冷たい希望の叶え方・前編冬風 狐作 ポケットモンスター二次創作
「わぁっ!?」
「ほーら驚いた・・・予想通り」
 驚きの声と得意げな声、それが交差したのは久々に互いが出会った場での事だった。
「驚きながら思わず手を振る癖は相変わらずなんだね、安心した」
 僕に向かってそう口を聞きつつ微笑んでくるのは友人のカナエ、幼馴染と言える間柄ではあるが僕が家の都合で引っ越して以来、数年間はすっかり疎遠になっていた。とは言えこうして再びであったのも幼馴染の縁と言えるのかも知れない、お互いに特に僕は痩せていたから風貌はやや変わってしまったのだが、場所も改めた彼女の部屋の中での出来事だった。
「ね、凄いでしょ?」
 先の様に彼女が僕を驚かせてもなお、示してくるのはその腕であった。まだ春先とは言え寒の戻りの雨が降る時期だからこそ、お互いに纏った長袖の衣服の袖。それを捲って見えたのがその腕、衣服の生地は捲られているのに薄いクリーム色と共に濃い茶色、そして極めつけは若干のグラデーションもある緑色の物体がそこには見える。
 少なくともそれはある人ではない生物の脚の特徴と全く同一であるのは、色々と鈍いと言われる事の多い僕でも瞬時に分かってしまったものだった。
「何か言いなさいよ、ミチハルったら・・・」
「あ、ああごめん・・・驚いちゃって」
 だからこそ僕は促されるまで言葉が口から全く出て来なかった、確かに事前知識として彼女がそう言う道、研究者としてそう言う道に行った事は風の頼りに聞いていたし、この部屋に来る前に落ち合ってから向かう途中でカナエ本人から聞かされてはいた。そしてその中で「研究成果」をすぐに見せてあげる、と言われたのもまた事実である。
「こんなに早く見せられるとは思わなかったから・・・」
「あら?後で見せれば驚かないって言うの?もう無茶な事を・・・絶対驚いて当然なんだから」
 口が開いたままにようやく吐き出せた言葉に軽い笑いをぽんっと言葉と共に投げ返すなり、彼女は得意げにそう宣言する。反射的に軽く肯きとも取れない首の動きを二度三度と力なく繰り返している間に、カナエはすっと歩き出して別の部屋に姿を消していた。そして数分と経たずに戻って来た時には1つの瓶を大事そうに手にしていたのだった。
「と言う訳で・・・これがあなたに是非とも見せたい研究成果だったのよ、半分は偶然の産物だけど、ミチハルだったら絶対関心持つだろうなぁってね」
 僕は相変わらず喉から言葉が出なかった。専らの関心は彼女の宣言通り、「研究成果」にまだ驚きの余波を残しつつも集中していたもので、腕の次に彼女が持ってきて、おもむろに机の上に置いた瓶、蓋がされ明らかに何か不透明な物質が充満されているのが知れる瓶へとすっかり集中していた。だから周囲への注意と言うのは殆ど払われず、またも彼女の言葉によって新たな注意を呼び覚まされるまですっかり固まってしまっていた。
「な、何してるのさ!?」
「ね・・・腕以外もこんななのよ?凄いでしょ」
 僕は今度こそは呆気に取られた、とする方が良い。驚きを通り越して、とは下手な表現ではあろうが正にそうであったのだから仕方がない。僕がすっかり注意を1つに向けているわずかな時間の間に、彼女は纏っていた着衣をすっかり脱いでいた、その手早い鮮やかさに対する驚き。
 更には本来なら隠されているべき裸体を、軽い腰のくねらせを伴って見せ付けてくる余裕と最早言ってしまっても良い姿。そしてそれを動揺しつつも見つめてしまっている自分に対する驚きはすっかり一定のレベルを通り越してしまっいたからこそ、その様なある意味「下手」な表現してしまったのに違いなかった。そしてそれが中身なのだろう。
