禁忌の技・中編 冬風 狐作 ポケットモンスター二次創作
「そう言えばこれなんだろ・・・?」
 転寝をして目を覚ますと外はすっかり夜の帳に包まれ沿線の人家の灯火が右から左へと消えていく、もう森の中ではないジョウト随一の大都市であるコガネシティの外縁部の中へと入っているのだ。ここまで来ると一応の終着駅であるコガネ中央駅まではあとわずか、本来なら降りるのだが降りる必要は無いから気は楽で不意に思い立つと鞄に手を伸ばしその中身を寝台の上へと店開きしていた。
 それには特に意味があった訳ではない、強いて言えば慌しく出てきたので一体何を持ってきて何を持っていないのかを把握する意味合いもあっただろうし、コガネ中央駅にて設定されている30分の停車時間の間に不足している物があれば買い集めよう・・・と考えたのもあるだろう。そんな訳で一つ一時間もあることだから余裕と言う気配を漂わせて検分していく内にミハルはふと見慣れぬ物を見つけた。
 それは何処か汚れた茶色の革張りの鞄で荷物の一番端にそっと置かれていた、それを手にとって外見を眺め見渡すがどうにも覚えが無い。そもそもこんな鞄を自分が持っていただろうか?そこから彼女は頭を抱えて悩み始める、正方形の革張りで片手で用意に持ち運べる大きさ・・・だか幾ら考えても持っていたとは思えない。自分の物では無い、その予感は当然だった。だが誰の物かは全く分からず何時の頃から手元にあったのかもわからない、少なくとも今回の旅に出てから手にした物である事は間違いないから真っ先に思い浮かんだのは、言ってしまえば唯一思い当たったのは矢張り今に至るまでの原因を作り出したあのトレーナーしか印象に無い。
 実際のところは違うのだがふとミハルは少しやり過ぎてしまったかと、幾ら頭に血が上っていたからと言って賞金以外もふんだくって来るとは・・・と自責の念に駆られざるを得なかった。とそんな時何処かの駅のポイントを高速で通過したのか車体が大きく揺れて思わず身体が跳ねる。その衝撃で掌の上に載せていた箱が地面へと落下し軽い音を立てて仰向けの格好でぶつかると鍵がかけられていなかったのか、それとも簡易な構造だったのかは分からないか蓋はそのまま開き中身が床の上へと曝け出される。
「おとと・・・しまったしまった・・・これは・・・技マシン?」
 まず鞄を、次いで中身と順繰りに掴み寝台の上に載せる。そして中身を載せて手を放そうとした時ミハルはふとその中身の形からある物を連想した、それは技マシン・・・姿こそ普段から見慣れている物とは大きく異なっているがその姿は何処かで見覚えのある物だった。何処かと言うのは以前に学校の遠足で訪れた博物館にて目にし記憶にある初期の技マシンと形が酷似していたからである。
 そしておもむろに自らの鞄の中から手持ちの技マシンを取り出して机の上に並べて見比べる、CDと同じ形をした自前の物と比べるとそれは大きく重厚だった。何よりもその表面に刻印されている文字が同じであるのが技マシンである事を物語っているだろう、しかしどうした訳か初期型の技マシンには技番号が記されていなく代わりに「試作品」とだけそれ以外の何物でも無い様にあった。
 それがまたミハルの興味と関心を惹いて止まない、そしてポケモンずかんを取り出し接続する。幾らずかんも技マシンも形を変えて行こうとも、こう言った端末部の形状は全く変わっていないのは有り難いばかりで無事認識され、その中に納められているデータが画面上に文字となって表示されていく。一体何の技データが含まれているのか気になってならなかったミハルは、息を呑む様にしてそれを見つめると軽くホッと息を吐いた。それは驚きへの溜息だった。
『技番号:不明
 技名:不明
 技データ:不明
 その他:全タイプに適用可』
「ぜっ・・・全タイプに!?でもそれ以外は不明って・・・何なんだろう本当、気になるなぁ。」
 それは嬉しさも混じった悩ましさだった。全タイプに使えると言うのは驚きであり、彼女自身が知っている範囲ではこれまでにその様な技マシンのNO.10のめざめるパワー程度・・・他にもあるのかもしれないが、知っている範囲だけでもし本当なら他人の手にしていない物を、自分だけ持っていると言う事である意味では自慢の出来る嬉しい事態と言えるだろう。だが一体その技の中身が何なのかは使ってみなくては分からない訳で、果たしてそれが役に立つのか否かはポケモンに覚えさせなくては分からないのだから大きな賭けでもある。
 一度覚えさせた技を忘れさせるのは困難な事であるし、それを現実のものにするには多大な手間と労力を要する事になる。また技マシンであるからその効果は一度きり・・・もしそれが非常に貴重で強力な技であっても覚えさせてポケモンが、それを満足に生かせなくては単なる宝の持ち腐れで悔しい思いをしなくてはならなくなってしまうだろう。
 だからこそミハルは悩んだ、余りにも悩まし過ぎて頭を抱えなくてはとてもいられない・・・こんな調子で悩んだのは、初めて欲しがっていたポケモンを小学校入学の際に親からプレゼントされた時以来だろう。あの時も嬉しさの余り今すぐ早く開けたいと言う気持ち、独りになった時にそっと開けたいとの2つの気持ちで板挟みになっていたが今ほどの深刻さは無い。
 結局あの時は独りになった時にそっと開けて喜びを噛み締めていたものでその時のポケモンは・・・イーブイ、以来常に手元に置き進化に必要となる石を手に入れる事が何度あろうとも進化させる事無くそのままの姿、イーブイのままでおいて今に至っている。
 だからもう足掛け12年も手元に置いて使ってきたのだからそのレベルは高く、その姿に油断した相手を幾度と無く数え切れないほど単独で潰してきた正に"山椒の小粒はぴりりと辛い"をそのまま具体化したポケモンだった。そして先の戦いの時も最終兵器として投入し大活躍、最後には勝つと踏んで自信に満ちていた相手トレーナーの顔を思い浮かべるとわずかに心の優越感を刺激されてならなかった。
「そうだ・・・イーブイに覚えさせてみようかな・・・ノーマルだし色々なタイプにも進化させられるし・・・そろそろ何かに進化させて上げた方が良いかもなぁ。」
 ふとそんな事を彼女は頭の中で思う、考えてみればレベル43のイーブイと言うのもおかしなものだ。大抵は石が手に入った時点で進化させてしまう場合が多いからここまでイーブイのままで達するのは珍しいといえるかもしれない、だからこそこれまで多くの相手の油断を誘い、そこに付け込んで倒す事が出来て来た訳であるからマイナス以外の何の効果も無いと言う事は有り得なかった。
 だが出す度毎に最後は違っても最初の内は見くびられるイーブイが、思い入れが深い分気の毒でならなかったのもまた事実。しかし進化させるにも石は手元にあれども決心が付かない・・・どうしても未練が残ってしまってならないのだ、だから敢えてその大切かつ思い入れの深いイーブイにこの謎の技マシンを使う事で決心を付けられるかもしれない・・・そんな事をふと思ったからこそミハルは決心し、腰元に巻いたボールの中で最も古びたボールを手にとるとそれを開いた。中にいるのはイーブイ、鳴き声と共にあの戦いの時と同じく元気良く現れ寝台の上から尻尾を振りつつ、同じ寝台の上に腰掛けているミハルを見上げていた。

