協議の結果、不健康に宿でカードゲームでもしようという話の流れになっていた。
とりあえず、カードはセリンが持っているというのでそのまま宿に向かう一行。
と。
「あっ、と」
ルルゥの肩が、通行人の肩に触れてしまう。
「あン?」
触れてしまった相手のドスが効いた声と共に、睨む様な非難の視線が向けられる。
「「あっ」」
ルルゥと相手の視線がぶつかった途端、二人共声が上がる。
「先程の・・・」
「げっ」
相手は、先刻の商人であった。小柄なアコライトも一緒である。
礼を言いたかったのに言えなかったルルゥの表情は明るく輝くが、
ダグラスにお灸を据えられていた商人は明らかに関わりたくないといった拒否の態度を示していた。
「遅いかもしれませんが、先程はどうもありがとうございました」
別れ際にしたお辞儀よりも更に深いそれで礼とするルルゥ。
「あ、ああ、もうええねん。
 命あっての商人や、今度は気ぃ付けえよ。
 ほ、ほなな」
最早逃げ腰になってしまっている商人は、反応もそこそこに立ち去ろうとする。
そんな微弱な繋がりでは満足できないのか、ルルゥが食って掛かる。
「あっ、待ってください!
 お名前、教えてもらえませんか?」
ルルゥが羊の皮を被った狼にすら見えてしまっている商人は、妙な理屈で逃げようとする。
「い、いやあ〜、そんなん、うちなんて名乗るほどのモンやあらへんよ〜」
そういった断り文句が、ルルゥの情熱に炭をくべる結果になろうとは思いもよらず。
「その謙虚な姿勢・・・やっぱり本当はいい人だったんですね・・・!
 それに、あれだけお強いお方です、きっと肉体派商人として名を馳せているに違いありません!
 さっ、お名前を!」
「・・・うう」
キラキラと輝くルルゥの瞳が眩しくて・・・という事ではないが、目を逸らして誤魔化そうとする事しか出来ない。
「さあ!!」
「・・・ううう」
もう受け身も限界か、と思った所で、横で小さくなっていたアコライトが一言。
「ミ、ミナホさん、名前くらいは・・・よいのではないでしょうか」
「あっっ」
「・・・!」
期せずとも知る事のできたルルゥ。
コレをネタに、更に詰め寄る。
「ミナホさん・・・っていうんですか・・・
 ではミナホさん、お名前を教えてください!」
「・・・は」
「おいおい・・・」
「・・・・・・」
しっかりと目の前の相手の名前を発音している事に気付いていない様子のルルゥ。
皆の呆れた視線がルルゥに注がれる。
「・・・??」
まだ気付かない。
と、覚悟を決めた商人は、顔を上げ、芝居掛かった様子で真っ直ぐルルゥを見据える。
「解った・・・
 教えたるわ、未来永劫歴史に刻まれる、超華麗特大劇的美少女商人の名を!!」
逃げられない事が解ったので、もうハジけるしかなかった。
元々ノリはいい方なので、すんなりとその土台に立つ事ができるのが彼女の強みであった。
「おおっ、凄いです!」
そのノリに単純に乗ってくるルルゥと、付いていけないアルとセリンが遠巻きに見ていたのが印象的であった。
「うちの名はミナホ・コールデン、世界を革命する商人やぁーっ!!」
大袈裟な売り文句で自己紹介をするミナホという商人。
勿論、ポーズもしっかりと決めている。
「うわぁ、かっこいいですー!」
小さく拍手しながら称えるルルゥ。
傍に居るアコライトも何気に拍手をして盛り上がっている。
「せやな、もうこいつも紹介しとこか・・・」
アコライトの頭に手を乗せ言う。
「え、え、そんな・・・」
「ええやん、無い胸でも、張ったらそれなりに見えるもんやで」
恥じるアコライトを軽くあしらうように促すミナホ。
「うう・・・」
気にしているのか、胸を両手で覆うような仕種をしながら、目では抗議している。
「ま、ええわ。
 こいつは、歴史の陰にその名あり、世界の大黒柱、アリス・コールデン!
 うちの妹や」
さっきのノリを引き摺ったままの、大仰な紹介。
「妹さんですかー!
 そういえば、あんな怪物の攻撃を受け止められるんですもんね。
 肩書きに恥じない実力を持っているんですね、お二人共」
何か絶妙に勘違いしているルルゥの発言。
このノリに巻き込まれたルルゥが暫く止まらないのをアルとセリンは知っていたため、暫くは傍観者を決め込む事にした。
ルルゥの気が済むまで、この茶番を生ぬるく見守ってやろうと。
「・・・しかし、あのアリスって娘、良く見ると・・・
 今は幼いけど、将来が楽しみだな」
顎に指を沿え、専門家ぶってアルが呟く。
やはり、見るところはしっかり見ていた。
「・・・・・・ロリコン」
まさに単刀直入に、アルに突き刺さるように呟くセリン。
「・・・・・・・・・」
その単刀は、アルの口をぴったりと封じてしまう効果があったようだ。


「せやせや、どうせならそっちの名前も教えてくれへん?
