習慣格差 前編
「…で、今日は何でしょうか?」 柳生は電話越しにいる人物に問いかけた。 「なん、バリ冷たかね〜柳生は。何も用事なくても電話位しても良かろーもん」 「困ります。…と言うか先程まで部活で一緒だったじゃないですか」 最近、部活が終わった後も電話がかかってきたり、メールが受信されたりしている。 そのほとんどが内容のないもので、何となくだとか声が聞きたかっただとか… 理解し難い事ばかりを仁王くんは理由として述べてくる。 まるで、恋人に甘えているような…そんな感じであろうか? 「あ、柳生!今好物のところ天の特集がありよるよ〜」 仁王くんは、私の都合などお構いなしに会話を続ける。 心の中ではいい加減にしたまえと思っている己もいるが、可愛いなと思ってしまう自分自身もいた。 「やぎゅ〜俺の話ば聞きよると?」 「はい?ところ天がどうかしたんですか?」 「だけん、あっとるって云いよるやろが!」 「…あっている?」 「そうたい、あっとると。早くつけんと終わるけんさっさとし!」 「つける?あっている?云っている意味がさっぱり理解出来ないのですが…」 そう柳生が云うと、仁王は黙り込んでため息をついていた。 電話越しからでも解る、とても深いため息であった。 「俺が最近意味もなか電話とかメールするけん、その仕打ちばしよるつもりね…」 仁王は少し声を低くした。 「そんな事はありませんよ!ただ、本当に意味が解らないだけで…」 そうだ、と云って電話を切ってしまえば良かったのではないか。 そうすれば、もう二度と意味のない電話もメールもしてこなかっただろうに。 なのに、私は否定をしてしまった。 「あ、もう終わっとるやん特集。柳生が好いてそう思ったけん本人の目で確認して欲しかったっちゃけどねー」 この内容のない電話がかかってくる事を、実は楽しみにしているという事なのか? 何しよると?という一行メールでも返信したいと思っているという事なのだろうか? 「…でも、番組で売っとる所放送されとったけん、今度場所教えちゃる」 「…番組…放送…あぁ、そういう意味だったんですね!」 柳生は一つの謎が解けたのが嬉しくて、つい声をあげてしまった。 「…柳生、どーかしたと?」 普段、大きな声などめったに出さない柳生に仁王は驚きが隠せなかった。 「あっているというのは、放送されているの意味なのですね」 いつもの淡々とした口調で柳生が云うと、仁王が今度は声をあげた。 「…あっとるって方言やったっちゃね…知らんかった…」 いつもの強めの口調が少し和らいでいる。多分、照れているのだろうなと柳生は感じていた。 「それなら今度、私をそこへ連れて行って下さいね?」 仁王は混乱した。 その様な答えがまさか柳生の口から、出るとは思っていなかったからだ。 嬉しい気持ちを柳生に悟られない様、仁王はいつが良かかね〜と話を続けた。 「…これって、世間で云われているデートというのに当てはまるのでしょうかね?」 平然を装うとしたが、柳生の天然発言が召喚された事でそれは無に還った。 暫く仁王は口を開くことが出来ず、柳生に不思議がられた。 そんな、まだ私たちが中学1年生の時の話。 習慣格差 後編→