窮鼠ネコを咬む

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 ったく、俺の後をちょろちょろちょろしやがって、用があるなら言えってんだ。
 ぎろりとひと睨みしてやると、脱兎のごとく消え去るタコが。









「という訳で、うちの財政は悪化の一途を辿ってるのよ。あんたたち、各自、この島でひと働きしてきてちょうだい。でもね、わかってるでしょうけど……」
 と、ナミは一息吸い込みながら

「強奪、殺戮、略奪は、却下。各自、特技を生かして稼いできてね」
 と、命令を下した。



 散々な荒れ狂う海を越えて、たどり着いた島は、「カーニバル真っ最中島」と異名をとるその名もリオ島だった。一年中、カーニバルが開催されており、その中でもメリー号が着いた時期は、特別な催しをしているところだった。
 散々な航海の内容は、もちろん、食糧難&財政難。貧乏海賊候、麦わら海賊団としてのポリシーから、いたしかたないといったところか。
 特別な催しとは、二大イベントとなっており、そのひとつは「大食い大会、海王類ウェンツィーを喰う!」である。もうひとつは、ちらっと見たかぎり麦わら海賊団には、関係ないと思われるものだった。


 この船の船長は、もちろん『モンキー・D・ルフィ』だが、お金のことで采配を振るうのは、主にナミと決まっている。クルーは素直に応じるもの、文句をいうもの、何をすれば? と悩むもの、アホかとつぶやくもの、それぞれだった。

 アホかとつぶやいたのは、もちろん、ゾロである。つぶやいた瞬間、頭上にナミの鉄拳が落とされるのも、当たり前のことだ。

「ってェなてめェ!? てめェそのうちバチあたっぞ。人の頭気安く、ぽんぽんぽんぽん殴りやがって! おう、俺がそのバチを当ててやろうかぁ!」
「はん! やれるものならやってみなさい。あんたは……う〜んそうね。がまの油売りでもしてみれば?」
「できるか! バカか、てめェ? 俺の剣は、んなことするためにあるんじゃねェ。剣士の命をなんだと思ってやがる」
「なぁなぁなぁ〜ナミ。おれ腹減ったぞ。肉、喰いてェ」
「どいつもこいつも……だから、稼いでこーーーーいっ!」
 目の前の机に手を叩きつけるナミの形相に恐れをなしたチョッパーは、もう涙目だ。ウソップの後に隠れてぶるぶると震えている。ついでにも震えている。

 そんなチョッパーにウソップは、こっそりささやいた。
「この島は、カーニバル真っ最中島だからな、一年中、カーニバルの島だ。チョッパーの好きな綿菓子だって、りんごあめだって、なんだってあるはずだ。俺さまが、射撃の腕を披露したら、たちまち、がっぽがっぽ大もうけよ。チョッパーは、俺さまの助手でリンゴを頭に乗っけて立っていりゃいいさ。ナミには内緒で、稼いだ金で好きなもん買ってやるからな」
「ほんとか! おれ、立っていればいいんだな! おれ、綿菓子がいいな」
 何をしたら稼げるのか、わからずに悩んでいたチョッパーの顔がぱっと明るくなる。それを見ていたら、は羨ましくて仕方なくなった。

――私のできることって、何?
 う〜ん……。
 ウソップとチョッパーは、ウイリアムテルみたいなことするのかな。
 サンジさんは、得意は料理よね。屋台でもすれば一儲けできるよね。
 ルフィさんは、カーニバル島名物の『大食い大会 海王類ウェンツィーを喰う!』にでるとして……
 ナミさんとロビンお姉さまは、何するのかな?
 私は、どうしよう……ゾロさんは、どうするのかな?

