土曜日。いつものように登校する大助は、少しだけ気分がウキウキしていた。
「ふんふーん」
(うわっ、気持ち悪ぃ!何だよそれ…)
「う…、か、関係ないだろ」
(へーへー。大人しくしといてやるよ)
ん、と思った。やけにダークがあっさりと冷やかしをやめたことが腑に落ちなかった。
大助が梨紅が帰ってくるから浮かれているということにダークが気付かなかったわけが無い。
(……なんか変だけど…)
冷やかさないならそれに越したことは無い。深く突っ込むことはしなかった。
ホームルームが終ったが、梨紅の席はまだ空いていた。
(うーん、何時頃帰ってくるんだろ…)
早く梨紅に会いたいという気持ちが大助の気持ちをはやらせた。
結局放課後になっても梨紅の席が埋まることは無かった。
「はぁ…」
今日は梨紅と一緒に帰ろうと決めていた大助は自分の席を離れようとしなかった。
「あれ、丹羽君」
大助以外いなくなっていた教室の中に声が掛けられた。
「あ、原田さん」
「まだ帰らないの?」
「うん。ちょっとね、梨紅さんを待ってるんだ」
「あ、そうなんだ…」
「原田さんも梨紅さんを待ってたの?」
「うん、そうなんだけど……私、帰るね」
「え…どうして?」
教室に来た梨紗が何もせずに帰るということが不自然だった。
「それじゃあね!しっかり梨紅を送り届けてね、丹羽君」
そう言い残して梨紗はさっさと姿を消した。
(大助ー。追いかけなくていいのか?)
「何でだよ!」
(別に。ただ言ってみただけさ)
「もう、あんまり変なこと言うなよ。それと…」
(わーってるよ、梨紅との邪魔なんざしねえ。約束はちゃんと守ってやるさ)
「…へ?約束、って何?」
(ん?いや、何でもねえ。それじゃ俺ぁ寝るわ。じゃあな)
ダークの意識が頭の中から消えていくのを感じた。
これにも不自然なものを感じたが、問い掛けようにも誰も答える者はいない。
とりあえず梨紅が学校に帰ってくるまでここに座って待っているしかなかった。
机に突っ伏していた大助は目を覚ました。
(あ…いけない!僕、寝てた……?)
慌てて顔を上げる。
「………あ」
「おはよ」
目の前では梨紅が優しい笑みを浮かべていた。
「ごめん!起きて待ってるつもりだったけど、その、ちょっとうとうとしちゃって…」
「ううん、気にしないで」
それから、合宿がどうだったか、そんな話を二人でした。そして明日のデートの話も。
「本当に疲れてない?無理はしちゃダメだよ」
「平気平気。もう体調万全なんだから!」
「じゃあ明日どこに行こうか」
そこで梨紅がうっと唸った。
「ごめん、まだ考えてなかった……」
「そっか…、それじゃ明日考えようよ。それに、どこにも行かなくても、梨紅さんと二人っきりなら…」
ごにょごにょと、最後のほうは消え入りそうだった。言って少し恥ずかしいことを言っていると思ったからだ。
それでも、大助の言おうとしたことは梨紅に伝わった。
「丹羽君……、うん!明日は二人で楽しもうね!」
元気よく、とても嬉しそうに頷く梨紅はとても可愛らしかった。
その様子を梨紗は教室の入り口からじっと見ていた。ちょっと怖い。
(…どうしてかな?)
何故かわからないが、梨紗は二人のことがとても気になっていた。
それはダークが記憶をいじったために生じたちょっとした混乱現象だった。
(うーん、気になる…とっても気になるわ)
どうしようかと梨紗は一人悶々としていた。
「何をしている?」
突然梨紗の背後からした声に彼女は悲鳴をあげそうになった、が、何とか堪えた。
「ひ、日渡君」
教室の中には大助と梨紅がいる。日渡がここにいるということは教室になにか用事があるのかもしれない。
(ま、まずいわ…!)
