悩める青少年 5
夏休みに入ってしまった。
結局キラはあの日以来学校に来ることは無かった。
キラは、家庭の事情で現在一人暮らしをしている。
親御さんは遠くにいるらしく、こちらから簡単に連絡を取ることも出来ない。
しかし連絡を取れたからと言って、キラが学校に来なくなった原因を親御さんに話せるわけも無く。
かえって、キラが親御さんと離れて暮らしていることは好都合なのかもしれない。
とにかく、ずっとこのままほっとくわけにもいかないだろう。
フラガはそう自分自身に整理をつけると、職員室を出た。
右手には、キラのカバンを持って。
行く先は…キラのマンション。
* * * * *
「・・・カラだ。」
それはキラの家の冷蔵庫の中。
あの出来事があってから、キラは一歩も外へは出ていない。
そんなによく食べるほうでもないが、一人暮らしの冷蔵庫の中がそんなに充実しているわけも無く。
流石にそろそろ食料を調達しなければならない。
憂鬱な気分に反して外は太陽がまぶしく照り付けていて、外出するのは億劫だったが、
キラは買い物に行くことにした。
「えーっとお財布・・・あ!」
財布、それはいつもカバンの中に入れてある。
そしてそのカバンは、あの日以来学校に置きっぱなしのままだ。
学校に取りに行こうかとも考えたが、学校に行けばフラガ先生に会ってしまうかもしれない。
今フラガ先生に会ったら、どういう顔をしていいのか分からない。
そうだ。…まだ口座にお金が残ってるはずだ。
買い物に行く前に銀行に寄ろう。
そう思い立ち、キラはキャッシュカードをポケットに入れ、玄関をでた。
「キラ。」
!!!
玄関に鍵をかけようとした時、後ろから名前を呼ばれた。
そのほうを向かなくても、誰から呼ばれたのかは分かる。
・・・フ・ラガ先生・・・
「キラ。」
何日ぶりかに聞く、フラガ先生の声。
名前を呼ばれた嬉しさと、あの出来事を思い返してしまう戸惑いとで、僕は後ろを振り向けなかった。
溢れてきた涙でぼやけてよく見えないけど、フラガ先生と顔を向き合わせるのが怖くて、
僕は、家に逃げ込む。
「っ!」
しかし、扉の隙間から先生の体が入り込んできて。
当然、先生の力に僕がかなうはずが無い。
先生が僕を逃がすまいと、後ろから僕を抱きしめた。
と、同時に僕の足元に何かが落ちる…あ、僕のカバン。
「っおねがっ、離してっ!」
「ダメだ。離したらオマエ、また逃げるだろう?」
僕がいくら嫌だといっても、先生は腕を緩めてはくれなかった。
「・・・俺のこと嫌いか?」
「っ!!」
ズルイ。こんな状況でそんな風に言われて、嫌いなんて言える訳無いじゃないか。
「俺はキラが好きだけどな。教師と生徒って意味じゃなくて。」
「///!!!」
突然の告白に、僕は思わず、先生のほうを向いた。
フラガ先生のブルーアイズが僕に微笑みかける。
今は、先生の青い瞳に吸い込まれてしまってもいいだろうか?
先生の逞しい体にすがり付いてもいいだろうか?
とめどなく流れる涙で、もう先生の顔をはっきり見ることは出来なかったけど、
先生の優しさは充分に伝わってきて、僕は先生の腕をつかむ手に力を込める。
「・・・OKの返事と思っていいのかな?」
フラガ先生が、腕を少しだけ緩めて、僕を自分と向き合うようにした。
フラガ先生の金色の髪が揺れ、それがまぶしくて。
僕は先生の胸に顔をうずめた。
先生が僕の髪から耳へとキスをしながら言った。
「キラは俺のコト好き?」
「・・・」
「なぁ、好きって言ってよ。俺のコト好き?」
恥ずかしくて、どうしても口にすることが出来ない。
僕はかろうじて首を立てに振ることだけは出来た。
「キラ。」
フラガ先生の手が僕の顎に掛かり、無理矢理顔を上げさせる。
顔から火が吹き出そうなほど恥ずかしかったけど、先生の青い瞳を見たら、もう目が離せなくなった。
「キラ。」
フラガ先生はもう一度僕の名を呼ぶと、僕に口付けてきた。
最初は触れるだけの優しいキス。
僕の涙でちょっぴりしょっぱくて、二人の唾液で、しょっぱさが中和されてきた頃には、
僕は、もう蕩けるような、それでいて激しい先生のキスに応えるのが精一杯で。
それは甘い甘いキャンディーのようなキス。
例えるなら、僕らのキスはまるで金平糖のようだ。
一度目のキスは、お互いの気持ちを確認しあってないから、トゲトゲしていたけど、
それが時間が経つにつれ、トゲトゲが丸くなってきて、甘い、そして懐かしい味になる。
一度味わったら病み付きになってしまうような。
そんなキスに僕たちはしばらく夢中になっていた。
外では、蝉がうるさく鳴いていることも忘れて。
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あーやっとくっ付いてくれました。
長かった…って長く引っ張ってるのは私ですが。
しかも裏要素ナシ。いい加減にしろって声が聞こえます。
でも、くっ付いてくれたから、これでもう好きなように出来る、と。
やっぱさ、こういうことはお互い同意の下でナイとね☆
…言い訳です。
続く。
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