シン・ゴジラ特集


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■社会派作品として

本作は1954年版に勝るとも劣らない、多くの社会的メッセージのこもった作品として観ることができます。
その社会的メッセージについて、いくつか書いてみようと思います。

1954年版はビキニ環礁の核実験により第五福竜丸が被バクした事件が社会問題となっていたということもありますが、世界で唯一の被爆国である日本が反核を掲げる意味のメッセージも込められていました。
そして、戦後まもなく公開されたということもあり、ゴジラの襲来に備えて避難する人々の台詞からは、「また疎開。嫌ねぇ。」
なんて言葉も聞こえてきて、当時の大衆の暮らしを垣間見ることが出来ます。
また、映像技術の問題でモノクロ作品として公開されたことと、作品内でゴジラが放射能を撒き散らしたり、核実験の副産物ということも相まって、今観てもゴジラは魑魅魍魎、百鬼夜行の如き怪獣としてみることが出来、核の脅威の象徴であり、核の被害者であり、人類に仇なす恐怖の象徴でありえます。

震災後の復興に対するメッセージ。

本作のゴジラも1954年版と導入部においては違いありません。
核の脅威の象徴であり、核の被害者であり、人類に仇なす恐怖の象徴です。
もっとも大きな違いは東日本大震災という天災と、福島原発事故の人災の後に作られた最初のゴジラということです。

後は、東日本大震災と原発事故をどう捉えるかによってこの作品の評価は大きく異なります。
震災はもう既に過去で、無縁の人には、これまでと同様のゴジラ映画に見えるでしょう。
逆に、震災は現在進行形であり、忘れることの出来ない人には、再生への祈りのこもった作品に見えるでしょう。

人類批判。

数多くのSF作品のテーマとして掲げられる人類無能、暴君説。
限りある資源を無尽蔵に浪費する無計画性や、無秩序性。
縄張りを確保するためや一時の感情だけで、同属まで死に追いやる他生物にはない残虐性。
海外のSF小説で手垢が一杯ついているテーマですが、今だにSF作品と名のつく映画作品には、ここぞとばかり語られる念仏のようなお題目です。
私などは食傷気味で「わっ。また出た。」と思ってしまい、同じSF作品でも「時をかける少女」のような作品の方が面白く思えてしまいます。

政府描写。

縦割り行政による縄張り意識や、何をするにしても会議で決定する合議制。
非常にフットワークが悪くなるものの、これが今の日本のシステムなのです。
それが嫌なら独裁者に権力を集中させればよろし。
政党の名前もあくまで「保守第一党」としか字幕では紹介されておらず、やれ「民自党」だのなんだのとありそうな名前にしていません。
政党の名前など似たような名前が一杯あるので、数年後には架空の名前が実在しかねないからでしょう。
「機動警察パトレイバー2 the Movie」では前半延々政治の話をしていて退屈極まりなかったのですが、本作は災害時の政府の対応を観ているようで、こちらの方が数段面白いです。

抗議デモの最中も不眠不休で、にぎり飯とカップラーメンで風呂にも入らず、ゴジラ対応に追われている政府官僚。
アニメ製作現場のような感じがしないでもない。
それはともかく、「AKIRA」のように、私利私欲を肥やすことしか頭にないステレオタイプの政治家ではなく、未曾有の災害に対応する真摯な官僚をヒーローのように描いています。
これまで、日本の映像作品では政治家は悪者でしかなく、政治を語ることはタブー視されてきたような風潮があるのですが、これも2016年という時代の要請なのでしょう。

日本批判と日本贔屓。

ここは鋭い所をついています。

東京第一主義。
合議制による意志決定。
米国の属領化。
能力主義よりも年功序列主義。
個性が発揮しづらい閉鎖的な社会。

と前半は日本をやたら悪く描いているのですが、これも作劇方法の一つ。
というより恋愛の定番テクニックですなぁ。
非難ばかりしている人が、たまに褒めるといい人のような印象になり、逆に褒めてばかりいる人が、たまに非難すると悪い人のような印象になる。
所謂「ツンデレ」というやつで、心理学では常識です。
本作では前半に日本を非難していながら、後半は褒めまくります。
要約してもいいのですが、作中の台詞そのままのほうが気持ちが伝わると思うので、そのまま取り上げます。

「この国はまだまだやれる。そう感じるよ。」
「次のリーダーがすぐに決まるのが、この国の長所だということがよく分かった。」
「我が国では人徳による王道を行くべき。」
「日本というものは危機ですら成長する様だな。」
「この国は好かれてるわね、空軍も海兵隊からもサポート志願者が続出よ。」
「諦めず、最後までこの国を見捨てずにやろう。」
「この国には、有能な若い人材が官民に残っている。」
「スクラップアンドビルドで、この国は伸し上がって来た。今度も立ち直れる。」

