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そういうわけでやってきたのは、放課後になるとバスケ部とバレー部の活動の場になる体育館。 「はぁ、赤いのだけじゃなくて白いのまでついて来るなんて……」 と、綾香ちゃんが途中で合流したボクの友人、各務光輝をものすごく嫌そうにジト目で睨みながら、昇降口備え付けの下駄箱に自分の上履きを入れた。 ボクも彼女に倣い、その隣に自分の上履きを並べる。 彼女が『白いの』と言うように、各務は先天性色素欠乏症という病気のために髪や肌が白い。 ついでに年中コート代わりに年中白衣を着ていて、服装も白かったりする。 「あんた科学部でしょ? 部室で怪しい研究でもしてればいいのに」 彼もまた綾香ちゃんに「ボクに悪影響を与える友人」と認識されていて、火嘉と同じく目の敵にされている。 「ふむ、まあそう焦るな。ちゃんと胸を小さくする薬は開発中だ」 「なっ!?」 各務が自分の上履きを下駄箱に並べつつ、銀縁眼鏡のブリッジ部を人差し指でクイッと上げて、ニヤリと笑った。 その姿は、まさに世界制服を企んでいる狂科学者。 「ホルモンバランスの理論構築に若干手間取っているが……何、私は天才だ。なんとかしてみせるさ」 「要らんっ! つーか、余計なお世話だっ!」 「ああ、そうだ風野」 ぎゃあぎゃあと喚く綾香ちゃんを無視して各務がボクに声をかける。 「ん? 何?」 「喜べ風野。背を高くする薬はもうじき完成する予定だ」 「ぐぁ」 矛先がボクに向いた。 「コラーゲンを軟骨に吸収させる事である程度の身長アップが見込める事が判明した。あとは効果的に吸収させる手段を確立させて今までの研究結果に加えればお前も晴れて170cmの仲間入りだ」 「え……ホント?」 「うむ、任せておけ」 自信たっぷりに頷く各務に、ボクは期待に満ちた眼差しを送る。 各務はこの学校始まって以来の天才と目されている優秀な生徒で、全国レベルから見てもトップクラスの成績を誇っている。 その各務が自信たっぷりに言うもんだから、ボクもついつい期待してしまう。 「170cmかぁ……」 160cmに満たないボクの身長がいきなり170cm超えたら、きっと世界が違って見えるんだろうな……。 ああ、ボクも油断して、入り口の梁で頭を打ったりしてみたいよ。 「だ、ダメっはるくん! 人体実験に使われちゃうよ」 ボクの目の色が変わったのに気づいた綾香ちゃんが、慌てて止めに入った。 「人体実験とは人聞きの悪い……治験と言って欲しいな」 心外だと言わんばかりに各務は両腕を広げてオーバーにやれやれと首を振って見せた。 「治験?」 調べてみた。 ちけん 【治験】 (1)治療のききめ。 (2)人間(患者)を対象にした,開発中の医薬品による臨床試験。GCP に基づき,医薬品の有効性と安全性の確認および科学的データの収集を目的に実施。新しい医薬品の承認申請のために必要。治療試験。 ―――goo 辞書より引用 「じ、人体実験じゃないかぁ!」 「心配するな、私を信じろ」 「ダメだよはるくん。きっと飲んだりしたら逆に縮んじゃうに決まってるんだから」 綾香ちゃんが各務をギロリとすごい目で睨んで言う。 「いや、いくらなんでもそれは……」 と、ボクが各務に目を向けると、 「……………………」 ……目を逸らされた。 「ほーら図星だ。騙されちゃダメだよ、はるくん」 「各務……ヒドイよ」 「お前は小さい方が似合うと思うぞ、風野」 ポンと、肩を叩かれた。 「自分らしさというものは大切にした方がいい」 「そんな自分らしさ、要らない……」 「そんな事を言ってはいけませんよ、ハルキ君」 すでに体育館用のシューズに履き替えた姉さんが、おろしたてでまだ合わないのか何度もトントンとつま先を打ちながら、ややたしなめる様に言った。 「日本には『デルクイハウタレル』という諺があるようですが、個性を打ち消すのはあまり良くない事だと思います」 「は、はぁ……」 「例えば……綾香さん」 「は、はい?」 いきなり振られてびっくりしたのか、綾香ちゃんがちょっと高い声で返事した。 「ハルキ君が、背が高くて筋肉隆々だったとしたらどう思います?」 「はるくんが……?」 …………………………。 ボクが背が高くて筋肉隆々……? …………………………。 (…………ええなぁ) そんなボクなら、きっと悪いヤツに囲まれても、格闘ゲームのキャラみたいに必殺コンボで返り討ちにしてしまうに違いない。 「背が高くてマッチョなはるくん…………すごく嫌かも」 「嫌なの!?」 「だ、だって……そんなはるくん、気持ち悪いよ」 「確かに……嫌な春樹だな、それ」 「うむ、風野は小さいから風野なのだ」 「……ぐぅ」 3ヒットコンボを喰らって、ボクのライフゲージは真っ赤になった。 「そうですよね。私もハルキ君は小さい方が可愛いらしいと思います」 「ぎゃふぅ」 そして、エストリィ姉さんに追撃を喰らってKOされてしまった……。 「可愛らしいって……」 いくら華奢で女の子に間違われる顔立ちといっても、流石に可愛らしいというのは……。 「いくらなんでも、ねぇ」 フォローを求めて各務と火嘉に目を向ける。 「いや、可愛らしいぞ」 「可愛らしいな」 「即答された!?」 各務と火嘉に即答されてしまった。 「ひどい、ひどすぎる……」 「不幸な星の下に生まれたと思って諦めるんだな」 ポンと、各務に肩を叩かれた。 「あ、綾香ちゃんは……」 救いを求めて、ボクは綾香ちゃんに目を向ける。 綾香ちゃんなら、きっとボクの苦しみを判ってくれるに違いな……。 「…………………………」 目が合った瞬間に綾香ちゃんはツイっと、ボクの視線をかわした。 「な、なんでそこで目を逸らすの!?」 「………………ゴメン」 「なんで謝るの!?」 「水無月はショタ趣味だからな」 また、各務にポンと肩を叩かれた……。 「しょ、ショタ言うな!」 「ちなみにショタコンは『正太郎コンプレックス』の略で、ロリコンやブラコンと違って日本語由来だ。覚えておけ風野」 真っ赤になって怒鳴る綾香ちゃんを無視して、各務は何の役にも立たない無駄知識を披露した。 「そんなの覚えても意味ないよ……大体、ボクじゃショタにはならないだろう?」 ショタ趣味の対象といえば、普通は小学生くらいのはずだ。 いくらなんでも、高校生なボクがその対象には……。 「いや、なるな」 「うむ、なるな」 「断定された!?」 「きょうび、小学生の方がお前より成長しているぞ」 またもや、各務にポンと肩を叩かれる。 ひどい言われようだった……。 「あ、綾香ちゃん……」 救いを求めて、綾香ちゃんに目を向ける。 「…………………………」 目が合った瞬間に、綾香ちゃんからまた、目を逸らされた。 「だから、なんでそこで目を逸らすの!?」 「………………ゴメン」 「だから! なんで謝るの!?」 ……ちょっと泣きそうになったけど、我慢した。 |