abnormal affection
「……」 神尾は無言で下を俯いていた。 「…アキラ、気持ちは解るけど……」 「…解ってるって!…でも……」 古びた教会の扉の前で男二人が横並びで立っていた。 何だかんだ言っても、やっぱ仕事はしなきゃいけない…しかし本音言えば、ココなんかに連れて帰りたくなかった。 でも、それじゃあ今後のアキラの為にならない。俺はアキラには立派な神父になって欲しいし。 だから今、挫折してしまいそうなアキラを俺は支えたい。 「…ほら…行くよ!」 そして重々しい雰囲気の中、古びた教会の扉は開かれた…。 「……」 神尾は十字架の前に立っている跡部を無言で凝視した。 そして神尾は跡部の隣をわざと目を合わさず通り過ぎ、奥の部屋にへと入って行ってしまった。 「…何なんだ、アイツ……」 跡部はそうぽつりと呟いて、扉の前に深司が立っているのに気がついた。 「…何だテメェか〜不動峰教会の新米伝道師、伊武かよ…」 跡部がそう言うと深司は一瞬驚いた表情を見せたが、即座に冷静に戻りこう言い放った。 「…跡部神父は…全てお見通し…って事か……それなら話は早いね……」 深司は跡部が立っている十字架の前に向けて歩きだし、跡部の目の前に立って睨み付けた。 「…アキラを…いーかげんなアンタなんかに渡さないから…」 深司は跡部の瞳から視線を反らさず力強く言った。 「…一回ヤッたらもう自分のモンだ…って訳なのかよ、アーン?」 跡部は鼻先で微笑しつつ言った。 「…煩いな…お前何かに、俺の気持ちが解る訳ないんだよ……」 深司はブツブツと呟き出した。 「ブツブツ呟いてても何云ってるか解んねーんだよなぁ〜新米伝道師伊武深司君よぉ〜」 「…そのふざけた呼び方…やめろよな…むかつくんだよ…」 「あーそうかい、解ったよ。でもなぁ〜肝心な事忘れてるぜお前…神尾の気持ちはどーなるんだ?」 「…ったく…口が悪い癖に痛い所…ついてくるんじゃねーよ……」 深司は下を俯いた。 「…俺等がどうこう言う問題じゃない…神尾が決める事なんだぜ……」 跡部は深司の顎を手でクイッと上げて、視線を反らす事なく力強く言った。 「…でもなぁ……」 そう跡部が言うと深司は跡部の手を振り払い、跡部の瞳を真っすぐに見つめた。 「人の気持ちは変化し易いしな。結局は、惚れた奴がどういう行動とるかで決まる。それなりの行動とらして貰うぜ…」 そして跡部も、深司の瞳を真っすぐに見つめた。 「…望む所だよ…跡部神父……」 ■ ■ ■ 「アキラ先生〜早く早く〜!!」 今日は第一礼拝終了後教会学校基いCSの子ども達と公園に遊びに来ている。 「先生も一緒に遊ぼうよ〜!」 子ども達が俺に笑顔で言い寄って来る。 「あ〜先生は此処に座って観てるから、自由に遊んでおいで!」 走り回る子ども達。そんな元気な子ども達を観ていて深い溜息をついた。 「…俺も…あんな時があったなぁ〜」 神尾は芝生の上にゴロンと横になった。 今日は雲一つない快晴。そんな澄み切った青い蒼い空を見つめつつ神尾は自分のCS時代の事を思い返していた。 『アキラく〜ん』 一人の女の子が泣きながら走って来た。 『何、杏ちゃんどーしたの!?』 『杏の人形が取られたぁ〜』 女の子の指差す先には人形を振り回す男の子の姿。 『…またか……』 そう呟いてその男の子の方に向かった。 『…女の子泣かすなんて最低だぜ…』 『何だその眼は…新しい人形買って貰ったって見せびらかす杏の野郎がいけねーんだ…煩いんだよ!』 『な、そんな事で泣かしたのかテメェ!?早く杏ちゃんに謝れよ!!景吾!』 「…けい…ご!?」 神尾は勢い良く起き上がり、頭の中で浮かんでいる景吾という少年の事を思い返した。 「跡部と…あの景吾は…同一人物…?」 頭の中の記憶を端から端まで辿っていく。 「……あっ!!」 不意に神尾は声をあげた。 「…名字が…違う……あの景吾は諏訪だった…神父の景吾は跡部だ……」 神尾はすぅ〜っと息を吸い込んで又芝生に寝っ転がった。 「何だ…人違いか……でも…なぁ……」 じゃあ…何で跡部を観ると懐かしい気分になるんだ?あの景吾じゃないのに。 何時もCSの女の子をイジメてたあの景吾じゃないのに。そんなでも結構優しかったりするあの景吾じゃないのに…… 「…跡部……」 そう呟く神尾。そこに、 「…どーしたの先生〜?眉間にシワが寄ってるよ…」 心配そうな表情で神尾の顔を覗き込む少女。 「あ…否、何でもないよ!ほら〜そんな顔しないで…スマイルスマイル!!」 笑顔を造る神尾。その表情を観て少女はこう言った。 「やっぱアキラ先生は笑った顔が良いよ!…スマイルスマイル!!でしょ?」 お互いに笑い合う…そんな昼下がり。 そして、時は過ぎて時刻はすでに夕方の六時。青い蒼い空は何時しか赤い紅い空にへと変化を遂げていた。 「…帰るか……教会に………」 足取りが重い。 色々な事が突然起こり過ぎて頭の中で巧く整理が出来ない。 「…どうすれば…良いんだよ……」 深司からの告白。 そして、 跡部からの拒絶。 俺の気持ちは…一体何処に…ある? 「はぁ……」 神尾は深い溜息をついて目線を上げたその目の前には、教会がそびえ建っていた。 郵便ポストを何時もの週間で開いてみると自分宛の葉書を発見した。 「…珍しいなぁ〜大体教会には跡部宛にしかこないんだけどなぁ……あっ!!」 そう不思議に思いつつ差出人を観て神尾は思わず声をあげた。 手紙は遥々ローマからのモノ。忍足さんからだった。 葉書の裏は写真になっていて、忍足と忍足の言っていた岳人と言う人物が満面の笑みでマリア様の前で抱き合って写っていた。 「何だよ…見せつけかよ……」 そう神尾は呟きつつ写真の左端に何か書いてあるのに気付いた。 “最愛の人は自分で見付けるモンや。俺は神尾君が最愛の人を見付けられる事をローマから岳人と一緒に見守ってるで!!” 「忍足さん……」 俺はその葉書を握り締めた。 気付いてるんだろ? 自分で自分に嘘ついてる事に… 正直になれよ…自分。 俺の最愛の人は…たった1人── next 【用語説明】CS→教会学校の事で、Church Schoolの略。詳しく知りたい方は、教会学校 CSで検索すると良いかと思われます。