|
「あんた達……あいかわらず騒がしいなぁ」 そんな折、女子バスケ部の主将の北島先輩が呆れ顔で声をかけてきた。 ボクは去年、綾香ちゃんに頼まれてマネージャーみたいな事をやった事があり、女子バスケの何人かとは、顔見知りになっていた。 「あ、北島先輩、こんにちは」 綾香ちゃんが火嘉に指を突きつけたまま、北島先輩に挨拶した。 「まったく……少しは人の目も気にしろよ。面白すぎだぞ」 と、北島先輩は首を横に振って、呆れた声で苦笑した。 「え……?」 言われて周りを見てみる。 「…………あ」 いつの間にか女子バスケ部の部員らしき女生徒達に囲まれていて、しかもみんな、くくくっと声を抑えて笑っていた……。 「あっはっは!」 声を抑えていない人もいた。 「あっはっは、実に興味深い事だ」 ……というか、各務だった。 いつの間にか、彼は観客席側に回っていたようだった。 「か、各務! テメッ、なに一人だけ関係なさそうにしてんだよ!」 火嘉が怒鳴りながら、各務の胸倉を掴んで、グラグラと揺らした。 「あっはっは。いや、なに、私は注目されるのが苦手でな……やっぱり悪の組織は、裏で操りたいものじゃないか」 それにも動じず、各務は不敵に笑った。 「勝手に悪の組織にするなっ!」 「むっ」 ペシンと、各務の頭を綾香ちゃんがはたいた。 「まーったく、面白すぎるってばさ、あんた達は」 また北島先輩が、呆れ顔でため息を吐いた。 「……あ」 綾香ちゃんが、ものすごくバツの悪い顔になった。 「ほら、あんた達も早く着替えて準備しな」 「はーい」 と、北島先輩が周りにいたギャラリー達を追い払ってくれた。 「それにしても、風野達も久しぶりだねぇ。今日はどうした?」 「ええ、今日は……」 と、姉さんの方を見る。 「……あれ?」 でも、そこに姉さんの姿はなかった。 「ね、姉さんは?」 すぐ近くにいた綾香ちゃんに聞いてみる。 「……え? あ、そういえば居ないね」 綾香ちゃんも知らないらしく、辺りをキョロキョロと見回した。 「ふむ、これは……殺人事件だな」 「はぁ!?」 各務が、いきなり突拍子な事を言い出した。 「なんでいきなり殺人事件!?」 「で、犯人はお前だ、風野」 「ええっ!?」 いきなり犯人に仕立て上げられてしまった。 「な、なんでボクが犯人!?」 「真犯人はいつも意外な奴だからな。さあ吐け」 「吐け、って言われても……」 「ダメだよはるくん、コイツの言うこと真に受けてちゃ」 綾香ちゃんが呆れて、はぁ、とため息を吐いた。 「ちっ」 各務が、ちょっとつまらなさそうに舌打ちした。 「各務……お前って」 「せんぱーい」 各務に文句のひとつでもいってやろうとした所に、女子バスケ部の部員の一人、林恵さんがひょっこり姿を現して、北島先輩を呼んだ。 「ん? なに?」 「この人は……誰ですに? 一緒に更衣室までついて来たですに」 と、ちょっと独特な喋り方をする林さんが、自分の後ろについてきた女生徒に目を向けた。 「え?」 そこに、何故かニコニコと微笑んで佇んでいる、金髪の女子生徒が一人。 というか、姉さんだった。 「あれ? 姉さん、なんでそこに?」 「姉さん? この人、はるきちゃんのお姉さんかに?」 林さんは、ボクと姉さんを見比べながら首を傾げた。 「はい、エストリィ・エルジェベト・カザノと申します。ハルキ君がいつもお世話になっています」 ペコリと、姉さんは北島先輩と林さんに深々と丁寧に挨拶した。 「はぁ、どうも……バスケ部主将の北島です」 「は、林恵ですに」 ちょっと面食らった感じに、北島先輩達が挨拶を返した。 「で、姉さん。なんでまたあっちに行ってたの?」 相変わらず、ニコニコと笑顔の姉さんに訊いてみた。 「ええ、先ほどそちらの方……北島さんから『早く着替えて準備をしなさい』と指示をいただいたものですから」 「へ? 私?」 皆の注目を浴びて、北島先輩がちょっと慌てた感じに自分を指差した。 「はい、先ほど」 「えーと……」 「ほら先輩、さっき私達を追っ払った時ですに」 「……あー」 林さんの助け舟に、北島先輩は思い出したようにポンと手のひらを打った。 そういえば確かにさっき北島先輩は、たかっていたバスケ部員達を「早く着替えて準備しな」と追い払っていた。 その時、姉さんも部員達に一緒について行ってしまったようだ。 「いや失礼失礼。アンタに言ったわけじゃないんだよ……昼に男子どもが『2年にすっげぇ美人が転校してきたぞー』って騒いでたけど、ひょっとしなくてもあんたの事なんだろうね。見慣れない制服着てるし」 「はい、本日転校して参りました。それで運動部の見学をしてみたいと思いまして」 「ふぅん、なるほどねぇ」 「よろしいでしょうか?」 「いいですよね? 先輩」 と、綾香ちゃんも後押ししてくれた。 「いいんじゃない? 部員増えたら楽しいし。いくらでも見学していきなよ」 「はい、ありがとうございます」 「で、風野達は?」 「え?」 北島先輩に急に振られて、戸惑ってしまう。 「ボクは、その……姉さんの付き添いに」 「同じく」 「以下同文」 「ふぅん、そうか。風野はまたウチのマネージャーでもやってくれるのかと期待してたんだが、残念だ」 「え? いや、もうそれは……」 「ははっ、冗談だ。……もう私達は大丈夫だからな」 そう言って、北島先輩はポンとボクの頭に手を乗せて、そのまま中に入っていった。 「じゃあ、着替えてくるね。適当なとこで待ってて」 そして綾香ちゃんが、北島先輩の後に続いていった。 |