奇妙なカップル・第1章 冬風 狐作 ポケットモンスター二次創作
「やあ、ケンイチじゃないか!」
 シンオウ地方はテンガン山も近い地域、北に位置するこの地方にもようやく一足遅れての春がやって来たと見える光景が広がる中でその声が響いた。
「あっ・・・ああタカシか、いきなり背後から大きな声で呼ばないでくれよ・・・っ。」
「いやはやすまんすまん、何、自転車で登ってきたら何だかどこかで見た様な背中が歩いているから声をかけてみたら・・・正解だったね。」
「正解って・・・もし別人だったらどうするんだよ?」
「うーん・・・その時は素直に謝ってささっと逃げるね。」
「・・・相変わらずだな、全く。」
 自転車のブレーキ音に続いて交わされるやり取り、2人の特徴を書けばどちらも細身でこざっぱりとしているのである意味特徴と言える物は薄くて仕方ないのだが、それでも自転車に跨ったまま話しかけている方、つまりタカシはは丸い幾分小さめなデザインのメガネをかけていて短く整えた髪をうっすらと染めているのに対し、徒歩にて声をかけられたケンイチはと言えば髪は黒くやや長めでそして前にだけ庇の付いた円筒形の帽子を被っているのでそれらがそれぞれの特徴と言えるかもしれない。
 話の具合からすると2人は以前からの知り合いの様であった。最初の内はその唐突さにケンイチの方が幾分戸惑いそのペースを乱していると言う具合を漂わせていたものの何時しか調子を取り戻しどこか和やかに、そして久々の再開を楽しむかの様に互いの近況を披露しあって時間が過ぎていき、その幕切れもまたタカシによってもたらされたのだった。
「ああっと、そうだ急がなきゃならなかったんだ・・・しまったしまった。」
 話が弾んでいた矢先、急に何かを思い出したかの様にタカシは首を唐突に触れ上げて軽く舌を出した。
「何だいきなり・・・それにしても相変わらず君は何か思い出すとその仕草をするね、どこか安心するけどさ。」
 それに対して僕は改めてふとした笑みを漏らした、今回の出会いはその始まりこそ大いに驚かされて一瞬跳ね上がりそうになったもののいざ振り返ってみればそれは久々に出会うかつて共に旅をした仲間。今でこそ、つまり成長したからこそお互いの道を歩む様になって別れたのであるが決して仲が悪くなったからと言う様な理由で別れたのではない。だからこそどこかでまた会いたいと言う気持ちはあり、それらが叶った事による嬉しさと互いの近況を知り合いそれらについて色々と思いや考えを寄せ合えたのは正に突如としてもたらされた天の恵みにも等しい。
 そして終いにタカシの見せた仕草もまたその1つに含められる、何故ならその仕草こそある意味ではタカシらしさの最たる物であったからだ。傍から見ればどうしてそこまで大仰にするのかとも確かに言えなくもない側面はある、しかしそれがタカシなのだと思ってしまえば前述する様な気持ちの中にあれば尚更どこか見れた事、その物が嬉しい事であり過ぎてならないのであった。
「ん・・・まぁ癖だもの、仕方ないさ・・・じゃあそろそろ行こうかと思うけど・・・。」
 そう言って再び握る手を新たにし力を入れ視線を進む方向へと向けたタカシはそのまま姿勢で一瞬固まり、そしてふと首をまたこちらに回した。そしてじっとまるで舐める様な視線で僕を見てからふと一言漏らした。
「じゃあそろそろ行くけど・・・嫁さんを大切にしなよ、この幸せ者・・・!」
 正にそれは捨て台詞とでも言えるものだった、僕がある意味では呆気に取られているその隙にタカシはニィッと大きな笑みを見せると共に自転車を全速力で漕いであっという間にかなりの距離を離れて行ってしまう。そしてそれに対して僕は何も出来なかった、呆気に取られていたのが醒めた後はどこか恥ずかしくなり恐らくは顔をかなり赤らめていたのであろう、それでもその時はその事に気が付かないほどどこか頭の中が白くなってしまいしばらくその場にて立ち尽くしてしまっていた。

 それから半日ほどが経過した時、僕は夕暮れを迎えた事もあったのでタカシとであった場所からそう離れてはいない場所にテントを張って一夜を過ごす事にした。かつてタカシと共にアマチュアのポケモントレーナーとして歩いて時代と比べるとプロのトレーナーとして生活出来る様になった今は経済的な面での不満と言うのは、不足している分は節制すれば何とか補えるので特にはないものの矢張り話し相手と言うべきか、何か相談出来る相手がすぐ傍にいないと言うのが最大の不満でもあり不安でもあったと言える。
