カメラを止めるな!特集


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■ホラー作品として

序盤のホラー部分は、B級感満載です。
演じる役者は無名な人ばかり。
セリフも棒読み感一杯。
ゾンビが現れる原因もどこかで観たようなものだし、映画同好会か素人が撮影したような感じで始まります。
その後の展開については詳しく触れません。
実際に観て楽しんでください。
そのかわり、ホラー作品について色々書いておこうと思います。

そもそもこの作品。
製作費は300万円です。
なぜホラー作品は低予算で出来るのか?
低予算で作られ大ヒットしたホラー作品「13日の金曜日」を例に挙げて説明してみましょう。

「13日の金曜日」のあらすじ

「13日の金曜日」とは、

忌まわしい伝説のある場所に肝試しとばかりやってきた若者たち。
そこに伝説どおりに現れる殺人鬼。
逃げまどう若者たち。
泣き叫ぶ女性。
果たして最後まで生き残ることが出来るのか?

という作品です。

なぜホラー作品は低予算で出来るのか

今からすればよくある話ですが、低予算だからこその話なのです。
具体的に説明していきましょう。
登場人物が若者ばかりなのは、出演料を抑えるためです。
もちろん、年寄りではすぐに殺人鬼につかまってしまう、という事もあります。

次に伝説どおりに現れる殺人鬼。
格好はどんなものでも構いません。
凶器さえ持っていれば、あっという間に完成、予算はいりません。

逃げまどう若者たちは、セットを組む必要がありません。
撮影許可さえ取れれば、近場の山林を走りまわるだけでよいのです。

泣き叫ぶ女性は、女優さんの演技一つで出来てしまいます。
またホラー作品では、不可欠な要素でもあります。
ドラキュラ、フランケンシュタインなど、往年の名画を観るまでもなく、女性の叫び声は見せ場の一つ。
若い女性が大声を出して叫ぶ事で、観客は何事かと銀幕に注目してくれるからです。

他ジャンルではダメなのか

恋愛映画のように綺麗に着飾る必要がないので、衣装代はかかりません。
逆に逃げまどうため、ボロボロの古着の方がホラー作品には似合うぐらいです。
洒落たカフェで会話なんてことも、彼や彼女の自宅も登場しませんから、セットを組んだり借りたりする必要もありません。
ネオンの夜景も必要ありませんから、各地でロケをする必要もなく、一箇所で撮影し移動の交通費も安く済みます。

アクション映画のようにカーチェイスも必要ないので、車両代もかかりません。
逆に車で逃げてしまうと殺人鬼が追って来れないので、ホラー作品として成立しなくなります。
また得体の知れない殺人鬼が武器や素手で倒れてしまっては、これまたホラー作品として成立しなくなります。
そのため銃も刀も派手な格闘も爆発も必要ありません。

本作ではゾンビ映画でしたが、ゾンビにも衣装代はかかりません。普段着で一向に構わないのです。
ともするとハロウィンの仮装より安く済むかも知れません。

なぜホラー作品で海外の監督はデビューするのか

このように、いかにホラー作品が低予算で製作できるか、おわかりでしょう。
そのため、無名で資金力のない海外の映画監督はホラー作品でデビューしたり、注目を浴びます。
スピルバーグはあおり運転の恐怖を描いた「激突!」でメジャーに。
リドリー・スコットは「エイリアン」でSFに新風を。
サム・ライミは「死霊のはらわた」でスプラッターホラーの旗手へ。
ジェームズ・キャメロンは「殺人魚フライングキラー」という空とぶ魚のホラー作品を手がけています。
海外ではありませんが、大林監督もホラー作品がデビュー作です。

この5名の監督のその後の活躍はここに記すまでもありませんが、ホラー作品には監督として必要な要素が詰まっているため、ホラー作品で注目される監督が有名になるのです。

低予算だけに、役者の演技で観客を圧倒することは出来ません。
観客を圧倒する演技を、役者から引き出さなくてはなりません。

殺人鬼も名演技を期待できませんから、いかに怖くさせるかお化け屋敷の要領でいきなり登場させたり、思わせぶりな演出が必要になります。

逃げ回る場所も本当は、のどかな田園地帯かも知れません。
それをいかにも奥深い山林のようにみせなくてはなりません。

演技指導、演出力、カット割り、照明の当て方、人物をどのように配置し、どんなアングルで撮影するか、そういった映像作品に必要な基本的なことが非常に重要になってきます。
そして、どれだけ画面に緊張感を持たせることが出来るのか、監督の力量が試されます。

また、原作つきの作品では、著作権使用料が発生するため、これまた低予算で出来ません。
そのため、脚本も監督自ら手がけることになります。
話の内容も観賞に耐えうるか、そういった事も試されるのです。

