宴会中ほろ酔いついでに、隣の副官の手を引いた。
皆が浴衣でくつろいでいる中、彼女、リザ・ホークアイ中尉は、黒いハイネックのままだ。
「今から私の部屋へ」
「何をいきなり。宴会中です」
「いいから」
東方司令部と北方ブリックス要塞の、親善温泉旅行。
イーストシティには、スカーもうろついていることだし、オプティンのハクロ少将は、
負傷で欠席、顔を売るには良い機会だ。
彼女を自分の部屋まで引っ張って行き、部屋の中から鍵を掛ける。
東方の島国の文化を取り入れた、温泉のついたオリエンタルな洒落た宿で、
床に畳みというものが敷いてあり、ベッドはない。
和室というスタイルらしい。私は何度か、このような宿に泊まったことがある。
男女別の温泉大浴場はなかなか気持が良いものだ。
しかし、今回、私に割り振られた部屋には、露天風呂が付いていた。
大佐待遇にしてはよすぎる気がするが、国家錬金術師であることも、
考慮に入っているのだろう。
「温泉入ってないだろう?」
私は灯りのスイッチを引っ張り、部屋を明るくした。
先ほどまで敷いていなかった、ベッド代わりの白い布団というものが、敷いてある。
「いきなり何かと思えば、失礼ですね!内湯でシャワー浴びましたからっ」
怒り顔でリザは鍵を開けて出て行こうとしている。先回りして、ドアの位置に立つ。
「シャワーじゃないっ。温泉だ、温泉。広〜いお風呂、素晴らしい眺め、
日頃の疲労も吹っ飛ぶ、錬金術のエネルギー源であるマントルに地中で温められた、効能の湯!」
「大佐のお気持は大変ありがたく存じます。しかし、宴会とは言え親睦会なのですから、
大佐と副官で異性である私が、会合に出ていないのは色々と問題がありますっ!」
「大丈夫だよ。宴もたけなわ。酔っぱらって、誰も他人のことなど知ったこっちゃないさ。
もし何か聞かれたら、気分が悪くなったとでもいえばいい」
「……しかし、大佐とご一緒に入浴なんて……その、困ります」
……困ると言われても、私だって困る。
一応、彼女の父親で、故人である師匠から、遺言でお願いされているのだ。手を出す気はない。
もちろん、父親代わりとして一緒に風呂に入る気もない。
ただ余りにも、その背中のせいで人並みの享楽も無いというのが、可哀相というだけだ。
「誰も一緒だとは言ってない。私はこっちの部屋にいるから、
どうぞ、自由に温泉に入りたまえと言ってるんだ!」
と怒った。
いや私も男だし、彼女も軍服の上から見ても良い女になっていて、
その、どのくらい育っているか、チラっと見るくらいはしたい……
したい、けど、それは絶対に駄目だ。遺言だぞ、遺言。
それに今夜はリザの母方の祖父も居る。グラマン中将は良いお方だが、どれだけ狸なのか。
とにかくこんな現場押さえられたら、私の野望と独身生活は終わったというものだ。
「でも……背中を見せた少女の頃や、イシュヴァールの時の若い頃とは、違います。
私ももういいかげん良い大人です。……気持……察してください」
彼女はうつむいた。何を察しろというのだろう。まあ、体型とか、お年頃で
男性には見られたくないとか、女性にはそれなりに色々あるのだろう。
「要は見て欲しくないというのだけは、分った。障子も引けばいい。
絶対そちらは向かないようにしよう」
「信用なりません」
「焔のの名に約束する。もしよければ背中だけ少し見せてもらうとしよう」
彼女は焔という言葉に反応し、ぴくりとした。
「本当にそれだけで……でも、ありがとうございます。ご好意に預かります」
「じゃあ、こっち向いてるから」
衣擦れの音がして……
「もう、こっち向いてもいいですよ。大佐」
背中を向けたリザが立っている。
下はまだ着たままで、前は脱いだ服で隠している。
見せて欲しいといったが、実は別に今更、彼女の背中を見ても何にもならない。
彼女の肌に師匠が残した錬成陣の紋様は、とうの昔に覚えてしまったし、
しかもその錬成陣の一部は、それに教えられた私の焔で、焼いてしまった。
ただ、彼女の背中に、師匠と私と二人の焔の錬金術師の罪が、全て残っているのを
見るということだけだ。
「すまない。ケロイドが残った」
「いいえ。焼いて欲しいとお願いしたのは、私です……」
師匠はいったいどういったつもりで、この刺青を彫ったのだろうか。
