ハイドがお城に来てから、もう何日も経ち。
外にはすっかり雪が降っていました。
すかっり変わったケンに、ハイドも心を開き始めました。
「王様はすっかり変わったなぁ」
一緒に雪で遊んでいるケンとハイドを見ながら、
ルミエール達が話しています。
「そうねぇ。あの王様をここまで変えてくれるなんて」
「もしかしたら・・・ハイドが魔法を解いてくれるかもしれないぞ」
コグスワースがそう言うと、みんなは頷きました。
「何かが芽生えているかも」
ポット夫人がそう言うと、チップが聞いてきました。
「ねぇ、ママ何が芽生えているの?」
ポット夫人は優しく微笑みます。
「何かが芽生えているのよ」
「なぁ、コグスワース。何かハイドにプレゼントしたいんやけど・・・」
ケンがコグスワースに聞きます。
コグスワースは少し考えます。
「そうですなぁ・・女の子が好きそうな、花とかチョコレートとか・・・」
「何言うてんねん。ハイドは男や」
ケンとコグスワースが考え込んでいると、
ルミエールがやって来ました。
「ハイドがアッと驚くものをあげればいいのではないでしょうか?」
ルミエールがそう言うと、ケンはひらめきました。
「ありがとな、ルミエール何あげるか決まったわ」
「ハイド、こっちに来て」
「なん?」
ケンはハイドの腕を引きます。
そして、大きな扉の前まで連れて来ました。
「ええから。目瞑って」
ハイドは言われた通りに目を瞑ります。
扉の開く音がしました。
「もう、ええ?」
そう言って、ハイドが目を開けようとしました。
「もうちょい待って」
ケンはそう言うと、閉じていたカーテンを開けました。
暗かった部屋に明るい光が差し込みます。
「もうええよ」
ケンに言われてハイドは恐る恐る目を開けました。
すると、そこには絵を書くアトリエがありました。
「・・・すごい・・」
アトリエはとても広く、
色とりどりの絵の具やキャンバスがたくさんありました。
「これ全部、俺からハイドへのプレゼントや」
ケンはそう言ってニコッと笑います。
「ほんまに・・・?これ全部?」
ハイドはまだ信じられないといった感じです。
絵を描く事が大好きなハイドにとって、
これ以上嬉しいプレゼントはないでしょう。
「ほんまや」
ケンはハイドの頭を撫でました。
「・・・ありがとうっ」
ハイドは嬉しそうに、ケンに笑顔を見せました。
二人は、ケンの部屋のベランダで夜景を見ながら話をしていました。
「・・・ハイド、城での暮らしは慣れたか?」
ケンはハイドに聞きます。
「うん・・・やけど・・・もうテッちゃんに会えんと思うと・・・」
ハイドがそう言うと、少し考えてから、何か持ってきました。
「・・・鏡?」
それは、魔女から貰った魔法の鏡でした。
「それは、魔法の鏡で、自分が会いたい人を思いながら鏡を見ると、
その思った人が写るんや」
ケンが説明すると、ハイドは鏡を持ちました。
「・・・テッちゃん」
ハイドが鏡を覗くと、テツが写っていました。
しかし、テツは吹雪の中、山を歩いていたのです。
「テッちゃん!!どうしよぉ・・・このままやと死んじゃうっ・・」
ハイドは焦りました。
「・・・ハイドを釈放する」
ケンは、静かに言いました。
「・・・今、何て?」
「ハイドを釈放する。もう、自由や」
ケンはもう一度言いました。
「ほんま?!ありがとうございますっ・・」
ハイドはそう言うと、テツの所へ向かおうとしました。
しかし、ハイドはケンの方を振り返りました。
「俺の気持ちを分かってくれてありがとう・・・」
そう言うと、ハイドはテツの所へ走って行きました。
「王様どうでしたか?」
ハイドが部屋を出て行った後、コグスワースが来ました。
「ハイドを・・・釈放した」
ケンは悲しそうに言いました。
「そうですか、そうですかっ!それは良かった・・・・って釈放?!」
すっかり上手くいったと思っていたコグスワースは、
釈放と聞いて驚きました。
「そうだ、釈放だ」
「ど・・どうしてまた・・?」
コグスワースが聞きます。
「そうするしか・・・なかったんや」
ケンはそう言うと、「一人にしてくれ」と言って、
コグスワースを部屋から出しました。
コグスワースは急いで城のみんなに知らせに行きました。
「そんなっ・・・せっかく上手くいっていたのに」
ポット夫人が肩を落とします。
「なになにママ?ハイドお城を出て行っちゃったの?」
チップがポット夫人に聞きます。
「そうよ・・・」
「魔法が解けると思ったのに・・・・」
ルミエールが言います。
みんなもルミエールと同じ気持ちです。
「薔薇も後少しで枯れてしまう・・・」
みんなの希望は絶たれました。
『芽生えた夜』