Part4 保護活動編

 連日届く怪盗からの予告状。ただですら無駄な動きが多いものを、こうも立て続けにショーが開催されると、連日連夜舞台に上げられ振り回される警察という名の道化達にも疲労が溜まる。そうして正義という名の光を翳す動きは鈍くなり…
 闇に紛れて黒い影が蠢き出す。


 影を誘い出すことこそが、闇の内を鮮やかに翔け抜けるかの鳥の望みであることは、コナンとして対峙していたあの頃から知っている。そのために、彼が幾度となく傷を負っていたことも……それでも、敵すらも血を流させたくないと望む、傲慢なまでの優しい願いも。
 身の程をわきまえず、危険に気づきもせずに乱入してくる愚かな警官が巻き込まれるだけでも深く深く傷ついて、それでも己の罪故にと、涙を流すことすらせずに嘆くあの鳥を知っていて、どうして放っておけるのというのか。自分はただ待ちつづける以外、何も出来ない無力な存在ではないというのに。それでも己の罪に巻き込むことなど許されないと拒絶するのなら、例えあいつの意思を無視してでも。
 もう二度と、目の前でむざむざとあいつが傷つくのを見逃すつもりはない。まして自分の知らないところで失わせることなど、絶対に、許さない。
 それだけが、名探偵でもなんでもない、ただの『工藤新一』の名に賭けた、絶対の誓い。


 互いの舞台が終わった後で白い鳥を捕まえ、無理やり羽の色を変えさせてこの腕の中に閉じ込めて。他の誰の前でも被った仮面を外しきろうとしないあいつと、久しぶりに二人きりで過ごせた時間。少しはあいつにとっても休息になっていただろうか。
 幾ら怪盗として培ってきた精神力が強靭でも、素の自分に戻ることもなく連日神経を張り詰めてのショーを繰り返すことは、確実にあいつの体力も気力も削っていく。怒ったのは、それでも暫し休むことすら己に許そうとしないから。自分が近づくのにも気づかず、触れられただけですっかり力を抜いてしまうくらい疲れきっていた癖に。
 二年連続で誕生日をすっぽかされたことなど、あいつが飛ぶのに飽いて、羽を畳める日を近づけるためならどうでもいい。お祭り好き・記念日好きの快斗にとっては大事にしたかったのかも知れないが、自分にとっての誕生日など、昔から望みもしないものを押し付けられるだけの面倒な日に過ぎなくて。

(いつか、あいつになら、祝ってもらいてーな…)
 恋人よりもなすべき事をを優先してしまった自分自身への苛立ちと、意に反して閉じ込められたことに拗ねた快斗の目を盗んで隣家の共犯者に足止めとあいつを休ませるように頼み、緊張の糸が切れたことで感情が表に出切って非常に可愛かった恋人の様子に後ろ髪を引かれまくりながら出て来た打ち合わせの最中、ふと脳裏を過ぎったらしからぬ思考に、感情の乾ききっていた自分がそんな未来を望める幸せを、たった一羽の愛すべき鳥に感謝する。


「以上、全員配置につくように。工藤君はどうするのかね?」
「僕は僕なりに動かせて頂いてよろしいでしょうか。助言は無線の方でしますので」
「判った。頼んだよ」
 慌しい会議を終え、捜査一課の面々はKIDの現場を囲むように設定された持ち場に散っていく。それを見送って自分も足早に歩き出しながら、新一は会議中も外さなかったインカムを口元に引き寄せた。
「聞こえてましたよね。できる限りの『密猟者』はこちらで狩りだしますが、今日の舞台は条件が悪すぎます。……よろしく、お願いします」
 表面だけでも不本意さを表さないよう、剥がれ掛ける猫を宥めて殊更丁寧に言葉を紡ぐのは、相手に対するささやかな嫌味。性能の良すぎる隣家の研究者印のインカムは、相手がこちらの本意をしっかり受け取ったことを表す笑い声を明瞭に伝えてきやがる。人も物も高性能すぎるのは問題なこともあるな。
「えぇ、二課の方は確かに引き受けました。工藤君の方もお気をつけて」
 宣戦布告している恋敵相手に、嫌味でなく心配しやがる性格そのものが嫌味で気に食わない。それでも予測の難しい怪盗に翻弄される現場で、白い鳥とそれを追う二課の有象無象を同時に鬱陶しい連中から守れるだけの実力があるのは、この気障ヤローくらいで。小さな姿に閉じ込められたあの頃よりは広げることの出来るこの腕でも、守りきれるものには限界があるから。
 あいつを失わないためなら、誰より近づけたくない相手に借りを作るくらい構わない。我ながら無駄に高いと思うプライドは痛みを訴えかけてるが、そんなのは無視だ。他の何を捨て去ってでも護りたいものはたった一つ。あいつの笑顔だけ。そのためだけに、俺は、俺の舞台に上がる。


 白い鳥に歓声を上げる大衆の目から離れ、賑やかに鳥を追う赤く点滅するライトも届かぬ暗闇に、闇に紛れた黒い影が入り乱れる。
 ドサ、と鈍い音を立てて最後の相手が崩れ落ちるのを見届け、新一は銃口を降ろした。路地に差し込む僅かなネオンの光に重厚な金属の反射を見せるそれは、しかし硝煙の臭いを撒き散らすことはなかった。隣家の天才二人の共同制作によるそれは、本物の拳銃そっくりの麻酔銃。威嚇の役目を果たすのに十分な迫力と本物の銃弾以上に確実に相手の戦闘能力を奪う性能は、自分の安全を確保すると共に敵も傷つけない、という至上の目的のためだけに磨き上げられたもの。
(これで貫通力と射程がどうにかなれば文句なしなんだがなー)
 おかげで先に敵の気配を察知し、気づかれないよう接近する技能は連日磨かれ続けている。流石にあいつが疲れてなければKIDの背後は取れないが。まぁ、探偵としての仕事にも役立つスキルなので問題ないだろうとあっさり結論づけ、続けざまにインカムで一課に指示を飛ばす。
「目黒警部、後は森亜ビル南に5名。確保お願いします」
 おまけに足元に転がる連中の回収も頼んだ所で、時間通り、自分が一課を動かすのと同じように二課を使って網を張りめぐらす白馬からの無線が飛び込んで来た。
「22時17分43秒。ショーは5分15秒遅れで終了しました。鳥はA-6通過。C-7待機点までは確保済みです」
「了解。D-5付近確認を。E-6からは引き継ぎます」
「判りました」
 互いに上げたポイントに反論がないことが、それぞれが推理した怪盗の移動ルートが同じものであることの証明。ならば後はルート上の危険を排除するのみ。最小の言葉のみで必要十分な意思疎通ができる相手っつーのは希少なんだが…ことこの件に関してだけは、気が合いすぎることが気にいらねぇ。
 でなきゃいいダチになれたかもしんねーんだけどな。
 ちらっと過ぎった思いには気づかなかったことにして、最終ステージに向けて走り出す。フィナーレまで後少し。まだ裏方がなすべきことは終っていないのだから。


 白い鳥が一人っきりで飛ばなくなるまで、黒い鳥が自然に巣で寛げる日が訪れるまで。
 それまで周囲にとって災厄の愛鳥週間は続くようである。

(END)


2004/05/21
あとがき
これが初書きのコナン小説でした。
XX年ぶりにまともに完結させた小説でもあります。勢いって恐ろしいものです。
声だけ登場の白馬くんは某先輩に捧げますv

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