たった一人の娘に対する、全身全霊を賭けた財産なのだろうか。
それとも錬金術師としての恣意から……
「もういい。ありがとう」
私は彼女に背中を向けた。
「私、温泉なんて初めてです」
閉じられた障子の向こうから、喜びの声が聞こえてくる。
彼女が無事、暗い庭へと出られたようでひとまず安心する。
「初体験という訳か」
脱ぎ畳まれた洋服だけが、部屋の隅に置かれている。
「ええ。大きなお風呂って、気持の良いものですね」
「寒いから、気を付けたまえ」
桶から湯を汲み流し、彼女が浸かる。
彼女の仕草が、いちいち水音になって、聞こえてくる。
「は、はい。わ、雪が、お湯で溶ける……いえ、当たり前のこと、申し訳ありません。
大佐はもう、お入りになったんですか?」
いつもの気の張った副官用の声じゃない、人殺しの声じゃない、明るい声。
ぬる湯のような、妙にほんわかほのぼのとした雰囲気が、部屋の中まで押し寄せてくる。
「ああ。なかなか気持ちよかった。だから連れてきたんだ」
「大佐のそういう馬鹿なところ……」
彼女は今きっと、お湯の表面を指で、弾いている。
温泉は良い。実に良い。
ポットからお湯を注いで、一人お茶を入れて、置かれてた銘菓ほめごろしの包みを開けた。
後でハボックとそれから中将も誘って、このような場所にありがちな、遊蕩街へ繰り出そう。
指名は……そう、金髪の女性がいい。
平然とは、していられない。身体が火照り、鼓動が激しく打っている。
やっぱり、温泉は良くなった!
浴衣の前が張っている。
「飲みすぎだ――!!」
馬鹿な私は、バッタリと後ろに倒れた。
「大佐っ、大丈夫ですかっ!」
リザがお湯から上がる音がして、それから、
→bパターン
「しっ――!!」
私が起き上がると同時に、障子の向こうでも、銃を取る音がする。
廊下から、音がする。誰かが来たようだ。
「いっらっしゃるのでしょう?」
ノックと女性の声。私は急いで、扉を開けた。
灯りが付いているのに、居留守も拙い。
その声は、アームストロング少尉の姉であるオリヴィエ少将だった。
「これは、これは、アームストロング少将殿」
雪の女王と呼ばれ、恐れられている、ブリックスの女将軍。
弟とは違い、かなりのやり手と聞く。何の用だろう。
「マスタング君、まだ宴会は終わってませんが、いかがされましたか?」
「失礼いたしました。飲み過ぎたのか気分が悪くなってしまい……」
「ほう、ご気分が悪いとは。ところで、副官の方もいらっしゃらないようで」
私が浴衣からはみ出た少将の大きな胸と太ももを見ているように、
オリヴィエ少将の視線は、私の股間を見ている。ヤバい。
私は急いで浴衣の裾と帯を直す。
「いや、それには気が付きませんでした。やはり飲みすぎたんでしょう。
心配ですね。ではこれで」
扉を閉めようとしたその床に、少将の浴衣から出た脚が、入っている。
これでは、閉められない。
「少し、お邪魔してもよろしいですか?
体調が悪いのならば、介抱してさしあげましてよ。うふ」
少佐のように、少しおせっかいの癖があるのだろうか。
嫌とは言えない。無礼講とはいえ、上官を追い出すことなど出来るわけがない。
結局私は、彼女を部屋にお通しすることにした。
「しかし、私の弟にも困ったものです。アームストロング家一子相伝の錬金術を
継いでおきながら、戦場から泣いて逃げるとは……その点、焔のは、
素晴らしい功績を挙げてイシュヴァールの英雄と噂されている。
前々から、お話してみたかったのです」
「はあ、ありがとうございます……少将殿」
「部下の方々も才能があって、素晴らしい。特に副官のホークアイ中尉の射撃の腕。
それに士気が高く忠義に厚いのは、やはり人徳なんでしょうね」
「滅相も無い。アームストロング少将殿のブリックス山の方々の方が、
士気も忠義も上でありましょう」
オリヴィエ少将はねっとりと話しかけてくる。この女いったい何が目的なのだ。
「ところで、この部屋……私の部屋と同じように温泉が付いているのかしら?」
「い、いえ!そんな、大佐ごときでそのような、ただ庭が見えるだけで……
今は外が暗くて何も見えませんので、閉めています」
「あそこに女性用と思われる下着が」
少将の指さしたほうを急いで見る。
ブ、ブラジャー!
