9、絆
幼い私の膝辺りまできている、雪。
その雪に四苦八苦しながら、まっすぐ歩いてゆく。
目の前には、微笑みながら手を差し出している女性の姿・・・。
『ほら、こっちにおいで・・・』
私は上手く進めず、転びそうになる。
それを必死に堪え、再び歩き出す。
『もう少し・・・後ちょっと・・・』
幼く、小さな私の手が彼女の大きな手へと・・・
『いらっしゃい・・・。今日から、私があなたの母さんよ・・・』
そう言い、母さんは優しく微笑んだ。
これは、出会い・・・。
私との出会いを、母さんは本当に・・・心から喜んでくれていた。
場面が切り替わり、別な風景が映し出される。
ベットに横になる幼い私を寝かしつけている母さん・・・。
ふいに、懐かしいあの歌が聞こえていた。
『ねんねこ・・・ねんねこよ・・・。ふぅ、やっと寝た・・・。元気な子ね、明は・・・』
私の前髪をなでつけ、微笑む母さん。
『この子は、どんな大人になるんだろう・・・楽しみだなぁ』
笑う傍ら、一瞬だけ表情を曇らせる。
『例え、この子と血のつながりは無くても・・・ううん、そんなこと関係ない・・・』
元の優しい笑顔に戻る。
『明は、私の娘だもの』
その瞬間、言い様の無い喜びが胸に飛び込んできた。
そして、後悔の念も・・・。
そして、再び変わる風景。
その景色に、思わず私は目を背けたくなった。
赤く染まる雪。
ぼろぼろになった衣服。
散らばった買い物袋の中身。
そして、変わり果てた姿の母さん。
これは、母さんの事故現場・・・?
時折、『ひゅう、ひゅう』という呼吸音が聞こえる。
母さんは、何かを言おうとしていた。
けれど、それも空しく砕け散る意識・・・。
そして、母さんの目も二度と開くことは無かった。
変わる風景。
白一色の空間。
そこに、母さんの言葉は響いてきた。
『明・・・』
なあに?母さん・・・。
『あなたに会えて、私は本当に幸せだった・・・』
私もだよ、母さん・・・。
『お願い・・・笑顔を・・・明るい笑顔を忘れないで・・・』
「母さん・・・」
「分かりましたか?あなたは、決して独りではないということ・・・」
「うん・・・」
「では、帰りましょう。あなたを待っている世界へ」
「うんっ!」