 最も彼女がそこまでの堂々とした態度を示したからこそ、僕も無意識の内に驚きを通り越すと言う具合に、相応しい形にて応えられたのだろう。幾ら幼馴染とは言えそんな関係は当然持った事も無い。のしかしふと、そのいかにも滑らかで整ったラインに沿って、決して大きくはないが小振りながらも良い形をした乳房を凝視してしまったのを無言のまま続けてしまったのにはそうであるから、と思うしかなかった。
 そんな勢いで見つめるだけのつもりが、何時しか強い前屈みの姿勢になってまでなっていたのに気が付いた時は思わず、顔から火が出る様なそんな感情を一気に込み上げて来てならない。だがそれはふと見方を変えれば、その時には既に彼女のペースにすっかり取り込まれていた、僕だけではどうしようもならなくなっていたと言う事。それは事実でしかなかった。
「首から上は?」
 その感情に捕らわれ続けてなるものか、と思うが早くか、ぽっと口から出たのがその問いかけだった。最初に見せて来た右腕と同様に左腕もクリーム色に包まれていて、それは胴体と足も同様。ただ胴体以外に共通していたのは茶色の部分の存在。
 それは腕にあっては肘の近くまであるロング手袋、足にあってはロング靴下、とでも言わんばかりの面積で更にはその中から、正に芽生えていると言えるような緑色の跳ね返りが、ぴょんと軽く反って体から生えていたのだ。そしてそのどれもがじっと見れば、跳ね上がる緑色の部分以外は密度の濃い、それぞれの色に染まった毛で覆われている。
 しかし首から上へと視線を転ずればその部分、即ち顔の部分はまだ人の皮膚と顔のままだった。それはむしろおかしく見えて仕方ない。どうしてそこだけ人のままなのか?首より下の部分と同様にうっすらとした密度の濃い毛に覆われるのか?更には形すらも変わるのか?と言う疑問を浮かべられたからこそ、格好の、その場の流れに即した感情の捌け口としてその言葉を投げかけていく。
「ええ、人の姿は維持されちゃうのよ。でも私は凄く嬉しいの、だって大好きなリーフィアに・・・こう、ね」
 投げかけた疑問に対して彼女はその口元に惜し気もない、充満された微笑みを満たすのみだった。しかしその茶色に包まれた両手を顔に持って行き順繰りに揉み始める、頬に口元、鼻、額、頭髪に至るまでこねこねと指先を使ってしばらく揉んで、また撫でて、揉んでのただひたすら繰り返し。
(・・・?)
 僕はいきなり何をと言う疑問符を脳内に浮かべるので精一杯であった。だからこそ再び瞳を、当然両手を払うと共に開いてきた時、そこには僕の疑問に対したただ言葉だけにはとどまらない、目に見える形としての答えが明示されていた。
「リフィ〜・・・ってね?」
 僕はその大きな茶色い瞳に浮かぶ自分自身に対して、とうとう大きく首を縦に振らざるを得なかった。そうその顔は額から軽くくねっと生えている葉っぱを軽く揺らし、嬉しそうに尻尾を振っているその1匹のリーフィアその物なのだから。改めて確認するなら、人の姿をしているから完全なリーフィアではないし、顔にもそこはかとなく彼女の顔と言う面影が残っている。
 そんなリーフィアと人の混ざった姿をした彼女はそうであるのに整っていた。だからこそ僕は何時しかどこか熱い、陶然とまでは行かないにしてもそれに近い焦がれた気持ちを、その時はもう静かに抱いていた。そして羨ましいともはっきりと抱いてしまっていたのだった。

