7、崩壊への賛歌

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、レイ」

おなじみのスーパーの中を二人で歩く途中、明が彼を呼ぶ。

「?」

「今日の晩ご飯、何にしよっか?私はオムライスにしようと思ってたんだけど、レイはそれで良い?」

こくこく。

笑顔で頷く零。

「うん、じゃあ決定!」

クリスマス以来、二人はいつも一緒にいた。

食事は勿論のこと、出かけるときや寝るときまで。

無論明は幸せ一杯だったし、零もその状況に満足しているようだった。

「ありがとうございましたぁー」

営業スマイルで見送る店員に会釈をしながら二人は外に出る。

そして決まったかのように、手をつないで歩き出す。

道中他愛のない話に花を咲かせながら、笑顔で帰る二人。

その様子は何処から見てもバカカップル、略してバカップル以外の何者でもなかった。

「さ、早く帰ろっか」

こくり。

笑顔で見つめ合う二人。そのまま二つの影は雑踏に紛れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ物語はクライマックスに差しかかる。

私はいつものようにペンを握り、白紙に世界を作り上げてゆく。

・・・物語を作る以上、必ず結末を作らねばならない。

時にはそれがたまらなく苦痛に思える・・・。

何故なら、それがどんなに悲しい結末でも・・・私が時を進めなくてはならないのだから・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャッ。

明の自宅のドアが開かれる。

薄暗い部屋の中を模索し、電気をつける

「さ、ご飯の用意しよう」

そう零に言おうとした時、明は部屋の中のあるものに気付いた。

赤く、点滅するランプ。

一瞬ビックリしたが、それが留守番電話のランプということにすぐ気がついた。

「珍しいな、留守電なんて」

コートを壁に掛け、メッセージ再生ボタンを押す。

ピーッ、という発信音の後、聞き慣れない声でメッセージが再生される。

それが示す内容に彼女は我が耳を疑った。

その彼女の様子に零は困惑の色を見せる。

「そんな・・・うそ、でしょ・・・?」

―ピーッ・・・

メッセージがリピートされる。

『留守中の所申し訳ありません、こちらO町総合病院の者です。実は、天宮雪さんが路上を歩いているところを居眠り運転のトラックにはねられまして・・・』

膝が、ガクガクと震える。

『病院に運ばれたものの、間もなくお亡くなりになりました・・・。色々と手続きもありますし、後日病院においで下さい。では、後ほど・・・』

―ピーッ・・・午後、六時のメッセージです・・・

機械音が無情にも事実を告げる。

「かあ・・・さん・・・」

そのまま明は床に倒れ込み、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風が灰色の街を撫でてゆく。

冷風は雲を呼び、雪を降らせるだろう。

冷たさが意識を冴えさせ、感覚を研ぎ澄ましてゆく。

かじかむ手に息を吹きかけ、暖める。

いつもの廃ビルの屋上で、黒と白の男は待ち続けていた。

「今日で丁度一月・・・彼は来るのでしょうか・・・」

少しばかり不安な様子で白い男が言う。

「なぁに、来なけりゃこっちから出向いてあいつを消すまでだ」

さらっ、と冷たい言葉を口にする黒い男。

その瞳には楽しげな色しか伺えない。

「・・・とか何とかいって、結果がどうあれ、彼と最初から戦うつもりだったんでしょう?」

「あん?何で分かるんだ?」

「何年あなたの相棒やってると思ってるんですか。その位分かりますよ。」

「まぁな。奴との決着はいつか着けなきゃならねぇものだ。勿論、対等な立場でな。」

白い男は溜め息を一つつくと、腰に下げた袋から小瓶を取り出した。

中は透明な液体で満たされている。

「材料の乏しいこの世界でこの薬を作るのは難儀でしたよ」

今回の件で一番疲れたのは私です、と彼はぼやくように言った。

「そう言うなって。それに・・・どうやらおいでなすったみたいだぜ」

黒い男の言葉に反応するように、屋上のドアが開く音が聞こえた。

中から紺色の人影が姿を現す。

フードにマントのような服、所々に施された装飾は金や銀。

背中には『太陽』のデザインが施された、古ぼけたリュート。

その人影は紛れもなく零だった。

「よう、やっと来たな」

「・・・」

笑みを浮かべる黒い男に対し、零は厳しい表情を崩さない。

「審判を下すぜ。・・・が、その前に。おい」

「分かってますよ」

零にゆっくりと歩み寄る白い男。

その男をキッ、睨みつけ、リュートに手をかける。

「待ちなさい。あなたに渡すものがあるんですよ」

「?」

そう言うと、白い男は先程の小瓶を零に渡した。

「これは今あなたが一番必要としているものを取り戻せる薬です。さ、お飲みなさい・・・効果は一日ほどしかありませんが」

「・・・」

こくり。

男の言葉に促されるまま、零は小瓶を手に取る。

コルクの栓を抜き、液体を口内に流し込む。

緑茶に似た味だった。

「ふぅ・・・」

零の口から、声が漏れた。

「久しぶりに声を出すと、調子が狂いますね・・・。」

そう、彼は笑顔で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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