を見れば分かるでしょう?一番に、ね」
「ええ、全くです。でも、うんこれは…思ってもなかった、と言うのが結構な本音です」
 その言葉にオトギリはまた大きく笑う、タダヒコも半笑いと言った具合で応じれば、一言、そこに加えてくるのもどうやら、この2人のお決まりのパターンの様であった。
「良かったな、ちゃんとここで肯定出来て。出来なかったら、ねぇ?」
「はは、確かに。とにかく、どうしてこういうやり取りになったかは直接見てもらうが早いでしょう。さぁこちらです、もう当然ながら引き返せませんから、じっくりとお教えしましょう」
 その頃にはいる場所は然程の荷捌き場所の様な空間から奥へ、幾らかのドアを過ぎた先。まるで幾つもの部屋の様に区切られた廊下の先、更に地下へ向かうと思しきに下る階段を経た先の扉は電子式の暗証鍵が備えられていて、サザンドラの爪が器用に押しては解除していく。その動作から指の形は人にほぼ等しいのが見え、当然ながらその指は濃紺と濃い紫の毛並みに覆われているのが見えた。
 引き返せない、と言われた所でこの様な山奥にいる以上、そもそもの話として人里に戻るのすら大変なのだからどうであれ、僕はうなずくしか出来ない。ただそこに抱ける気持ちの中に怖さとかはなかった、緊張こそそこそこあったが何があるのだろうかとの部分が大半を占めていて、更に隙間を目の前のサザンドラ、オトギリに対する興味がとても埋めてくれる。
 オトギリについては五感との観点から見ても、ほのかに香ってくる香りはこれまでに嗅いだどんなイヌだとかとも違う、不快ではないもの。何より、先に注目した通り、外貌は人の体が基本の姿となったものであるのがとても興味深くてならず、ひたすらにその後を視線が追ってしまってならないのだ。
 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、先の電子錠で守られていた扉を過ぎた後、オトギリとタダヒコは余りこちらに話を向けてこなくなった。どうにもふたりで、かつ小声で何やらと交わしあっているのを後からついてくる僕に対して、ある程度自意識過剰気味となってしまうのかもしれないが見せつけてくるそんな印象すら抱ける中、幾分広くなり、また壁には千鳥配置で金属製の扉が配置された廊下をまだまだ歩いていく。
「…ならそうしよう」
「ええ、ちょうど空いている事だし」
「都合は良いな。それで…」
   等間隔で天井から吊るされている蛍光灯は、そのどれもチラつきが無くて真新しい印象を受ける。廊下の壁に床にしても淡いクリーム色と緑色、となっているのだが同様に綻んだ、あるいは古びた具合はなく、ピッカピカとの具合がおよそ、この施設があるであろう先ほどまでずっと見てきた、その中を来た闇夜の山奥との立地にとても被らない。
 抱けるのはここは本当は大都会の中ではないのか、とすらなろうか。そんな誤った認識をさせるほどに整った空間は、僕の認識を良く乱してくれてならず、だからこそ今は先を行く2人に頼るしか、どうにもならなかった。
 最大の皮肉であるのは廊下の造りだとかに気を向ければ向けるほど、僕の耳にはふたりのやりとりがそよ風かの如くに入り込んでくる事だろう。そはーれはつい先ほどまで、一体何を交わしているのだろうと注目していた時よりもそれはもうずっと、である。
 更にその内容として確認し合っていると見れるからますます気を紛らわそうと、周囲に注目して、その特徴に全然変わる物がなく、新たにこれは、と意識を向けられる対象が見出せないのを重ねれば重ねるほどに、僕の耳はそのやり取りを捕まえてしまうのは全くどうしようもない事であった。

 とても居心地が良くて、全身がリラックスしていて、そんな中で認識をふと抱ければ、暗闇の多くを支配しているであろう微睡の中に私は横たわっていた。
 ―今日は休みだったかな、うん、そうだよね。
 その心地よさの中で大きく身を伸ばしていて良いのだ、との定まった中で一体どれだけ過ごした事だろう。半ば眠ったまま、ふとそろそろ起きようかと意識した時に、その衝動があったのは、単なる偶然ではないだろう。