なぜホラー作品には続編が多いのか

そもそも、映画は見世物小屋が進化したものだという説があります。
そのため、見世物小屋のようなエロくて、グロいもの、非日常的なものが映画界では重宝がられました。
ドラキュラやフランケンシュタインは言うに及ばず、エクソシスト、オーメン、ジョーズ、13日の金曜日、ゾンビ、エイリアン、エルム街の悪夢、ポルターガイスト、ターミネーター、リング、バイオハザードetc。。。
ホラー作品には続編が目白押しです。

他にも、映画がいつの間にかデートコースに組み込まれるようになったということも一因です。
いわゆる吊り橋効果というもので、遊園地の絶叫マシンに人気があるのと同じく、ホラー作品を見た後では異性との親密度が変わるからです。

映画会社としても大人2人分の料金で観てもらえるので、通常より倍の観客動員と興行収入が見込めます。
しかも低予算で製作されているので、他ジャンルより利益率が良くなります。
そんな思惑が込められていたのか、

「決して1人では観ないでください。」

というキャッチコピーのホラー作品もありました。

このあたりの経緯は恋愛作品や、子供向け作品が毎年のように公開されるのと同じです。
つまり、1本の作品を1人ではなく、1組の男女、1組の親子で観てもらえるから重宝がられるのです。
ペアの鑑賞券なんてのが、もてはやされるのも同じことです。

しかもホラー作品は映画館で観た方が怖いのです。
テレビだとCMが入るため、多少恐怖感が和らぎます。
レンタルやネット配信も明るい部屋で観ることができます。

ところが、映画館は暗く、猫が飛び出しただけのシーンに、後ろの誰かが驚いたりします。
それが実は一番怖かったりするのです。

誰かが驚くと、館内の雰囲気が恐怖に満ちてきます。
恐怖は伝染するので、映画館の中で誰かが悲鳴をあげようものなら、瞬く間に伝染します。
いわゆるパニック状態です。
中盤ぐらいで悲鳴が上がったりすると、クライマックスの頃には悲鳴の大合唱。
大して怖くもない作品でも、ものすごく怖いものに感じてしまうのです。

こうしてホラー作品は大ヒット。
ヒットに気を良くした映画会社が続編を決定してゆくのです。

なぜホラー作品でデビューした監督は他ジャンルを撮れるのか

日本ではリングのように、一度ヒットするとその続編ばかりを製作してしまいます。
監督の得意分野を、勝手に製作や観客が決めてしまうため、同じようなジャンルばかり手がけるようになります。
監督が映画会社に雇われていたりすると、その傾向はますます顕著になります。

一方、海外では監督自ら製作に乗り出すので、いろんなジャンルを手がけるようになります。
スピルバーグの「E.T.」。
リドリー・スコットの「グラディエーター」。
ジェームズ・キャメロンの「タイタニック」。
サム・ライミの「スパイダーマン」。
これまた海外ではありませんが、大林監督の「転校生」。
どれもホラー作品とは似ても似つかぬ作品ばかりです。

ところがホラー作品も、感動巨編も感情を揺さぶるという点では共通しています。
「E.T.」、「タイタニック」、「転校生」で涙を流すのも、アクション映画を観た後、肩で風を切って歩きたくなるのも、ホラー作品を観た後、暗闇が妙に怖くなるのも、すべては作品を観て、感情を揺さぶられるからです。

そのため、感情を上手く揺さぶれる監督はホラーだろうと、アクションだろうと、恋愛だろうと、いとも簡単に映像化できてしまうのです。
その昔、大林監督が確かこんなことを言っていました。

「映画は所詮、嘘に満ちた世界です。
死んだ人間が生き返ったり、敵の銃弾が一発も当たらなかったり、偶然の出会いが何度も重なったり。。。
ですが、人物の感情に嘘があってはいけません。
人物の感情に嘘があると、すぐに観客はソッポを向いてしまいます。」

主人公の復讐心に共感できなければ「酔拳」は成立しませんし、主人公の正義に共感できなければ「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」や「るろうに剣心」は面白くありません。
男女2人の気持ちに共感できなければ「転校生」も「タイタニック」も「君の名は。」も成立しません。
そして、ダミアン、ジョーズ、ジェイソン、フレディ、ゾンビ、エイリアン、ターミネーター、貞子、アンデッドが怖くなければ、ホラー作品は成立しないのです。

血まみれになればいいのではありません。
外科医が怖く見えるでしょうか?
大怪我をした救急患者が怖く見えるでしょうか?
そこには恐怖がありません。
ホラー作品の殺人鬼は感情を揺さぶる恐怖があるから、怖いのです。

本作で冒頭何十テイクも撮り直し、女優を殴り、男優につかみかかってまで、監督が演技指導していたのはそのためなのです。

たかがホラー、されどホラー。
ホラー作品一本、まともに撮れないような監督では、どんな多額の製作費をつぎ込んでもダメなのです。


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