冷たい希望の叶え方・後編冬風 狐作 ポケットモンスター二次創作
「ふあ・・・ぁ・・・っ!」
 途端に瞳に色彩が戻る。つまりすっかり「ゲル」に覆われて塞がれていた瞳が開いた、と言う事であり他のわずかに先んじて、口と鼻腔も再び開いて機能し始めていたのにも触れなくてはならないだろう。  だがそれ等は幾ら機能を取り戻したとは言え、僕の体が「ゲル」に覆われたままであるのは変わらない。そもそも僕自身がその感触、普段には感じない独特な清涼感を全身はおろか体内からも感じて承知していた。
 だから僕はふとした怖さも覚えていた、果たして上手くいったのだろうか、と。僕の思った通りに、目の前のリーフィアの様になれたのだろうか。そうでない、つまり失敗していたら、と言う事への危惧に心の半ばは占められていた。だからその時、リーフィアから話しかけられたと言う事は分かっているのだが、何を言われているのか分かる余裕はなかった。
 ただうなずいて誘導されるがまま、連れ出されてようやくはっきりとしたのは別の場所で落ち着いてから。そこには浴室のそれには及ばない、化粧台付きの大きな鏡に「ゲル」に覆われた後の自らの体を凝視している、その時だった。そして映るそれは濃紺と水色で殆どを構成されている、姿であった。
「ぎゃん・・・!?」
「上出来よ・・・ってさっきから褒めてるのにダンマリしてちゃ駄目でしょ・・・っ!」
 その期に及んでもどこかでぼうっとしていた僕に来たのは、何かが引っ張られる感覚とリーフィアのどこか笑っている、しかし強い口調だった。
「星型の尻尾って掴みやすいわね」
「あ・・・もう引っ張らないでってばぁ・・・っ」
 僕の尻尾を、と言う箇所こそ飲み込んだがそれは自分のものであるとの認識は自然で、全く疑問だとかその類を浮かべる事はなかった。そもそもその余地すらなかった、と言うべきかも知れない。それだけ僕は自然にそう思っていたし、何よりも目の前にいるリーフィアはリーフィアであって、僕は・・・と言う認識に変わっていたのだから。
「はいはい・・・じゃあしっかり答えてね?レントラー」
 そう、レントラーだ、とはっとした様により明確に僕は脳裏に刻み込む。それまであったはずの記憶は、客観的に見れば急速に薄れていって瞬く間に今こそが大事で、そして今の姿であるレントラーこそ自分なのだと言う認識に切り替わっていった、と書けるだろう。
「分かったよ、リーフィア・・・もう、へへ」
 苦笑気味に見せて実のところ、僕は内心で微笑んでいた。そしてそれは全て目の前にいるリーフィアに対して何の憚りも、そう恥ずかしがるとかそう言う要因は一切なしに向けていた。
 ふと手を自らの体に当てるとそれは水で濡れた毛、と言える感触であった。つまり湿って肌に張り付いてしまった毛、と言う具合であるが一部は乾いていて毛として起きつつあった。そしてそれは手で触れれば触れるほど促進される様であった、だから思わずわしゃわしゃと指を盛んに動かして、毛をどんどん起こしていく。
 それに対してリーフィアは何も言っては来ない、流石に静か過ぎるから視線をチラッと向けると満足げにこちらを見ている姿が見えただけ。それはそれでどこか嬉しく思え、同時に小恥ずかしさも抱けてしまえ、ますます指を全身に這わせてしまう。
 ようやく満遍なく、異性の前だと言うのに姿勢も色々と変えつつ、ようやく終えた時には僕の毛は全てがしっかりと豊富な毛の厚みに従った形を示している。
 そしてそれを何時の間にか目の前に用意されていた鏡へと映る姿、それに目をやった途端僕には釘付けという言葉が相応しかった。1匹のレントラー、最も二足歩行で直立体制のままだが、そうであるのに違いなかった己の姿に僕自身で見とれている、と言う。そしてそうしているのにすら、リーフィアに再び指摘されるまで気が付かないと言う重症ぶりをすっかり発揮していた。