 もうここまで来ると彼女の考えている事は明白で、僕もすっかり沿って首を縦に振ってしまう。とても彼女が「研究成果」を見せるだけで満足する様な、そんなかわいい性格でないのは幼馴染として色々と接してきた経験と記憶から承知している。それに僕もそんな彼女の性質に振りまわれさながらもどこかでそれを楽しみにしている性分、であったから驚きは急速に影を潜め、もう楽しんでしまおうと言う勢いへと話はトントン拍子に進んでいく。
 その結果としての今、僕は1人で浴室にただずんでいた。服をすっかり脱いで鏡に向かい合って立つ僕は、傍らに置かれた瓶の中より取り出した物質を掌中に収めてその感触を味わっていた。
「これはね、メタモンなのよ、元々は。ゲルと一応呼んでるけど」
 先ほど彼女、その姿は変わらず服を身に纏わないリーフィアであったが、から聞いた説明が脳内をエンドレスで流れる。
「正確に言えばメタモンの姿を似せる能力、それを発揮させる物質をより活性化させてみたらこうなった、と言うところかしら」

「簡単に言えばメタモンが見た姿に変身するのが通常だけど、これは包まれた人が浮かべた姿形へと変化する訳ね。ただあくまでも外見変化が基本、ある程度身体能力も変わるけど本物のポケモン、つまりメタモンがする完全なる変化、と言うのは生憎実現していないわ」

「そしてこれは1度包まれたらずっと持続するの、限界はあるのかもしれないけど今のところ、私はもう1年近く持続しているから・・・体と一体化してる、そう表していいわね。つまりメタモンの変質した物質を体の中に取り込んでしまう、訳ね」

「あなたもポケモン好きでしょう?じゃあなちゃいなさいよ、と言うよりもなって協力してくれないかしら?ミチハルだったら信頼出来るし・・・嬉しいから」
 僕はその1つ1つの言葉が流れる度に思わず唾を飲む自分に気付いていた、そして胸の高まりがますます強くなるのを改めて感じていた。カナエにあそこまで頼まれたなら、と言う気持ちと共にカナエにとってのリーフィアと同じく、僕にとって昔から憧れているあるポケモンの姿がひたすら脳内に浮かんで仕方なかった。
「強く掴めば・・・っ」
 思わず口で言われた言葉を確認する様に呟きつつ、同時に一息も吐くなり僕は掌に力を込め、掌中にあるその、メタモンの変化した「ゲル」を力強く握り締めた。
 大きさ的に掌の中で収まる筈のないそれは、予想した通り圧力で外に漏れて、そして落ちてなるものか、と逆らう様にぶれて手首、そして腕に向かって鈍く確実に纏わり付き、然程の時間もかけずにその腕の付け根へと至っていくのが目に出来た。酷く冷たい、しかしどこか気持ち良い感触のそれは心地良く、もうどこまで包まれているとかそう気にする事もなかった。
「んぐ・・・っ」
 ただ唯一示したのは広がった結果として顔を覆われた時だろう。不意に息が苦しくなり、視界が奪われた一瞬だけだったろう。しかしそれは長く続くものではない、むしろその物質を体内に取り込む為、とも言えよう。呻いた瞬間に開いた口の中にも物質は流れ込んできたが、窒息するとかそういう事はなかった。ただ全身、更には喉にまで至るひんやりとした冷たさがあって、僕はただその場でだらんと腕を垂らして立ち尽くしていた、それだけであった。
 それでもしばらくすると次第に落ち着いてくる、相変わらず包まれているのには変わらないのだが体の芯に若干の力が戻り、ある程度の運動を僕は繰り返し始める。それはひたすら同じ動作を繰り返すもので手は握っては開き、腕は肘を負ったり曲げたり、足はひたすら屈伸して胴体は曲げて・・・と柔軟体操の様な事をし続ける。
「ただ思うだけではなくて、体を動かして刺激するとより早く、より満足の行く出来になるわよ」
 それもまたエンドレスで脳内に流れる彼女の説明の1つを受けての事。そうであるからこそ、僕は止めなかったし、延々と続ける内におよそ時間の感覚だとかそう言うのは失われつつあった。まるで永遠にそれをしなければならない、そう言う感覚すらになって日頃自分が背負っている様々な事柄は如何に無価値な様にすら思えてならなかった。
 しかしそれは唐突に弾けた。今度は内からこみ上げてきた、思いがけない猛烈な眠気。1つの動作を延々と知り返してきた結果だから、と言えてしまえるのかも知れないが抗する様に、打ち消さんと言わんばかりに返した大あくびが全て諸共に弾けさせたのだった。


 続
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