 うちらだけ名前教える言うのも不公平やし」
「あ、すみません、申し遅れました!
 私、ルルゥ・ライトシードと言います」
ぺこり、とまた丁寧なお辞儀をする。
「ほう、ライトシード!
 聞いたことあるで、っていうかガキん頃行った事あるわ、その店」
「え、そうなんですか!!」
思いがけない証人に、驚きを隠せないルルゥ。
「うん、あんまり良く憶えてへんけど、感じのいい店ちゃうかったかなあ。
 子供心に『温かい』って思った思うで」
「・・・そうですか」
自分の思っていた通りの現実に、安堵し、納得するルルゥ。
その顔には、なんとも優しい笑顔が浮かんでいた。
「しかし、あんたええ血持っとるんやな。
 ええ好敵手になりそうやな」
「好敵手・・・」
今までの人生で、全くもってライバル視などされた事の無かったルルゥは、逆に笑顔で喜びを露にしていた。
確かに、そう見られると言う事は認められていると言う事だから。
「ま、とりあえず、よろしゅうに」
「あ、はい、よろしくお願いします!」
緩い握手を交わす二人。
「ほな、後ろのお二人さんも、序でに」
「!」
傍観していたアルとセリンは話題を振られた事に気付き、一瞬、戸惑う。
が、アルが肘でセリンを促したため、仕方ないと言った態度でセリンが自己紹介を始めた。
「セリン・フラウディア。
 よろしく」
「よろしゅうに〜」
簡単な自己紹介を済ませ、目に勢いを込めてアルを横目に見るセリン。
「・・・僕が出るとややこしくなりそうだけどな・・・
 まあいいや」
こちらも、渋々と言った様子で一歩前に出て、自己紹介を始める。
「アル・シュトルハイムだ。
 ギルド『鋼の騎士団』でアコライトを――」
「シュ、シュトルハイム・・・!?」
やっぱり、と言う顔で両手を広げかぶりを振る。
「・・・・・・何が聞きたい?」
彼の名前の耳にした者は皆同じリアクションをしていた―只一人、ダグラスを除いては―。
その為、反応に慣れが生じていた。
「うぅん、聞きたい事はぎょうさんあるけど」
「す、好きな女の子のタイプが、き、聞きたいです・・・!」
ミナホの言葉を割って聞こえてきた、思い切った声。
アリスの、それであった。
その場にいた全員が、唖然としてアリスの方に目を寄せる。
「「・・・・・・はぁ!?」」
ミナホとアルは、揃って声を上げる。
他の二人も、口には出していないが、隠せないほどの驚愕に襲われていた。
「ちょ、ちょい待ちアリス。
 ま、まあ、うちの台詞遮ったんはまあ百歩譲って許すとしよか。
 ・・・そういう質問するって事は・・・・・・
 ・・・・・・やっぱり、そうなんか?」
近しい者同士にしか解らないニュアンスで省略した質問を投げかけるミナホ。
それに対し、恥ずかしげに頬を染め、その頬を覆う様に両手を沿え、ぽつぽつと零す。
「・・・は、はい・・・・・・
 え、えっと・・・そ、そ、その・・・」
言いながら、一人でくねくねと悶えている。
「自分で言ってて恥ずかしがってたら世話無いわ・・・」
このような状態のアリスを見るのは初めてだったミナホは、流石に呆れて顔を手で支えるようにして項垂れる。
「そ、えっと、そ、そして、もし、もしですよ?『それは・・・キミだよ』なんて言われちゃったりしたりしたら・・・
 ・・・うううっ、アリス、お嫁さんにしてもらうしか・・・なかったり・・・・・・??
 やあぁ・・・っ」
更に妄想を口から零し、自らを抱きしめる様に肩に手を回し、引き続き悶え続ける。
どうやら、こと恋愛に関しては意識がトリップしてしまうことがあるようだ。
その炎が盛んであればあるほどに。
アリスは、アルに対して一目惚れ以上の激情を抱いてしまっているようだった。
「この子・・・思い込みは激しかったけど・・・
 ここまでイくとは思わへんかったよ、正直・・・」
もうここまで来ると、呆れるというよりも心配といったニュアンスが混じるミナホ。
「おいおい、どうするんだ商人さんよ」
ただ事では居られなくなった立場のアルは、保護者と思わしきミナホに助けを乞うように口を向ける。
しかしどこかしら嬉しそうな感情が見え隠れするのは男の悲しきサガなのだろうか。
「『商人』ちゃう、ミナホやっ!!
 ・・・んー、正直うちもどうしたらええか・・・」
そのまま、一番解決に近い立場に居るミナホが黙りこくってしまったのであった。





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