『黒い城』
「・・・っ・・」
頭をさすりながら立ち上がるテツ。
どうやら、幸運にも崖から落ちたものの助かったようです。
いつの間にか雨が降ってきていて、テツはびしょ濡れになっていました。
とりあえず、雨宿りが出来る場所を探そうと辺りを見回すと、
お城が見えました。
テツは、体を引きずりながらそのお城へ歩きだしました。
「はぁ・・はぁっ、・・やっと着いた・・・」
お城に着いたテツは驚きました。
さっきは遠くてよく分からなかったのですが、
近くで見てみると、お城の色が真っ黒だったのです。
普通、お城の色は白いはず。
テツは、不気味に思いましたが、
今はこのお城しか泊まれるような場所はなかったので、
仕様がなく、お城の扉をノックしました。
でも、何回ノックしても応答はありません。
「・・・居ないんかな?」
痺れを切らしたテツは、扉が開くかためしてみました。
---ギィィィィ
「あっ、開いた・・・入ってもええよな?」
テツは外に居てもどうしようもないと思い、
意を決して、中に入りました。
お城の中は、真っ暗で外見より不気味でした。
人の居る気配はありません。
「おじゃまします・・・・・誰も居ないんかな・・?」
テツがキョロキョロ辺りを見回していると、奥の方に光があるのに気が付きました。
光るのある方にテツは進んでいきました。
「ろうそくや、助かるわ。火があるって事は誰か居るんかな?」
光はロウソクに点いていた火でした。
お城は真っ暗だったので、テツはロウソクを持つと、
火の光で辺りを照らしながら進むことにしました。
「ハロー」
すると、誰も居ないはずなのに声が聞こえてきました。
「だ、誰や?!」
テツは驚いて自分の周囲を照らします。
しかし、やっぱりそこには誰も居ません。
「どこに居るんや?!」
「ここですよ。ここ」
声のする方に振り向きました、けど、やっぱり誰も居ません。
「どこやっ!!隠れてないで出て来いやっ!」
テツがそう叫ぶとまた声が聞こえて来ました。
「誰も隠れてなんて居ませんよ」
テツはまた、声のする方を振り向きます。
けれど、やっぱり誰も居ません。
今度は耳元で声が聞こえてきました。
「ここですよ。あなた、今、私を手で持ってるでしょ?」
テツはすぐに手を見ました。
しかし、自分が持ってるのは、どこからどう見ても普通のロウソク。
しばらく、そのロウソクを見つめていました。
「ハロー」
すると、そのロウソクから声が聞こえてきました。
テツは驚いて持っていたロウソクを投げてしまいました。
「いたたた・・」
ロウソクはそう言うと、自分で起き上がりテツに向かって歩いてきました。
「う、うわぁ〜!!!」
テツは、逃げようとしましたが、恐怖のあまり腰を抜かしてしまい、
逃げる事ができません。
そうこうしている内に、ロウソクがテツのそばまでやって来ました。
「まぁ、まぁ。そんなに怖がらないで。決して怪しい者ではないので」
「何言うてんねん!!ロウソクが喋るなんてありえへんやろ!」
テツにそう言われて黙り込むロウソク。
実は、自分達が魔法にかけられたという事を外部の人に知られたら、
一生魔法が解けなくなってしまうのです。
困っているロウソクに見かねて、どこからか、時計がやって来ました。
「と、時計も歩いてる・・どうなってんのや?!」
テツがパニックになってると、時計はため息をつくと、ぼやきました。
「はぁっ、だから話しかけるなっていったのに。全く」
「だって、ここに人が来るなんて珍しいじゃないか」
目の前でロウソクと時計の喧嘩が始まりました。
それを見ていたテツは慣れてきたのか、
ロウソクと時計が話しているのが変な事だとは思わなくなってきました。
とにかく、テツは狼に追われるわ、崖から落ちるわで、体はボロボロ。
早く休みたい気持ちで一杯でした。
そこで、テツは目の前で喧嘩してる二人に、
今日泊めてもらえるかどうか聞いてみる事にしました。
「ねぇ、取り込み中のトコ悪いんやけど、今晩泊めてくれへん?」
そう言うと、ロウソクが喧嘩を止め、テツの方を振り向きました。
「本当ですか?!ええ、いいですとも!」
ロウソクが嬉しそうにそう言うので、
テツはちょっといい気分になりました。
「ほんま?有難うっ!助かるわ〜」
「ささっ、こちらへどうぞ」
そう言うと、ロウソクは案内しようとしました。
しかし、時計がそれを止めます。
「オイッ!!それは駄目だ!!」
そう言うとロウソクの前に立ちはだかりました。
「うるさいなぁ。お前は黙ってな」
そう言って、ロウソクは時計を軽く突き飛ばすと、
テツを奥へ案内しました。
「申し遅れましたが、私はルミエールと申します。あんな時計オバケなんて無視して下さいな」
そう言うと、どんどん奥に進んで行きました。
「もうっ!!勝手にしろ!王様に見つかってもしらないからな!!」
時計はそう言うと、反対方向に行ってしまいました。
「どうぞこちらへ」
テツは大きな暖炉のある部屋でした。
テツは暖炉の前にある大きな椅子に座りました。
「今、お泊りになるお部屋の準備をしてますので、しばらくお待ち下さい」
ルミエールはそう言うと、どこかに行ってしまいました。
テツが暖炉で温まっていると、カチャカチャと音が聞こえました。
音の方を見てみると、ティーポットとティーカップがこちらの方に歩いて来ていました。
「さぁ、外は寒かったでしょぉ。これでも飲んで温まって」
そう言うと、ティーカップに紅茶を入れました。
テツが紅茶を飲もうとしたら、ティーカップが喋りました。
「僕のママの紅茶は美味しいんだよ」
テツはもう何が喋っても驚きません。
「そうなんや。んじゃ、いただきますっ」
---ゴクッ
一口飲んだテツにティーカップがたずねます。
「ね?美味しいでしょ?」
「うんっ」
テツが紅茶を飲んでいると、誰かが部屋に入ってきました。
「おい、そこで何してんねん!!」
いきなり後ろから怒鳴り声が聞こえてきました。
ティーカップは、テツの手から放れるとティーポットの後ろに隠れました。
驚いたテツは恐る恐る後ろを振り向くと、
そこには、人間が居ました。
「それは俺の椅子や!座るな!!」
怒鳴り声を聞きつけた、ルミエールは急いでテツの居る部屋に戻って来ました。
「申し訳ありません王様。これには色々と事情がありまして・・」
「うるさいわ!!黙れ。俺の許可なしに城に人を上げやがって!!!」
怒鳴り散らしているこの男は、どうやらこのお城の王様のようです。
ルミエールが王様を説得出来ずに困っていると、
いつの間に来たのか、時計が説得しだしました。
「王様、一晩ぐらいいいじゃないですか。もっと心を広く持たないと」
「黙れって言うたのが聞こえかったんか!!もうええ、コイツは牢屋にぶち込んでおけ!!」
時計の説得も空しく王様はそう言い残すと、
部屋から出て行ってしまいました。
王様の言いつけは絶対です。
召使達は、仕方なくテツを牢屋に閉じ込めました。