悩める青少年 6
長い長い口付けの後、ようやく離れた唇だが、未だ二人をつなぐ銀の一筋。
飲み込めなかったどちらのものかも判らない唾液で、キラの口端は濡れていた。
それと同じくらい潤んでいる紫闇の瞳。
こんなに熱いキスは何年ぶりだろうか?
みずみずしいさくらんぼのようなキラの唇に親指で触れる。
そして、その口の端についている唾液を拭ってやった。
俺のその行為で、我に返ったらしいキラの顔が真っ赤になるのがわかる。
そんな初々しい反応全てが愛しくて。
「あっ、ああっあのっ」
俯いたままキラが言う。
「ん?」
「せ、先生はっ、、あのっ何をしにきたんですかっ?」
たいした質問でもないのにどもってしまうキラをちょっとおかしく思いながら、
足元に落ちたままになっていたキラのカバンを拾い上げた。
「コレ、カバン届けに来たんだよ。」
「あ・・・」
「キラこそ、どこに出かけようとしてたんだ?」
「え?あ、あっぼ、っ僕は…」
ぐぅ…
「・・・。」
「!!!///!」
聞かなくても、キラが出かけようとしていた理由がわかってしまった。
「腹減ってるのか?買い物に行こうとしたんだろ?」
「・・・ハイ・・・」
キラのことだ、あの日以来一歩も外に出ていなかったんだろう。
食事も睡眠もろくに摂っていないんじゃないか?
その原因を作ったのは俺か、酷なことをしてしまったな…と反省し、
キラの頭を自分の胸に引き寄せ、もう一度抱きしめた。
細い体。ちょっと力を入れたら折れてしまいそうな。
もしかしてこの数日間で更に細くなってしまったのかもしれない。
「キラ。」
「はい?」
「ご飯、食べに行こう。」
「・・・はい。」
キラがこんなにも俺の言うことにすんなり返事をするなんて、よっぽど腹が減っていたんだな。
頬にキスをしてから、キラの手をとり、玄関を出る。
「キラ、ナニ食べたい?」
「…キュウリ以外なら…何でもいいです。」
食べられないものがキュウリ…
なんだかそんな好き嫌いでさえも全てが愛しい。
12も年の離れたコドモに俺はこんなにもイカレテル。
繋いだ手を強めたら、更にぎゅっと握りこまれた。
そんな些細なことも嬉しくて。
まるで10代のするような、恋愛を。俺はしている。
* * * *
イタリアンレストランを出て、僕は助手席に座り、一定のスピードで流れる景色をただ眺めていた。
この後どこかへ行く予定でもあるのだろうか?ふとそう思い、横目でフラガ先生を見た。
ハンドルを握るごつごつとした大人の男らしい指。
綺麗な青い瞳を持つ端正な横顔。
金色の髪が、窓から差し込む夏の太陽で、更にまぶしく感じられた。
「ナニ?俺の横顔に見惚れてくれてるの?」
フラガ先生の言葉にハタと我に返る。先生はクスリと笑って、また正面を向いた。
どうやら自分でも気づかぬうちにフラガ先生をジーっと見つめていたようだ。
「あっ、な、なんでもないですっ///」
僕は慌てて、窓の景色に視線を移す。赤くなっているだろう頬に窓から入り込む風が心地よかった。
「あ、あの。」
「ん?」
フラガ先生は目線は前に向けたまま、返事をした。
「い、今どこかに向かってるんですか?」
「ん〜、キラはどこに行きたい?」
一瞬だけちらりと先生がこちらを見る。
「え?べ、別に特に行きたい所は・・・」
「じゃ、帰りたい?」今度は少しもこちらを見ずに先生が問いかけてきた。
「かっ、帰りたいわけでも、なくって…」
特に行きたいところも無い。でも、まだ先生と一緒にいたかった。
フラガ先生といられるなら、どこだっていい。
「もう少しで着くから。」
そういわれて僕はほっとした。
よかった、まだ先生と一緒にいられる。
* * * *
しばらくして、先生は車を停めた。
そこは海の見える高台。周りには人っ子一人いないようだ。
「うわぁっ!」
僕は久々に見る海に興奮して、木の柵に駆け寄る。
潮風がとても心地よくて、少し身を乗り出して柵の下を見ると、
そこは崖になっていて、波の飛沫が上がってくる。吸い込まれそうだ。
「おいおい、はしゃぎすぎて落ちるなよ。」
後ろから声をかけられ、その方を見ると、そこには車に寄りかかり煙草をふかし始めたフラガ先生がいた。
!!!