多分リザは急いで庭から服を取ったのだろうが……
「ええええええっと、ブラ、ブラを着用して……そうだ、宴会芸で女装して
踊ろうかなー、なんて!!」
「厳しッ!……おっほん。いえ、女装趣味をお持ちとは。しかし、この部屋、
北の暮らしに慣れている私には暑くて。窓開けてもよろしいかしら?」
「駄目ー!!開けちゃ駄目――!!」
「じゃあ、脱いでしまおうかしら」
そういいながら、オリヴィエ少将は、しなやかな指を、私の浴衣ごしの膝の上に置かれた。
「あ、あの?」
「そろそろ演技も飽きてきた。単刀直入に聞く。
私が君の副官を欲しいと言ったらどうする?」
少将はチラッと外の方を向きながらそう囁くと、その手は裾を広げ股間のほうに上がってくる。
目の前には、巨乳の谷間がある。
逆セクハラ!?
この女将軍は、色仕掛けで、人材を確保しようとしているのか?
健康な男なら、この状況、イエス、と言ってしまいそうになる。
「私にはそのような権限はございませんので、グラマン司令に……」
「グラマン中将は、君が手放せば、くれるとおっしゃった」
あのじじい、いや、中将は何考えてるんだ……
オリヴィエ少将の言い分は分る。確かに、ブリックス山のように国境に近い要塞では、
リザのように優秀なスナイパーは、色々と利用価値があるだろう。
いざ戦闘となった場合は、無論のこと、平和な今でも要人警備に、
それに、あの腕ならアメ側が仕掛けたとも、ドラクマ側が仕掛けたとも、
どちらの戦争を勃発させることも可能だ。
だがそれは同時に、リザの心を蝕む。
「しかし、もう、このようにイキリ立ってるとは、早すぎだ。
それとも副官殿と何か、あったのかな?」
オリヴィエ少将がズイッっと近づいてくる。
ぱんつはいてない!
浴衣から見える太腿の奥に、卑猥な金色の茂みとワレメが見えた。
妄想じゃないぞ。チラッだが、見えたんだ!
「、少将殿、お戯れはそれくらいに……」
私の言葉をものともせず、少将は、私の前身頃から手を差し入れ胸をはじく。
「……ふっぁああんっ、いや、そんな、焔の、そんな場所触るなぁあああん!」
「いやっ、違う、触ってなど……」
「ああん」
しかもオリヴィエ中将は嬌声をあげる。
問題になってはマズイので、こちら側は女に触ってないのに、だ。
いったいなんなのだ。嬌声を上げたいのは、こちらだと言うのに。
それほどまでに、彼女はテクニックは凄い。指一本で、男の感覚を支配している。
「そろそろ会もお開きになりますし、宴会場に戻りませんか?少将殿」
「ほう、もう、そんな時間か」
そう呟いた色っぽい口が近づくと、いきなり私の、私の物を吸い上げる!!
普通、ここはまずはキスだろっという突っ込みも虚しい。
柔らかい唇が、硬くなった私自身を咥えている!!