 そんな自己陶酔とも言える状態になっていたのだから、更に状況が深化するのは最早必然であったのだろう。悔やむ気持ちはどこかしらあったかもしれないが、もたらされた楽しみと希望によってそれはすっかり消し飛んでいたと言えるだろうか。
 楽しみとはそれはレントラーになった事、それ自体である。いわゆる夢にまで見た事が現実になったものだから僕は最早逸る気持ちを、もっとよりなってしまいたい。即ち、技だとか姿だけではなく能力としても、中身としてもレントラーになりたい、否、もうなるのが当然、と言わんばかりに気持ちは湧き立っていた。
「ええ・・・なれるわよ、だって私だって・・・ほらにほんばれ!」
 そう強く思った、確信した背景には先の目の前にいるリーフィアの発言があったのは大きい。だがそれ以上にそのリーフィアが煽るかの様にさっと、然も簡単な様に実演したからだった。それはポケモンでなくては成し得ない「わざ」。人が幾らわざマシンを抱いたり、あるいはそのポケモンに思いを深めても獲得不可能なそれを見せ付けられたのだから。
「すごい、凄いじゃないか!ああ僕は何が出来るんだろう、ねえ?」
 僕は自分でも信じられないほどに無邪気になっていた、当然それは後から冷静になって思えば煮すぎないがその紅い瞳を輝かせていた事は想像に難くない。まだ不完全だけど出来るわよ、彼女はまた同じ言葉を口から出した。ただし、どのわざが出来るかは正直、してみなきゃわからないの、と言う新しい事実も沿えて。
「構わないよ!ああ、何が出来るだろう・・・」
「レベルアップで覚えられる技のどれかが出来る、のは確実なの」
 様々なわざの名前が脳内に浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す中でその言葉は大きなヒントであった。レベルアップで覚えるわざとなれば最初から覚えているわざを含めてもレントラーに限れば11しかない、だから今度はその11個の内のどれが出来るだろうかと僕は真剣に悩みだした。思わずリーフィアが苦笑して、また更なるアドバイスを寄越して来るほどだったから相当のものだったのだろう。
「そんなに悩むなら・・・試してみなさいよ、片っ端からね。ちなみに私はにほんばれとこうごうせいとでんこうせっかに・・・嬉しいわよね、リーフブレードよ?とにかく4つは何とか分かったわ」
「うん・・・そうするよ、じゃあ・・・スパーク!」
 僕は口にすると共に思って叫んだ、するとどうだろう不意に軽い痺れを伴った刺激が生じた。それは体中の力が筋と言う筋を通って首に集まった具合、とも言えるだろうかだがそれ以上に意識する暇はなかった。ただその熱さが口元で一点に集まり、そして眩い光と共に放たれる、放たれたのが見えた事で意識が明確になったのだから。
 バシュッ!
 そしてその「スパークは」眩いままに、小さな稲光とも言えるものを見せつつ瞬く間に反対側の壁とぶつかり四散し、ほんのり焦げ臭い匂いを残す。それが一層、決して幻覚だとかの類ではない、更に言うなら今のこの体になっている事、それ自体が幻ではないとはっきりと示す以外の何物でもなかった。
「わぁ・・・もういきなりしちゃって」
「あっごめん、壁にぶつけて・・・」
 余韻に浸っているところに投げかけられたリーフィアの言葉、それに僕は慌てて言葉を吐き出す。そう彼女の部屋の壁にスパークをぶつけてしまった事を詫びるべく、だが彼女はしばしの沈黙の首を横に振っては、ぽんっと軽い具合に肩に手を置くと微笑んだ。
「良いの、良いの。私だって散々この部屋の中でわざを試してみたから・・・私が言いたいのはね、一発でもう1つわざを見つけるなんて鮮やかだなって事よ。流石レントラーが大好きなだけはあるわね」
 要は褒めてくれたのだ、そう言われるとどこか恥ずかしく、ふと気が付くと顔の火照りと共に尻に妙な感覚を感じる。それは尻尾の動く感触だった、全てが徹底して新鮮なこの様な実感出来る感覚と言うのは果たして過去にあっただろうか?そう思うと僕は軽く、リーフィアにばれない様に首を横に振ってからふっと顔を上げて見つめる。
「レントラーの瞳ってはっきりした色よね・・・ねぇ、もっと発揮しましょうよ。あっでも電気タイプだからもっと広い場所の方が良いかも・・・良い場所あるんだ、行かない?」
「そうだね、スパークだけじゃ・・・物足りないから」
「じゃあ決まりね、行くわよ」
 そう言うなり、リーフィアは僕の手を引いてすっと窓辺に駆け寄った。そしてさっと窓を開くとそのまま足を外に出す、その時には僕の手は掴まれていなかったが思わず面食らって一体何を、と慌てて尋ねたのは言うまでもない。何故ならそこは地上ではなかったはずなのだから、地上何メートルかの高さで、しかもそれなりに人家のある地域なのだからこの姿を見られたら不味いのではないか?と浮かんだからでしかない。
「何って・・・ここから出るのよ、大丈夫、私たちは今、人間じゃないからこれ位の高さは何とかなる・・・じゃあ続いてきて!」
「あ・・・え、もう・・・っ」
 半ばまで言った流れで彼女の姿は窓の向こうへと消えた。明らかに下に落ちている事がうかがえ慌ててみると、程なく離れた地上に着地する瞬間だった。衝撃は大きそうだが見たところ平然として立っているし、こちらに向かって手を振ってくる様からは痛みとかそう言う気配は感じられない。あくまでも自然としか見えない。

「うう・・・えぃっ」
 だから僕は、1度2度のたじろぎの後は思いっきりの助走をつけて飛び出した。すると途端に体を重力に捕らえようとするが、勢いによるある程度の浮遊感も覚える。それは明らかに走り幅跳びに近いのかもしれない、それに通じる滞空時間を味わっている内に自然と体が姿勢を整えて着地した。
 余りにどきどきとしていたので息は上がってしまっていた。しかしそれでもある程度は恐れ覚悟していた様な痛みとかそう言う類は一切ないのに拍子抜けした、と言えるだろう。そしてそのままキョトンとしていたところへ、少しばかり息を切らしてリーフィアが小走りにやってくる。
 相当、僕はリーフィアよりも長く強く飛んでしまった事に気付いたのもその場になってようやくの事だった。だから追いかけてきたとのリーフィアの言葉に改めて己の新たな体を意識してからは、もう夜闇の中をリーフィアと共に1匹のレントラーとなって駆けて行くだけ。
(ああ、どんなわざを覚えれるんだろう・・・あとは)
 先を行くリーフィアの尻尾を眺めつつ、何時しかそればかりを考えている。それが僕はレントラーとなって初めての外出。ポケモンでも人でもない中間の存在ではあったが、人の時には考えられないほどの素早い動きはますますその考え渦巻く気持ちを刺激する。
 内からも外からも、まるで薄らと青くなっていく東の空の如く、僕を真っ青に清涼感たっぷりに染め上げていくのみだった。


 完
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