欲しい物・前編 冬風 狐作 ポケットモンスター二次創作
「はぁ・・・まただめだったかぁ。」
 その少年は扉の外へと去っていく背中を見つめがらそっと呟く・・・そして扉の向こうに消えた時には大きな溜息を響かせるようにすうっ・・・と。
 

 ハクタイシティ、シンオウ地方北西部に位置するこの都市の南206番道路へのゲート近くにある3階建ての建物。ハクタイマンションと呼ばれるこの建物の1階、姓名判断士のいる事で知られるその片隅に彼は決まって座り込んでは来る人来る人にこうなげかける。
「ブイゼルってポケモンもってる?」
 少年は常に片手に1つのモンスターボールを掴み、ちらちらと見せながら問いかける。そのモンスターボールの中にいるのはペラップ・・・もう彼にとっての準備は全て整っていた。残すは相手の条件と出方、それはブイゼルを持っている上で更にはそれを譲ってくれる考え・・・その2つが整っていなくてはならなかった。
 そしてそれには不幸にも今のところまだ一度も巡りあってはいない。よくある多いパターンがブイゼルを持っていてもボックスの中に預けっ放しであったり、あるいはレギュラーにしているので手放せないと言うものだ。後者はともかく前者の預けっ放しならくれてもいいじゃないか、俺なら使いまくるのに・・・そう聞く度に少年は思うが、決して顔に出さず平静を装って応対する。
 とにかく自分は頼んでいる立場なのだから・・・それだけは年の程もなく彼は承知していた。だからこそ謙虚に、それでいて自分の年らしさも醸し出しつつ頼み探る・・・その繰り返しであった、だが一体何時まで続ければ手に入るのかという保証は全く無く、更に見通しすらも簡単なものを立てる事すら困難と言う現状。それを考えると今回も駄目であったかと言う思いと共に二重の意味を持ち合わせた溜息を吐かざるを得ないのであった。
 そんな彼の耳に扉の開く音、扉につけられた鈴の音が響き入る。それに咄嗟に反応すると少年は何時も通りの少年らしい無邪気さ漂う顔に戻し、またも乗り出すのであった・・・伸るか反るかの問いかけへ。

 それから数日後、少年は揚々と意気揚々としていた。顔には笑みが溢れあの室内にて見えた顔とは全くもって様相が違う。室内にあった顔は深刻さを抱え、そして更には取り繕っている不自然さがどうしても否めなず、それが相手の反応の悪さにもつながっていたのかもしれない。
 しかしここにいる少年は正に少年と言った朗らかさ、元気さ・・・そう言ったものに満ち溢れた顔をして止まない。そしてその好意的とも言える顔に磨きをかけるように、彼は明るい陽光の降り注ぐ外の世界・・・辺りを静かな緑が包む深い森の中にいた。シンオウシティの西隣にあるハクタイのもり、その入り口に。
「ブイゼル手に入っちゃったもんね・・・。」
 腰に巻いたモンスターボールの数は2つ。1つは当然の事ながら今の台詞にあるようにブイゼルが、そしてもう1つにはペラップが収められておりそれらを撫でてまたも少年は微笑む。待ちに待ったいや耐えに耐えた末の成果とでも言えるのかブイゼルは彼の手元に・・・言うなれば転がり込むように唐突に収まったのである。
「気前の良い人だったなぁ・・・と言うか俺の事聞いてきてくれたって何か恥ずかしいかも・・・。」
 振り返るとふと恥ずかしさもこみ上げてくる、あの時扉をくぐって来た幾つものバッチを持った経験あるトレーナーと言った感じの人物。その人は脇目も振らず少年の下へと駆け寄ると少年が口を開くのを制して言った・・・ブイゼルをほしがっているのは君かと。
 当然それに対して少年は肯く・・・唐突であったので数拍の間が空いたのは否定できないがとにかく肯いた事は肯いた。すると相手は・・・今の彼の様に無邪気なそれでいてほっとした微笑を浮かべて視線を緩める、それまでの言って見ればポケモンを探す様な時の視線とも言える厳しい視線から柔らかい視線へ。そしてポケットに手を突っ込むと早速何かを掴んでこちらの膝の上に載せる、1つのモンスターボールをそっと。
「じゃ早速だけれどこれがブイゼルの入ったモンスターボール・・・大事にしてくれよ?」
「あっは・・・はい、ありがとうございます。じゃあ俺のペラップを・・・?」
 少年は膝の上のモンスターボールを見ると慌てて自らの握り締めていたペラップを渡そうと手を動かした、しかしそれは相手には達せず途中で止まる。
「いいさいいさ・・・交換じゃないんだ、君にあげるんだから僕がもらう必要は無いよ。」
 相手は少年の腕に手を当てて制し囁く。当然交換するつもりでいた少年は困惑の表情を思いに連動させて浮かべる他無い、どうともしようが無く制している手と相手の顔を幾度と無く見つめている内に再び相手は口を開いた。
「そのペラップだって君の大切なポケモンだろう?」
「うん・・・でも・・・。」
「だったら余計にもらえないさ、交換でそのペラップをもらうよりも僕の上げたブイゼルと共に育ててくれた方が僕は嬉しい・・・それに。」
 そう言うと男は一旦口を閉じて続ける・・・一旦と言っても余りの長さに思わず少年が顔を見上げるほどの長さで。
「俺は今度トレーナー辞めるから・・・さ。」
「辞める・・・どうして?そんなにバッチがあるのに・・・。」
 それは少年にとって大きな驚きであった、いきなりの告白・・・初対面の相手にその様な事を唐突に言われては驚かざるを得ないだろう。
「まぁ色々とあって・・・ね、はは・・・さっだから君のはもらえない。すまないが・・・。」
「そうですか・・・じゃあこのブイゼルを・・・。」
「ああ、そうとも・・・大切に育ててくれたら嬉しいね。他にも欲しいポケモンはいるかい?いたらあげても良いけれど。」
「あっいえそこまでは・・・はい、大丈夫です。」
    微笑みながら、そしてどこか楽になったと言った涼しい顔をして男は口に出す。いきなり恐ろしい事を言われた・・・と思いつつ少年はそれを断った。特に無かったのも事実であるし何よりもそこまで頼っては悪いと感じたからだ、すると一瞬寂しげな顔をするも男は小さく肯きそして去っていった。
 それはわずか数分の出来事、ようやくはっとした時にはもうその姿は無く扉の鈴も鳴ってはいなかった。一瞬の夢かとも思えたが膝の上を見ればそこには1つのモンスターボール・・・そう如何にも使い古されたと言った年季の入った中にはブイゼルの納まったモンスターボールが鎮座していたのだから。思わず頬擦りをしその後中身を見て実際に確認してから狂喜したと言うその後の流れは否定しない。