 う〜んう〜ん、と頭をひねるに、ナミの視線がそそがれた。ぞくりと悪寒を感じたの視線が、ナミのそれとぴたりとあう。絡まる視線。ぞぞぞっとの背中を這い登る悪寒。ナミの顔がにやりと魔女の微笑みを浮かべた。

「うん、そうね。決めた」
「ん〜ナミさん、きっぱりとしたナミさんも素敵だぁ〜」
は、ゾロと『コレ』にでなさい!」
 示されたものは、もうひとつの二大イベント

『恐怖の館「鏡の誘惑、打ち勝つ恋人たちは」優勝賞金300万ベリー』

「っげ!」
「ふへっ?」
「あらっ?」
「ぶほっ!」
「そんな、ナミさん! ちゃんが魔獣と”恋人”だなんて! もったいねェ!! 俺、俺が、俺がやります! 第一、クソマリモみてェな方向音痴と組んじまったら、優勝できるわけがねェ!」
「サンジ、お前はダメだぞ」
「なんでだよ! クソゴム!」
「だってよォ、おれが見てェんだ。ゾロがと手ェつないで、真っ赤になるとこをさ」
「はぁあああああ? クソゴム! 何、言ってんだ! ちゃんがマリモ菌に冒されて真っ青になっちまうよ!
んなことが許されるか? 許されねェだろ!」
「船長命令だ!」
「……てめェら、大概にしろ!」

 恋人という言葉に、カチンと固まっていたゾロの顔にピキピキと青筋が立っていく。

「方向音痴だぁ〜〜〜! 誰がだよ!」
「てめェだよ! くされマリモの頭には海草しか入ってねェから、ちゃんが脱出できなくなって、泣いて震えて『サンジさん、助けてv私の王子さま〜』って、あれ、美味しいじゃん。おっしっ! マリモン、てめェがやれ。んで見事に迷子になれ、そん時が俺様の出番だ!」
「っだぁ! だれが海草だ、迷子だ! マリモ菌で真っ青って、なるかぁーーボケッ! が泣いて、てめェを呼ぶわけねェだろ! すっこんでろっ! やりゃいいんだろ、やりゃ。てめェなんぞの出番は、無え! 優勝。そりゃ、俺にこそふさわしい言葉だ」

 軽く、いや、かなりムキになってサンジをかわし、ゾロがふんぞりかえったところに、

「よ〜し、、いいか。ゾロと手ェつないででてこいよ」
「誰が、つなぐか!」
 ルフィがドン! と腕組みをし、を見下ろす。そのルフィの言葉に即座にゾロが、ツッコミを入れた。

「え〜〜〜っ! ちょっと待って、私の意見は……?」
 は、やっとのことで、口を挟むのだが、

「却下!」
「却下だ!」
ちゃん、王子様の登場を待っててねv」
、あきらめろ」
とゾロは恋人なのか?」
「「違げェ〜〜よ!」」
 チョッパーの純粋な問いかけに、ゾロとサンジが見事にはもり、が全力で否定する。

「違うよ! やだ……ゾロさん、怖いもの。恋人だなんて冗談でもいわないで」
「ほう、俺が怖い……だと、、覚悟しとけよ」

 ゾロの眼力におびえるは、助けを求めて、ナミとロビンを振り仰ぐが、

「やっ! いやだったらぁ〜もう、ナミさんとゾロ……さんで、でればいいじゃない。ロビンお姉さまでも……なんなら、サンジさんでも」
「私はだめよ。ゾロ探知機もってないもの」
「そうね、私にも無理だわ。あなたしか、剣士さんを探し出せるとは思えないわ」
 ナミとロビンはしれっとした顔をして、の提案を拒む。

「ゾロ探知機って……そんなの持ってないもん!」
「あら? そうかしら? あなたの視線の先には、いつも剣士さんがいるでしょう。大丈夫よ。あなたなら、剣士さんを立派に引っ張って出口まで来られるわ」

 顔を赤らめ、
「ロビンお姉さま、でも……でも……」
 と繰り返すに、ルフィがとどめの一言を言う。
、船長命令だ」
「だとよ、あきらめな。、俺とでるんだ」
「……」

 の声にならないうめき声だけを残し、クルーはそれぞれの場所に行くために準備をはじめた。





 GM号に拾われて数ヶ月、『怖い怖いと思っていた男を、本当は好き、大好きだ』と気がついて、大剣豪になった暁には、『愛してもらいます、覚悟してね』なんて思ってもみた。そんな記憶もあるにはあるが、今この瞬間、そんな覚悟があるはずもなく、は途方にくれていた。

