黒い十字と銀の月
塗られた姉に花束を〜



二章 幼馴染で年下で、でもお姉ちゃんで……




 放課後の体育館の中央にはネットが引かれ、入り口側の半分をバスケット部、ステージのあるもう半分をバレー部が使用する決まりになっている。

 すでに女子バスケット部のメンバーはすでに全員(といっても、10人程度だけど)が集まって、ストレッチ体操を行っていた。

 そしてボク達は、入口付近の邪魔にならない所に腰を下ろして、その光景を眺めていた。

「よし、次!」

 北島先輩の掛け声と同時に、部員達がそれぞれペアを組んで駆けながらのパスの練習を始めた。

 それから、ドリブル練習、シュート練習と続き、5対5に分かれての試合というのが、いつものメニューだ。

「ふむ、たまには汗に濡れて息を乱す女生徒達を視姦するのも興味深いな……」

 唐突に、各務が変な事を言い出した。

「ウチの高校ぐらいだよなあ……いまだにブルマ採用してんの」

 火嘉がぐふふと変な笑い声を上げた。

「うむ、あれは校長の趣味だという話もあるな」

 そして2人は互いに顔を見合わせて、とても邪悪な笑みを浮かべた。

「……あの校長、いつか何かで捕まるんじゃねぇか?」

「だが、その心意気はよしとしよう。今は、校長が守り通した日本が生んだ至上の文化を堪能しようではないか」

「おう」

 ボクと姉さんがバスケ部の練習を真面目に見ているのをよそに、火嘉と各務の2人は、しょーもないブルマ話に花を咲かせていた……。

「ハルキ君」

 女子バスケ部の練習をマジマジと見ていた姉さんが、不意にボクに声をかけた。

「ん? なに?」

「あちらのバレー部の方は男女一緒に練習しているようですが、バスケットボール部には男子はいらっしゃらないのですか?」

「あ、男子バスケ部は……」

 男子バスケ部は一昨年、何人かの部員が起こした暴力事件が原因で廃部になっている。

 桜ヶ丘高校は片田舎の、のどかな校風で、そういうものとは無縁な高校だけど、やっぱり例外はあるわけで……。

 聞いた話によれば、当時の顧問がようやくこぎつけた他校との練習試合の際、些細なきっかけで乱闘騒ぎを起こして相手校の生徒の何名かを病院送りにしたそうだ。

 これが原因で男子バスケ部は廃部になり、顧問をしていた先生も転勤させられてしまったそうだ。

 女子バスケ部もその煽りを受けて廃部寸前まで追い込まれたけど、北島先輩と次の年に入部した綾香ちゃんが働きかけて復活を果たした。

 ボクもその時、綾香ちゃんに乞われてマネージャーみたいな事をやったわけだ。

「苦労したみたいです。やる気をなくした部員達を必死に説得してまわって……新しい顧問の先生も見つけて」

「そうだったんですか」

 ボクの説明に、姉さんはしんみりと頷いた。

「お! 今、あの娘、ブルマの裾を直したぞ!」

 そんな中、火嘉と各務はの2人は相変わらずノー天気にブルマ話に興じていた……。

「ほう、それは興味深い……む、あの女子生徒は、シャツをブルマの中に入れてないな……けしからん」

「ん? そうか、オレは入れてない方がいいな」

「む、何故だ、同志火嘉? シャツはブルマの中へというのが鉄則だろう」

 そんな鉄則、聞いた事がなかった。

「だってお前……お、ほれ、見てみろよあの娘」

「む?」

 そう言って火嘉が指差したのは、丁度、シュートしようとドリブルでリングに迫る女子バスケ部の林さん。

 ブロックしようとした相手チームの部員をドリブルで躱し、すぐさま大きくジャンプしてレイアップシュートを放つ。

 ボールは綺麗な弧を描いてバックボードの窓に当たり、そのままリングの中に吸い込まれた。

 ちょっと小柄な(それでもボクよりちょっとだけ背が高い)林さんだけど、ドリブルでの鋭い切り込みと、得点力は綾香ちゃんも一目置いている。

「見たか各務! あれだよ、あのチラリと見える背中がイイんだよ。あれはブルマの中に入れてたら絶対に見れねぇぞ」

「ふむ」

 あんまり注意して見てなかったから判らなかったけど、ジャンプしたその一瞬の間にチラリと彼女の背中が見えたんだろう。

「しかも、大きく捲れてブラチラなんてあった日にゃ、それだけでごはん3杯は軽いぜ」

 よく判らないたとえだった……。

「なるほど……それも興味深いな。流石、同志火嘉だ。目の付け所が違うな」

 妙に各務が感心したように、顎に手を当てて何度も頷いた。

「だろ? ……お、バレー部のあの娘、ジャンプサーブしそうだな」

 と、火嘉の視線の先では、男子と練習試合をやっている女子バレー部の女の子。

 火嘉が注目する通り、シャツをブルマの中に入れてない。

 彼女は助走しながら天井に届かんばかりにボールを投げると、その落下に合わせて……。

「おおっ」

 そして跳躍した瞬間!

