姉しよ三国志〜柊家の野望〜










第五話 誰が為に鐘は鳴る。






―――210年。宛




「絶対儲かる商売を思いつきました。そこで金を投資してくれませんか? 絶対損はさせません」



「却下」



「町を発展させるために市場を拡大していただけませんか?」



「却下」



「夜盗が出るとかでおちおち出歩けません。警備を……」



「却下」



「のるか反る……」





「却下」





「……………………」






「これ、空也」



「なんですか? 雛乃姉さん」



「民草の陳情を聞くのも君主の務めであろうに、そのように却下してどうする」



「だって、こいつらの言う事をいちいち聞いてたら、時間がいくらあっても足りないし、その間にもどんどん溜まってくるし……」



「しかし、名声が下がっておるではないか」


「名声なんて、他でいくらでも稼げますよ。雛乃姉さん」



「むむむ、左様か」



「申し上げます!」



「ん?」



「関羽将軍の軍が盧江に篭城した曹操軍に敗北致しました!」



「ふっ、なんだ、きゃつめも案外だらしないものよのう……ならば余が自ら出陣しようではないか!」



「……何よ、イカのくせに偉そうね」



「あ、いや、ちょっと君主っぽく言ってみようかなと……」



「46億年早いっ!」




ゲシッ!


「ひでぶっ!」



「で、本当に出陣するのか? くうや」



「フフッ、出陣するならいつでもいいわよ」



「よーし、いつものメンバーで出陣だー」






「おおーっ!」



















「元気だよね、みんな」



「そうだね……じゃあ、私達はまた商業でもあげようか」



「……でも、この都市の商業はもう最大値だよ」



「あうう、そうだった……」



「アタシはまた、曹操の本拠地でも扇動してくるわ」



「……あれ? そういえば帆波さんは?」



「多分、酒場で酒盛り中」



「あ、そう……」















―――盧江。






「都市の防御力は低いぞー! 突撃ーっ!」



「ははっ!」



「これなら楽勝だなー。お姉ちゃん達にまかせてまたーりしよう♪」



「た、大変です!」



「ん? どうかした?」



「敵の総大将が本陣目指して突撃して参りました!」



「へ?」






「わははははっ! どけどけーっ!」




「そ、その声は!?」



「はっはっは、久しぶりだなバカ息子」



「お、オヤジ!?」



「最近、調子に乗ってるそうじゃないか」



「つぅか来てるんなら、さっさとこっち来て中国統一を手伝ってくれよ! じゃないと帰れないんだから」



「やだもーん」



「や、やだもーんって……」



「お前の手伝いなんか、やる気しねー」



「こ、こんの野郎……」



「さて、ここでワシのステータスを紹介だ」






柊 翔(ヒイラギ ショウ)


「……なんだよ、メチャ強いじゃないか。オヤジのクセにズルイぞ!」



「はっはっは、お前ごときと一緒にするな」



「く、くそう……」



「ワシは魏を乗っ取って、阿房宮みたいなハーレムをつくるんだ。息子といえでも、邪魔する奴は指先ひとつでダウンさせるぜ!」



「上等だ! クソオヤジ!!」



「かかって来い! マイ・サン!」











「喰らいやがれ!」



「なんだなんだ、蚊が刺したと思ったぞ。そらそらっ!」



「ちっ!」



「そうら、喰らえ!」











「うわあああっ!」



「はっはっは、ぬるい! ぬるすぎるぞマイ・サン!」



「くっ……しまった」



「君主様が捕まった!」



「逃げろーっ!」



「お、おいーっ! 見捨てるなよー!」



「あっはっは。情けないのう、息子よ」



「ちくしょー」



「さあて、どうしてくれようかなー。やっぱ首チョンパ?」



「へ?」



「お前をヌッ殺せば、愛しい娘たちをワシの配下にできるに違いない。ワシってあったまいー」



「ま、マジで?」



「マジ。つーわけで、お前、死刑」



「うそーん!?」



「10秒だけ神に祈る時間を与えよう。さあ、祈れ」



(くっ……ここでゲームオーバーなのか!?)



「いーち」



(考えるんだ、空也! この状況を打破する方法を!)



