気を取り直して、改めてコレットを見下ろす。
頭には取れかけた浅緑のキャップ。きれいに編まれていた髪の毛はところどころほつれていたが、逆にそのゆるい乱れ髪と羞恥を散らした笑顔がマッチして、絶妙な何かを醸し出している。
見てる分にはさっぱり構造の理解できなかったメイド服は、何やかやと弄っているうちに解き方がわかった。
まるでパズルになったプレゼントの箱を開ける気分で、時折コレットにヒントをもらいながらワンピース以外を取り去る。プレゼント自身にヒントをもらうというのは中々に妙な気分だった。
エプロンや胸元のリボンがなくなったワンピースは、何故か前身ごろがボタン留めになっていた。
これは単に脱ぎ着しやすいように、という配慮なのだろうけれど。
ボタンをぷちぷちと外しながら、本当にプレゼントの包装紙を剥いている自分を錯覚して、俺は目眩を覚えた。
「……コレット、ちょっとだけ背中上げてくれるかな」
「うん」
細い肩からワンピースの上を落とす。
そうして現れたのは真っ白い肌と、胸元に光る赤い石。要の紋をはめこんだそれは、もうコレットを食らうことはない。
けれど二度と外せはしない。コレットに一生ついてまわる、天使の象徴のひとつ。
「ロイド……?」
「あ、いや。何でもない。その、きれいだなって」
「え……や、やだロイド、お世辞言っても何も出ないよ」
「お世辞なんかじゃないって。コレットは本当に、きれいだ」
顔を真っ赤にしたコレットが俯く。見上げる視線がなくなったのをいいことに、俺は下着ごしの胸に触れた。
もちろん先程のような乱暴なそれでなく、開きかけのつぼみを潰さないように手で包むような、慎重にも程がある手つきで。
「っ、はぁ……ぅ」
しばらくそうしていて、ちらりとコレットの表情を盗み見る。頬をわずかに上気させ、小刻みの呼吸をする度にのぞく赤い舌が妙に艶かしく見えた。
そのぼんやりとした視線が自分の手元に向けられていると気付いて、俺は下着の中に手を移動させる。
吸い付くような肌を指先だけで掴むと、みずみずしい弾力性でもって押し返される。そこへ着けたままの下着に上から押さえつけられ、力の加減がわからなくなる。
「あっ、ん」
少し強めに揉んでしまったらしく、コレットから高めの声があがった。
――痛くは、ないようだ。
そう判断して俺はゆっくりゆっくりと力を強くしていく。途中でやりづらくなって下着をずらそうとして、メイド服だけでなく、下着の止め具までもが前についていることにようやく気付いた。
確かこの前はこういうのじゃなくて、背中側に止め具があった気がする。
これはコレットなりの気配りなんだろうか。
それともまさか――これもゼロスの入れ知恵だとしたら。
「コレット。この、下着……」
ちりちりする心が勝手に問い質し始めたものの、何て聞いたらいいのかわからず言葉に詰まる。知らず休めない手に力が入った。
「ぁ、はっぁ……後ろじゃなくて、っん、前に、ある……っ、から」
「わかった。珍しいな、こういうの」
「そう、かな……ぁ、最近、はこういうの……おおい、よ」
ぷちん。
その止め具は予想以上にあっさり外れて、締め付けから解放された両胸がその存在を主張するかのように、ぴんと天井を向いた。
「ひゃぅっ」
頂を手の平が擦っただけで、コレットはやたらと可愛らしい声をあげた。もっと聞きたいと当たり前の事を思って、人差し指と中指の間で挟み込み、断続的な圧力を加える。
「ぁっ、ひ、やっ……あ、はぁ、ぅ、ロイド、やだ……っ」
コレットの甘い声は、どうにも落ち着かない心中に小波を立てた。理性は確かにそこにあるのに、思考が暗く沈んでいく、とても奇妙な感覚。
今自分はどのくらいの力でコレットに触れているのだろう? 甘い声はどんどんと高くなって、合間に挟まれる苦しそうな息遣いすら心地よい。