今三人が出会うといろいろと面倒が起きそうだと思った梨紗は日渡の腕を引いて急いで教室から離れた。
「…痛いじゃないか」
「ごめんね日渡君。でも今はちょっと、教室に行くのは…」
「なにか事情がありそうだな。わかった。今は近づくのはよしておくよ」
そう言って日渡はその場を去ろうとした。が、
「ちょ、ちょっと待って!」
梨紗は彼を呼び止めた。
「何か?」
「あ…え、えっとぉ……」
「用がないならもう行くが」
「え?あ、ああ…明日は暇?」
「うん……特に用事は入ってなかったが…」
「それじゃ明日は私に付き合って!お願い!これは決定事項よ、絶対付き合ってね!」
「…………はぁ?」
「ごっめーん丹羽君!待った?」
「ううん。僕も今来たばっかりだから、気にしないで」
日曜日。大助と梨紅は街中の広場で朝の十時に待ち合わせをしていた。
大助が既にそこにいるのを確認し、梨紅は慌てて駆け寄ってきた。
「梨紅さん。今日はどこか行きたいところある?」
「うーん…、特に考えてないなあ……」
「だったらさ、向こうに新しくできた遊園地に行こうよ」
「遊園地?そんなのできてたんだ」
「梨紅さん知らなかったの?」
「……悪かったわね。どーせ私はそういうの疎いわよ」
「え、あ…全然そんなことないよ!気にしないで!」
ちょっと不機嫌になった梨紅の機嫌をとるようにへらへらと大助は話す。
「んーー……、それじゃ今日は全部丹羽君のおごりね!」
「えぇっ!?全部……って、待ってよ梨紅さん!」
さっさと走っていく梨紅の後を大助は追いかけた。
「ほらほら。早く来ないと置いてっちゃうよー」
「待ってってばあ」
「ふむ……遊園地、ね」
その様子を、日渡はちょうど二人からは見えない位置で観察していた。
自分がどうして今日付き合わされているか、その理由は昨日梨紗から聞いていた。
(しかし本気で二人の後をつけるとは…)
聞かされた時は半信半疑、いや、はっきり言って嘘だと思っていた。
しかし十時五分前に大助が到着した時、梨紗が言ったことが本気だったと思った。
そして今、日渡は梨紗を待っているのだが…、
(…………遅い)
約束の時刻は九時半。そして現在十時三分。時間きっかりについた日渡は三十分以上待たされていた。
「お待たせー」
ようやく梨紗がやって来た。
「…遅すぎるぞ」
「何?もしかして怒ってるの?」
「当たり前だ」
「女性の遅刻くらい大目に見てよね。それくらい常識よ」
「約束の時間にちゃんと来ることのほうが常識だと思うが…。現に原田梨紅さんは二人の待ち合わせの時間ちょうどに現れたぞ」
「何いってるの、私と梨紅は違うんだから同じように見ないでちょうだい!」
「そういう問題か…?」
「そういう問題なの。…ところで梨紅たちは?」
目頭を押さえ、いかにも疲れたという感じの日渡を無視し梨紗は続けた。
「ふう……。二人なら、向こうに新しくできた遊園地に行ったぞ」
二人が向かった先を指差しながらそう言った。
「あー!あそこって雑誌でも取り上げられたデートスポットなんだよ!よかったぁ、一度行ってみたかったのよねー」
目を輝かせながらウキウキと喋る梨紗。
「……二人をつけるんじゃないのか?」
「もちろんそのつもりよ。でもどうせなんだし、楽しまないと損じゃない」
「……はぁ」
梨紗に聞こえないように小さくため息を吐いた。
「だから、今日は日渡君がお金出してね!それじゃ行きましょ!」
「な、ちょ、ちょっと待ってくれ!なんで俺がそこまで……」
既に梨紗は脱兎の如く駆け出し、日渡だけがその場に残されていた。
「…頭が痛くなってくる……」
「梨紅さん、どうかした?」
さっきから少しだけ難しい顔をしている梨紅に尋ねた。
「んーー……何か、妙な感じがしちゃって…」
「体調でも悪いの?」
「ううん、そういうのじゃなくて…なんて言うのかなあ」
妙な感じ、後ろから刺されるような痛みがちくちくと感じられた。
ぷいっと後ろを振り返ってみるが、何も変わったところなどなかった。
「梨紅さん?」
「……ううん、何でもない。私の気のせいだと思うから。さ、いこ」
大助もそんな梨紅の様子を少し疑問に思ったが、頷いて二人並んで歩き出した。
梨紅が振り返った通りの、その一角から、二つの顔がぬぬーっと出現した。
「――見つかってないみたいね」
「ああ、そのようだ。だが………」
日渡は周囲を見回した。二人には、通行人からの奇異の視線が突き刺さるように向けられていた。
「ママァー、あのお姉ちゃんたち何やってるの?」
「しっ!目を合わせちゃいけません」
「ひそひそ…絶対怪しいわね、あの二人……」
「ごにょごにょ…ストーキング、ってやつ?」
「………なあ、原田さん」
「え、何?」
「あの、だな…。もう少し周囲の目というものを気にしたほうがいいと思うんだが……」
「何言ってるの。周りのことを気にして尾行なんてできるわけないでしょ」
「いや、どうせなら周りにもばれない様にしたほうが…」
