悩める青少年 7
「6時チョイ過ぎくらいに行くから。」
一日の一番最初に聞いた声がフラガ先生のだなんて、僕はもうどうにかなってしまいそうだ。
昨日はフラガ先生と食事に行ったり、海の見える丘に行ったりして、
サヨナラした後も僕はあまりの幸せに興奮して夜もロクに眠れなかった。
空がようやく白んできた頃、少しだけ眠気が来たけど、眠るというよりはまどろむといった感じで
僕はベッドに横たわっていた。どのくらいその状態でいたかはよくわからない。
そんな曖昧な意識の中を彷徨っている時、突然机に置いてある携帯電話が鳴った。
目覚まし時計代わりに使っているから鳴り止むまで待とうと思ったが、目覚ましのメロディとは違うことに気づき
急いで携帯を手に取った。
ディスプレイに映し出された文字は 『フラガ先生』
急に心臓がドキドキして、手が震えて上手くボタンが押せなかったけど、何とか電話に出た。
* * * *
「夕方の6時か…」
フラガ先生との電話を切って、時計を見た。
今は朝の8時。…あと10時間もある。けど、僕はもう嬉しくて嬉しくて。
わずかな眠気はもう欠片さえも立ち消え、じっとしていることさえ苦痛だ。
あと10時間もこのままだなんて、僕は興奮のあまり気が狂いそうになってる。
少しでも気を静めようと僕はベッドから立ち上がると、バスルームの扉を開けた。
早く過ぎて欲しいときほど、ゆっくり進む。時間と言うものは。
何もすることがなくて、僕はリビングのソファに寝転んだ。
さっきから何回見たのか判らない時計と、携帯電話の先生からの着信履歴。
ディスプレイに映し出される先生の名前を見るたびに、嬉しさがこみ上げてくる。
別に何度見たって、先生からまた電話が掛かってくるわけでもないのに。
それでも飽きることなく、何度も着信履歴の画面を呼び出し、僕は笑みがこぼれるのを防ぎきれないでいたとき、
手の中の携帯電話が震えた。
…メールだ。
『今何してる?』
フラガ先生からだった。
…何してるって…僕はずっと先生のことしか考えていない。でもそれを言うのは恥ずかしくて。
僕は嘘をついた。
『雑誌を読んでます。フラガ先生は?』
1分も経たずに返されるメール。そこには。
『俺はキラのこと考えてる。』
どうしてこの人は、こういうことを恥ずかしげもなく言ってしまうのだろう?
でもそんな自分の気持ちを包み隠さずいえるなんて、なかなか出来るもんじゃない。
僕も先生を見習おうと、勇気を出して返事を送った。
『僕も先生のこと考えてます。』
そしてさっきよりも更に早く来た返事。
『キラ、スキだよ。』
こんなメールの文字なのに、僕はもう気が狂いそうなほどに嬉しい。
僕もまた即返事を出す。
『僕も。』
今まで、目覚まし時計代わりとしてしか機能を果たしていなかった携帯電話が、こんなにも大切なものになるなんて。
面と向かってはなかなかいえないけど、メールでなら何でも言える気がしてきた。
本当はちゃんと口に出して言いたいけれど、まだ、それは恥ずかしいから。
でも、先生が僕を喜ばせてくれるように、僕も何か先生にしてあげたい。
「・・・そうだ、今日は先生のために夕飯を作ろう!」
僕はそう思い立ち、玄関を出た。
* * * *
近所のスーパーマーケット。
夏休みの真昼間に、僕みたいな学生がいるのはちょっと違和感がある場所。
オバさんばかりの店内にちょっと居心地の悪さを感じたけれども、これから先のことを思うと、そんなことはすぐにどうでもよくなった。
先生の好きなものは何だろう?
フラガ先生のことだからきっとたくさん食べるだろうなぁ。
あ、嫌いなものってあるんだろうか?なんでもバクバク食べそうだけど、意外に食べず嫌いなモノも結構アリそうかも。
なんて、考えながら僕は店内を歩き回る。
結局献立はカレーにした。なんだかありきたりだけど、コレなら食べられないってことはないだろうし。
カレーは僕の少ないレパートリーの中でも得意なものなんだ。
あとはサラダもつけて…デザートはどうしようかな?
果物もいいけど…何か作りたい。お菓子作りはスキなんだ。
高校生の男が、お菓子作りがスキダなんてとてもいえないけど。
今ならまだ時間があるから、ケーキでもパイでも何でも焼けるし。
買い物がこんなに楽しいだなんて、今まで知らなかった。
* * * *
「ふぅ〜重かった…」
家に着き、買ってきた具材を広げた。
もともとすっからかんの冷蔵庫だったから、かなり大量に買い込んでしまった。
帰宅途中で買ったコーラを、一気飲みする。炎天下の中、こんな重いものを運んだから喉がカラカラだった。
乾いた喉を、コーラの炭酸が刺激する。
僕は昼食を摂るのも忘れ、すぐに夕飯作りに取り掛かった。
デザートはパンプキンパイに決め、そのパイ生地作りから始めた。
今日はいつもより、多めに小麦粉をふるっておこう。
バターの混ぜ方にも気を配ろう。本当は温度が高いとパイ生地作りには向いていないんだけどね。
生地を休めている間にカレーを作る。
玉ねぎをいつもより長く炒めよう。いつもは玉ねぎあめ色になる前に嫌になってしまっていたけど、
今日は頑張って作るんだ。今から煮込めば、きっと美味しいカレーが出来る。
パイは熱々を食べてもらいたいからまだ焼くには早く、一通り準備が整ってしまうと、
僕はまたリビングのソファに寝転びんで、携帯をいじる。
さっきのメールの告白のところを何度も何度も読み返した。
無機質なデジタル文字なのに、見つめているだけでまるで直に囁かれているような気になる。
早く先生に会いたい。ただただそう思うだけだった。
* * * *
『ピンポーン…ピンポーン』
っ!!!!
玄関のチャイムで僕は目を覚ました。
どうやらあのままソファで眠っちゃったみたい。
時計を見ると6時15分を少し過ぎたところだった。
あ!フラガ先生っ!
僕は急いで玄関に走る。途中廊下で滑りそうになったけど、なんとか持ちこたえた。
玄関の扉を開けると、そこには僕がずっと待っていた、フラガ先生がいた。
「あ、…」
なんて出迎えの言葉を言ったらいいのかわからなくて…
そしたら先生が微笑んでいった。
「ただいま、キラ」
「・・・お、おかえりな・さい・・・フラガ先生」
なんだか順番が逆だし、まるで夫婦みたいな…///
自分で思って恥ずかしくなってしまった。
「あ、先生、は、入って、くださいっ」
あんなに会いたかった先生なのに、今は顔を見るのも恥ずかしくて、僕はそれだけを言うとキッチンに向かった。
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あースミマセン、またしてもウラ要素まで到達できませんでした(-_-;)
予定ではバリバリ入る予定だったんだけど…なんか買い物シーンとか入れてるうちに長くなって。
次こそはー☆皆様の怒りを静めることが出来るやつを!
続く。
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