「今泉、知らせてくれて礼を言う。これは雇い主として完全に俺の不手際だ。  
とにかく、洋子君の件は俺が責任を持ってなんとかする。  
最終的には、組の若い奴らのお楽しみを奪うことになるだろうがな」  
「分かりました。ウチの若造があんな素敵な方に遊んでもらうのは贅沢が過ぎるってもんです。  
この件については他言はしませんし、下の連中にも口止めします」  
「何から何まですまないな」  
「そうそう、先ほど御苑さんの出勤のことを伺ったのは、  
今日は『リョウコ』が店に出ている日だと聞いていたからです。店の場所はこちらです」  
そう言って今泉は店のチラシを差し出した。  
 
「神宮寺さん、ちょっと生意気を言わせていただいてもよろしいですかね」  
「なんだ?」  
「この件であんまりご自分を責めちゃいけませんよ。  
それと・・・御苑さんを叱らないであげてください。  
アタシから見たら、お二人は学がありすぎる方たちなんですよ。  
でもね、突き詰めれば人間ってぇのも動物の雄と雌に過ぎません。  
本能のまんまに動けば何でもないことなのに、頭がよすぎると色々考えすぎて、  
身動き取れなくなったり、おかしなことしちまうもんです。  
あの人も今、自分でも訳が分からなくなっているだけですよ、きっと」  
 
時々この男の物事を見る鋭さには閉口してしまう。  
真っ直ぐに人の心の核心を突いてくる。  
だからこそ俺はこの男を信用し、頼りにもしているのだが。  
 
「今泉・・・お前にはかなわん。心配かけてすまないな。」  
「いえ。それじゃアタシはこれで・・・・・・」  
 
今泉が事務所を去った後、俺も外出の支度を始めた。  
だが、責任は取ると言ってみたものの、俺の心の整理はまったくついていなかった。  
一体彼女とどう接するべきなのか。何を語るべきなのか。  
それでも、俺自身が彼女と向き合わなければ事は進まない。  
事務所の扉を閉め、洋子が働いているという店に向かって俺は歩を進め始めた。  
 
 
これ以降のお話は  
>>727-737へつなげてみてください。  
 

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