「じゅーう。お祈りは済んだか? マイ・サン」



「待てコラ! 今、思いっきり飛ばしたぞ!」



「細かい事は気にするな。なーにワシも後から逝くから心配するな……100年後くらいにな」



「いくつまで生きる気だテメェ!!」



「わっはっは、成仏しろ」






「待ちなさい!」




「むっ!?」



「お父様、空也を放していただけますか?」



「要芽姉様っ!」



「くうやを処断するのは、まかりなりませぬぞ親父殿!」



「空也に何かあったら、許さないからね」



「お父さん……くーやを放してあげてよう。お願いだよー」



「ううっ、みんな……」



「むむむっ」



「早く空也を放して下さい……さもないと」



「……さもないと?」



「嫌いになりますよ」



「くっ……仕方ないな。いっちまえ」



「へ?」



「その首、もうしばらくお前に預けておこう」



「オヤジ……」



「フン、とっとと尻尾を丸めて逃げ帰れバカ息子め」



「総大将のあなたの部隊が壊滅した今、戦闘を継続させることはできないわ。撤収しましょう」



「……はい」
















―――宛。


「みんな! 大変大変!」



「どうしたというのだ、うみ?」



「騒々しいわね……何があったの?」



「く、くーやがこんな書置きを残して家出しちゃったの!」



「どれどれ……」











探さないで下さい。

―――空也。










「あの馬鹿……この忙しい時に」



「この前、お父さんに負けたのがよっぽと堪えたのかな?」



「お姉ちゃんを置いていくなんて……しぼむー」



「くうや……今、お前はどこで何をしているのだ……」















―――とある酒場。




「うーん」



どうしたんですか? 空也きゅん。


「いや、あのクソオヤジを一騎打ちで叩きのめすにはどうしたらいいかなーと思って」



そりゃやっぱ、武力学問所で武力をコツコツ上げるのがいいんじゃないですか?


「えー。それお金かかるしメンド臭いからヤダ」



おまいは……(;´Д`)


「もっと手っ取り早いのない?」




そうですねぇ。


そういや、ここの酒場の依頼に良さそうなのがありましたよ。



「ん? あ、武力師事ってのがあるね」



それやると、武力が上がりますよ。


「よーし、これやってみっか」



「関羽様の武勇は誰もが知るところ。関羽様に師事なさってしごいてもらってはいかがですか?」



「言い方は気に喰わないけど、その依頼乗った!」












―――襄陽。



「関羽将軍はこの都市の太守だったよな……たのもー」



「おお、これは柊空也様」



「そなたの武芸、オレに伝授してくれ」



「我が武芸、学ぶのは中々大変です。頑張れますでしょうか?」



「まかせとけ!」












「それがしが教えられるのはここまでです。この後、翼徳にでも教えを乞うのがいいでしょう」



「え? まだ終わらないの? つーか、翼徳って誰よ?」



張飛の事っすよ。


「字で言われてもわからん……確か、この都市に居たよな」













「おう、殿じゃねぇか。こんなところで奇遇だなぁ」



(なんでコイツだけ、こんなに気安いんだ……)そなたの武芸、オレに伝授してくれ」



「我が武芸、学ぶのは中々大変だ。頑張れるか?」
















「ぜーはーぜーは」



「俺が教えられるのはここまでだ。この後、馬超にでも教えを乞うのがいいだろう」



「ま、まだ続くのか……」












そーれから。










―――とある酒場。





「ぜーはーぜーはーぜーはーぜーはー(必殺技もついでに伝授してもらってたら半年以上経った……)



「お、戻ってこられましたな。それで結果はいかがでございました?」



「うむ、うまくいったぞ」



「それはなによりです。これはほんの気持ちですが……」




鳳嘴刀を手に入れました。




「むっ! これはっ!」



ん? どうしました?


「これぞ……まさしく真・猫一文字だ!」



…………は?


いや、それ、ただのホウシトウっていうショボイ武器ですけど……。



「いや、これは鎌倉時代の伝説の刀工、猫宗が打った真打の猫一文字に違いない!」



鎌倉時代って……今、西暦何年だと思ってるんだよう。
(;´Д`)



「細かい事は気にするなよ」



そんなんより、ホラ、この前寄った大商家で売ってた七星宝刀とか買ってきたらどうですか? 武力+7ですよ?


「……だめ」



へ?


「…………高すぎて買えない」



いや、空也きゅんは君主なんだから、お城のお金使い放題でしょ?


