はじまる・・・
わたしのなかで、もうとまらないしんかが・・・
・・・もうすぐ、わたしからことばがなくなっていく・・・
かんがえることが・・・できなく・・・なって・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
おねえ・・・ちゃん、ごめん・・・・・・なさい・・・
・・・・・・・・・・・・もう・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第五章・花天月地の頃に散る一輪の花、さりとて天上の月は其れを知らぬ為か雲に隠るる
「ありがとうございました！！」
今日もルルゥは、商人としての経験を積む為にこうして露店を開いている。
客の扱いには慣れたもので、クレームも少なく、遭遇したとしても目に見える滞りは無い。
これはライトシードの血筋なのか、客の捌きはスピーディながら温かみがある。
しっかりとルルゥも受け継いでいたようだ。
ただ・・・
「あっ」
がしゃり、と高い音を立てて、商品の赤色ポーションを地面に落としてしまう。
「も、申し訳ありません、直ぐに代わりを・・・」
こういった癖を直す為にも、日々、鍛錬と商売の両立を図っているのだった。
「ポーションだったからまだ良かったものの・・・
気をつけなくっちゃ」
失敗は、省みてめげるものではない。
次へ向かう為の大事なステップである、疎かには出来ない。
ダグラスの言葉をしっかり弁え、活かそうとする姿勢。
紛れも無く、それはルルゥの武器である。
果たして、気を引き締めなおし、再び道行く冒険者に声を掛け続けるルルゥ。
「いらっしゃいませー！
疲れに怪我に、よく効く赤ポーションは如何ですかー！
各種青果も取り揃えておりまーす！」
眩しい笑顔で声を出し続けるルルゥの元に、彼女とは正反対の雰囲気を纏った男が立つ。
髪の毛を無造作に伸ばしており、手入れの跡も窺えない。
だらしない、と言ったレベルでなくみすぼらしい。
しかしその目には強い信念が宿っており、世捨人の類では無いらしい。
纏った衣服は黒、黒、黒で、イメージとして危険な香りが漂ってきそうですらある。
そのくせ、折れそうな程の痩躯は男の貧弱さをありありと晒し出していた。
そんな、少々毒めいた人間観察を頭の隅に追い遣り、変わらぬ笑顔で応対するルルゥ。
「いらっしゃいませ！
どういったご用命ですか？」
はっきりしゃっきりとしたルルゥの応対。
対し男は、ゆっくりと、というより、ゆらり、と言った感じでルルゥの顔を見る。
「・・・・・・
赤色ポーションを・・・五十、頂こう・・・」
やつれた顔が年齢をぼかしていたが、その声には長い長い年輪を感じる。
五十の齢は越えているであろう、重みを含んだ声だ。
「はい、赤ポーションですね、少々お待ちください・・・」
余り整頓の成っていないカートの中身を掘り返して、赤ポーションを五十個取り出す。
「お待たせしました、こちら赤ポーション五十個で総計八百ゼニーになりますね」
赤ポーションを差し出しながらのスマイル。
男は顔色一つ変えず、いつの間にか傍らに控えていた少年に申し付ける。
「・・・八百ゼニーだ。
解るな？」
「ええと・・・はい、これと、これ、ですね」
「そうだ、さあ、商人に払え」
「はいっ」
とても初歩的な事を態々確認しながら実行しているように見える。
差し出された手で、ルルゥの思考は中断させられた。
(そんなこと、考えていても仕方ないし・・・ね)
思考を商人のそれに切り替える。
すると。
「はい・・・・・・
え、ちょっと、お客様、これ・・・」
「・・・行くぞ、月花。
遅れるなよ」
「あ、はい！
それじゃあ、どうも有難うございました！」
取引が終わると見ると踵を返して去っていく男と、深々と頭を垂れる少年。
少年はそのまま、先行した男に付いて立ち去ってしまう。
ルルゥの戸惑いも何のその、である。
「えっ、いえあのっ、ああっ、ちょっと、これってミス・・・ふええっ」
そして取り残されたルルゥ。
手には、しっかと握られた・・・一桁違いであるところの八千ゼニー。
「こんなの・・・受け取れない・・・
っ、返しに行かなきゃ！
それが商人としての、私の誇りだから・・・！」
さらに強く八千ゼニーを握り締め、立ち上がる。
そして、バッグを引っ手繰る際に露店を目に留め、愕然とする。
「・・・そうだ、露店、片付けなきゃ・・・」
カートの中身は、更に荒々しく、整頓のされていない状態へと退化していくのだった。
選択画面へ 次へ