欲しい物・後編 冬風 狐作 ポケットモンスター二次創作
"前よりも荒廃してるなぁ・・・まぁ当然かも・・・。"
 踏み入ってまず見回して感じたのはそれだった、数年前のおぼろげな記憶にある姿から見ると埃は余計に積もり什器の類は損壊している。埃の上に様々な足跡があるから恐らくは多くのトレーナーが立ち入りバトル等で壊れたのは明らかだった、そして彼もその1人となって足跡を刻んでいく。まずは2階、幾つもある部屋を見ては1階と巡る・・・全てが辛気臭い中を心を躍らせて。そう早く野生のポケモンが出て来る事を期待しつつ・・・。
 しかしどう言う訳か静かだった、何かが入るという気配が洋館から感じられないのだ。以前に立ち入ったときは少し歩けばすぐに野生ポケモンが現れたと言うのに今回は皆無・・・肩透かしと言うか段々と高鳴っていた気持ちが沈んでいく。そしてだからこそとむきになって彷徨いに彷徨い、何かモノがあれば動かしてはひたすらに・・・だが思う相手は現れない、流石にもう無理だなと思い退却しようとしたその瞬間まで。

"さて帰る・・・!?"
 それは複数ある部屋の内の1つを今一度見回っていた時だった、それは次なる部屋に移動しようかと扉を開きかけた時に感じた異質な気配・・・それは誰か生きている人間の気配だった。
"あれ・・・誰か入ってきていた・・・?"
 手先が器用な少年は入る際に入り口に小型のセンサーを置いてきてあった、それは扉が開くと反応し少年自身に知らせる仕組み。そう誰かトレーナーが入って来た事を感知する為だった、どうしてその様な物を置いて来たかと言えば一言で言えばバトルを、自慢のブイゼルを使って誰かとしたかったからに他ならない。
 しかしそのセンサーに反応は無い・・・しかし感じる誰かの気配、良く分からなかったがとにかく彼ははやる気持ちを抑える事無く飛び出した。そう相手が何であろうと・・・無鉄砲とも言える心地で。
  "・・・!?"
 飛び出した先には矢張り人影・・・青い髪をした男が一人立っていた。いきなり少年が扉の向こうから現れた事に驚いた表情を見せて、それに対して少年は微笑む。そして呟く・・・バトルをしようと。
「お前とか・・・?」
「うん・・・えいっブイゼルっ!」
 そう言って少年はブイゼルを出す。ブイゼルも少年の気持ちに影響されていたかは知らないが、やる気満々と言う勢いで威勢良く鳴き声を上げて現れた。それをみて相手となる男は薄く笑って小さく呟く・・・少年はそれに気がつかす気が高ぶっていたのか、首を縦に振るような素振りを見せながら。そして男もボールを出し・・・バトルは始まった。

「勝負あったな・・・少年よ。」
 10分ほどした時そこはすっかり静かになっていた、いるのはすっかり笑う男と唖然とした顔の少年。その顔が全ての結果を物語っていた、少年は要は負けたのである・・・男のポケモンはとんでもなく強かった、それでも何とか善戦してはいたもののブイゼルが電気技を食らって瀕死に陥った後はペラップのみ・・・ペラップのレベルはブイゼルに比べれば限りなく低くそして技も弱い。
 ブイゼルなら十分に対抗できた男のポケモンの前には赤子の様なもので一撃で倒されてしまったのだった。そしてもう持ちポケモンはいない・・・そして負けた、善戦とは言え敗北に違いは無い。がっくりとしつつ賞金を渡そうと財布を取り出し掛けた時、いきなり男は少年の腕を掴み自らへと引き寄せたのだった。
「っと何するんです・・・!?」
 すると男は分かっているんだろうと言わんばかりの顔をしてこちらを見た。それはなにかを企んでいる・・・そんな気配が漂っていた。
「くく・・・賞金はお前だろう?」
「はい・・・?俺・・・っ?」
「そうだ・・・お前も承知したではないか・・・バトルを始める前に肯いただろう・・・くく。」
「ええっ・・・そんな知らないよぉ・・・。」
 少年は本当に知らなかった、男が小さく呟いたことすら気が付いていない・・・当然抵抗するがその細身の体には似合わない怪力を発して男は少年を連れて行く。2階から1階へ・・・そしてある一室の・・・その更に中にある本棚の裏に隠されていた誰も知らない階段に連れ込まれる。そして入ると共に男はボタンを操作してそれを閉めた、全くの暗闇の中少年は更に奥へと連れて行かれるのだった。
「放せ・・・放せってばぁ・・・!」
 少年の声だけをむなしく響かせて。