「普通はそうなんだけど、柊家は要芽姉様が財布のヒモを握ってるから、勝手に使うと怒られるんだよ……」



難儀な設定ですねぇ。


「しぼむー」















―――宛。




「ふぅ、帰ってきたぜ……」



「くーや! くーや!」



「海お姉ちゃん」



「ひどいよー、あんな書置きひとつで半年も留守にするなんて……お姉ちゃん、心配しちゃったよー」



「ご、ごめんよ海お姉ちゃん」



「空也、お帰りー!」



「空也……留守にするときはちゃんと言っておかないとダメだ」



「アンタが居ないおかげで、ストレス溜まりまくりだったわよ!」



「んもう、空也ちゃんてば……あんまりお姉ちゃん達を心配させたらダメよ?」



「無事だったんだね……よかった」



「お姉ちゃん達……」



「空也……」



「は、はい」



「まったく、あなたって弟は……みんなどれだけ心配したと思っているの!」



「す、すみません……でも、俺、強くなりたくて」



「もうよいではないか、かなめ。くうやも反省しておろう」



「姉さんがそういうのなら……」



「うむ……良い面構えになったなくうや。これならば親父殿にも引けを取るまい」



「はいっ!」



「ふふっ、出陣の準備は整っているわ……でも、その前に」




ドサリ。



「な、なんですか? この書類の山は……」



「あなたが留守の間、ずっと溜まりっぱなしだった陳情書よ。ちゃんと処理するのよ」



「とほほー」















―――盧江。



「よーし! 今度こそこの都市を落とすぞ!」



「わっはっは、バカ息子よ。またワシにケチョンケチョンにされに来おったか!」



「へへっ! 見くびるなよ! 男子、三日ヤらざれば、えっちな夢見て夢精すべしって言うだろ?」



「……言わないぞ」



「なにぃ!?」



「まったく、呆れたバカ息子だな、お前は」



「う、うるせー! 勝負だオヤジ!」



「いい度胸だ、父を超えて見せろ!」











「いくぜ! オラオラーッ!」



「ほう、なかなかやるようになったではないか……そらっ!」











「ちぃっ!」



「わっはっは! お前など、ワシの敵ではないわ! 喰らえ!」



「そう笑っていられるのも今のうちだぜ!」











「……むっ!?」



「そりゃあッ!」











「クッ!」



「うおおおおおおっ!」



「ば、馬鹿なッ! ヤツの戦闘力がドンドン上がっているっ!?」



「煌け! 真・猫一文字ッ!!!」











「ぐはぁ!」










「おっしゃー! 捕まえたぜ!」



「ぐぅ……強くなったな、マイ・サン……ってお前、縄でぐるぐる巻きにするな!」



「へっへっへ、逃がさねぇぜオヤジ」



「どうせ縛るなら、要芽に縛らせろー。やり直しを要求する!」



「ふふん、そんな事言ってる余裕、オヤジにあるのか?」



「へ?」



「さて、どうしてくれようか……やっぱ首チョンパ?」




「な、何ィ! お前、父を処断する気かー!?」



「テメェだって、俺を処断しようとしたじゃねぇか!」



「なんだ、あの時の事を根に持っているのか? 相変わらず器の小さいヤツだなマイ・サン」



「こ、この野郎……」



「あ、後ろ!」



「そんなのに引っかかるかよ!」



「か、要芽が、いたいけな酒家娘を手篭めにしているぞ!」




「な、なんだってー!」






……………………。





「なんだよ、何にもない……」



「柊流奥義、縄抜けの術!」



「ほへ?」



「はっはっは、相変わらずツメの甘い奴だ」



「し、しまった! 逃げられた!」



「さらばだマイ・サン。また会おう! はーっはっは!」



「く、くそう……」



「くうや!」



「あ、雛乃姉さん」



「親父殿に勝ったようだの……敵が逃げていったぞ」



「はい」



「うむ。男子たるもの、父親を超えて一人前であるぞ……飴をやろう」



「ははーっ、ありがたき幸せ!」









かくして、空也は見事雪辱を晴らし、またその勢力を広げたのである。




















―――次回予告。



柊姉妹の中でも統率力に優れた、雛乃、要芽を都督に任命し、その大勢力を持ってついに中原、河北をも制し、皇帝の位まで上り詰めた空也。

中国大陸統一も時間の問題となった。


時は218年。

呉の名君主、孫策はすでに亡く、曹操の勢力も、もはや風前の灯火となっていた。

そして空也は百万の軍勢をもって、最後の戦いに望む。






次回、姉しよ三国志最終話


『終わりの始まり』


乞うご期待っ!



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