気持いいけど、そりゃいいけど……マズイ。
庭にはリザがいる。多分もう服は着てるだろうが。
湯上りで寒いんじゃないだろうか……
「んっ、ふぅん……」
「その、私は、アームストロング少将、殿っ、このような……」
「早い、早すぎる。この程度で……」
浴衣から出た大きな乳房が、脚に当たる。それだけで、艶やかな唇に根元まで吸われ
舌の先で陵辱を受けている私の一物は、もう既に限界に近づいてきている。
ああ……持続力には自信があったのに……
ストレートの金髪が、良くない。誰かを彷彿とさせる。
裏筋を舐める舌が、軽妙だ。
色っぽい女将軍の口の中の粘膜が、私の敏感なその部分と擦りあっている。
大体、飲みすぎたのだ。そうとしか思えない。
その証拠に、先ほど見たリザの背中が、脳裏にちらつく。
背中から見ても、乳房の脂肪が見えた。腰も細くなって……
下半身は、どうなっているんだろう。太腿も頃合良く熟れて、肉が付いているだろうし、
その肉の上の尻や股などは未だに見たことはない。
「私に彼女を渡せ」
「少将殿の頼みとはいえ……決して」
「では、私の部下になれ」
「私は、誰の配下にもつかない。私は、私のやり方で、やっていくっ!」
「狸や狐の群の中で、その犬のように、いつまで無邪気な眼で生きていられるか?」
「ぅっ……」
ちょ、やめ……
少将の指が、排泄器官の中へと差し入れられる。
上官じゃなかったら、こっちがケツに入れてやりたいくらい魅力的な女なのに。
「犬なら犬らしく、調教されて、大人しく飼われていれば良いものを……」
女の口腔内で、ビクビクと痙攣を起こす。
「!!っ……」
「んっ」
そしてオリヴィエ少将は、勝ち誇ったように私の出した白濁したものを、ごくりと
飲み込んだ。
……疲れた。男の精を全て吸い取られた気分だ。
ピンク色の舌が、一滴も残さぬようにと、唇の周りを拭う。
「私はまだまだいけるのだかこのくらいにしておこう、焔の。庭にいる彼女の為に」
「し、知って……!」
「先ほどグラマン中将に様子を窺うように頼まれてね。それで取引があった。
ちなみに部屋割りをしたのも私だ。この障子の先に何があるかくらい分っているが、
まあ今日のことは、事前だったようだし、良いように、黙っといてやる。
一つ弱みを握ったな」
「弱みだなんて。このように少将殿はどなたもご覧になっておりません。
むしろ私の方としては、このような機会に、雪の女王にお相手願えたと、
箔が付いたというものですよ」
「ほう。私は君になどなんの興味もない。こんな風に女に簡単に言いくるめられ、
しかも早々に出してしまった、若造めが」
「それは、少将殿があまりにも、魅力的だからでありましょう!」
「その言葉に免じて、障子は開けないでおいてやる。私だって一欠けらの優しさは
持ち合わせているつもりだ」
「……感謝いたします」
「ホークアイ中尉にもよろしく。このような事態に対して一度も声も出さず、
しかし警戒は怠らない、実に良い副官だ」
「少将殿に褒められたと聞けば、きっと、彼女も喜ぶでしょう」
「それと最後に一つ」
「まだ何か?」
「熟女もいいが、高齢処女の味は格別だ。死ぬ前に味わっておいて損はないぞ」
「え、縁起でもない……少将殿とは言え聞き捨てなりませんね。
残念ながら、私も中尉もまだまだ死にませんよ」
「ふっ。誰もホークアイ中尉のことなど言っていないが?まあいい。
『弱肉強食』これが、この世界の掟だ。大人のラブコメもほどほどにしとけ。
今を生きろ、この青二才めが」
うふふふと笑いながら、オリヴィエ少将は去っていった。
去っていったあと、リザが障子を開けた。勿論服は着ている。
「大佐……こんなことになって、申し訳ありませんでした」
「い、いや」
「でも、ありがとうございます」
冷静なようでいて顔の表情が少し引き攣っている。
「うん。ところで別に、中尉、君の事高齢処女だと、思ってるわけじゃ」
「構いません。そういうことは諦めてますから。
部下として手放さないと言ってくれただけで……
行きましょう、大佐。流石に閉めの挨拶には出ていないと」
「ああ、そうだな」
廊下で歩いている時に、後ろに立ったリザは私の手を握った。
私は彼女の良き保護者であるのか。彼女の本当の父親、私の師匠と私と、それに
こないだキメラ事件を起こしたタッカー氏とは実は、何の違いもないのではないのだろうか。
少なくとも結果においては。
「今日は本当にありがとう、ロイさんっ (はーと)」
そんな心配を他所に、リザはニコッと子供のように無邪気に微笑むと、
私の手を離して去っていく。しかしその言葉遣いはワザとっぽい。
語尾に(はーと)が付いている……
そして計算されたさりげなさで私と離れ、別々に、隣の席に付く。
グラマン中将はデザートに出されたメロンをニコニコと食べていて、オリヴィエ少将も
凛と浴衣を着こなし、隣のマイルズ少佐と楽しそうに笑っている。
今はきっと、ぱんつもはいてるだろう。
少将は中将に何をどこまで話されたのか。隣のリザは何を考えているのか。
私の本心も本当はどこにあるのか。
まったく、皆して、大した腹だよ。
おわり。