 そのような経緯もあってようやく手に入れたブイゼルと共に寝ると言う夢を果たした後、少年はしばらくはコイキング相手にブイゼルの感触を掴むのにいそしんだ。レベル的にはかなり高いブイゼルで自分の指示に従わないのではと不安を感じていた事もあっての事だが、幸いにも人懐っこい正確のブイゼルだったのかよく懐き指示にも従ってくれたので思わず胸を撫で下ろす。最もそうでなければ最初の夜に一緒に寝られなかっただろう・・・等と言う事は全く思い浮かばずに。
 そして少年はふと思い立つ、ブイゼル連れてハクタイのもりへ行こうと。そして森の奥にある心霊スポットとして有名な洋館を探検する事を。少年にとってあの洋館に関する記憶は、過去に仲の良かった年上のトレーナーをしていた近所のお兄さんに連れられて入った事が一度だけ。幸い途中でゴースに襲われたもののお兄さんによって無事に帰る事が出来たが、怖いと言うよりもその時に感じたぞくぞく・・・と言えるのだろうか、あの独特な緊張感とスリル感がとても忘れられなかったのである。
 しかしポケモン無しではとても立ち入るのは大変危険、それも1匹だけでも安全とは言い難い・・・それは仮にそのポケモンが瀕死になってしまったら後がないからである。だからこそペラップを手に入れても行こうとしなかった、もう1匹ポケモンを・・・それも大好きなブイゼルで無ければ行かないと決めて。
 そして機はようやく熟した、待ちに待った末にブイゼルは手に入り、幸運にもレベルは相当高いのに自分に良く懐き良く従う・・・だからこそ彼はその追い風に乗って洋館に潜入する事にした。205番道路にいるコイキング使い達をブイゼルで撃破し森の入口へ、そして中へ・・・胸は否応無く高まったのは言うまでも無くそして中に。
 目的とする廃墟はハクタイシティ側の森の入口のすぐそこにある、本当はいあいぎりを使わねば立ち入れないのだがそこは地元故と言うか、良く知られている裏道を通って柵の内側に入り一息。幸い敷地の中には誰の姿もおらず秋の涼しい風だけが満ちて草葉を揺らしているだけであった。
「平日だもんねぇ・・・ふふ楽しみだ・・・。」
 そう呟くと彼は目の前に立つ廃墟の洋館へ向かい・・・その影の中へ消えていった。


 続
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