それから半日ほどが経過した時、僕は夕暮れを迎えた事もあったのでタカシとであった場所からそう離れてはいない場所にテントを張って一夜を過ごす事にした。かつてタカシと共にアマチュアのポケモントレーナーとして歩いて時代と比べるとプロのトレーナーとして生活出来る様になった今は経済的な面での不満と言うのは、不足している分は節制すれば何とか補えるので特にはないものの矢張り話し相手と言うべきか、何か相談出来る相手がすぐ傍にいないと言うのが最大の不満でもあり不安でもあったと言える。
何しろ全てを自分で判断しなければ自分はおろか共に行動をしているポケモン達も困る事になりかねないのだからその責任は大きく、可能な限り良い方向に持って行ける様に常なる努力しなくてはいけないというプレッシャーもあるのだから尚更だろう。そしてその多くは意外と他人に余り明かせる様な内容ではない事もまた多い、だからこそそれだけ抱え込んでしまうのだが・・・少なくともそれは今の僕にとっては過去の話だった。かなりの部分においては、そうもうそう言えてしまうのだった。
「へぇ・・・タカシさんに知られてたんだ。」
「全くどこから伝わったのやら・・・こんな事知ってるのは僕と君、それに彼らだけなのにね。」
クスクスと言う笑い声も交じっての話し声が僕の設置したテントの辺りから響く、片方は当然僕の声なのだがもう1人の声は女性のどこかゆったりとしている高過ぎず低過ぎずと言う僕としては中々好みの声であった。ちなみにここで言う彼らとは今はボールの中に戻したポケモン達の事。つい先ほどまで夕飯を食べさせるべく外に出しついでにまだ日があった事から軽く運動をさせていたのだ。今ではテントの中に置いたベルト状のボール入れ・・・これも最初に旅に出た時から使っているもうすっかり使い馴染ませている物なのだがその中に入れて今はお休み中と言うところだろう。
「そうねぇ・・・まぁでも私ってことは知らないのでしょ・・・?」
僕が薪をくべるのを見届けてから彼女は再び口を開いた、今度はやや確認するようにそしてどこか不安に思う色が浮かんでいて今し方は微笑んで済ませていたものの内実ではどこかで不安視しているという事が良く分かってしまったものだった。それに対して僕は微笑みながら答える、大丈夫、あの言い様では相手が誰だかは分かっていないからと。
「・・・恐らく考えられるのは・・・多分・・・。」
「多分?」
「・・・以前にほら取材された事があったじゃないか、確かリッシ湖近くのホテルで・・・。」
「ああそう言えばあったわねぇ・・・まさかその時あなた言っちゃったの・・・?」
思い出して何かが解消されたと言う顔をした次の瞬間、まさかと言う一層不安視をした顔を見て僕は慌てて言葉を遮って説明を続けた。
「いやいや・・・そんな事は、ただその時にパートナーはいますか?と言う様な事を答えて思っている人はいます・・・って答えた事位しか思い当たらないよ、ああどうだっけなぁ・・・雑誌は預けたままにしてるし。」
確かその時の取材はとあるポケモン専門雑誌の物だった、前述したように一応は僕はプロのポケモントレーナーとして生計を立てていてそれが可能である様にある程度は名前が知られている。だからこそ1ページ程度の特集を組まれて色々と質問に答えたのだが確かにその時、意中の人やら思いを寄せているパートナーはいるかと言う事も聞かれていたのである。それに対して僕は明確に否定こそはしなかったものの一応いる事が、後々冷静になってから思えば明確にどうして否定しなかったのか自分の対応が悔やまれて仕方ないのだが何とも玉虫色の回答をして、恐らくそれが記事として使えると判断されたのだろう。
その数ヵ月後に発売された雑誌にしっかりと載っていたことだけは覚えている、ただもうその話は1年以上前の話。掲載されていた雑誌こそ出版社から謝礼と共に送られてきたがその時に軽く読んで以来、何だか恥ずかしくなって以来ずっと預けたままになっているものだから本当にそうだったのか。どの様な回答をしていたのかと言う事がすぐには分からないのである。だから思わず頭を抱えてしまった訳だが・・・それに対して彼女は何時もの彼女らしく攻めてくる事もなく、むしろどこか悩ましげで同じ様に頭を抱えているではないか。
僕はそれが意外に思えてならなかった、そしてふとその様を見つめている内に僕の脳裏にはあの頃の記憶・・・甘い記憶と言えるだろう。彼女と知り合ったばかり、いや言葉を交わしそして告白しあった時の事が急に明確に思い出されて来たのであった。