「ふう・・・。」
「はぁ・・・。」
ようやく"にほんばれ"の効果も消えて部屋の中が落ち着くと共に僕とリーフィアはその横たわったままの姿から身を起こし、それでもしばらくはそのまま上半身のみを起こした姿勢で互いに見詰め合っていたのだが、僕から先に動いてベッドから椅子に移った事でその場の空気は幾分緩んだ様に感じられた。そこで同時に吐きあうため息、僕は続いて軽く首元を掻いていたがリーフィアはそのままの姿勢でその光景を見れることそれが嬉しそうに相変わらず微笑むに留まっていた。
「なぁリーフィア・・・どうして喋れているんだ・・・?それにどうして出てるんだ・・・?」
それを見ていた僕はそう言葉をぶつけた、何しろそれが最大の疑問であるのだから。だが希望した答えは返ってこなかった、むしろ逆に疑問が増えたというべきか・・・とにかくは次のような次第だった。
「え・・・ご主人さまが出してくれたんじゃないんですか・・・?」
「いや・・・そんなのは・・・無いはず、だって僕はずっと寝ていたんだよ?」
「・・・ですよね・・・だってメロメロしても起きなかったですし・・・。」
メロメロ・・・果たしてその様な技を覚えさせていただろうか?そもそもメロメロは50%の確立で相手が攻撃出来なくなる技である、確かにリーフィアは彼女であるし僕は男、効果があるパターンではあるが10万ボルトと言う様な明らかに即物的な技であればともかくとしても変化技であるメロメロは効果が無いのではないかと思えてならなかった。
「あと・・・はっぱカッターもしたんですけれど・・・起きなくて・・・。」
「はっぱカッター・・・!何でそんな・・・え・・・あれ・・・あれ・・・っ!?」
はっぱカッター、その技の名前を出された事に僕は驚いた。はっぱカッターについては確実に言える事、それは物理技であると言う事である。だからこそ先に出した10万ボルトで人が感電して新聞の三面記事に掲載されたり、また子供の遊び相手としてのゼニガメがみずでっぽうを出す様な側面のある技に含まれるものである。そうであるからその様な物をくらつては服は千切れ、またポケモンと比べてずっと柔な人間の皮膚は易々と傷だらけになってしまうのはとても避けようが無い筈である。
だからこそ僕は慌てたのだ、もしや無残な姿を自分がさらしているのではないかと・・・しかし慌てて見た僕の腕は何ともなっていなかった、少なくとも出血の痕等は見当たらず瘡蓋すらない腕。そう腕・・・身に纏っていた筈のシャツはなくなっておりすっかり裸になっているではないか、そして何よりも驚いたのは傷が無かった事以上にある筈の無い物がそれも無数にあった事。それは腕を覆う物であろうか、水色そしてその水色の中に切れ込みの様に入ってくるやや濃い青色の色取りの豊富な流れる様な毛であった。それは腕の形そのままに覆い、そして全身へと広がっている。何よりも視野の隅にちらちらと入って来る物もまた見える・・・明らかに何かがおかしい光景であった。
「あれご主人さま・・・どうしたんですか・・・?」
そうして自分自身を見つめていた矢先、再びリーフィアからの声がかかった。そして近付いて来る、それは何時もの様にとととっと言う軽やかな動きで素早くすぐ脇まで来ると手が差し伸べられて重ねられた。ちょうどそれは僕の掌の上にリーフィアが載せると言う具合であったが椅子に座って机の上に置かれている掌の上に四足である筈のリーフィアが、確かに大きさは1メートルはあるとは言え出来るものだろうか?そこで僕はまた気が付かされたのである、リーフィアが、四足で歩いているはずのリーフィアが人間と同じく二足で立ち上がって歩いていた事に。それはリーフィア人とでも言えば良いのだろうか、言葉が喋れ表情が豊かでそして二足歩行となればそう呼ぶしかないだろう。
「いや・・・そのこれなんだけど・・・?」
それを見て思った僕は意を決してすっとその腕を差し出してみた。指先から手首までが青色に覆われ手首から先の水色に菱形様になって食い込んでいる毛並みに覆われた、掌を重ねられている方とは別の腕をリーフィアの前に出してみた。どの様な言葉を返してくるかと思いつつ、当然この様な姿で浮かぶのは唯1つあのポケモンしかいないのだが・・・ここはポケモンである、幾ら二足で歩いているとは言え記憶が正しければポケモンで元からあるリーフィアからその事を示してもらいたかったのだ。それは一種の恐れであったのかも知れない、自らでそうだと知る事の・・・誰か第三者に言ってもらってせめて救われたい、つまり最初に気が付いたのが自分でありたくなかった気持ちの発露と思えてならない。
それを読み取ってかは知らないがリーフィアはしばらく神妙な面持ちで見つめ、今度は今まで掌の上に載せてくれていた腕を外してそれを以って差し出していた僕の腕を下から包む様に掴んで軽く持ち上げた。そして一言、嬉しそうに僕に向かって言葉を放ったのであった。
「・・・グレイシアですよ・・・ふふ。」
「だよ・・・ね・・・グレーィ・・・?」
「あっもう鳴いたりして・・・フィー・・・!」
矢張りその通りであった、グレイシア・・・と言う事は僕は人ではなくなっていると言う事だろう。つまり整理すればリーフィアはリーフィアでなくなったのと同じくをして僕は人ではなくなった、そして今の僕達は二足で歩け、また既に何度も書いている様に言葉を操り遜色無い表情を見せ合う人でもなくポケモンでもない存在となってしまっている。それは前述した様に彼女、つまりリーフィアがリーフィア人であるなら僕はグレイシア人と言うべきなのだろう。そう思いを一気にまとめると不思議と心のどこかで納得が入ってしまった、少なくともどうしてなってしまったのかと言う所に関しては必ずしもそう言い切れる訳ではない。
しかし今ある現実が妙にしっくりと飲み込めてしまえたから、何よりも先ほどのやり取りの最後に自然と鳴声が漏れてしまった時点で休息に心は落ち着き、僕は軽く腰を上げて椅子に座りなおしていた。そして静かに口を開き小声で何かを口走った、何を口走ったのか僕にはどうも僕自身でも良く分からないまま・・・そして俯き加減になった次の瞬間、僕は不意に顔を上げて少し顔を近づけてきていたリーフィアのその唇を奪っていたのだった。