「あ、ああぁ!二人が先に言っちゃうわ!ほら、急ごう日渡君」
しゅたたたた、と梨紗が駆けて行く。
「…………」
一人置いていかれる日渡。また、溜め息が漏れた。とぼとぼと梨紗の後を追いかけて行った。
人でごった返していた入場ゲートをくぐると、そこは騒々しいほど賑やかなところだった。
「すっごいねぇ…。人がいっぱい…」
「できたばっかりだからね。それにアトラクションとか、いろいろ楽しいイベントもあるんだよ」
「丹羽君詳しいね」
「今日のためにいろいろ調べてたんだ」
「じゃあ、今日は丹羽君がリードしてくれるんだ」
「うん、僕に任せて!」
自信満々に答える大助は今日のために頑張ってデートコースを考えてきていた。
「うーー、人多すぎぃ…」
「ああ」
人ごみに揉まれながら、梨紗と日渡は入場できないでいた。
「もー、梨紅と丹羽君見失っちゃったよ」
「ああ」
「っイタ!今足踏まれたぁ」
「すまん。俺だ」
「んもう!全っ然進まないんだからぁ!」
「しょうがないだろ。人の流れに乗り損ねたんだから」
「どーしてえぇ?」
「どうもこうも無いと思うが」
「うーーっ、……あ、進みだしたよ。急ご、日渡君」
「ああ」
ゲートをくぐると一気に人ごみは散っていった。それでも辺りには人が大勢いる。
「二人はどこ行っちゃったんだろ……。日渡君、何とかならない?」
「ふむ…。今は十一時か」
腕時計を見ながら呟いた。
「ここの敷地面積は約32万3千平方メートル。アトラクション数22。閉園時間の十時までに全て回るのはまず不可能」
日渡の話を梨紗はうんうんと頷いて聞いている。
「さらに今は開園記念として期間限定の特別イベントも多数行われている」
「じゃあ二人を探し出すのは無理ってこと?」
「普通ならまず無理だ。捜索するポイントを絞る必要がある」
日渡はポケットからゲート付近に置いてあった案内図を取り出し、それを拡げた。
「二人の好みからどこに行きそうかを推理しなくてはならない。原田梨紅さんが好むアトラクションは分かるか?」
「そうねえ……。あの娘、動物とか結構好きだから、そういうところ行くんじゃないかな」
「なるほど。ここから近い動物系のアトラクションは……、『熊のブーさん危機一髪』と『兎と亀の大脱走』だな」
「……微妙なタイトルね」
「………ああ」
「と、とにかく、梨紅は熊さん好きだからそっちに行くかもしれないよ」
「わかった。ではまずはそっちから捜査するとしよう」
「な、な、な、なにこのアトラクション!?」
「く、くくく、『熊のブーさん危機一髪』だよぉっ!!」
大助と梨紅は廃屋をイメージしたセットを全速力で駆けていた。
二人の後方からはグロテスクな姿をした熊のような何なのかよくわからない物が追いかけていた。
「なんでこんなアトラクション選んじゃったの!」
「だって、梨紅さんって動物好きだからっ!」
「あんな可愛くない熊なんて好きになれないよおぉぉっ!!」
「ご、っごめんなさあああぁぁいっ!!」
「……ねえ日渡君」
「なんだ?」
「ここってさ、どう見てもホラーハウスじゃないかな……」
「……だな」
ぼろぼろに施された外装にべったりと塗りたくられた血糊。
入り口から時折聞こえる悲鳴のような叫び声がそのアトラクションの不気味な雰囲気をさらに引き立てていた。
日渡は手にしていたパンフレットを開いた。
『可愛いクマさんたちと触れ合おう。癒し系の新境地を切り開いた超新型アトラクション!!』
それを覗き込むように見ていた梨紗は呟いた。
「詐欺じゃない……」
日渡もそれに同意してパンフレットを閉じた。
「それじゃあ出口を見張っておこうか」
「入らないの?」
「入る必要は無いだろ」
「えーっ!せっかくきたんだから楽しみたかったのにぃ…」
「……丹羽と原田梨紅さんを尾行するのが目的じゃないのか」
「わかってるわよぉ…」
「それじゃああそこのベンチで見張っていよう。あそこからなら出口がよく見える」
日渡が示したベンチの周りにはそばに飲食店があるため大勢の人で溢れていた。
自分たちはそれにまぎれて姿を隠せるので見張るには最適の場所だった。
「行こう」
「あ、待ってよ」
一人でさっさと行く日渡の後を梨紗は追いかけた。
「っっっぃいいやああぁあぁぁぁ!!!」
走って角を曲がった瞬間、梨紅の目の前に熊のブーさんがそのおぞましい姿で現れた。
梨紅の右腕が唸る。
っぐぽぁ、という奇妙な音を発しながら、熊のブーさんは梨紅のコークスクリューの餌食となりその場に倒れた。
ブーさんの顔が歪な形になってしまった。
「っ――――」
ブーさんが小さく呻いた。。
「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?」
大助と梨紅は倒れたブーさんに駆け寄った。
倒れたまま、ブーさんは右手を挙げて大丈夫という意思を二人に伝え、そして通路の奥を指差した。
「先に行けってことかな?」