「ぬおっ!?」

 突然、各務がぶっ倒れた。

「なっ!? へぶっ!?」

 そして続いて、火嘉が何かにノックアウトされた。

「お前ら2人は、カ! エ! レッ!!」

 足元にテンテンと跳ねてきたバスケットボールを拾って、倒れて頭を抑えながら呻く火嘉と各務に、ビシッと人差し指を向けて怒鳴った。

 どうやら、あのボールを思いっきりぶつけたみたいだった……。

「うおおお……テメェ水無月ッ! いきなり何しやがる!」

 火嘉が痛そうに頭を抑えながら、綾香ちゃんを睨む。

「ったく! 聞こえてるんだってーの! スケベ! ヘンタイ! 女の敵っ!」

 キシャー! と擬音が聞こえそうなくらい、綾香ちゃんが目を吊り上げて激しく怒鳴った。

「くッ、地獄耳な奴だ……しかし胸の大きさと耳の良さには何か関連性があるのかも知れないな……興味深い研究対象だ。フフッ」

 身を起こした各務が、衝撃で床に落ちた銀縁眼鏡を拾って正して、まだ痛むのか若干顔を歪めながら、それでも不敵に笑った。

「関係あるかっ! なんでもかんでも胸に結び付けんなっ!」

「無茶しやがんなあ……殺す気か!」

「あんた達がこの程度で死ぬかっ! この、赤い彗星のバカ!」

 ……3倍速そうなバカだった。

「あんだと! この、たゆんたゆんお化けが!」

「たゆんたゆん言うなっ!」

「えーかげんにしなさい」

「あたっ」

 いきなり横から北島先輩が、綾香ちゃんの頭をペシンと叩いた。

 いや、叩いた、と言うよりツッコんだと言うのが正しいのかも知れない。

「な、何すんですかー? 先輩」

 そのツッコミに綾香ちゃんが口を尖らせて、不満な声を上げた。

「見てて面白いんだが、練習中だ。後にしろ、後に……みんな見てるぞ」

「……え?」

 北島先輩にそう言われて、綾香ちゃんが辺りを見回した。

「クスクス」

「たしかに、アレはたゆんたゆんだな」

「何食べたらあんなに大きくなるんだろ……羨ましい」

「肩、こらないのかしら?」

 気がつけば、体育館中の生徒達が綾香ちゃんに注目していた。

 いや、正確には綾香ちゃんの大きな胸にだ。

「うわああっ! か、勝手に見るなーっ!」

 綾香ちゃんはその注目の的になった胸を隠しつつ、顔を真っ赤にして辺りの生徒達に喚き散らした。

「うるさい」

「あたっ」

 また、綾香ちゃんが北島先輩にペシンと叩かれた。

「うう、先輩、酷い……」

「でもまあ、あれだ。アンタ達も練習中に綾香を刺激するのは勘弁してくれないか?」

 淡々とした表情で、北島先輩が火嘉と各務に諭すように言った。

「へーい」

「ふむ、努力しよう」

 北島先輩の言うことだと、案外素直に聞く2人だった。

「ほら、練習再開、再開」

「あの、よろしいですか?」

「ん?」

 突然、ボクの隣で大人しく座っていた姉さんが、立ち上がって北島先輩を呼び止めた。

「どうかした?」

「私も、参加させていただけませんか?」

「へ?」

 その申し出に、北島先輩が面食らったのか、目を丸くした。

「そりゃ、構わないけど。やった事ある?」

「経験はありませんが、ルールぐらいなら存じています」

「……まあ、いいか。体操着は持ってる?」

「はい」

 と、姉さんは傍にあるショルダーバックをポンと叩いた。

「じゃあ、更衣室で着替えて来るといい……そうだな、恵! 案内してあげろ」

「はいですに。はるきちゃんのお姉さん、こっちですに」

「はい、よろしくお願いします、ハヤシさん」

「恵でいいですに。もしくはめぐたん。めぐたんのがすいしょーですに」

「はい、メグタンさん」

「がくっ、そうじゃなくてー。だから……」

 何か言い合いながら、姉さんと林さんが女子用の更衣室に入っていった。










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