「ほら・・・放してやる。」
「く・・・っ・・・何するんだよ・・・。」
「放してやったじゃないか・・・くく。」
 男はようやく少年から手を放す・・・ただしそこは部屋の一角に設けられた強化ガラスの中の空間へと放り込む様に。
「出せよ・・・どうして閉じ込めるんだ・・・っ。」
「だから約束しただろう君が賞金と・・・それに対して君は確かに肯いた、そして君は負けただから私の好きな様にするだけだ。」
「そんな事知らない・・・そもそも聞いてないよ。」
「そうか、それは不幸な事だ・・・じゃ始めるぞ。」
「始めるって・・・ねぇ・・・やめてよ・・・!」
 男は勝手に話を切ると何事かと作業を始めた、ちょうど少年から見て鏡の向こうの壁沿いにある機械。それを弄り男は事を進めていく、少年はもう半べそ状態だった・・・とにかく出して、出して外に・・・その一心で訴えたが全く意に介する様子は無く続けていき、その内に少年の耳は何かが動き始める音を聞き取った。破壊の稼動する音・・・唸る音、そして何かの流れる音。
 思わず動きを止めて聞き入る、そう言う環境下にいたからかは知らないが普段よりも感覚が研ぎ澄まされている・・・そんな感じをしつついたその瞬間大きな変化がその空間を襲った。どぅっと言う響く音、そして飛沫、大量の水が天井付近にある空洞から流れ込んできたのである。逃げようとしても空間には限りがありすぐに足が水に沈み腰、そして胸、首まで浸かる。
 とても床になんて立ってはいられない、立ち泳ぎの様な格好で何とか天井との隙間に何とか顔を置いて呼吸をする様にするがとても長くは出来ない・・・幸いにも水はその程度で止まった。そしてそれで何が解決された訳でもない、水に被われたこの空間から脱出出来ない限りは。
『どうかね水の中は?』
 不意にその狭い空間に声が響く。スピーカーを通じての男の声だった、そして間を置かずに続けていく。
『さてここからが本番だ。君のいる空間にもう空気は供給されない、数時間もすれば酸素が尽きて君は窒息するだろう。』 「えっ・・・ちょっとまって何それ・・・っ。」
『はは・・・騒げば騒ぐほど酸素はなくなるぞ・・・しかし私は君を殺すつもりは無い。』
   慌てる少年に最初は笑いながら、そして何時しか真剣と言った気配を漂わせて矛盾した内容を男は告げていく。
『そこでその管から空気を供給しようと思う・・・ただし君が口をつけている時しか空気は供給されない。』
「管?これ・・・。」
 その言葉に合わせるように、少年が呟いている最中にちょうど目の前に銀色の細い管が下りてくる。そしてそれを見つめる最中も言葉は続いた。
『管を加えて酸素を吸うがいい、死にたくなければな・・・後は任せた。』
「ええっ・・・ねぇ、何をするつもりなんだよ。」
 話の脈絡・・・何が目的なのか示されず少年は戸惑い答えを求めようと騒いだが、以後決して男が答える事は無かった。仕方なく黙る少年だが目の前の管には何かしらの不審さを感じて吸おうとはせず、呼吸の回数をなるたけ少なくして耐え忍んだ。しかし時間と共に酸素は減る・・・呼吸は幾ら回数を減らしてもしなくてはならないのであり、回数を減らした分だけ長く酸素が残る時間が延びるのみ。
「うぅ・・・。」
 そして数時間を更に越えた時間浸かっている内に次第に体温も失われ少年は震え始める。次第に意識がぼんやりとし始め呼吸の回数も増え始め、それまでのしなかった分を取り戻そうとでもするかのごとく、一度に吸う量も大きい。それは体温が下がり意識がぼんやりとしつつある体に活を入れようとする様でもあった、少なくともその時点ではまだ酸素不足で意識がぼんやりとし始めたのではなかったから。
 しかしそれは次第に酸素を失わせる・・・そして気が付いた時、何時の間にやら少年は管に口をつけて肺一杯に膨らませる様に空気を吸い込む。すると新鮮な空気のお陰なのだろう、緊張が解けて体は次第に楽になり力も抜けた。同時に浮いていようとする力も弱まって沈もうと体はする、だからこそ懸命に少年は管と口に頼る。
 そう管に吸い付くことで少しでも浮かんでようと試みたのである、そしてその為に余計に管から空気を吸い・・・何時しかすっかり依存してしまっている事に気が付かず、全く意識せずに別のことを意識しながら口を吸いつけ介して掴まる形で浮かんでいたのだった。

