姉しよ三国志〜柊家の野望〜
最終話 終わりの始まり。
―――218年。寿春
「ようやく終わりが見えてきたね」
「皇帝にもなったし、もう快進撃って感じだね」
「はっはっは、余は皇帝であるぞー」
「くーやはすごいねぇ。いいこいいこ」
「はふぅ」
「イカのくせに皇帝だなんて!」
ゲシゲシッ!
「うわああん! なんで蹴るんだよう」
「生意気なのよ! ムカツクから蹴らせなさい!」
「うああああん! 海おねーちゃん! 姉貴がいぢめるよー」
「よしよし。大丈夫だよくーや。悪いツインテールは、手足を切られて目をくりぬかれて耳を焼かれて薬でのどを潰されてトイレに捨てられちゃうからねー」
「……さすがに怖いんだけど、ソレ」
「あれ、高嶺お姉ちゃんまた空耳? 元の世界に戻ったら耳鼻科行った方がいいよー?」
「あ、アンタって子は……」
(海お姉ちゃんは、味方につけばこれほど頼もしい人は居ないけど、敵に回したら神よりも恐ろしい……)
「これ、くうや」
「あれ? 雛乃姉さん、どうしたの?」
「空也」
「か、要芽姉様まで……?」
「あなた、私達にばかり戦わせて、自分は宮殿でのんびりだなんて、いい身分ね」
「まったく……我が都督を引き受けたのは、お主を遊ばせる為ではないぞ」
「ちゃ、ちゃんと戦ってますってば」
「そうだねー。もう中原も河北も制覇したし、もう一息だね」
「でも、連戦でさすがに疲れたよ……」
「情けない事を言うでない」
「だってー」
「じゃあ、そろそろ一気に決着をつけようか」
「一気に?」
「うん、戦役を起こすんだよ」
「せ、せんえき?」
「地方単位で戦争を起こして、一気に決着をつけるんだよー」
「そうね……揚州に孫権も曹操も封じ込めてるから、最後の戦いには丁度良さそうね」
「よーし! 一気に攻め取って、とっとと元の世界に帰るぞー」
「それじゃ各お姉ちゃん達に太守になって貰わないと。なにしろ最後の戦いだからねー」
「うむ。我が軍団の力、とくと見せてくれよう」
「フフッ、私の軍団の前には全ての者がひれ伏すわ」
「にゃはは。私、一度、太守ってのやってみたかったんだよねー」
「が、がんばる」
「まあ、最後くらいは戦ってあげてもいいわよ」
「いっちょ、やってみますか!」
「私、クーくんの為にがんばるよ……」
「お姉ちゃん達に各都市に飛んでもらって、準備も整ったし……よーし、出陣!」
「おーっ!」
「あれ? 海お姉ちゃん、行ってなかったの?」
「お姉ちゃんはくーやの諸葛孔明みたいなものだからねー。説明する人がいないと困るでしょ?」
「それもそうか」
(むふふー。これでくーやは私が独り占めー♪ あーんな事から、こーんな事までしちゃおうかなー)
(……あれ? なぜか寒気が……)
「これが戦役かー。今までと全然違うね」
「そうだね。いつもと違って各武将の特徴が出にくいから気をつけてね」
「にゃははー! 皆の者、突撃ーっ!」
「それに迂闊に突出したりすると」
「いくぞ! 我らの力を見せてやれ!!」
「心得た!」
「にゃ?」
ガシュッ!
