頬に手をあてるとサユリはぴくりと震えた。大丈夫だ、と囁いて触れるだけのキスをする。しばらくして唇を離しサユリを見つめた。
サユリは僅かに微笑んで、ゆっくりと目を閉じる。俺は余った左手をサユリの頭に乗せると、金髪の間に指を差し入れながら後頭部へ滑らせた。
そうして頬と後頭部を軽く固定してから、そっと左手を前に押し――もう一度唇を重ねた。
そのまま何もしないでいるとサユリの唇が動いた。それを合図にゆっくりと舌を差し入れる。
「ん、ふ……っ」
今度はサユリは逃げなかった。それどころか、おずおずとこちらの舌に触れてくる。触れた瞬間急いで奥に引っ込んでしまったが。
徐々にねちっこく舌を絡めながら、左手で髪を梳いてやる。指の間を通る金糸は滑やかで、気を抜くとそちらに意識を持っていかれそうだった。
ぎゅう、とシャツが掴まれる感触。名残惜しさを感じながら互いの口元から糸を引かせた。
「はぁっ……はぁ、カタナ……」
頬から耳へと唇を滑らせて、耳たぶを甘噛むと予想以上にサユリの体が跳ねた。もののついでに舌で耳の輪郭をなぞるとサユリはひゃあう、とおかしな悲鳴をあげる。耳が弱いのか――それとも、さっきのことがトラウマになっているのか。
(……)
俺は早々に耳を解放して肩口の髪をそっとよけると、真白い首筋に唇を押し当てた。そのままきつく吸い上げる。
「っ……!」
首から鎖骨へ下る道筋へ朱い所有印を残してから、シャツを胸元までたくし上げる。寝る前だからか下着はつけておらず、白い素肌と薄桃の頂点が視界に入ってきた。
迷うことなくそれに触れる。
「ぁ……っや、カタ、ナ……っ」
あまり高低差のないそこはふにふにと柔らかく、それでいて指が吸い付くようなみずみずしさがあった。掌全体で覆うには少々物足りなく、五本の指で囲うようにするとうまく収まった。
硬さを増してきた頂点が中指の第二関節に当たる。何気なく人差し指と中指の間で挟み込んでやると今までに聞いたことのない高い声があがった。
顔を上げると口を両手で押さえたサユリと目が合う。俺を見上げる両の目は今にも泣き出しそうで、俺の中の何かを刺激する。学習能力の高い理性は即座にそれを抑え込んだが、何かのはずみで逆転しかねない。
俺は弄っていた手を外し、サユリから視線を外すため、それを口に含んだ。
「やぁっ、カタナやめ……ひぁっ?!」
甘い。蜜か何かでも塗ってあるのかと思うほど、そこはひどい甘さを錯覚させた。舌先で転がす度にあがる甘い悲鳴がますます甘美を際立たせ、俺の中の何かを溶かしていく。
そうして溶けているのは嗜虐心ではなく、理性だ。
「ぁっカ、タ……ナぁっ、ひぅ!」
切れ切れに呼ばれた名前が、崩れかけた理性をどうにか再構築させる。一息で吹き飛びそうなそれに縋りながら、最後にひときわ朱い痕を残してようやく、俺は体を起こした。
サユリは小刻みに呼吸を繰り返している。
気がつけば真っ白だった肌は薄桃色に染まっていて、脇腹の線を指で辿ればしっとりと汗ばんでいた。
「カタナ……ごめんね」
唐突にそう言ったサユリを見やると、もう一度ごめんねと呟いた。
「どうした」
「サユリ、我慢するって、言っ……の、に」
喉をひくつかせながら、サユリはぽろぽろと涙をこぼした。
瞬間的に暴発しそうになった感情をぎりぎりで踏みとどめて、俺はサユリの頭をなでてやる。
「気にしなくて、いい」
「でも……」
「止めるか?」
言うと、ぶんぶんぶん、と音がするぐらい頭を振った。
そうして俯いたサユリの表情はわからなかったが、金髪の間からのぞく耳が真っ赤になっているのに気付いた。
「サユリは、カタナのものだから。……カタナの好きにして、いいよ」
スパッツに指をひっかけてするりと引き下ろす。膝の辺りで一度ひっかかったが、細い両足を持ち上げてそのまま引き抜いた。
「っ……」
サユリは曲げた膝を硬く閉じ、たくし上げてあったシャツもちゃっかり戻した挙句、下着を隠すように両手を重ねている。
