黒い十字と銀の月
塗られた姉に花束を〜



二章 幼馴染で年下で、でもお姉ちゃんで……



「あんた達……あいかわらず騒がしいなぁ」

 そんな折、女子バスケ部の主将の北島先輩が呆れ顔で声をかけてきた。

 ボクは去年、綾香ちゃんに頼まれてマネージャーみたいな事をやった事があり、女子バスケの何人かとは、顔見知りになっていた。

「あ、北島先輩、こんにちは」

 綾香ちゃんが火嘉に指を突きつけたまま、北島先輩に挨拶した。

「まったく……少しは人の目も気にしろよ。面白すぎだぞ」

 と、北島先輩は首を横に振って、呆れた声で苦笑した。

「え……?」

 言われて周りを見てみる。

「…………あ」

 いつの間にか女子バスケ部の部員らしき女生徒達に囲まれていて、しかもみんな、くくくっと声を抑えて笑っていた……。

「あっはっは!」

 声を抑えていない人もいた。

「あっはっは、実に興味深い事だ」

 ……というか、各務だった。

 いつの間にか、彼は観客席側に回っていたようだった。

「か、各務! テメッ、なに一人だけ関係なさそうにしてんだよ!」

 火嘉が怒鳴りながら、各務の胸倉を掴んで、グラグラと揺らした。

「あっはっは。いや、なに、私は注目されるのが苦手でな……やっぱり悪の組織は、裏で操りたいものじゃないか」

 それにも動じず、各務は不敵に笑った。

「勝手に悪の組織にするなっ!」

「むっ」

 ペシンと、各務の頭を綾香ちゃんがはたいた。

「まーったく、面白すぎるってばさ、あんた達は」

 また北島先輩が、呆れ顔でため息を吐いた。

「……あ」

 綾香ちゃんが、ものすごくバツの悪い顔になった。

「ほら、あんた達も早く着替えて準備しな」

「はーい」

 と、北島先輩が周りにいたギャラリー達を追い払ってくれた。

「それにしても、風野達も久しぶりだねぇ。今日はどうした?」

「ええ、今日は……」

 と、姉さんの方を見る。

「……あれ?」

 でも、そこに姉さんの姿はなかった。

「ね、姉さんは?」

 すぐ近くにいた綾香ちゃんに聞いてみる。

「……え? あ、そういえば居ないね」

 綾香ちゃんも知らないらしく、辺りをキョロキョロと見回した。

「ふむ、これは……殺人事件だな」

「はぁ!?」

 各務が、いきなり突拍子な事を言い出した。

「なんでいきなり殺人事件!?」

「で、犯人はお前だ、風野」

「ええっ!?」

 いきなり犯人に仕立て上げられてしまった。

「な、なんでボクが犯人!?」

「真犯人はいつも意外な奴だからな。さあ吐け」

「吐け、って言われても……」

「ダメだよはるくん、コイツの言うこと真に受けてちゃ」

 綾香ちゃんが呆れて、はぁ、とため息を吐いた。

「ちっ」

 各務が、ちょっとつまらなさそうに舌打ちした。

「各務……お前って」

「せんぱーい」

 各務に文句のひとつでもいってやろうとした所に、女子バスケ部の部員の一人、林恵さんがひょっこり姿を現して、北島先輩を呼んだ。

「ん? なに?」

「この人は……誰ですに? 一緒に更衣室までついて来たですに」

 と、ちょっと独特な喋り方をする林さんが、自分の後ろについてきた女生徒に目を向けた。

「え?」

 そこに、何故かニコニコと微笑んで佇んでいる、金髪の女子生徒が一人。

 というか、姉さんだった。

「あれ? 姉さん、なんでそこに?」

「姉さん? この人、はるきちゃんのお姉さんかに?」

 林さんは、ボクと姉さんを見比べながら首を傾げた。

「はい、エストリィ・エルジェベト・カザノと申します。ハルキ君がいつもお世話になっています」

 ペコリと、姉さんは北島先輩と林さんに深々と丁寧に挨拶した。

「はぁ、どうも……バスケ部主将の北島です」

「は、林恵ですに」

 ちょっと面食らった感じに、北島先輩達が挨拶を返した。

「で、姉さん。なんでまたあっちに行ってたの?」

 相変わらず、ニコニコと笑顔の姉さんに訊いてみた。

「ええ、先ほどそちらの方……北島さんから『早く着替えて準備をしなさい』と指示をいただいたものですから」

「へ? 私?」

 皆の注目を浴びて、北島先輩がちょっと慌てた感じに自分を指差した。

「はい、先ほど」

「えーと……」

「ほら先輩、さっき私達を追っ払った時ですに」

「……あー」

 林さんの助け舟に、北島先輩は思い出したようにポンと手のひらを打った。

 そういえば確かにさっき北島先輩は、たかっていたバスケ部員達を「早く着替えて準備しな」と追い払っていた。

 その時、姉さんも部員達に一緒について行ってしまったようだ。

「いや失礼失礼。アンタに言ったわけじゃないんだよ……昼に男子どもが『2年にすっげぇ美人が転校してきたぞー』って騒いでたけど、ひょっとしなくてもあんたの事なんだろうね。見慣れない制服着てるし」

「はい、本日転校して参りました。それで運動部の見学をしてみたいと思いまして」

「ふぅん、なるほどねぇ」

「よろしいでしょうか?」

「いいですよね? 先輩」

 と、綾香ちゃんも後押ししてくれた。

「いいんじゃない? 部員増えたら楽しいし。いくらでも見学していきなよ」

「はい、ありがとうございます」

「で、風野達は?」

「え?」

 北島先輩に急に振られて、戸惑ってしまう。

「ボクは、その……姉さんの付き添いに」

「同じく」

「以下同文」

「ふぅん、そうか。風野はまたウチのマネージャーでもやってくれるのかと期待してたんだが、残念だ」

「え? いや、もうそれは……」

「ははっ、冗談だ。……もう私達は大丈夫だからな」

 そう言って、北島先輩はポンとボクの頭に手を乗せて、そのまま中に入っていった。

「じゃあ、着替えてくるね。適当なとこで待ってて」

 そして綾香ちゃんが、北島先輩の後に続いていった。









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