"んん・・・もっと吸わないと・・・。"
 少年が意識していた別の事、それはもっと多く空気を吸わなければと言う事だった。何時の頃からか吸うと体に力を入れなくて済む・・・それは緊張が解けたのとは別の意味で楽になり、余裕で浮いていられると言う事に気が付いたからだ。言って見れば見えない浮き輪にはまっているような感覚、全身に力を入れる事無く首の辺りに見えない浮き輪がある様な勢いである。
"ん・・・はぁ・・・。"
 懸命に吸い続ける、とにかく吸えば吸うだけ体から力を抜いて浮いていられる・・・そう頭の中で感じつつ。吸うだけがレゾンデトール・・・存在意義と言うのも過言ではないほどにそれだけに夢中になり、他の事は皆目意識の蚊帳の外に置かれていた。それに水の中で冷え切り自分がどこまででと言う感覚すら喪失している中、余計にそれは強い・・・段々と体が変容している事に、更には服が何時の間にやら溶けてなくなっている事に気が付く筈が無かった。
 健康的な少年らしい肌、そして体それは空気を吸う毎に軽くなる。いや変容していくから軽くなっていく、足は短くなりその短くなった足は更に二重に折れて丸みを帯び明るい茶色に染まる。丸っこいと一言で言えるつま先の裏にはベージュの楕円、肉球が姿を現していた。その時には腹部はたっぷりと矢張り丸みを帯びて柔らかそうに・・・弾力のありそうなしっかりとした丸さになり、全体的に前屈みの姿勢になっていく。
 併せて口を頂点に顔が前へツンと伸びて前屈みになった事で、失われた高さはカバーされ空気を少年は吸い続ける。その間にも腕が短くなり折れ曲がりこそしないもののどこと無く印象は脚に似た格好に、そしてもう1つ違うのはその外側に向いた箇所に鰭の様な水色の楕円の半分と言った形が飛び出ている事だろう。腕は脚と同じく極めて明るい茶色、淡いオレンジにも近い微細な毛皮に被われて腹部や顎下も色こそ違うものベージュの毛皮となり広がっている。
"ん・・・あれ・・・体が・・・?"
 そして少年はようやく気が付く、体が自分であって 自分の慣れ親しんできた感覚とは異なる事に。そして視野も変わっていたことに、視野は明らかに広くなりはるか背後まで見て通すことが出来た。だがもうその時に顔の変化は既に終わった後・・・前へ弾丸状と言っては適切かは知れないが、その様な形になった頭の表面に突き出るものは無く、耳のあった箇所には中へと続く小さな穴がちんまりと鎮座していた。
 その頭で唯一飛び出ているのは最後部にある2つの毛の塊のみ、大きくなった瞳の下には2つ横並びの黒い模様、上にはベージュの眉毛模様・・・そして今、管から放された口はへの字に顔の頂点の黒い鼻へとぶつかりツンとした表情を築き上げている。そして極めつけは背骨の下から生えた二股の尻尾と首にある黄色、上下に大きく曲線を描いて分かれた尻尾と首にある黄色い浮き輪とも言えるそれは水面に浮かび体全体を支え・・・浮かばせていた。