「でも、この人をこのままここに放っておくなんてできないよ」
二人が言い合っていると、ブーさんは二人が来た道、つまり二人の背後を指差したので、同時に振り返った。
『っっひいいいぃぃぃぃいぃ!!!』
その瞬間、二人は悲鳴をあげた。大量の熊のブーさんがわらわらと二人めがけて突進していたからだ。
倒れているブーさんはまた奥を指差した。そのまま手を二人に向け親指をぐっと立て、そして事切れた。
「ブーさん……」
「行こう、梨紅さん!ブーさんの死を無駄にしちゃダメだ!」
「……うん」
はっきりと頷き、そして二人はブーさんの団体から逃げるように駆け出した。
ブーさんがドタドタと足音を立てて二人の後を追って行った。
「………オレまだ死んでないんだけどな」
一人取り残されたブーさんは小さく呟いた。
「っはぁ、はぁ、はぁ………」
「も、もうブーさんなんて大っ嫌い……」
息を切らし、大助と梨紅は出口に姿を現した。
「あ、あんなアトラクションだったなんて……。もっと、触れ合いがあるみたいにパンフレットに書いてあったのに」
「うぅ〜。疲れたぁ……」
全力で駆け抜けてきたために汗も滲んでいる。
「ごめん。僕がもっとちゃんと調べてたら…」
「ううん、気にしないでいいよ。ねえ、次はどこ行くの?」
「休まなくて平気?」
「だいじょうび!さ、しっかりエスコートしてね」
「動き出したわ」
「ああ…」
二人をしっかりマークするように日渡と梨紗は尾行を開始した。
といってもパーク内は人がかなりいるおかげで来るときの様なあからさまに怪しい行動はしなくてすんでいた。
「次はどこに行くのかしら」
日渡はパンフレットを取り出した。
「こっちのほうなら、きっと人気があるこのジェットコースター式のアトラクションだろう」
「へー、そんなのあったんだ」
「見てみろ」
日渡が指差したほうにはここで一番大きな造形を誇る山があった。
その周りをジェットコースターのレールが幾重に取り巻いて走っている。
「すごーい!あんなのあったんだ。ほら、早く行こう」
「急ぎすぎると尾行にはならない」
「いいからいいから。もっと楽しもうよ」
「全く…。もっとキミは意識ある行動をだな――」
ぐだぐだ愚痴を言いながら、日渡は梨紗に連れられていった。
「うっわぁー……、結構人並んでるね」
「一時間待ちだって。昼前だからもう少し空いてると思ったんだけど」
順番待ちの列の最後尾に二人は付いた。
「終ったらちょうど一時くらいになるから、それからお昼にしよっか?」
「いいよ。今日は全部丹羽君に任せてるんだから、美味しいお店お願いね」
「うん。それでね、ここが結構お薦めの店らしいんだけど」
「へー、どれどれ…」
「なっがぁーーい……、どうしてこんなに並んでるのぉ?」
「人気があるからだろ」
大助と梨紅の、後ろ数十メートルのところに日渡と梨紗は並んでいた。
「一時間以上待たなきゃダメなんだ…」
「というかオレ達は並ばずに出口のほうで二人を待ち伏せていればいいんじゃないのか?」
「でもせっかく来たんだし、いろいろ楽しんだほうがいいでしょ?」
「それはそうかもしれないが……」
「だったら決まり!並んでいよう!」
結局は梨紗に丸め込まれるように、日渡は尻に敷かれていた。
ようやく大助と梨紅の順番が回ってきた。
二人は座席、しかも最前列に座り、がっちょんとコースターのセーフティガードを下ろした。
「うぅ〜、緊張してきたぁ〜」
「はは、大丈夫大丈夫」
「何だか丹羽君って妙に落ち着いてるね。もう少しどきどきしてもいいんじゃない?」
「ん、ああ…そうだね」
いつもウィズとともに空を翔ける感覚を体感している大助にとって、しっかりと安全に固定されているのは別段怖いと思えなかった。
「丹羽君って絶叫モノとか強いんだ?」
「んー、強いって程じゃないけど、これくらいなら怖くないかなって」
「丹羽君、かっこいいね」
「そ、そうかな。へへ……」
思わず笑いが漏れてしまった。それからすぐしてジェットコースターががとんと音を立てて進み始めた。
「あうぅ、どきどきするよ……」
「大丈夫大丈夫。もっとリラックスしたほうがいいよ」
「でも最前列だし…。ね、手ぇ握っててもいい?」
大助がそれに答えるより早く梨紅の手がぎゅっと大助の手を握ってきた。
それに応じるように、大助も強く、優しく握り返した。
「きたよきたよぉっ!私たちの番だよ、日渡君」
「ああ」
二人から送れること十数分。梨紗と日渡もようやくジェットコースターに乗ることができた。
「かなり二人から遅れてしまっているな」
「いいのいいの気にしない」
「…キミがそう言うなら、それでいい」
「それにしても最後尾になるなんて、ついてないなぁ」
「前のほうがよかったのか?」
「まあね。だって一番前のほうが興奮するじゃない」
「ふむ、そういうものか」
「ええ、そういうものよ」
それからすぐしてジェットコースターががとんと音を立てて進み始めた。
「まあ場所はどこだとしても、やっぱりどきどきするものね」