「ふぎゃー!? ぴよぴよー」
「あんなふうに、友情パワークリティカル喰らって混乱したりするからねー♪」
「そ、そうなんだ……」
「ちゃんと都市や城塞で補給しながら進軍しないとね」
「くうや!」
「フフッ、これからが本番よ」
「うはぁ、総兵力100万を超えちゃったよ」
「何しろ複数の都市からの出陣だからねー」
「わはははは! どけどけー!」
「わ、オヤジッ! 出やがったな……ってあれ?」
「ん? どうしたマイ・サン」
「なんでオヤジが配下にいんの?」
「バカ言うな。このワシがお前のような粗チンの配下になぞ、なるわけなかろう」
「誰が粗チンやねん!」
「空也」
「要芽姉様……?」
「私が引き抜いたのよ」
「お前の配下になんかなる気はないが、要芽の配下なら望むところだ」
「このオヤジは……」
「ふふっ、信長ではなくて秀吉に仕える事を選んだ竹中半兵衛重治といったところかしら」
「うむ、そういうところだ」
「いや、誰だかわかんないし……」
「だからお前はピーナッツと呼ばれるんだ、ピーナッツ」
「呼ばれてねぇ!」
「フフッ、私達は南から攻め上がるわ。あなたは北から攻め下りなさい」
「は、はい」
「期待しているわ、空也。では参りましょう、お父様」
「うむ」
「相変わらず、威厳の欠片もない君主よのう」
「雛乃姉さん、ひどい……」
「情けない顔をするでない。漢ならドーンと構えておれば良いのじゃ」
「は、はぁ……」
「では、我も参るとするかの……まずはあの都市を目指して進めっ! よし、まるよ! いかずちを放て……なに? この戦闘では使えぬとな!? むむぅ」
「ふぎゃーっ! なんでもいいから、早く助けてー。ぴよぴよー」
そーれから。
「……………………」
「……………………」
「……………………う」
「う?」
「うがーっ!!」
「ど、どうしたの? いきなり大声出して」
「つまんない、つまんない、つまんなーい!」
「え?」
「なに、この戦役っての! 計略はさっぱり成功しないし、すぐ兵糧はなくなるし、道が狭くて部隊が詰まっちゃうし、部隊の詳細は見れないし!」
「まあ、そうだねぇ」
「そしてなによりセーブできないなんて! 会社でこっそりやってて上司が突然現れたらどうしろっちゅーんだ!」
「いや、いきなり現れたらセーブどころじゃないんじゃないかな?」
「と、とにかく、激しくつまんないよ! お姉ちゃんっ」
「そんなこと言われてもねぇ……いわゆる仕様ってやつだからどうすることもできないよー」
「ううっ」
「でも、兵糧なくなっても急激に士気が下がったりしないし、みんな委任しちゃえば勝手に進むからのんびりやるのがいいんじゃないかな?」
「そうだね……あーもう! 城塞潰すのメンドイっつーの!!」
それから、それからっ。
「よ、ようやく終わった……」
「長かったねー。半年近く(実時間)かかっちゃったね」
そいつぁ、言わないお約束。(;´Д`)
「さあ、約束よ。早く元の世界に戻しなさい」
「え? もう帰っちゃうの?」
「あら? あなた、帰りたくないの?」
「いや、せっかく皇帝にまでなったし……」
「…………………………」
(ギロリ)
「ほら、山田! さっさと俺達を元の世界に戻しやがれ!」
はいはい、わかりましたよ。
んでは。
パラレル シリアル ルルルルルー♪
「なんだ、その呪文は……わああっ」
……や。
「う、ううーん」
……うや、……なさい。
「う、ん……まだ眠いよ」
「起きろってんだろ、このイカッ!」
ゲシッ!
「うあああっ!? ゴメンなさい、ゴメンなさいっ!」
「ふぅ、やっと起きた」
「あれ、ここは……俺の部屋だ。戻ってこれたんだね」
「そのようね。……全く、とんだ茶番に付き合わされたわ」
「良いではないか、かなめ。我はなかなか楽しめたぞ」
「そうですか……」
「うん、思いっきり暴れられて、なかなか楽しかったにゃ」
「私は、料理のレパートリーが増えた……かな?」
「まあ、中国の歴史を学ぶには、いい機会だったかも知れないわね」
「君主、空也の後ろに付き従う、超絶美麗な天才軍師、柊海……(うっとり)」
「キンニクムキムキな兵士達が、ワタシの命令に絶対服従……(うっとり)」
「私、ちゃんとクー君の役に立てたかな?」
「だから、なんでお前が居るっ!? 犬上帆波!!」
「だから知らないわよぅ。気がついたら居たんだから……そんなに目の敵にしなくてもいいじゃなーい」
「それにしても……惜しかったな、ハーレム」
「はい?」
「せっかく皇帝にまでなったんだから、大陸全土から美女集めて侍らしたりしてみたかったなぁ」
ピシッ!(空気が切り裂かれたような音)
「ほう、なかなか言うようになったの、くうや」
「全く……自分の立場がまだ判っていない様ね」
「はっ!? 今、オレ、口に出してた!?」
「このイカ、ひん剥いちゃいましょうよ。お姉様」
「フフッ……そうね」
「あ、オレ、用事思いだ……」
「瀬芦里っ!」
「うにゃっ!」
ガシッ!
「わっ! 捕まった!?」
「にゃははー! 脱がせ脱がせー」
「きゃぁぁぁっ! 犯されるー! 海お姉ちゃん、助けてー」
「ゴメンねくーや。お姉ちゃん、半年近くもほったらかしにされちゃったから、溜まっちゃって溜まっちゃって……」
「うわああんっ! ね、ねえや……」
「あら、面白そうね。ワタシも混ぜて混ぜてー」
「……は、ダメだ! ね、ねーたん」
「……ゴメン、クーくん」
「な、なんで謝るの!? ねーたん!」
「あう……だ、だめ、こんな無理やりなのは」
「と、ともねぇ!」
「おろおろ、おろおろ」
「うわああん、おろおろしてないで助けてー」
「往生際が悪いわね……いい加減、観念なさい!」
「それじゃあ」
「いっただきまーす!」
「きゃぁぁぁ! こんなハーレムエンドはいやだー」
「……やだー」
「……だー」
―――続かない。