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雪が────降っていた。 いや、ただの雪ではない。 天空よりちらちらと舞い落ちているかのように見えるそれは、実際には『彼』の周囲にしか存在していない。 正確に言えば……彼の立つ場所を中心とした、"領域"内にある水分が氷結して、まるで雪のように見えているだけ。 何より、中心に立つ『彼』の薄着が、それが雪ではないことを主張している。 彼──上月司は、《ワーディング》エフェクトを感知するなり彼自身の"領域"を展開していたのだ。 それが、この氷点下の世界。 警戒はとかないまま、司の口端が緩む。 「どこのどいつだかは知らねえが、残念だったな。俺の"領域"に入った以上、もうてめえに勝ち目は……」 司の足元に、氷の塊がまるで蔦のように何本も生成されていく。 それ自体が意思を持った生き物であるかのような動き。 「……ねぇっ!!」 そう言うと氷の蔦が一斉に伸びる。 狙いは正確。 終わった。そう思った時だった。 「無駄だよ……私はあなたの"領域"には入らない……」 どこかから、透き通った声が聞こえた。 何の感情もこもらない、無機質で、誰の心にも響かない、ただの『音』と変わらない、声。 だがそこには、明らかにこちらに向けられた殺気があった。 しかしそれも一瞬のこと。 「なっ……どこだ!どこに消えやがった!?」 焦りが司を襲う。 オルクスたる司は、自らの"領域"内の全てを知覚することが出来る。 それがたとえ直接見えなくとも、存在が分かるのだ。 だが、捕らえた、と思った反応は氷が到達する直前で掻き消える。 標的を失った氷達は、大きくうねりながら地面へと消えていった。 存在が、なくなった。 "領域"内に捕らえた以上、抜け出すことは不可能だ。 少なくとも、司は今までそうして幾人ものジャームやファルスハーツを倒してきたのだ。 だが、消えた。跡形もなく。 『敵』の存在が消えると同時に、周囲に張られていた 緊張の糸が切れ、司はその場にへたり込んだ。 新たな戦いの予感がした。 FLAME BULLET OPENING…"紺碧の刻印"〜ICE BLAND NEXT |