「これが怖いのか?」
「怖い、っていうより、怖楽しい…みたいなのかな」
「こわたのしい……」
聞いたことのない単語に少しばかり日渡の頭は混乱した。
「ねえねえ、手ぇ握ってみてもいい?」
「なぜだ?」
疑問符を浮かべる日渡に、梨紗は嘆かわしい、といった感じで言った。
「にっぶーい。女の子を安心させるために決まってるでしょ」
「その程度で安心するのか。まあそれで安心するなら、ほら」
そう言って日渡は梨紗に手を差し出した。ジェットコースターは既に頂点に達していた。
「ありがと」
梨紗は優しい手つきで日渡の手を優し
ごきゅっ
「っ痛――――!!」
加速していくコースター。前面から押し寄せる空気の壁。日渡の息が詰まる。そのまま昏倒、さようなら。
「っごちそうさまぁ〜!本当、ここの料理美味しかったよ」
ジェットコースターを下り、二人は既に昼食を摂り終えていた。
「お粗末様。喜んでもらえてよかったよ」
テーブルの上には空になった皿が重ねられていた。
「この遊園地って広いよね。朝の間中動いても二つしか回れなかったし」
「ごめんね。僕の計画がもっとスムーズだったらよかったんだけど」
「ううん、そんなことないよ。とっても楽しかったんだから」
自分の計画の拙さを悔いて調子を落とした大助に、梨紅は元気をあげるように強くそう言った。
実際梨紅は、言葉どおり朝だけでとても楽しく過ごせていた。
「ありがと。うん、元気出てきた」
大助はぱしぱしと顔を叩いて気合を入れた。
「じゃあ次行こうか」
「あ、でもあんまり激しいのはちょっと…」
梨紅が腹を擦っていた。食後ということもあり、さっきのような激しいものは避けておきたかった。
大助はさっきとうって変わって自信に満ち溢れた顔をしている。
「そのこともちゃんと考えてあるから大丈夫。次はあれだよ」
梨紅に見るように促がした先には、パーク内のどこにいても見えるほどよく目立つ巨大な観覧車があった。
「ごめんね。まさか日渡君が気絶するほど絶叫モノに弱いなんて知らなかったから」
梨紗は申し訳なさいっぱいで日渡に頭を下げていた。
その日渡りはというと、ベンチでぐったりとうな垂れていた。
「い……いや、苦手とか…そういうのではなく……」
必死に言葉を掻き集めるが声に出す前に霧散していく。しばらくの間はこの調子だろう。
「はいこれ。これぐらいしかお詫びできないけど」
梨紗が差し出したのは自販機で買ってきたお茶だった。
「……ありがとう」
緩慢な動作でそれを受け取る。
「日渡君がこれじゃ、しばらく梨紅たちは探せないわね」
「………すまない」
日渡は全然悪くはないのだが、なぜか謝罪した。梨紗も謝罪の必要はないと言い、そのまま横にちょこんと座った。
「そういえばさ、なんで日渡君は今日私に付き合ってくれたの?」
日渡の調子がよくなるまですることがない梨紗は間をもたせるためにそう聞いた。
「理由?言ってなかったか?」
「聞いてないよ」
そうか、と小さく呟いた。昨日今日とどたばたしていて理由のことなどすっかり忘れていた。
「特にない」
「嘘」
やけにきっぱりと言い切られて日渡は窮した。やがてふっと息を吐いて言葉を紡いだ。
「強いて言うなら、罪滅ぼし…かな」
「罪滅ぼし?別に悪いことなんてされてないよ」
梨紗には全く思い当たる節はない。
「正確に言うなら、これからオレがすることになることに対する、キミに対する謝罪の気持ちだ」
「何のこと?」
ますます分からないことを言われて梨紗は混乱した。日渡は梨紗にきっぱりと言った。
「オレはダークを捕まえる。そうなればキミは二度とあいつに会うことはできない。そういう意味でオレはキミに申し訳ないことをすることになる」
「だ、ダークさんは捕まらないわよ!」
「そう思えるならそれでいい。それにこれはあくまでオレがキミにしたかったことだからな」
少しだけ二人の間の空気が暗く、重く、湿っぽくなった。それを先に打ち破ったのは梨紗だった。
「やめやめっ!今は二人で楽しんでるんだからダークさんのことを持ち出すのは禁止!それでいい?」
そんな梨紗を、日渡はじっと見つめ、やがてふっと笑った。
「ああー、今バカにしたでしょぉ!?」
「いや、そんなことはないぞ。キミの変わり身の速さが少し面白くてね」
「なーんかバカにされてる気がするけど、まあいいわ。さ、じゃあ次はどこ行こうか」
「オレはまだ本調子じゃない。あまり激しいのは避けてくれ」
「ん、じゃああれなら平気よね」
そう言って梨紗が示したのは、パーク内のどこにいても見えるほど目立つ巨大な観覧車だった。
大助と梨紅を乗せたゴンドラは既に四分の一ほど回っていた。
「うっわー、絶景絶景。ほらほら見て。みんなあんなに小っちゃいよ」
ゴンドラの中から見える風景に梨紅ははしゃぎ、向かい側に座っている大助はそんな梨紅を笑いながら見ていた。
大助が何も言わないことが気になったのか、窓から外を見ていた梨紅が大助に聞いた。