「全く、何処の誰が作ったのかしらね。ゴカネシティの上空をポケモンで飛んではならないなんて。」
 渋滞する市内を中心街へと向かう路線バスの車内、割と空いた車内の最後部の席にあの2人の姿があった。
「仕方ないさ、治安上の理由だよ・・・それにしても混むなぁ。」
 キナコは苛立った顔して呟きヨシオは合えて顔を合わせずに言葉を返しつつ腕時計を見つめる。
「元はと言えばこんな事になったのもヨシオがしっかりしていれば良かったのよ、本当・・・あんなに苦労して手に入れたものをさ・・・。」
 それに対してヨシオは言葉ではなく溜息1つで返す、先程から同じ事の繰り返しだった。荷物を紛失した事に気が付いた時から同じ事をずっと繰り返していたのだ、それはセンターの中でも空の上でもバスを待っている時も・・・そして今も。静かだったのは空を飛んでいる所を警察に見咎められて地上に下ろされ注意された時だけではないか、よく疲れないものだと感心しながら時計と先頭の窓へと忙しなく視線を動かしてはキナコの小言に耳を傾けるヨシオであった。
 そしてバスはようやく動き始める、あの角を曲がれば目的地まであと少しである。

「次は終点コガネ中央〜コガネ中央〜この列車のうち後部2両はヒワダ発急行に連結の為・・・。」
 ふとその姿勢のままイーブイと見詰め合っていると静かな室内に放送が流れる、カーテンを少し開けて外を見ると列車は大分減速していて町の夜景に見えるレールの表面が輝いている。もう駅の構内だった、見ている内にホームの端へと掛かりホームの照明の光が眩しく視界に入って来た。
「あっとするなら早くしないと・・・買い物にも行かなきゃならないし、じゃあイーブイ動かないでね。」
「ブイ?」
 と分かったのか分かっているのかは不明だが、軽く首を傾ける様な仕草をして鳴いたイーブイの額にその初期型の中身不明な技マシンを当てる。イーブイに技マシンで覚えさせるのは久々の事だったが不思議とポケモンはこれを嫌がらない、自分が強くなる事を本能的に悟っているのだろうか?その辺りの原理はよく分からないが何の事はなしにイーブイに技は刻み込まれ、すんなりと終わると共に軽く客車が揺れて止まった。部屋と個室とを隔てている扉越しに駅構内特有のざわめきが聞こえてきた。
 そして再び車内放送・・・先程流れていた内容が復唱される。何でもこの急行に連結される2両は5分後に切り離されて一旦ドアを閉められて駅構外へと移動し、連結される急行がヒワダから到着した後に再び構内に戻って連結され10分間停車すると言う。特に買う物も見当たらなかった事からミハルは改めて構内に入って停車してからの10分間に買い物を済ませようと考えて、ひとまずは荷物を片付けてトイレに用を足しに行こうと立ち上がり扉を開けた瞬間目の前を慌しく走っていく人影を目にした。
 早口で何事かと言い合っているが良くは分からない、その様を首を傾げてトイレへ行き用を済ませて再び個室に入ろうとした時にまたその2人がやって来た。そして何事かと言いながら近付いてくる、どうも自分の事を言っているらしく訝しい視線を向けつつも、接近してくる2人に関わるとロクな事が無さそうだと言う気配を感じてさっと扉の中に入り閉めようかとしたその時扉の動きは止まった。見るとそこには手がかけられており、扉と壁との間には見るからに頭に血が上っている女の顔があった。
「あっあんた・・・返しなさい・・・。」
 そう口にする顔が。
 続


禁忌の技・後編
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