――いったい、『恐怖の館「鏡の誘惑、打ち勝つ恋人たちは」』ってなんなのよ?
 もう、やけくそ……。やだよ。やだぁ。

 出場者たちが一同に集められた建物の中で、はナミから渡されたイベントの手引きを読みはじめた。その手引きには、

 1、第一の扉。四方から選んだ道を一人づつ入ります。選ぶ道によって難易度が異なります(鏡の多さが違います)。
 2、中は鏡の迷宮です。その中で、恋人を探しましょう。恋人に無事出会えたら、第二の扉を探しましょう。扉にたどり着いたら最初の試練は終了です。
 3、第二の扉。恋人と協力して、魔物を倒しましょう。魔物の種類は、選ぶことが可能です。ただし、二人の息が合わないと手強い魔物がでます。見事に魔物を倒したら、第二の試練は終了です。第三の扉は魔物を倒すと出現します。
 4、第三の扉。二人つながって、出口をでましょう。これが第三の試練です。

 と書いてあった。

「……1は、勘が勝負の鍵ね。2は、うーん……私しだいかな。ゾロさんは当然迷うよね。3は、魔物を倒すんだから、ゾロさん任せね。二人の息が合わなくたって、平気よね。4は、う〜ん。つながるって? 手をつなげてってことだよね……」
「何、読んでるんだ」
「ひゃいっ!」
「ほう、1は、なんてこたねぇ。2もたいしたことねぇ。3もたいしたことねぇ。4は……」
「ひゃいふへほひゃらっ……」
「まったく問題ねえ! てめぇは俺にくっついてりゃいいんだ」
「くっつくって、そんな……」
「なんだよ。そんなに俺が怖ェか?」
「……あの」
 言いよどむにゾロの視線が突き刺さる。下からそっと上目遣いに見たゾロの瞳の中に、泣きそうなゆでタコみたいな自分をみつけたは、ますます真っ赤に染まっていった。居心地が悪いったらない(ねぇ!)、と二人とも思っていた。
 そんな睨み合いをしているうちに、周りにいた出場者の数がどんどん減っていく。残されたものは、二人だけ。とうとうゾロたちの出番になったようだ。


 ”どーんっ! パンッパッカパーン! さぁ残念なことに107番のカップルも場内で失格となりました。『恐怖の館「鏡の誘惑、打ち勝つ恋人たちは」』まだ、クリアできたカップルは、でていません。
 このままですと、優勝者がでない場合もあるということで、大会ルールが変更になりました。当初のルールでは、クリアタイム争い一番早く脱出したものが優勝でした。
 108番のカップルがクリアできれば、優勝ですが、クリアできない場合もありえるということで、協議の結果、クリアできなければ、総勢108組、『失格となった時点での距離&タイム総合点』で争うことになります。

 さぁ、みなさん! 108番のカップルをお呼びしましょう!
可憐な乙女というのがふさわしいちゃん&魔獣マリモン! ”

 グワァーーーーと轟音が響き渡る。
 涙目の。なんで俺が魔獣マリモンなんだ、と青筋をたてたゾロが、スポットライトの中に姿を現した。

 ”さぁさぁ、お二人さん、がんばってチョーだいよ!
クリアしたら、あんたたちの勝ち! 途中欠場の場合は、かなり難しいからねぃ!

 さぁ、ここで会場のみなさんも、乗ってもらうよ〜ん!
 可憐な乙女&魔獣ペアのオッズは、なんと103倍だ!
 このペアの賭けた人たちサイコーだねぃ!
 賭け札を肌身はださず、守ってチョーだい!
 さて、賭けなかったおバカさんたち、よーく耳の穴かっぽじやがれい!
 ヒントは、オレンジ頭の美女だ。


 Aer you ready?
 Goーーーーーーー!

「えっ!ちょっと!」
「っ!」
 司会者の手にあったボタンが押され、とゾロの体が、館の前に組んであった台から、ぽいっと館の中に落された。四方から入る道は、選ぶことが出来るはずだったが、そんなことは無視だとばかりの行為に、見物人の中に混じる麦わら一味から声があがる。

「ひどいことするわね」
「本当、あいつらサイテー」
「航海士さん、のんびりもしてられないみたいよ」
 気がつけば、荒削りな男たちに囲まれている。

「まずいわね」
「そうね」
「暴れちゃったら、賭けはパーかしら?」
「そうでもないんじゃないかしら? でも逃げたほうがいいわね」
 ロビンの手が花咲き、ナミのクリマタクトが天候を操り、ナミとロビンはその場から逃げ出した。





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