「あ、もしかしてつまんない?」
「へ?どうして?」
「だって何も言わないから…。私一人楽しくっても、丹羽君も一緒じゃないとしょうがないじゃん」
「そんなことないよ。僕は梨紅さんが楽しそうにしてるのを見てるだけで十分だよ」
ぽっと梨紅の顔が朱に染まった。
「あ……ははは」
照れ笑いを浮かべながら再び窓の外へ視線を移した。
大助と梨紅が乗るゴンドラから数えて三つ後方のゴンドラに日渡と梨紗が乗っていた。
「んんー……、間にあるゴンドラが邪魔すぎぃ」
二人が大助たちを見つけたのは観覧車前に着いたとき、ちょうど乗り込む姿を目撃した。
正に偶然。その偶然を味方につけ、梨紗は双眼鏡を覗きながら二人を観察していた。
(尾行の次は覗きか……)
日渡は梨紗の行動力に呆れつつ感心しつつ、向かいの席でぐったりとしていた。まだ調子がよくなっていなかった。
「あーん、全然見えないよ」
「まだ下のほうだからな…。もう少しすれば見やすくなるだろう」
「んんー……、しょうがないか」
梨紅は未だに窓から見える風景に見入っている。二人の乗るゴンドラは頂上に差し掛かろうとしていた。
外の風景に心奪われる梨紅の横顔を見ているだけで、大助は観覧車に乗った価値があったと思った。
「丹羽君も外見たほうがいいよ。今しか見れないんだから」
梨紅にそう言われ、大助は頷いて首を廻らせた。
頂上に達したところから見る景色は確かに見応えがあるものだった。
「へぇー。すごいね」
「でしょ。絶対見てたほうがいいよ」
大助はさらに視線を動かした。ふと、先のほうにある隣のゴンドラが目に入った。
「――っ!」
思わず息を呑んだ。そんな光景が目に飛び込んできたからだ。
それを見た大助はどぎまぎと、明らかに不自然な様子になった。
「どうしたの丹羽君?」
大助の様子が少し変化したことに梨紅はすぐ気付いた。
「い、いや、何でもないよ。はは……」
とは言っても様子が普通でないことはばればれである。証拠に梨紅の猜疑に満ちた目が大助を捉えている。
大助自身もあんなところを目撃したせいで気が気でなかった。動転していた。
そしてその視線がちらちらと自分の背後の窓に無意識に向けていた。
「あー、そっちに何かあるんでしょ?隠さないで教えてよー」
梨紅が身を乗り出し、大助の背後の窓を覗こうとする。
「わーっ!だ、ダメだって!よくないよ覗きは!」
「丹羽君、隣覗いてたの?やらしぃー」
しまった、と思った。口を滑らせて余計なことを言ったことに気付いた。梨紅が半眼で責めるように言ってくる。
「いや、違うって!覗きとかそんなんじゃあ……」
尻すぼみに声が小さくなった。故意でないにしろ覗いてしまったのは事実で、弁解するのが言い訳じみていることが分かっていたからだ。
「――隙ありぃっ」
「って、あわわあぁっ!!」
そんな大助の一瞬の隙をついて梨紅が窓を覗いた。覗いて、大助と同じように息を呑み、顔を真赤にして引っ込めた。
「あ……うぅ」
言葉が出なくなった。途端に狭いゴンドラ内の空気が暗くなった。
少しの間、沈黙だけが訪れた。
「……や、やっぱり、覗きはよくないよね!」
「う、うん、そうよね!」
ははは、と乾いた笑いが響き、そしてまた沈黙。非常に気まずい空気が流れている。
その中で、梨紅が動いた。
「っり、梨紅さん!?」
向かい合って座っていた梨紅がそっと大助の横に腰掛けて、その腕に絡み付いてきた。
「丹羽君……しよ」
そっと、耳に届くかどうかという小声でそう囁いた。
もちろん何をするつもりかはいくら鈍い大助でも分かっていた。
さっき偶然見てしまったゴンドラの中で行われていた行為と同じことをするつもりだ、と。
「し、しようって言われても……ほら、もう半分過ぎちゃったし」
「でも十分くらい余裕あるでしょ?」
「う……だからって、ここじゃあ……」
「私とするの、いや?」
いきなりしゅんとした声を出されて大助は慌てた。
「ぜ、全然そんなことないよ!」
「だったら」
梨紅がぎゅっと腕に力を込める。柔らかな胸が大助の腕にふにっと触れる。大助の下半身が疼く。
「いいでしょ?」
甘い誘いにとうとう大助も折れた。絡みつく梨紅の顔をそっと上げ、唇を重ね合わせた。
大助の舌が梨紅の口内へと挿し込まれ、梨紅もそれを受け容れる。
舌と舌が、別の生き物のようにねちょねちょと音を立てて絡み合う。
「ん……んふぅ…」
糸を引きながら舌が離れる。
手が優しく梨紅の胸に触れると、身体をぴくっとさせて小さく喘いだ。
服の上からも伝わってくる柔らかさ、暖かさ……。それらを全て感じ取るようにそっと手を這わせる。
乳首が次第に硬くなっていくのが分かり、やがてはっきりとそのしこりが分かるようになった。
「気持ちいい?」
大助の囁きに微かに頷いた。服の中に手を潜り込ませ、下着の上から胸を触る。
ぴっちりとしたスポーツブラが、胸の張りを際立たせている。
「んん…、ん、見られちゃうかもしれないね」