これを震災の傷を負った人が観て感動しない筈がない。
観客のハートをこれまた鷲づかみにして離さない。実によく出来ています。

国際情勢。

1954年版にはなかった、国際社会の中の一員として日本が描かれ、ゴジラに対し日本のみならず多国籍軍が出動する事態にまで発展します。

「エヴァンゲリオン」が世界系(私とあなたの二人だけの世界。転じて狭い世界観だけで描かれる作品のこと。)
という言葉で時に揶揄されるのを知ってか知らずか、アメリカ、中国、ロシア、フランス、ドイツの先進5カ国が登場してきます。
主に登場するのはアメリカで、フランスとドイツが協力的な立場をとっています。

過去のゴジラシリーズにも、米軍や他の先進国が登場していたかもしれませんが、私は全てのゴジラ作品を観ていないのでよくわかりません。

本作では日本とアメリカの関係が皮肉っぽく描かれます。
日本に無理難題を押し付け、自分の都合の悪いことには蓋をする。
また、東洋の辺境の小さな島国としての認識しかない。

これはある意味仕方のないことです。
日本では世界地図の真ん中に日本が描かれますが、アメリカは真ん中に北米大陸が、イギリスは真ん中にグレートブリテン島が描かれます。
日本のことを極東といったり、アラブ諸国を中東といったりするのは、イギリスからみて東の端に日本があり、アラブ諸国が東の真ん中にあるからです。
モルワイデ図法で描かれた地図だと日本は本当に小さな小さな島国になってしまいます。
そういった地図ばかりみていれば、日本を東洋の辺境の小さな島国として認識しても無理はありません。

反核。

多国籍軍による核攻撃が決定してからは、流石に重苦しい雰囲気になります。
ハリウッド映画ではゾンビを倒す際など、軍で収拾できない事態に陥った場合には、すぐに核攻撃を決定してしまうのですが。

そこは反核の象徴でもあるゴジラ。

日本政府も、にわかには核攻撃を認めたがりません。
矢口(長谷川博也)や里見総理(平泉成)が尽力します。

自衛隊描写。

庵野監督が自衛隊経験者ということもあるのか、実にリアルに描かれています。
これまでのアニメ映画や、他の戦争映画なら、現場から指揮所までの情報伝達はせいぜい一箇所の中継で終わる所を、上官から現場へ、現場から上官へクドイくらい逐一伝達されていきます。

また、過去のゴジラシリーズや「連合艦隊」などの太平洋戦争を描いた作品の影響だと思われますが、登場する兵器全てに字幕を出しているので非常にわかりやすい演出にもなっています。
例えば、爆弾MOPIIが何であるかすぐにわかります。

しかもアメリカ同時多発テロの際、人命救助に奔走した消防士がヒーロー扱いされたように、本作では自衛隊が日本を守る最後の砦として非常にかっこよく描かれています。
もちろん西郷(ピエール瀧)の台詞に象徴されるように

攻撃だけが華ではありません。

都民350万人の避難誘導していたのは誰か?
避難所で炊き出しを行っていたのは誰か?
一人一人をつぶさには描かないもの、しっかりと映像化されています。

大衆描写。

1954年版には戦中の疎開の再来とばかり、嘆く大衆が出てきます。
本作では、怪獣映画のお約束として逃げ惑う群集は登場してきますが、平成ガメラシリーズのように一被害者をメインに物語を作ったりしていません。
名も無い群集として大衆は登場します。

「疎開って何?」と疎開という言葉すら死語になり、ゴジラ上陸時にはスマホ片手に動画を取りまくり、ネットに書き込んで騒ぐ姿が出てきます。
これも2016年という時代を象徴しています。

経済描写。

350万人の避難により、西日本の地価は高騰、日本の株価は暴落。
失業者は街にあふれ、円安が続く。
復興には金がいる。海外からの援助が必要だ。
理想論だけでは復興は出来ない。

お金のことを映画で描くのは無粋として、タブー視される傾向があるにも関わらず、敢えて経済用語も取り入れてリアリティを追求しています。

総括。

こうして文章にしてみると、いかにも台詞だけの大惨事のように思えてしまいます。
映像だけでメッセージを伝えてみせた「千と千尋の神隠し」とは大違いです。
東日本大震災の記憶が風化していないからこそ成立した作品ともいえます。

しかし、これだけのメッセージを2時間の映画に集約するには台詞を連呼させるしかないでしょう。
「日本沈没」がテレビドラマになったように、映像も込みで大惨事を描くならテレビドラマにする他ありません。

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