サリーヌとフクス・フクスの好み・前編 冬風 狐作
【ご案内】こちらの小説は愛好者さんのブログ「不思議なお話」に掲載されています小説「美少女戦士サリーヌ」の二次創作となります。

「フクスちゃん、夕飯食べに行こう」
「ふんふん、きゅふーん」
 サリーヌと言ったら何を隠そうこの小説の主人公、そして皆のヒーローである。皆の為に働き、皆の為に犠牲となる、時代を間違えたら神社の1つでも建てられてしまいそうな活躍ぶりを見せている。
 そんなサリーヌの声に立ち上がったのは白に黒の袴を纏った金色の髪と狐耳、そして袴の裾から狐尻尾を躍らせている少女フクス。いや少女と呼べるかどうかは実際のところ微妙かもしれない。最もその印象のままに言えばそれはかわいい、であろう。
 とにかくそのちょんちょんとした愛嬌ある動きは、夏と冬の同人祭典に情熱を燃やす人々の幾許かの心を奪う事間違いない魅力、それ等を湛えた姿であった。
 しかしそのフクスの立場と役割は、サリーヌに比してそう目立つものではない。何時もサリーヌと一緒にいて、そうでない時はサリーヌの部屋か、あるいは基地の中に勝手に作ったフクスの「部屋」でごろごろしている、そんな彼女。
 時としてはサリーヌですらも居場所が分からず、不意に現れるその行動の不可解さは正に神出鬼没、と言えてしまえる。だが時として見せる彼女の活躍は何なのだろう。それはまるでねらっていたかの様に現れ、状況を一気にひっくり返して打開する姿を一度ならず二度三度と見てしまったなら、一体何者なのか?と言う疑念は必ずや晴れるに違いない。
 サリーヌもエカテリーナもマコにミコも、見た場面はそれぞれ異なれど、皆それを知っている。そして時として助力された経験があるからこそ、神出鬼没でそして不可解なベールを尚もどこか纏っているのをむしろ良しとしていた。それを気にする事無く積極的に打ち解けていく、それがサリーヌの所属する部隊の空気なのだった。
 だがそれは言ってみれば正に身内の事情である、もしそれ等を知らない人が接したならば何と思うだろうか。部隊の名簿に名前のない存在、しかも人間でない姿をしている。それはここ、イタンヘの怪人との戦いを主な任務としている、そしてそれを完全に信じている者にとって耐えられない事実であるに違いない。

「どなたきゅうん?」
 ある日の事だった。ふと気侭に基地の中を散歩していたフクスはいきなり立ち止まるなり、そう口にしながら背後を振り返る。それは視線が彼女に向けられていたから、そしてそれに彼女が気が付いたからに他ならない。
「どなたきゅうん?」
「・・・べ、別に」
 フクスは変わらぬ口調で台詞を繰り返す、そこには動揺とか一切の感情はこもっていなかった。ただ純粋な質問の姿のみで、逆に声をかけられた方にこそ焦り、咄嗟の判断に迫られて口ごもる、そんな色合いが強く出ていた。
「あなた誰きゅうん?」
 フクスの瞳は相手の姿を映す。瞳に映るのはまずは白い、サリーヌのそれと等しいスウツ。しかし幾分表面の形状がは異なる、まずそこには丸みがない。鳩胸と言う表現はその胸に正に相応しく、腕にも大腿部にもサリーヌにもあるが、どこか根本的に違う整い方をした筋肉の気配が漂っている。
 そして決してムカツキを覚える様な過剰さ、それとは無縁と、備わっている筋肉によるしなやかな肉体。フクスを見つめ返してくる瞳は焦りつつも、一方では何か一言二言言いたいとの、つまり何かを口にしたい当初の気持ちを保ったままであった。
 しかもそれを恐れないとの自信に満ちているのだから。その張りのある顔にあふれる均整さと若い強さは、フクスの関心を向けさせるのにすっかり十分であったのは言うまでもない。
(あら、面白そう・・・)
 最もそれはあくまでもフクスにとっては普通の事であったし、その関心の度合いに格付けが出来るなら大よそ知れたもの。つまりそこまで強くはなかったのである。しかし視線をじっと向けられた側からすれば、それは思った通りにしか見えない。しめたと思ったその心によって、すっと調子を取り戻すと改めて整えられた満面の笑みの中で口を開くのだった。
「それはこちらのセリフですよ、どちら様ですか?」
 体の割りに若さ、いや幼さの混じった声だった。声変わりが遅かったのかもしれない、その彼の声はそれでも尚、出来ている喉仏を震わせながら紡がれる。
「金髪で狐耳?イタンヘのスパイですか?サリーヌと何時も一緒にいるのが引っかかるし・・・」
 疑う声はある種の自信に満ちていた、そしてその自信の正体がフクスには伝わっていた。それは一言で言えば見下す、である。フクスを不審に思うと共に、ある意味ではそれ以上になんだこいつ、とでも言える見下す気持ちが多分に含まれているからこそ、フクスは関心を向けたに過ぎなかった。
 だがフクスは特に表情を変える事はなかった。自分に対するそう言う意識を把握した上で、そのままニコニコと見詰めたままで居続ける。それはある意味では彼女の本領の一面とも言えるのだろう。
 だがただそれだけの、以上でも以下にもあたらない反応を示さずに続けるのはされている側からすると気分の良い物ではない。
 つまり青年の気持ちは乱されたのだ、想定外の事として。青年からすれば何がしかのはっきりとした反応を見せるであろう、と言う予測をしていたのが外れてしまっているのだから。それはまだ若く、怖い物を知らない、つまり経験不足で咄嗟の対応に慣れていない彼にとって尚の事である。
 しかし自分から吹っかけた建前、自ら折れる事も彼には出来ない。だからこそ彼に出来るのは再び自ら口を開く、彼の認識からすればこちらからまたボールを投げる、ただそれしか成しえられなかった。
「ねぇ、聞いてるんですか?それとも幻影かなっ」
 明らかにそれなりの空白を置いてから出された言葉は違っていた。様相とも言えようか、空白の以前の様な余裕が薄まる一方で、焦りを濃厚にたたえた言葉と共に彼は行動、片足を前へと突き出す仕草、を見せる。
 そうそれはある示唆でしかなかった。自分の問いかけに対してただ微笑むだけの相手から、何か強い反応を引き出したい気持ちに突き動かされた故の行動であった。最もそれは一時のものである、少なくとも綿密な考えに裏付けられていたのではない。そこにあるのは感情的になって、自らその未熟さを呈してしまった姿に他ならなかった。