「じゃあやめる?」
「うぅ…意地悪ぅ」
梨紗と日渡の乗ったゴンドラが観覧車の最も高い位置に達した。
「いい眺めー。乗ってよかったね」
外を双眼鏡で眺めながら梨紗は映る景色に酔いしれた。
「外を見るのはいいが、二人も見ていなくていいのか?」
本来の目的から少しずれていたところを日渡は修正しようとした。
「えーっ、日渡君、覗きが趣味?」
日渡は二の句が出ずに固まったが、梨紗は冗談よ、とだけ言って大助たちの乗るゴンドラへと視線を戻した。
見下ろすかたちになっているのでしっかりと様子が見てとれる。
「でもこうやって覗くのってなんか癖、に…………」
「ん、どうした?」
急に黙ってしまった梨紗を怪訝に思い声をかけたが返事がない。
まるでとんでもないものを見てしまい、驚きのあまり声が詰まった、そんな感じだ。
「おい、二人に何かあったのか?」
日渡が梨紗の横へ歩み寄った。梨紗が今も覗き込んでいる双眼鏡を手に取った。
大助たちに何か起きたに違いない。そう思い双眼鏡を覗き込んだ。瞬間、
「みっ、見ちゃダメぇぇぇぇッ!!」
梨紗が日渡の覗き込む双眼鏡のレンズに思いきり掌底を繰り出した。
音を立てて砕け散る眼鏡。
「へあぁ〜、目が、目がぁ〜〜!」
悶絶して床を転げ回る憐れな日渡。
「み、見ちゃダメだよあんなの、あんなの……ああ、やっぱり見たい!」
再度双眼鏡を手に覗きを敢行する梨紗。少なからず興奮を覚えている。
倒れこんだままぴくぴく痙攣して叫び続ける日渡。かなり哀愁を感じさせる。
潜り込んだ手の指が僅かに食い込む程度、微妙な力加減で刺激していく、
「うん……ん…」
すぐに梨紅の口からは艶の混じった声が漏れだす。
「胸、敏感だね」
きゅっと抓るように力を込めると、初々しく彼女の体がぴくっと反り返る。
彼の指が、彼女の乳首の周りをなぞるように這い動く。
「ぁん…焦らさないで…」
実際二人に残された時間は観覧車が下につくまでの、せいぜい数分間だった。
「はは、ゴメンゴメン」
悪びれた様子もなくケロッとした口調でそう言うと、その指が乳首を押すようにぷっと先端にあてがわれた。
さらに身体をくねらせて梨紅が身悶える。指先で勃起しかけている乳首をこりこりと弄り回す。
艶やかな声がその唇から漏れだす。
「梨紅さん…」
座ったまま、後ろから抱きしめるように態勢を変えて胸に触れ続ける。
梨紅のお尻に大助の充血しきったペニスが服を隔てて密着し、その熱が伝わってくる。
耳には大助の吐息がくすぐるように撫でるように吹きかかる。ぞくぞくと背筋を駆け上がる感覚が襲っていく。
上着の中で大助の手がもぞもぞ動くと、スポーツブラを上へずらした。
健康的な張りのある胸を、その形が変わるほど強く指を動かしだした。
「っふぅん!ん、は、あぁ」
肌に粘膜のように汗が張りつき、熱く火照ってきた。
大助の右手は梨紅の腹の上を滑るように這い、そのままショーツの中へと潜り込んでいった。
梨紅が嬌声とも溜め息ともとれぬ甘い声を漏らす。
恥毛のまったく生えていない恥丘を通り、僅かに充血した襞がのぞく秘裂へとその指がのびる。
「もうぐしょぐしょだよ」
「言わないで…」
少し触れただけでくちゅくちゅと粘液が指に絡みつく。
「もう、いい?」
そう囁くと梨紅はん、と頷き、大助へ向き直った。
大助がズボンに手を掛けて脱ごうとした時、梨紅がそれを制止した。
「待って。私が、脱がせてもいいかな?」
「え…」
驚いて声を上げたが、すぐに微笑んでいいよ、と答えた。
梨紅の指がズボンの止め具を外し、チャックを下ろしていく。
ズボンを下ろすと、トランクスが頂部にしみを作った意外と大きなテントを張っていた。
トランクス越しに形がはっきりと分かるほど梨紅がペニスを握り締める。
敏感な亀頭に擦れる布の感触にんっと声を漏らす。
「気持ちいい?」
ペニスに息がかかるほどに顔を寄せ、先ほど大助に言われた言葉をそのまま返す。
「はあ……あぁッ…」
返事を返す前に梨紅が熱い吐息を亀頭へ吹きかける。布越しに伝わる熱気がぞくぞくと刺激する。
「梨紅さん、はやく…しよう」
直接刺激が伝わらないことに大助は焦れてそう急かしたが、梨紅はそれを聞こうとしなかった。
ペニスの形をしたトランクスを口に含み、ん、ん、と口内を蠢かせる。
吐息では伝わらなかった口内の熱が薄い布を隔てて伝わってくる。
トランクスがあるせいで大助のペニスが濡れることはない。
潤滑油となるものがないために梨紅の舌の動きがはっきりと感じ取れる。
裏筋をなぞり、亀頭を円を描くように這い、尿道をぐにぐにと圧迫する。
いつも以上にはっきりと分かる舌の動きに大助は今まで感じたことがない新たな感覚を味わっていた。
しかし、ああなんということか。湿った布がペニスを覆っているせいでいつもの痺れるような快楽が与えられてこない。
梨紅の巧みな焦らしの術中に大助ははまっていた。
「もう、我慢できないよ…」