小さく嘆息して、名前を呼んだ。
「サユリ」
俺は右のふくらはぎに手を置くと、ゆっくりと上へと移動させた。普段刺激を受けることの少ない、太ももの裏側を何度か往復する。
「ぁっ……っう、ふあ、あっ」
「サユリ」
空いた方の手をシャツの中に侵入させる。自然、手探り状態であちこちを撫で回していると、だんだんとサユリの膝が震えてきた。しかし強情にも、閉じたそれを開こうとはしない。
俺は大げさに息を吐き出して、言った。
「サユリ。足を開け」
胸と太ももを這いまわっていた手を戻して両の膝頭に置く。足の震えが直に伝わってきて、ちくりとどこかが痛んだ。
――けれど、これはサユリが望んだことなのだから。
「大丈夫だ。開け」
「ぅ……」
両足の接着部分に軽く指をかけると、ゆるゆると扉が開いた。そこにはまだ小さな両手が立ち塞がっている。
まず開いた両足に体を置いて二度と閉じれなくしてから、右手一本で両手を掴み取った。
引き剥がしながら掴む場所を手首に移して、ひとまず腹のあたりに留め置く。
「や、カタナぁっ……!」
下着の上を人差し指でなぞると、そこはわずかに水気を帯びている。強めに押し込むとサユリの体がびくんと反応し、指先により強い湿潤を伝えてきた。
「ひぅ……っ!」
一つ動かしただけでも過剰な反応が返ってくる。次第に湿り気はひどくなり、卑猥な水音をたてるまでになった。
貼り付いた下着を取り去るべく両手の戒めをほどく。
腰を浮かせるため左手を尻の下に入れると、ぐったりとしていたサユリの体が跳ねた。次いで自由になった手が力なく伸びてきたが、何の障害にもならない。
一度、太もものあたりでずり下ろすのを止め、両足をベッドと垂直になる感じに持ち上げた。一気にずり上げて取り去った下着はぽいと床へ放っておく。
遮蔽物がなくなったそこに再び触れる。
「ひっ……ぃあっ、や、っぁ」
何度か往復させて、ぬるりと奥へ侵入させた。
「ふあっ!」
自然、サユリが後退しようとする。手持ちぶさたにさせていた片手で細い腰を押さえ込んだ。
そうして指一本でもきつい中をわずかに前後させていると、諦めたのかサユリの手はぎゅっとシーツを握りしめていた。かたかたと震えるそれは、よほど力をこめているのか血の気のない白みを帯びている。
「……」
俺はあっさり指を引き抜いた。濡れた人差し指を舐めとって、上体を屈める。
「カタナ……? ぇ、な、やぁっ?!」
ぴちゃり、と舌先にさっきの味が広がった。予想以上に熱を持つそこを、自身の唾液を塗りたくるように舌で触れる。
「やだっ、カタ……、だめぇっ」
気がつくとシーツを握っていたはずの小さな手が自分の頭に触れている。どうも押し返そうとしているようだが、まるで力が入っていない。
こちらの被害といえば、手を突っ込まれた髪の毛がぼさぼさにされていることくらいだった。
頭皮に触れる指の感触ですら俺を昂ぶらせることに繋がっている。サユリのしていることは、妨害ではなく完全な促進でしかない。
舌先をすぼめて、液体の源泉を辿る。より内側へ触れるたびサユリはひくつくような声をあげてがくがくと震えた。
舐めきれなかった水分がシーツに染みを作っていく。
「ふあ、あっ、や……っぁ、ああ、っ――んくっ……!」
唐突にびくん、と一際大きく痙攣したかと思うと、サユリの全身から力が抜けていった。
荒い呼吸を繰り返して小刻みに震える姿はくすぶったままの嗜虐心を煽るのに十分で――俺は強く頭を振った。
「はぁ、は……っぁ」
落ち着くのを待つ間、俺はサユリの頭を撫で続けた。うっとりと目を閉じて、このまま眠ってしまうのではないかと思う。それならそれで――いいことだ。望ましくはないが。
「……カタナ」
サユリが目を開ける。そうして、小さく、口だけで何かを呟いた。わかった、と自分は視線で返した。
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