「キュキュキュキュウッ!?」
"声が・・・!?いやこの声は・・・。"
 驚きの声を出そうとすると人の声ではないものが漏れた。幾ら出しても変わらない人で無い声、いや鳴き声・・・それに混乱していると再びスピーカーが長い沈黙を破って語り始める。
『ははは・・・どうしたブイゼル?』
「キュキュウッ・・・キュッ?」
"ブイゼル・・・え・・・?"
『立派なブイゼルになったものだな・・・さっ今水を抜いてやろう・・・。』
   ブイゼル・・・ブイゼル・・・その言葉が考えるまでもなく脳裏にこだまする、それは1つ響く度に確実に困惑と思考を奪っていった。そして何処と無い安定感で満たしていく。
"ブイゼル・・・ブイゼル・・・ブイゼ・・・ル・・・。"
 抜けていく水、下がる水位・・・あわせて首の黄色い浮き輪、空気袋から空気を抜かして体はそれに浮かび動く。水をいとおしむかのように、そして水は抜け切り少年は・・・いやブイゼルはそこにちょこんとたたずむ。辺りを見回す様にして手を前にしてキョロキョロと。
「ん・・・良いな、成功だ。」
 その様を見てふと呟く男・・・手にはある物を、モンスターボールを掴んで。
「キュウッ。」
 その男にブイゼルは右手を上げて軽く鳴く。まるで仲の良い友人を迎え入れる様な気配で、それに対して男は特に感情を示さずに頭を撫でると一旦離れてモンスターボールを投げた。投げられたボールはそのブイゼルとは別の箇所に落ち光を放って中よりポケモンを吐き出す、そして光が晴れると共に現れたポケモン・・・それもまたブイゼルだった。
「オスのブイゼルとメスのブイゼル・・・良かったな、少年。これでずっとブイゼルと共にいられるぞ・・・相性は抜群だものな・・・くくく・・・はははは。」
 オスのブイゼル・・・それは数日前に少年が念願かなって手に入れたブイゼル、そしてメスのブイゼル・・・それは少年、いや少年であった存在。男の目の前で2匹のブイゼルは互いに鳴きあい手を上げあて互いを確かめそしてじゃれ合う。男はそれを見つめるとそのガラスの中より外に出た、そして用意しておいたコーヒーを飲み干すと大きく息を吐き大きな独り言を吐き出し始める。
「くくく・・・これで良い、これで良いんだ。諦めん・・・俺は諦めんぞ・・・この世界、いや宇宙を我が物とするのを・・・絶対やり遂げてやる・・・っ・・・くく・・・くははははははっ!」
 明らかに瞳に狂気を宿らせた男は青い髪に手を櫛のように差し込んで大きく叫び笑った、その途端その髪の色が黒へと変わる。そして如何にも気分が良さそうに手を外し、手前にあるロッカーの中から服を取り出し着替えを・・・現れた姿は見覚えのある姿。
 黒と白で構成された服からどこにでもありがちな配色の服に、それは少年には覚えのある服装、そして姿・・・あのトレーナーを辞めると言ってブイゼルをよこして来た男なのだから。しかし今やブイゼルに完全になった少年が気が付く筈も無い、少年であったブイゼルは異性の一時はトレーナーとして接していたブイゼルにすっかり夢中なのだから。

「全く・・・装うのも大変だが、地道にやるしかないな。」
 すっかり様相、更には口調まで変えた男はじゃれあうブイゼル達を見てその場から階段を上って出て行く。そして廃墟の中へ、入口に置かれた少年の置いたセンサーを取り外すとまだ暁の光の中にある下界へと消えていく。
 アカギ、それが彼の名前・・・かつてギンガ団なる組織のボスとして、ポケモンの力を利用し新たなる宇宙を創り出し神となる直前にまで行った男である。しかしその実現しかけた野望はとある1人の若いトレーナーの活躍によって阻止され彼は全てを失った。
 失意のまま一体どれほどの時間を沈んで過ごした事か・・・しかしある時ひらめいた、彼は夢を捨て切れなかった。世界・・・宇宙を制する事を・・・どうすれば再び、今度は確実に叶えられるのか?それを考えに考え抜いた末に浮かんだのは1つ、本格的に取り組む前に不安定要因を少しでも取り除き更にはそれを有益な物へと転化する事。
 彼、つまりギンガ団ボスにとって目的の為に有益であったのはポケモンだった・・・何しろポケモンの力を抽出し利用することで野望を実現しかけたのだから。そしてそれを狂わせ終いには崩壊に追い込んだのは若いポケモントレーナー・・・彼は万が一の時の為に用意しておいた彼しか知らない施設、ハクタイのもりの廃墟の地下にあった施設を稼動させると早速行動に乗り出した。
 少しでもトレーナーを減らし手持ちのポケモンを増やすべく・・・具体的にはトレーナー、それも若いトレーナーを特に、新たなる世界を作り出す為のエネルギーの抽出に使うポケモンにすると言う行動に。こうしてまた1人ポケモンに堕とした・・・次なる新たな犠牲者を求めて、アカギは自らの野望への果てしない道のりを歩き始めるのだった。


 続
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