「痛っ・・!」

「男なんやから我慢しいや」

あの後、何とかお城に辿り着いた二人。

「・・・そういえば、王様名前何て言うん?」

ハイドは王様の腕に包帯を巻きながら聞きます。

「・・・ケン。お前は?」

王様はボソッと言いました。

「俺はハイドっ。ケンかぁ、んじゃ、ケンちゃんな」

ハイドがそう言うと、王様が睨みつけます。

近くに居たルミエール達はヤバイと思いました。

王様を、ケンちゃんと呼ぶなんて・・・。

「・・・ええやろ」

しかし、王様は予想外にそれを了承したのです。

考えてみれば、王様は自分の名前を呼ばれた事がなかったのです。

周りからは、いつも王様と呼ばれていたからです。

だから、自分の名前を呼ばれて少し嬉しくなったのです。

「出来たっ」

ハイドが包帯を巻き終えました。

ケン(これからは、王様ではなくケンと呼んでいきます)は、

腕を触りました。

何故だか、心が温かくなりました。

「なぁ、ケンちゃん。後でお城見て回ってもええ?」

「ええやろ。でも、西の塔にある部屋には行くな」

ケンの顔が少し険しくなりました。

「なんで?」

「なんでもや!!とにかく入るな!!!」

ハイドが聞くと、ケンは激怒し部屋を出て行ってしまいました。

「・・・あんなに、怒らんでもええやん」

ハイドはプゥッと顔を膨らましました。

「ねぇ、ルミエール。後でお城案内してやぁ」

「いいですとも!!」

「ちょっと待った!コイツは役立たずなんで、私もお供いたします!」

夕食を食べ終わった後、ハイドはルミエールとコグスワースと一緒に

をまわる事にしました。








「ほんま広いお城やねぇ」

色々部屋を見て回ったハイド。

まだ半分ぐらいしか見てないのに、ヘトヘトです。

次の部屋に向かう途中に、大きな階段がありました。

しかし、ルミエール達はその階段を上ろうしません。

「なぁ、何でこの上には行かないん?」

ハイドがそう言うと、ルミエール達はドキッとしました。

「え、いやそのですな。
 この上にはホコリだらけでただの物置部屋ですのでっ」

慌ててコグスワースが説明します。

「そうです、そうです。西の塔は・・・」

ルミエールはそこまで言うと口を塞ぎました。

「そうなんやぁ、この上が西の塔なんや」

コグスワースはルミエールの頭を叩きます。

「全くお前は、何でもペラペラ喋りおって!」

二人が言い合っている間に、

ハイドは西の塔へ続く階段を上っていきます。

それに気が付いて、慌てて止めます。

「だ、だ、だ駄目ですっ」

「なんで?物置部屋なら見てもええやん。
 本当は、西の塔には何があるん?」

「いや・・それは言えません」

コグスワースが困っていると、ルミエールが何かひらめいたようです。

「そうだ!この先にアトリエがあるので、そちらに行かれてはどうですか?」

アトリエと聞いて、ハイドの目は輝きます。

「絵が描けるん?」

「そりゃぁもちろん!!色とりどりの絵の具に沢山のキャンバス!!
 描きほうだいですよ!!」

その言葉にハイドはワクワクしました。

絵を描くのが大好きだったハイドは直ぐにでも行きたくなりました。

「行くっ!!案内してや!!」

ハイドの注意が西の塔から逸らされたので、

ホッと一安心した二人。

「さぁさぁ、こちらです!!」

陽気に歌を唄いながら、先導をきって歩きだしました。

ハイドは二人に着いて行こうとしましたが、

どうしても西の塔が気になって、階段を上っていきました。

二人は、ハイドが着いて来ていないのに気が付きません。








ハイドは西の塔の部屋まで来ました。

恐る恐る扉を開けました。

部屋の中を見てハイドはびっくりしました。

壁紙は剥がれ、カーテンもボロボロ。

本当に、物置部屋のようでした。

ハイドは引き返そうとした時です、

部屋の奥に光るものが見えました。

ハイドは部屋の奥に行きそれを近くで見てみると、

それは、綺麗な薔薇でした。

「綺麗・・・」

薔薇はガラスのケースみたいなものが被せれてありました。

ハイドはガラスのケースを取ろうとしました。

その時です・・・

「何してねん!!」

ケンの怒鳴り声が聞こえ、ハイドはケンに突き飛ばされました。

「ここに来るなって言うたはずや!!」

怖くて、ハイドの目から涙が出てきます。

そして、襲われた時の事を思い出しました。

「・・ごめっ・・・なさい・・・っ」

ハイドはまた襲われるかもしれないと思い、

怖くて震える体を引きずり、出来るだけケンから離れようとします。

ケンはその姿を見て、胸が苦しくなりました。

ハイドの涙は見たくないと思いました。

抱きしめたいと・・・思いました。

ケンはハイドに触れました。

すると、ハイドは体をビクッとさせました。

「・・・やっ、・・・やめて・・お願いやからっ・・許して」

ケンは、泣きながら許しを請うハイドを見て、

自分がどれだけハイドの心を傷つけたかを思い知らせれます。

あの時、魔法のせいで人格が変わっていたけれども、

自分がやったのは事実。

ケンは、ハイドの心の傷を癒そうと思いました。

もしかしたら、自分には無理かもしれない。

けれど、ハイドのために精一杯の事をしようと思いました。

ケンは、ハイドの涙を親指で拭うと、

ハイドを抱きしめました。

ハイドは体を強張らせます。

ケンは強く強くハイドを抱きしめ、一言・・・・・

「・・・ごめんな・・・」



---その日からケンは変わりました。



『西の塔』
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