手で味わうだけでは物足りなくなった俺は上体を屈めた。右手を退けて桃色全体を口に含む。皮膚でありながらある程度の固さを保つそれを舌で転がすと、声だけでなく体全体がちいさく跳ねた。
ロイド、とかすれ気味の声がやけに遠かった。コレットの声だ、それだけはわかっていたが、何度も呼ばれる意味がわからない。
俺は目の前に、すぐ側にいるのに。
こんなにコレットを感じているのに。
「ふぁ、あっ……はぁっ、あ、ロイド、ろい……どぉっ」
そうか、足りないのかもしれない。
漠然とそう思って唾液まみれの胸から顔を上げ、コレットの膝の裏側に手を差し入れた。
「ひゃっ……?!」
掌をそのまま上方へ、太ももの裏側を滑らせていく。ストッキングの感触は途中で途切れて、しっとりと汗ばんだ肌にすりかわる。滑りが悪いそこを馴らすように数回往復させるとコレットの肌はぞわりと粟立った。
「やっ、ロイ、ド……!」
後退できないよう片手で腰を固定してから、粟立つ皮膚を宥めようとさらに撫で上げる。その度に、ぶるぶるとコレットは全身を震わせて、ひきつった悲鳴をあげた。
「は、ぁ……ゃぅ……っ」
もちろん、これぐらいで足りるだなんて思っていない。
俺は次に、腰に置いていた手でワンピースのスカート部分を捲り上げる。
目に入ってきた白いレースに手を伸ばすと、太ももと同じように、ただし今度は指の腹で撫でさすった。その動きをくちゅり、とわずかな水音が追随する。
「ひあっ! っあ、は、や、やだ……め、ロイ……っ」
声に誘われて、人差し指の第一関節を曲げる。指先が薄く濡れた布地ごと沈み込んで、火傷しそうな熱を感知した。ひどくひどく、熱い。
――俺は、この熱さを知っている。
いや、正確にはこれと同じような、ねっとりとした熱さだ。どこでだったか。
そう確か。つい最近というか先程。
この身で味わって、それで、コレットにひどいことを。
「――っ!」
俺は数回まばたきをして、目の前の光景にもういちど、今度は全く別な意味で目眩を覚えた。
「はぁ、は……ロイ、ド……?」
潤んだ大きな瞳が、不思議そうにこちらを見上げた。いつもは胸が温まる視線が、今はひどく痛い――無論、自業自得というやつだ。
コレットはこの期に及んでもなお、俺を信じている目のままそこに居る。動きを止めた俺を心配そうに見つめている。
「どうした、の……? 私、やっぱり変なことしちゃった?」
「違う」
即座に否定して、顔を上げられない自分に気付いた。
いっそのこと怒ったり、なじったりしてくれればいいのに、けれどそれをしないのがコレットであって。
俺はまたコレットに甘えてたんだ――そう気付くのに時間は要らなかった。
「ごめん。ごめん、コレット」
「え?」
「俺、自分のことしか考えてなくて。コレットが俺に……俺のこと思って、してくれたのに、なのに俺」
情けなさに言葉が続かなくなって、きつく唇を噛む。
やがて衣擦れの音がして、コレットが身を起こしたのがわかった。でも、顔は上げられない。
「私、……いやじゃないよ?」
コレットの声はいつもと同じに、とても優しく、全てを包み込むような温かさがあった。
俺は幾度となくこれに助けられて、そして、甘えていた。
「ロイドは私の一番好きなひとだから、ロイドに何かされるのは、嬉しいの。ロイドなら、いいの」
白魚のような両手が、より強く唇を噛み締める俺の頬に触れる。その手はゆっくりと、こちらの抗う気持ちを宥めるように、顔を上げさせていく。
今にも泣きそうな不安定に揺れる瞳とぶつかって、止まった。
「私はロイドに、……え、えっちなこと、して欲しいもん」
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