カッコいい…
慌てて、再び海のほうへ向く。また頬が赤くなっちゃったじゃないか。
海を伝って、切り立った崖を上ってくるひんやりとした風で僕はまた頬を冷やすことにした。
「いい場所だろ?ココ。」
気づけば、フラガ先生が僕の横に来て、柵に肘を付いて言った。
「ハイ。」
「本当は海辺に行きたかったんだけどさ、今夏休みだろ?海水浴客でいっぱいだからな。」
僕は赤くなってしまう顔を見られたくなくて、海の向こうを見つめる。
水平線の、海と空の区別がつかなくなっている青色と、先生の瞳の色を重ねて。
「・・・こっち向けよ、キラ。」
僕がさっきから先生のほうをロクに見ないことに痺れを切らしたらしい。
まじめな声で言われ、僕は仕方なく先生のほうを向く。
先生の左手が僕の頬に掛かり、もう一方の手で腰を引き寄せられた。
「スキだよ、キラ。」
そういわれて、キスされた。
僕はこういうことに慣れていないから、ただ先生にされるがままになっている。
歯列を割って、先生の舌が僕のそれに絡み付いてきた。
「んっ」
僕もまた先生のしてくる通り、先生の舌に必死で絡みつく。
それをするだけが精一杯で、先生のシャツに夢中でしがみついた。
* * * *
「あっあの、今日はありがとうございました。」
もうすっかり夜になってしまっていて、僕はマンションまで先生に送ってもらった。
「礼なんかいらないさ、むしろ俺のほうが礼を言うべきかな?」
ハンドルに体をもたれさせて先生がつぶやく。
「え?どうしてですか?」
「…キラにいっぱいキスさせてもらったからv」
「あっ///」
ハズカシさでまた真っ赤になってしまった頬に、先生はキスをくれた。
バカ、もっと赤くなっちゃう。
「じゃまたな。」
「おやすみなさい。」
助手席から降りても、まだ何か言いたくて。こんなことを言うなんて自分でもおこがましいと思ったけど。
「あ、あの、明日また会えますか?」
自分の持つすべての勇気を振り絞って問う。
でも、拒否の言葉を真正面から受ける勇気は残ってないから、目を瞑った。
きっと大して時間は経ってないんだろうけど、先生からの返事が来るまで随分長く感じられた。
心臓が破裂しそうで。
なんて自惚れたことを言ってしまったんだろう。
こんな素敵な人が僕の為に時間を裂いてくれるなんて。
我慢できなくて、やっぱりいいです、と言おうとしたその時。
「明日は日直だから、帰りに寄ってもいいか?」
先生ともう一度おやすみなさいのキスをして、僕たちは別れた。
先生の車が見えなくなっても僕はずっとその走り去った方向を見つめていた。
嬉しくて今夜は眠れない。
*******************************************************************
あーラブラブです。
しかもまたしても裏無し。
でも次回はシチュエーション的にも裏にもって行きやすいからガンバロウ(?)
キュウリが嫌いなキラたん。
私は別に嫌いじゃないですけど、キラは好き嫌い多そうかなって思って。
つーか、キラの照れたところが可愛いんだよねー
って、もしかしてこの作中のムウさんは私かもしれない。
いや、でもムウさんにこうしてもらったら嬉しいなとかって思ったことをキラに置き換えてるので、
キラは私だし…ってヤバイなこれ。自分で自分を…(爆)
怖いのでココまでにしておきます、考えるのは。
お話は続く。
|