黒い十字と銀の月
塗られた姉に花束を〜



二章 幼馴染で年下で、でもお姉ちゃんで……





 そんなこんなで放課後。

「ハルキ君」

 担任の楠木先生が教室から出て行くのと同時に、姉さんがボクを呼んだ。

「何? 姉さん」

「ハルキ君はクラブ活動はやっていないのですか?」

「クラブ活動?」

「はいっ」

 姉さんが期待に輝かせた目でボクを真っ直ぐに見つめた。

 ボクの所属するクラブは、

「いや、特にはないけど……」

 入学当初から、帰宅部だ。

 ……何にもやってないとも言う。

「そうですか……ハルキ君と一緒にクラブ活動できたら楽しいと思ったんですが」

 姉さんが、とてもがっかりした感じで呟いた。

「勉学に勤しむのが学生の本分ですが、やっぱりクラブ活動などもやってみたいと思うんです、私」

「そうですよね、お姉さん! やっぱり高校生と言ったらクラブ活動でしょうっ!」

 いつの間にか近くに居た火嘉が、姉さんに力いっぱい同意する。

 でも、彼もボクと同じく帰宅部なのであんまり説得力はない。

「向こうではあまり身体を動かす機会がなかったものですから、ぜひ運動部に所属してみたいんですよ」

 線が細く華奢な感じの姉さんだけど、意外と活動的な人なのかもしれない。

「どこか、良い運動部をご存じないですか?」

 と、姉さんに尋ねられる。

「ええっと……」

 ボクの親しい友人で運動部に所属している人といえば……。

「綾香ちゃーん」

 帰り支度をしていた綾香ちゃんに声をかける。

「ん、なに? はるくん」

 その声に気づいた綾香ちゃんがボクの席までやってきた。

「今日、バスケ部の見学に行ってもいい?」

「え? 見学って、女子バスケを?」

 ちょっと怪訝気な感じに、綾香ちゃんが訊き返す。

 そしてボクの側にいた火嘉をジロリと睨んだ。

 その目は、

「はるくんをそそのかして何する気だっ!」

「そそのかしてねぇっ!」

 ……目だけじゃなくて、口にも出していた。

 綾香ちゃんにとって火嘉は、ボクに良からぬ事を吹き込んで悪ささせる位置づけになっているらしい。

「あ、いや、ボクじゃなくて姉さんが運動部見たいって……」

「え? エストリィさんが?」

「水無月さんはバスケット部に所属されているのですか?」

 姉さんが綾香ちゃんにいつもの笑顔を見せる。

「え、あ……は、はい」

 何故か怯んだ感じで返事をする綾香ちゃん。

「バスケットですか……ヴァチカンの神学校に通っていた頃、クラスメイト達が興じるのを良く目にしていましたが、あれは楽しそうでしたね」

 姉さんが遠い目で窓の外を見る。

 この町の名前の由来ともなっている、この桜が咲き乱れる小高い丘の上に建つこの校舎の窓からは、町の風景が一望できた。

「良かったら、見学させていただけませんか?」

 でもすぐに姉さんは視線を綾香ちゃんに移し、ペコリと綾香ちゃんに頭を下げた。

「は、はい。別に構いませんが……」

 姉さんに釣られたのか、綾香ちゃんも丁寧な口調で答える。

「ありがとうございます。では早速参りましょう!」

 言うが早いか、姉さんは通学カバンを手に取ると満面の笑顔を綾香ちゃんに振りまいた。

「は、はい……」

 ボクと火嘉がその笑顔にぼへらーとするのをよそに、綾香ちゃんだけは戸惑うような、困っているような複雑な表情でその笑顔から視線を逸らしていた。







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