君たちはどう生きるか特集
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■感想
辞める辞めると言いながら新作を発表し続け、辞める辞める詐欺とまで言われた宮崎駿監督。
今回こそは、年齢からしても最後になるであろう。
という思いの元、映画館に足を運ぶことにした。
本作は全く宣伝を行っていない。
その昔「E.T.」が作品情報に箝口令をし、TV放送、ビデオ化も行わない。という触れ込みで公開されたことがある。
映画館でしか「E.T.」を観る事ができない。という制限を観客に課したことが功を奏し、大ヒットを記録した。
それに倣ったわけではないと思うが、インターネットですぐ内容が確認出来てしまう超情報化社会に対するアンチテーゼとも取れる。
近年では、「シン・ゴジラ」、「シン・ウルトラマン」、「シン・仮面ライダー」が情報制限を行っている。
そんな作品を取り巻く状況が賑やかなだけで、作品としては至ってオーソドックス。
「もののけ姫」のアシタカのような少年眞人が、亡き母ヒサコを求めて異世界(おそらく黄泉の国)に迷いこむファンタジー作品。
序盤はここまで丁寧に描かずともいいのでは。と思うほど人物描写を描いている。
服を着替えるシーン。サギの羽を矢にご飯粒を使って取り付けるシーンなど、他のアニメ作品ではカットすることだろう。
何気にご飯粒を糊に使うというのは、今の世代には理解できないのではないか。と余計なことまで思ってしまった。
とにかく序盤はスローな展開でかなり退屈かもしれない。ところが下の世界に眞人が行ってからは一変する。
キャラクターデザインと世界観に宮崎監督の才気が溢れ、異世界を彩る。
あまりの異世界ぶりに、「そういえば宮崎監督の作品は、はじめ人気なかったんだよな。」と今更のように思い出す。
人気の出ないYouTuberが迷惑YouTuberになってしまうがごとく、常人には理解できないことを始めるのだ。
宮崎監督に限って言えば、飛行船のデザインなどはその典型で、航空力学を完全に無視したデザインが空を飛んだりする。色使いも独特で、いかにもアート。といった感じに仕上がっている。
あまりに強烈な個性なので、常人には理解できず、人気が出ない。
「ナウシカ」の王蟲もその類。あれは「ゴキブリを愛でる女の子の話」。そんな作品、人気が出るはずもないのだ。
王蟲はダイオウグソクムシがモデル。などという聞いたことも見たこともない名前で説明されてもピンとこない。初見時にはどうみてもゴキブリだろう。
そんな宮崎作品に人気が出たのは、日本テレビのおかげ。野球は巨人。の論法と同じ論理で、視聴者を宮崎作品の虜にしてしまったのだ。
そんな事を思いながら、不思議な異世界で物語は進行していく。随所に登場する演出は過去の宮崎監督のそれ。これがつまらないという人もいるが、それは宮崎作品を数多く観てきた証でもある。その記憶を抹消して本作を観ることなど不可能なので、これらの批判は軽く受け流すに限る。
観ように依ってはファンサービス満載の作品ともいえるだろう。
本作ではやたらと集団のアニメーションが多かった。フナ、カエル、インコ、ペリカンといった群れが襲ってくるシーンが多数存在する。私的にはカエルのシーンが気味悪かったが。
このあたりは、昔ながらのアニメーター。数多く動かすことが凄い。という感覚があるのだろう。
あるいは「密を避ける。」とコロナ禍で嫌というほど耳にしたことへの反動かもしれない。
また水の描写は手書きっぽい感じだったが、火の描写はCGのそれ。そのあたりは「ハウル」とは違っていたように思う。
途中にはワラワラが登場。こういうのを描かせると宮崎監督の右に出るものはいない。ワラワラで癒された人も多いことだろう。
これまでの宮崎作品と違うのは、宮崎監督が仕上がった作画1枚1枚に手を加えていないこと。そのため夏子の顔が大人びて宮崎作品らしくないワンカットがあったりする。
また異世界がかなり弱肉強食な世界として描かれている。必要以上に綺麗事を並べ立てたりしていない。
生きていくには食べなければならない。そのために殺生も厭わない。その代わり食事のシーンは過去の宮崎作品同様、実に旨そうに描かれている。
さらに社会に対するタイムリーなメッセージが入っていない。製作期間が長すぎたためだと思われる。代わりに世界は微妙なバランスで出来ており、些細な事でもそのバランスは崩れてしまう。という警告が込められている。
他にも色々とアニメ評論家や学者めいた輩が本作を深読みしているが、そんな小難しい事は、「千と千尋の神隠し」にでも任せておけばよろし。他人の褌で相撲を取る輩が、作者の意図とは無関係な水増し記事を量産しているのに過ぎないのだから。
作品自体はこれまでの宮崎作品と大差ないのだが、エンディングを観て驚くことになる。それは別の頁に書くとしよう。
私的には、ラピュタのような橋の崩落シーンと、水をいかにも旨そうに飲む眞人のシーン。またエンディングを観ながら、これで最後なんだろうなぁ。と感慨に耽っていたことが印象的でした。