そうしてどうにか引き出せたのは、
「最近ロイドがすごく疲れてるみたいで、……それなのに私、何も力になれなくて」
と、己の非力さを嘆く言葉だった。
コレットちゃん自身、辛いことがあっても決して表には出さないものだから、その幼馴染も同じく気を遣っているのだろう。
あの二人は自らの欲望を人に押し付けたりはしない。何せどっちも役柄的にボケだ。ツッコミがいないのだから、打てども打てども返るものがない。ただどちらも受け流すことにだけは長けている。
もう少し我侭になればいいのだ、と思う。しかしそれができないのがこの少女であり、ロイドという少年だった。
かく言う俺さまも、我侭を言わず自らの欲望を押し殺すことにこの上なく長けているつもりだが――ま、ここでいう二人のそれとは毛色が違うだろう。
何より今の俺さまはあの頃に比べ、とんでもなく我侭に生きているのだから。
(だから、余計なお節介でもしてやろうって気にもなるわけよ)
こんな余裕が持てるようになったのはいつからだったか。脳裏にあの典型的な世話焼きの姿が浮かぶ。
(毒されてるねえ、俺さま)
そしておそらく、今の自分があるのは何も彼女のせいだけではなく――優しいとか温かいとか、とかく彼女と共通のイメージを持った――この二人のおかげでもあるに違いないのだ。
俺さまは最後にもう一度、わかりきったことを確認する。
「コレットちゃんはさ、ロイドくんのためならなんでもできる?」
「うん、できるよ」
即答だった。それも真剣な笑顔で。
かなわねえなあ、口の中で呟きながら、俺さまはとっておきの秘策を伝授することに決めた。お節介ここに極まれり、だ。
「俺さまにいーい考えがあるんだけど、聞きたい?」
「本当?」
「本当だとも。ただ、そう簡単なことじゃあないぜ?」
「ゼロス、お願い聞かせて。ロイドの力になれるんだったら、私、できる限りやりたいの」
「オーケー。じゃあ、耳貸して」
内容的にあまり大きな声では言えない作戦の全貌を、時折頬を染められたりしつつ、質疑応答をはさみつつ、懇切丁寧に説明した。
その全てを語ると長くなるので省くが――以下一部抜粋。
「着替えるのって、そんなに重要なの?」
「着替えるのが重要なんじゃない。その服装が重要なんだよコレット君」
「うーん、難しいんだね」
「そうとも。オトコゴコロというのはひっじょーに繊細でハートフルなのさ」
「ふむふむ」
「そして単純だ」
「そうなの?」
「おうよ。メイド服なんて着られたらそりゃもーイチコロだね」
「ふ〜ん……でもそれで元気になるのかなあ」
「なるに決まってる。コレットちゃんだって、何か喜ぶようなことがあったら、元気になるっしょ?」
「え? あ……うん」
「だからだいじょーぶだって。可愛いコレットちゃんのそんな姿を見て喜ばないわけがない。ロイドに限らずな」
「メイド服ってすごいんだねえ。じゃあお城の人たちとか、メルトキオの貴族のおうちのひととか、みんな毎日嬉しそうだね」
「あ、いや……それはまた違うかな……」
「? そうなの?」
「あーいやほらその、アレだ、毎日見てるからなあーいう連中は。見飽きてるってのもある」
「そっか、なるほど〜」
「とにかく、普段そういう格好をしているコレットちゃんがメイド服、ってとこが一番重要なポイントなわけよ。よーくメモしとくように」
「はい先生」
ノリで教師と生徒ごっこを始めたら、コレットちゃんは何の疑いも違和感もなく溶け込んでくれて、何だかじーんと来てしまった。
あいつだったらこうはいかないからなあと、これはもちろん心中でぼやいておく。
「ま、実際それはお膳立てで、その後がメインってわけだが……さすがにこればっかりは実地で教えるってわけにもいかないんで、あとで参考書でも送るわ。しいなからの資料に混ぜとくから、ロイドに見つからないようにな」
「うん。ありがと、ゼロス」
「いやいやなんのなんの。コレットちゃんのためならこんなのどーってことないっしょ」
からから笑ってみせた俺さまに、コレットちゃんはふわりと表情を緩めて、
「ゼロスは、しあわせさんなんだね」
「って、は?」
何がと聞き返す前に、そう思っただけ、と嬉しそうにコレットちゃんは笑った。
「おいおい、俺さまをからかうもんじゃないぜ?」
「そうだね」
そう言いながらまだコレットちゃんは笑っていて、相変わらずかなわねえなあ、と一人ぼやいた。
――んでまあ、さくっと刺激の少なさそうなのを見繕い、しいながまとめていた資料をついでだから持ってってやるよと奪い取って、数日後無事にそれはコレットちゃんの元に渡った。
そうして、企画原案ちょーかっこいい俺さまによるベリベリナイスなラブラブ大作戦は大成功を収めたのだった、まる。
ただその吉報を知ったのが、いい思いしただろうに恩仇もいいとこなロイドと、事情をどこで聞いたのか便乗気味に加勢したしいなに、これでもかと手酷い報復を受けたときだったってのは、まあご愛嬌ってことで。
つーか、あいつら俺さまがどれだけ大事な役割を任されてるかって忘れてねーか? ってくらい派手にやってくれたので、その日の予定が一つだけオシャカになった。
まあ大した内容でもなかったし、相手側も快く延期を取り付けてくれたので、取り立てて問題にはならなかったのだが。
しかし、だ。
それが当事者のロイドくんならともかく、本件に全く何の関係もない我らが全権大使が邪魔をしたとなれば、それは問題だよな?
というわけで、反省と詫びは入れてもらおうと(何せしいなにやられた傷が一番響いたのだ。自分で直したけど)、すったもんだの末、このような素晴らしい状況を取り付けたわけだ。うん。
自分で言うのも何だが、転んでもタダでは起きない俺さまサイコー。
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