八犬伝特集
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■高田衛「八犬伝の世界」について
ここでは、高田衛「八犬伝の世界」(中公新書版)について書いていこうと思います。
先述したとおり、鎌田敏夫版、山田風太郎版を読んでも、壮大な伝奇ロマンという感じがしなかった私は本書に手を出すまでになりました。
本書は、今でいう考察本。エヴァンゲリオンなどの考察サイトなどで、おなじみです。
「あのシーンはこういう意味が」とか
「あのセリフから、こう読み解ける」とか
といった類いの本です。
したがって感想というものはありません。ただ八犬伝つながりで、紹介しておこうと思っただけです。
この手の考察本を読みなれていない方は苦戦するかもしれません。細かく書いてもいいのですが、書けば書くほど引用だらけになってしまいそうなので、印象に残った箇所のみ書いておくこととします。
全体を通じて
この考察本、ネットで目にする考察サイトとは一味も二味も違います。
ありがちな考察サイトは考察する作品のみで、完結しています。
しかし本書では、八犬伝は言うに及ばす、馬琴の他作品、同時代の作品、海外の古典、日本の歴史書、神話、民話、当時、馬琴が影響を受けたであろう作品から考察を進めているのです。
しかも影響を受けた作品は小説だけではありません。歌舞伎や浄瑠璃といった、江戸時代に流行したものまで取り込んで考察しているのです。
生半可な知識量や情報量で書かれていないことがよくわかります。
しかし、あくまでこれは高田衛の考察であり、作者の意図する所とは違う場合もあるはずなのですが、もっともらしい説明がついているため、
「なるほど、そういうことだったのか」
と読んでいるこちらは納得してしまいます。
こんな考察本は、以前からあったのかどうか知りませんが、本書が出たころは、「ガンダム」でも似たような考察ブームがありました。
「ガンダム」では「ニュータイプとは何か」がやたら考察されていましたが、その考察ブームに乗っかったのかもしれません。
本書の出版以後、山田風太郎「八犬伝」が書かれ、映画「里見八犬伝」が公開されています。
80年代、ちょっとした八犬伝ブームがあったのかもしれません。
印象に残った点
その一
言葉あそび。丶大法師。「丶」と「大」。この二文字を組み合わせると「犬」になる。
これに興味をそそられました。
伏姫の「伏」も「人」と「犬」に分けることができます。
鯉は「魚」と「里」に分けることができ、里見の魚となります。
他にも漢字を使った言葉あそびがありますが、忘れてしまいました。
その二
八犬士たちが皆、天涯孤独であること。これが英雄の条件だと考察します。
「逃げ上手の若君」や「スターウォーズ」の例を紐解くまでもなく、「桃太郎」は両親の顔を知らずに育ちます。
高田氏が知っていたか、わかりませんが、なんのことはありません。ヒーロージャーニーに則っているだけです。
その三
尽くしの美学。または揃いの美学。史実では武田信玄の赤備えなどがあります。八犬伝では、八犬士の苗字に全て「犬」がついています。この何々尽くしは、敵の名前にも反映されており、「猫」「馬」「牛」など、動物の名前が一文字入っています。
船虫にいたっては、そのままです。
その四
宝珠の文字と名前。信乃の名前から彼が持っているのは「信」ではないかとおもわれますが、そうではありません。彼が持っているのは「孝」です。
つじつまが合わないようですが、そんなことはありません。
信乃の正式名称は犬塚信乃戍孝だからです。
他の犬士も同様に正式名称には宝珠の一文字が入っています。
その五
獣との婚姻。伏姫と八房が結ばれて八犬士が誕生する冒頭のエピソード。このエピソード、現代人からすれば、まさにファンタジーそのままですが、本書によれば「太平記」のころからあるエピソード。東アジアで古くからある民話をもとにしています。
その他にも数多くありましたが、忘れています。小説のように再読する気もおきないので、なおさらです。