 途端に来たのは加速する、そんな力だった。今いる空間自体が一定の方向へと加速していく、浮いて、飛んで、そして、裂ける。意識を失うか、と思えるほどまばゆい光に私はしばらく目を瞑ってしまった。しかし、その内に五感が掴んだこれまでになかった種々の感覚。空気の流れ、ひんやりとした冷たさ、何より交わされる言葉の響きがその瞼を開かせては、今、私が見覚えのない空間にいる事を強く認識させてくれる。
「これが、私達の作品ですよ」
「そうだ、凄いだろう?そしてヨウスケ、君の最初のパートナーだ」
 言葉を交わしているのは目の前に見える3人、いや1匹と2人だろうか。どうみても1人は人には見えない、とても大きな化け物、と言える具合なのに平然としている2人の姿が信じられなく、まだ久々の明るさになれない私は何か行動を示す事はなかったにしても、しばし見つめては少しばかり、尻を床に着けたまま後ずさりをしてしまう。
「おっとヨウスケ、君のパートナーが逃げてしまうぞ」
「大丈夫ですよ、タダヒコ。彼女は逃げられません、ねぇ?」
 パートナー、との言葉が私に対して向けられているのも分かる。そしてそれが向かい合う3人の中で、唯一静かにしている人間に対して向けられているのも。私がパートナーならその人間、彼がマスターなのだろうか―そんな意識をふと浮かべるなり、何か脳みそを鋭利な刃物でスッと割かれたかの様な刺激が走り、顔をしかめさせてしまう。
 それでも私の肉体はわずかばかりに後ずさりを続けていた、ただそれはすぐに終わる。終わったのは簡単な理由からだった、何か止められたとか、他者から介在されたのではなく、単にもうそこに機械か何かがあって物理的に制されただけ、もうそこから先には行けないだけであったのだから。
「ヒッ…え…?」
 だからこそ私の喉は小さな悲鳴を上げる。戸惑いで左右に首を振った際に、ふと見てしまったのだ、自らの姿を、鏡の様に磨かれた金属製の機械の表面は、本来の用途とは別に周囲を映し出しては壁に背中を当てて、尻もちをついたかの様な姿勢で両足を大きく開いた、そんな具合の私の姿を含ませる。
 ただ私が私、と認識しつつも覚えがあるかは別なもの。およそ見覚えが無いのに、私だと分かる、その異様さがどうすれば通じるだろうか。居心地の悪さとかには至らない、地に足を着いているのかどうか不明にさせてくれるのが目に映る、透き通る様に水色で先端が紺色のダイヤの様な配色をしている大きな房の様なものであったのは違いなかった。
 更にそれだけではない、もみあげに相当する場所から垂らしている、それが最初に目が行った理由であっただけに過ぎず、次から次へと続けざまに新たな情報が取り込まれてくるのだから、おかしさは一瞬一瞬、瞬く度に膨らんでいくのだ。
 ティアラの様な紺色の扇状と取れる色合いを前頭部に載せていて、何より全身が水色―私はそんな肉体だったろうか、小麦色の、あの見慣れた体は一体、と浮かべてしまえる中でふっと現れた影に投げかけられた言葉が、一気にその疑問を氷解させてくれる。
「グレイシア、マスターに挨拶しないと」
 グレイシア、どこかで聞き覚えのある、記憶の中にある「名称」であり、かつ、それが私であると意識出来たのはほぼ同じであったろう。
 とても混乱する、何もかもがそうなってしまう。見えているのにどこか明瞭には触れられない、そんな氷の様な硬さの意識の中にあった事実は、一気に至極当然の事として融ければ、寸分の余裕も許さずに「私」の中に染み着く。途端に「私」は急速に気持ちを落ち着かせたのであった。
「…あ、はい」
 人語で返せた時点でまだ残っていた疑問も氷解させるべきだったのだろう、いや、してしまえばもっと楽だったのかもしれない。しかし、そうと思えつつも、その場ではまだとても私には出来なかった。


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