「・・・聞いているきゅんよ、あなたこそ誰きゅうん?」
 それでも尚、フクスは口を閉ざしていた。そしてようやくと言って良い時間が経過してから、口を開いたのもまた意地悪なのかもしれない。しかしそれは咄嗟の感情に全てよらないのは、まだ青年に勝るものであろう。
「あっ・・・なんだ幻影じゃないんだ。じゃあ早く応えてくださいよね、オチビさん」
 彼の頬にしてやった、とも見れるほころびがさっと浮かぶ。意識的ではなく反射的に、むしろ無意識にしてしまう昔からの癖としてしたに違いなかったから、特に意味はなかった。
 そしてそれをフクスがそれを見逃す筈がない。だが彼女も最低限の動作以外は見せないからあくまでも、あくまでも敢えて言葉にしない以上、抱いている思いが伝わるはずもなく、むしろただ彼の気持ちを助長させる一躍を買う事となる。
「まぁ良いです、教えてあげますよ。僕の名前は、アクセル。この部隊の新人です、あなたは?あなたの顔は部隊の名簿でも見た事がない、なのにいるのが不思議で仕方ないんですよね」
「私はフクスきゅうん、サリーヌと一緒にいるただの狐きゅんよ」
「ほぉ、狐・・・イタンヘのスパイではなくて?」
 ようやく得られた答え、つまりフクスによる名乗りを得た青年、アクセルはふと目を細める。顎も少しばかり上げてフクスを、正に見下す顔となって得意満面と言わんばかりに言う姿は、どこか不快感を想起させるものだろう。
(ふうん、生意気ねぇ・・・)
 フクスの内心にあったのは溜息だった、だが内向きな後ろ向きな溜息ではない、どこか膨張する気配の溜息で少し気分を緩めるなり、すっと口を開く。
「そうじゃないきゅうん、サリーヌのお友達なの、あなたなんかよりずーっと長くいるんきゅうんよ?」
「さっきからサリーヌ、サリーヌと言っていますけど、どうしてそんなサリーヌの名前ばかり出すんです?なんか怪しいなぁ」
 食えない相手がいるのならば、それはこう言う口調の人間なのだろう。まだ若輩の気配も抜けきらぬ、だからこそ言えてしまえる度胸もある彼を今一度見詰めたフクスの一言が続いていく。
「サリーヌも私も気に入っているからきゅうん、あなたはどうなのきゅうん?」
 それは紛れもない真っ直ぐな思い。フクスから見たサリーヌとは気に入っていてかつ信頼出来る存在であるからこそ、すっと吐き出されたと言えるだろう。だからこそフクスはアクセルへの問いかけをも一気にまとめて口にしたのだ、あなた、つまりアクセルの苦から語らせるべくボールを投げたのだ。
「あなたは・・・って僕の事ですか?」
 アクセルは言いよどんだ、いきなり飛んできた質問故なのかもしれない。しかしそれはフクスからすれば簡単な問いかけで引き出せた相手の隙でしかなく、早速一息吐くなりして言葉を続け始める。
「ええ、そうきゅうん。サリーヌをどう思っているきゅうん?言いよどむって事は、絶対何か思っているきゅん」
 アクセルの答えはすぐに返ってこなかった、しかし何かを考えているのは伝わってくる。
(あら、まだ若い子だからかしら?)
 その顔は軽く頬が高潮していた、目は一応真っ直ぐではあるが少しばかりの視線のブレが見えてしまえるのが何ともいじらしい。そう感じてしまうのがフクスの余裕なのだろう、そして経験の差なのかもしれない。
 最もまだ立て直し始めたばかりである。フクスとは言え、相手の事、つまり青年の事をそこまで詳しくは知らない。名前を聞き出したのは大きな収穫であったが、その他にまだまだ必要な条件が幾らか不足しているのもまだ事実としてある。そんな具合であるのを認識しているからこそ、何時もよりやや慎重に言葉を選びつつ、静かに外堀を埋めていこうとしていた。
 そうまだ手強い相手なのでは、と言う懸念がフクスの中から一掃されていなかったからだった。フクスの細められた瞳が、それを象徴していた。


 続
サリーヌとフクス・フクスの好み・中編
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