abnormal affection
「…けーいーご〜っ！」 神尾が景吾に駆け寄って来た。 「テメェ、教会内は走るなっていつも云ってんだろうが！」 景吾は神尾の頬をつねった。 「…痛ェよ景吾！本気で抓るんじゃねーよ!!」 神尾が景吾の手を振り払った。 「…で、何なんだ神尾？」 景吾が神尾に尋ねた。 「…けーごさ…引っ越すって本当なのかよ…？」 何時も笑顔の神尾の表情からは笑顔が伺えない。 「…あぁ…家庭の事情って奴だ…仕方無ェんだよ」 景吾は苦笑しつつ答えた。 「…景吾いなくなったら…俺…淋しい…男CS一人なんだぜ…」 「何言ってやがる、俺様がいなくなったら男CS一人、両手に花じゃね〜か〜いつもテメェが望んでた事だろ？」 景吾は神尾の頭をくしゃくしゃっと撫でた。 「…そんな事冗談に決まってるだろ！景吾が引っ越すって聞いて、杏ちゃんに他の女の子達も偉い凹んでるだぞ〜」 神尾は頭の上に乗っている景吾の手を握り締めた。 「…杏ちゃんが？何で俺が引っ越すんで凹んでんだ？俺の事、いつも嫌がってたじゃねーか」 景吾は神尾を不思議そうな表情で見つめた。 「…それは……本人から聞きやがれッ！…鈍感…バカ野郎…」 神尾はぽつりと小さな声で呟いた。 「…お前もな……」 そして景吾も小さな声でぽつりと呟いた。 「…ん？景吾、何か今云ったか？」 神尾が景吾を真っすぐに見つめる。 「…あー…何も言ってねーよ!!バーカ！」 景吾はまた神尾の頬をつねった。 「…だーかーらー…止めろって言ってるだろぉ〜！」 神尾は頬をつねる景吾をバシッと叩いた。 「…何だ相変わらず冗談効かねぇなぁ〜テメェは……」 景吾は口元をくいっと上げてニヤリと微笑んだ。 「…煩い…そんなの人の勝手だろ…」 神尾は景吾から視線を反らした。 「…そんな冗談はさておいて…何時引っ越しなんだよ……」 神尾は下を俯いて言った。 「…明日だ。だから、今日で皆ともお別れって事だなぁ〜」 「…そんな…急すぎるじゃねーかッ！何で前から教えてくれなかったんだよ……」 神尾の瞳が潤む。 「…俺だって前から知ってたら云ってやるさ。でも、子どもにはどうしようも出来ねー事もあるんだよ…それ位バカなテメェでも解るだろーが」 景吾は神尾の肩を軽く叩いた。 「…そんなの、俺バカだから解んねーよッ！俺は…俺は……」 神尾の瞳から涙が溢れる。 「…泣くんじゃねーよ。テメェだって男じゃねーのか？」 景吾は神尾の背中をバシッと叩いた。 「…ったぁ〜！何すんだよッ!!」 神尾が頬を膨らませた。 「…最後位、何時もみたく笑ったお前の顔が観てぇんだよ……」 何時も憎まれ口を叩く景吾。 しかし今日位は正直にならないと後悔するのが確信出来る。 「…オイ、笑えって言ってるだろうが！」 景吾が神尾の頬を両端に引き伸ばした。 「…解ったよ！景吾の為に笑って見送ってやろーじゃんかッ！」 力一杯強がる神尾。 気を緩めれば再び涙は溢れてくる。 「…じゃあ…俺…もう行くな……」 景吾が神尾から一歩離れる。 「…元気でやれよ〜！景吾っ!!」 顔が引きつりつつも精一杯笑顔で見送る神尾。 「……」 景吾の後ろ姿が次第に小さくなる。 それを無言で神尾は見つめた。 途端、景吾がこっちに振り向いた。 「…忘れるんじゃねーぞッ！アノ約束!!」 そして神尾は涙を堪えて声を張り上げていった。 「…俺の記憶力は天下一品だぜッ！景吾も忘れるんじゃねーぞ!!」 ■ ■ ■ あれから約10年以上の月日が流れた。 アノ約束を守っていればあの景吾も今頃… 「今…何してんだろ…？」 あれから約10年以上の月日が流れた。 神尾はアノ約束を守っていた。そして、勿論俺も。 「…何処から話せば良いんだろう…な…？」 気持ちがスレ違う。一体何時、気づいてくれるんだろうか？ そろそろ、アレが届く日が近付いてきたと云うのに。 ■ ■ ■ 「…はぁ〜今日も冷えるなぁ〜」 神尾はそう言いながら郵便ポストを開いた。 「…ん？何だ…親父から手紙がきてるじゃんか…」 神尾は教会に歩きながら戻りつつ手紙を開けた。 アキラへ 最近お前が小さな頃教会学校で何十年後の自分宛てに書いた葉書が届いていたから送る。 父より 「…葉書かぁ〜そんなのも書いたってけなぁ……」 神尾はその例の葉書を表から裏に返した。 「…ちょっ…コレ……!?」 神尾はその文面を見て驚きが隠せなかった。 神尾へ これが届く2000年のクリスマスにこの教会で待ち合わせだからな！ お互い神父になってる事を祈りつつ…… 景吾 「…そうだ……お互いに葉書交換して俺は景吾の葉書に同じ事書いたんだ…」 その時の記憶が走馬灯の様に甦る。 『…忘れるんじゃねーぞッ！アノ約束!!』 景吾の言葉がこだまする。 「…行かなきゃ…絶対行かきゃいけねぇ……」 神尾は何度もそう呟いた。 …これで蹴が付けられる。心から跡部が好き！大好きだ！って言える様になる。 後、 深司にもはっきり…言わなきゃ…な。 next