 何しろ全てを自分で判断しなければ自分はおろか共に行動をしているポケモン達も困る事になりかねないのだからその責任は大きく、可能な限り良い方向に持って行ける様に常なる努力しなくてはいけないというプレッシャーもあるのだから尚更だろう。そしてその多くは意外と他人に余り明かせる様な内容ではない事もまた多い、だからこそそれだけ抱え込んでしまうのだが・・・少なくともそれは今の僕にとっては過去の話だった。かなりの部分においては、そうもうそう言えてしまうのだった。
「へぇ・・・タカシさんに知られてたんだ。」
  「全くどこから伝わったのやら・・・こんな事知ってるのは僕と君、それに彼らだけなのにね。」
 クスクスと言う笑い声も交じっての話し声が僕の設置したテントの辺りから響く、片方は当然僕の声なのだがもう1人の声は女性のどこかゆったりとしている高過ぎず低過ぎずと言う僕としては中々好みの声であった。ちなみにここで言う彼らとは今はボールの中に戻したポケモン達の事。つい先ほどまで夕飯を食べさせるべく外に出しついでにまだ日があった事から軽く運動をさせていたのだ。今ではテントの中に置いたベルト状のボール入れ・・・これも最初に旅に出た時から使っているもうすっかり使い馴染ませている物なのだがその中に入れて今はお休み中と言うところだろう。
「そうねぇ・・・まぁでも私ってことは知らないのでしょ・・・?」
 僕が薪をくべるのを見届けてから彼女は再び口を開いた、今度はやや確認するようにそしてどこか不安に思う色が浮かんでいて今し方は微笑んで済ませていたものの内実ではどこかで不安視しているという事が良く分かってしまったものだった。それに対して僕は微笑みながら答える、大丈夫、あの言い様では相手が誰だかは分かっていないからと。
「・・・恐らく考えられるのは・・・多分・・・。」
「多分?」
「・・・以前にほら取材された事があったじゃないか、確かリッシ湖近くのホテルで・・・。」
「ああそう言えばあったわねぇ・・・まさかその時あなた言っちゃったの・・・?」
 思い出して何かが解消されたと言う顔をした次の瞬間、まさかと言う一層不安視をした顔を見て僕は慌てて言葉を遮って説明を続けた。
「いやいや・・・そんな事は、ただその時にパートナーはいますか?と言う様な事を答えて思っている人はいます・・・って答えた事位しか思い当たらないよ、ああどうだっけなぁ・・・雑誌は預けたままにしてるし。」
 確かその時の取材はとあるポケモン専門雑誌の物だった、前述したように一応は僕はプロのポケモントレーナーとして生計を立てていてそれが可能である様にある程度は名前が知られている。だからこそ1ページ程度の特集を組まれて色々と質問に答えたのだが確かにその時、意中の人やら思いを寄せているパートナーはいるかと言う事も聞かれていたのである。それに対して僕は明確に否定こそはしなかったものの一応いる事が、後々冷静になってから思えば明確にどうして否定しなかったのか自分の対応が悔やまれて仕方ないのだが何とも玉虫色の回答をして、恐らくそれが記事として使えると判断されたのだろう。
 その数ヵ月後に発売された雑誌にしっかりと載っていたことだけは覚えている、ただもうその話は1年以上前の話。掲載されていた雑誌こそ出版社から謝礼と共に送られてきたがその時に軽く読んで以来、何だか恥ずかしくなって以来ずっと預けたままになっているものだから本当にそうだったのか。どの様な回答をしていたのかと言う事がすぐには分からないのである。だから思わず頭を抱えてしまった訳だが・・・それに対して彼女は何時もの彼女らしく攻めてくる事もなく、むしろどこか悩ましげで同じ様に頭を抱えているではないか。
 僕はそれが意外に思えてならなかった、そしてふとその様を見つめている内に僕の脳裏にはあの頃の記憶・・・甘い記憶と言えるだろう。彼女と知り合ったばかり、いや言葉を交わしそして告白しあった時の事が急に明確に思い出されて来たのであった。


 続
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