だがそれはただ雰囲気だけではないようだった、いや気のせいではない、と言うべきだろう。確かにその体はより女性的になっていた。すらっとして良い肉付き、そして筋がぴんと伸びているそんな体は見ている者の目を注目させるのに十分な肉体であろう。
特に足が伸びている、すっとすうっと、寝間着を身に纏っているから素材は薄めで構造も簡単なワンピースの様な形。その先から見えている足は、両足、否、3つの足が見えているではないか。
そう確かにただの雰囲気ではなかった、いや形自体がただそのままと見せて実は異なっていると言う事実。つい先ほどまでただ両足が突き出ていたはずのそこには、ある種の朱色の載った白い肌の代わりに薄っすらとした黄色の載ったクリーム色に包まれた両足。真ん中にある3本目の足は先端が大きく開き、3つの三角形の切れ込みによる葉っぱの様な形をしている。
そしてその葉っぱの様な場所が均質の厚みある平板なら、付け根と言える場所から続く足、最も尻尾と言うに相応しい円錐状に広くなっていく箇所は、ベッドに面する側が濃い緑色、そして反対側は両足と同様の色合いに染まっていた。
「ん・・・っ、もう見えちゃってる・・・?」
「ああ、そうだね、もう尻尾が出てる。頭はそのままなのにね」
「だって尻尾出しやすい・・・んっ。脱いじゃう・・・よ」
恥ずかしそうな声が応じ返している間に一拍の喘ぎ声にて途切れた、その後はやや荒い息遣いと共に丸い顔が変わり始める。そう縦長に表から見て上下ではなく、鼻から後頭部にかけての線を基準として前をやや下にした前後斜めに延びる具合である。特に先端はつんとした三角形、それは万年筆のペン先を思い浮かべる形状をしていて、2つの小さな鼻腔がちょんと上あごに載っている。
尾行から顔を上に上がっていくと少しばかり角度が急になる、するとそこで再び色が変わるのだ。最も平板ではなく髪の毛の様にカールした、わずかな盛り上がりを境目とするあの濃い緑色の形状が現れ、頭部全体を覆っていく。あの豊富な金色の髪の毛はどこへやら、と言う形で滑らかな楕円に一角を描いて背筋へと輪郭は落ちて行くのだった。
背筋もただその流れの下に従うのみではない。特徴的に、まるで反発するかの様に切れ込みがその楕円の一角に生じ、そしてぴんと真っ直ぐ天を突く三角錐が後頭部に出現していたのだから。内側の部分は薄い黄緑色を呈していてアクセントとなり、その先端がその身体で最も高いところとなっているのは、この姿勢でも何となくかもしれないが分かってしまえよう。
ベルは、変貌しつつある彼女は服をその最中で脱いでいく。服の脱げたところより現れたのは奇妙な色合いの混ざり具合。朱のほんのりと載った肌色とあの腹部ではクリーム色、そして背中では濃い緑色が斑の様に散りばめられ、次第にクリームか濃い緑に包まれていく様が展開されていたのだ。まるで透明な水の中に一滴垂らされた絵の具が静かに広がり水の色を染め上げていく、それに通じる模様が身体と言う固体の上で繰り広けられている、そんな奇妙な光景であった。
当然、そこには人としての身体の部位がある。乳房がそうであろう、そして肋骨、腰骨、臍、それらも全てどちらかの色に覆われていく。同時にあったのは光沢が載り出したと言う事だろうか、色合いが変わった上に、その色合いをより安定させる為なのだろうか。まるで釉薬の如く、それは色に染まり切った所の中から染み出るようになり、今や目の前でそのベルの表面全てが包まれ切るのだ。
そして不思議と人の身体の時に比較してそれらの、皮下の骨格が表に浮き出るのは最小限となった様で、どこか全てが筒に近い様にすっとしていてどこか球体を見ているかの様な印象すらある。
最も別の形でそれらの有無は表に出ていると言えるかもしれない、そう皮膚の上に明確に現れた継ぎ目の様な線と構造、それがかつての肋骨とその下の境目に沿う様に、すっと引かれ、また腰周りでは尻尾の先端の様に三叉に、1つは右足、1つは股間、1つは左足へと向かっている。それが見られるのが特徴であり、紋章として意匠化された百合、言うならばフルール・ド・リスの中央の上下にも見えなくはない。
その肉体はとにかくすらっとしていて、立ち上がった姿は元のベルとは思えないものだった。そもそも顔が変わってしまっているのだから、と言う話になるのかもしれない。しかしそれを差し引いてもそこにいるのはベルと言う確信はあったし、そもそもそうなのだった。
「相変わらずきれいだよ、ベル」
アッキードがそう言ったのが何よりもの証明、そして応える様に尻尾を揺らすベル。そう寝転がっている時は3本目の足とも見えた部位は実は長い尻尾であり、先端がくっと上向き曲がっているそう言う斜めに天を突く形をしているのである。また背筋に沿って2つの柏葉の様な部分も、呼応する様に揺らいでいるのもまた特徴であろう。
何よりまだ変化が終わっていなかったのが特筆されようか。そう立ち上がり身震いをした時、胸元からさっと左右に分かれる様に黄緑色の部位が現れたのだから、それはVネックの様で花開く様な立体感からはセーラー服の襟とも表せられよう。
「ん・・・やっぱり、この体がすぅっとする感覚、楽で良いよねえ」
細長い口から出るのはベルの声、瞳は細長い中にあって濃いルビーの様な色合いをしてアッキードを見つめている。改めて体を震えれば尻尾から首の襟元、背中の2つの葉が揺れる姿は優美その物で美しさが凝縮されている。
「流石にこれは見せられないだろう?ジャノビー」
「ジャノー?ふふ・・・流石にネ」
しかし同時にジャノビーでもあった、それはくさへびポケモンの名前にして、その姿は正にそうなのであり、同時に人との融合した姿なのであった。それをアッキードはポケ人と呼んで、一拍置く。
「後悔はしていないんだろう」
「うん、そうだよお。する訳ないじゃない、アッキード・・・あなたの役に立てて本当に嬉しいんだもん」
ジャノビー、そうベルは自然とアッキードに抱きつく。その言葉は心底望んでと言う気配を持ち合わせていて、目の極めて細められた具合からは二重の意味での自然さがふと漂う。
「こちらこそ、君みたいな素敵な人、そしてポケモンと出会えて嬉しいよ。ベル、そうジャノビー、今日の気分はどちらだい?」
「今日は・・・ジャノビーって呼んで欲しいよう、もうあなたのものだから」
「分かったよ、ジャノビー」
すりすりと胸元に身体をすり付けてくるその姿、それはもうポケモンがトレーナーにじゃれ付くのと大差なかく、むしろ同じであった。そしてベルはジャノビーと扱われる事を自ら選びつつ、しばしの後にある一言を呟いた。
「ねぇ、アッキード・・・あなたもなってよ」
アッキードはその言葉にしばらく無言の抱擁で応え、そして一言を囁く。
「・・・まだ告白しただけだろう?」
「・・・そうでした、ウフフ」
告白、まだそれだけである事をジャノビーは思い出し確認して微笑む。それはまだその部屋だけでの出来事であるのを、どこかで残念に思っての微笑をよりしっかりとした抱擁、ジャノビーとして巻き付きながら応じつつ、ふとある姿を脳裏へと浮かべる。
とにかくは人たるアッキードとポケ人、そうポケモンと人の両要素を持った存在になったベルとの抱擁はしばらく、じっくりと交わされるのであった。とてもそこには夜の気配こそ似合う気配が漂っていた。