梨紅のほうから行為を誘ってきていたはずだが、いつの間にか大助のほうがやりたくてたまらなくなっていた。
トランクスから口を離すと、
「したい?」
意地悪な声で、表情でそう言った。口を離した後でもその手でペニスを弄るのは忘れない。頷くしかなかった。
「丹羽君のえっちぃ」
唾液とカウパー液で濡れたトランクスにその手を掛けて脱がし始めた。
引っかかっていたペニスが再び天に向かってピンッとそそり立った。
血管が浮き上がり、びくびくと脈打つそれは、顔に似合わず凶悪な様相を呈していた。
次は梨紅がショートパンツを脱ぐ番だった。観覧車の、その密室の中で梨紅のストリップ染みた行為が行われる。
ショートパンツを脱ぎ終えると、次は同じようにショーツを脱いだ。
目の前で、下半身に一糸纏わぬ梨紅の姿に、ペニスはさらに硬さを増した。
座席に膝を立て、肩に手を掛けて梨紅が大助の上に跨ってきた。期待に満ちた目で、恍惚とした視線を互いに交わした。
大助はペニスを梨紅の秘裂に擦りつけた。粘り気のある液体が亀頭を濡らし、ペニスを伝う。
薄く熱い肉襞が、亀頭の先端に吸い付くように絡み付いてくる。
「きて……」
膣の入り口へ先端部をあてがい、少しだけくっと突き出す。
「ん…」
少しだけ梨紅が鼻から息を漏らした。大助の両手が梨紅のお尻を撫で、そして腰へ回した。
「はあッ、く……ああ…」
「んうぅ…は、はあぁ……」
梨紅の膝が左右へ開き、少しずつ腰が沈み亀頭を呑み込んでいく。薄い襞はピンと張り詰め、亀頭と共に内部へ巻き込まれる。
腰に回した腕を引き寄せると、すぐに亀頭は中に埋まってしまい姿を隠した。
「っはあぁ……ッ」
膣の浅い部分が押し広げられる感触に悦びの声を上げる。大助も腰を突き上げ、さらに膣壁を押し広げていく。
「くぅ…」
窮屈な中の肉がぎちぎちとペニスを締めつける。快感のあまり声を漏らす。
ペニスが全て埋没し、内臓を押し上げるような感覚が梨紅を満たした。
入れたときと同じくらいゆっくりとペニスを引いていく。それに合わせて二人の口からも息が抜けていく。
今度は一気に腰を突き上げる。急な刺激に梨紅は声なき悲鳴、いや嬌声を響かせた。
そしてまたじっくりと、肉の感触を味わうように腰を送っていく。
「うん……あッ、はうぅ……」
ペニスが膣を擦り、そのたびに二人の頭の中は次第に白く、何も考えられなくなっていく。
本能のまま、二人の腰は合わせて動き続ける。繋がっているところからは粘液と粘液が絡み合う卑猥な音が響いている。
泡立った白い液が次々と生み出され、二人の内腿には飛び散る愛汁がべっとりと貼りつき、てらてらと光っている。
ぐちょぐちょという粘液同士が擦れあう音、肉と肉がぶつかりあう音、二人の荒い息遣いだけが密室に響き渡っている。
じわじわと絶頂という限界が近づいている。果ててしまうのは時間の問題だった。
「は、っはあ…いいよ、梨紅さん……」
「ああ、私もっ…いい、イッちゃいそう」
梨紅がいつの間にか積極的に腰を振っていた。大助は両手で梨紅の腰を掴み、さらに激しく梨紅の腰を振らせた。
「っひはあぁぁぁッ!あ、いいッ!ダメ、イきそう…!」
梨紅の腕が大助の首に強く巻きついた。胸が顔に押し当てられ、呼吸が苦しくなる。
ちょっと顔をずらして深く息を吸い込んだ。そこで、窓の外へと移った視線が今の状況を伝えてきた。
「まずいっ!」
快楽に酔っていた大助の頭は一気に冷めてしまった。もう既に観覧車は六分の一を残すほどのところまで来ていた。
慌てて梨紅からペニスを引き抜き、ズボンを上げて衣服の乱れを正した。
「梨紅さんも早くズボン穿いて!」
未だに火照った身体と赤みを帯びた顔をして状況を把握できていない梨紅に急いで説明した。
すぐに梨紅も理解し、慌てふためいて行為の痕跡を消し始めた。
「うわわっ!床に水溜りが!」
二人でハンカチを取り出しささっと拭いていく。
「ああっ!ちょっと臭い気がする!?」
「匂い消し匂い消し……ってそんなことできないよ今!」
窓を開けることはできず、かといってスプレー類など持ち合わせてはいなかった。
「と、とりあえず落ち着こう。慌ててるとかえって怪しまれるし」
「そ、そうね…。ここは大人しく座ってたほうがいいわよね」
二人並んで腰掛け、深く深呼吸をして気分を落ち着かせた。降りる時が近づいてくる。
扉を開けられ、ありがとうございました、と言われただけで、特におかしな顔をされはしなかった。
幸いにも待っている客もいず、何とかその場をしのぎきった。
「危なかったあー。ばれたりしたら結構まずいよね、こんなの」
「そうだねぇ。丹羽君が気付いてくれて本当に助かったよ。……でも…」
梨紅が俯き、もじもじと股を擦り合わせていた。途中で行為を中断し、まだ身体が疼いてるのだ。
大助もそうだった。すっかり萎縮しているが、寸前で止めてしまったために溜まってしまっている。
「続き…しようね」
「うん…」
大助の誘いに、梨紅は恥ずかしそうに頷いた。